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うめ屋


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by netzeth

ペコーdeパラレル☆Ep2


「やあ、ペコーさん今日も綺麗だね」
と、にっこり笑み付きで言われた言葉にペコーさんは半眼で相手をにらみ付けました。
「マスタング大佐・・・またサボりですか?」
「サボりだなんてヒドいな、これは視察だよ視察。お仕事さ」
「この間もそうおっしゃっていましたよね?で・・・部下の方が探しにこられたんではありませんか?」
「ああ、前のデート時の事かい?」
「・・・っ、デートではありませんっ」
「一緒にお茶したら立派なデートだ」
「違いますっ、あれはあなたが勝手に・・・」
と、どんどん話がずれてる事にペコーさんは気付いてはあ~とため息をつきました。
何を言っても彼はいつもこんな調子で、ペコーさんにあの手この手でちょっかいを出してくるのです。
(最初に会った時はこんな人だとは思わなかったのだけど・・・)
今ペコーさんの前でニコニコと笑みを浮かべている軍服をきた青年。
ペコーさんとペコーさんの雇主のお嬢様であるアルモニが強盗事件に巻き込まれた時に助けられたのが、彼ロイ・マスタング大佐でした。
このイーストシティの軍部を束ねる東方司令部の司令官であり、更に焔の錬金術師という銘を持つ優秀な錬金術師であった彼は、ペコーさんが秘書をしている錬金術師エイゼルシュタインとも親交があり、ペコーさんは事件の後もたびたび彼と顔を合わせる機会がありました。
その度に彼はペコーさんに口説き文句とも取れる言葉をかけてきてはペコーさんを困惑させるのです。
確かに彼は若くして大層な肩書きを持ち、更に綺麗な黒髪と涼しげな同色の切れ長の瞳のなかなか整った造作を持っています。街の女性からも人気があり、プレイボーイとしてなかなかに有名らしいのです。
そんな人の言葉なんかいちいち本気になんてしてられません。
それに彼はしょっちゅう仕事をサボっては街を歩いているのです。
今日もそんなマスタング大佐と、仕事がオフのためカフェで寛いでいたペコーさんは出合った所だったのでした。
マスタング大佐は早速勝手にペコーさんの向いの席に座り、コーヒーまで注文してしまいました。
そんな大佐にペコーさんはもう飽きれるしかありません。
相手にしてられないと、席を立とうとしたペコーさんを、
「待ちたまえ、せっかくのデートが途中だ」
マスタング大佐が呼び止めます。
「だから、デートではありません。お相手をお探しでしたら他を当たって下さい」
「私は君が良いんだ」
真剣な目で言うものですから、ペコーさんも一瞬ドキリとしてしまいます。ですが、直ぐにそんなはずないとかぶりをふり、
「冗談は止めて下さい」
「冗談なんかじゃない君にはいつだって本気だ」
「あら、一体幾つの本気をお持ち何でしょうね?・・・失礼します」
せっかくのオフです。今日はこれからいろいろしたいことの予定が詰まっているのです。
「まあ、待ちたまえ。本当に話があるんだ」
そこまで強く言われては仕方ありません。ペコーさんは浮かしかけた腰を落ち着けました。
「で、お話しとは何ですか?」
くだらない事だったら直ぐに帰ると言わんばかりのペコーさんの姿勢にマスタング大佐は苦笑しつつ、
「君・・・犬は好きかい?」
とたずねたのでした。


「犬・・・ですか?」
唐突だったので思わず聞き返してしまいます。
「そう、犬」
「それは・・・嫌いではありません。いえむしろ好きな方ですが・・・」
質問の意図が分からず困惑気味のペコーさんに、マスタング大佐は苦笑しながら、
「何、飼い主を探している犬がいるんだ。うちの部下が拾ってきたのはいいが飼うことが出来なくてね」
と、少し困った顔をします。
「まだ小さな子犬なんだ。また外に放り出すのは可哀相だし、かと言っていつまでも司令部に置いてはおけん。今飼い主探しに東奔西走している有様でね」
東方を管轄する司令部が子犬の里親さがしにてんてこ舞い・・・という事が少し情けないのかマスタング大佐は参ったという様に頭を掻きました。そんなマスタング大佐の様子が心底困っているようでしたので、ペコーさんは思わずクスリと笑って、
「それで私に声をかけたと・・・?」
「そうだ。君なら可愛がってくれそうだし、しつけもしっかりしてくれるだろう?どうだろ?」
突然の事にペコーさんは戸惑ってしまいました。犬は好きですが、だからといって直ぐに、はい飼いますとも言えません。生き物を飼うという事はそれなりに大変な事だとペコーさんは知っています。ペコーさんの困惑を見てとって、大佐は、
「もちろん無理にとは言わない。あくまでも君に飼う気があるならでいい。・・・そうだ、今から会いに行かないか?」
とペコーさんを誘います。少し心惹かれるものを感じていたペコーさんはその申し出を受けたのでした。


「こっちだ」
正門の衛兵達の敬礼を受けつつ、東方司令部の敷地内に入った2人はそのまま建物には入らず中庭を目指します。こんなに簡単に部外者の自分を入れてもいいのかしら?と思いつつペコーさんはマスタング大佐の後をついていきます。
東方司令部の中庭は芝生と木々が所々に点在した、軍部とは思えないほどのどかな雰囲気の場所でした。昼時ならランチを取る軍人をあちこちで見られるのかもしれません。
「さて、あいつは何処に行ったかな・・・」
お~いと呼び掛けながら大佐は犬を探し始めました。
「今の時間ならこの辺りで遊んでいるはず何だが・・・」
「名前は何ていうんです?」
自分も手伝おうとペコーさんは大佐に尋ねました。
「いや・・・名前はつけてないんだ。それは飼ってくれる人の権利ってやつだ」
「なるほど」
仕方なくペコーさんも適当に呼び掛けてみます。
「いないな・・・もしかして・・・」
そう言って大佐が向かったのは、少し奥まった場所の大きな木陰でした。その大きな木の根元に小さな塊が転がっていました。
「まあ」
白いプクプクした腹を見せて小さな黒と白の毛の子犬が眠っていました。その愛らしい姿に思わず笑みがこぼれます。
「こいつ・・・警戒心ゼロだな。ほらっお前のご主人様になるかもしれない人が会いにきたぞっ」
「あ、いいです。起こしては可哀相ですから」
時すでに遅く、子犬は目を覚ましてしまった様です。寝ぼけ眼で顔をキョロキョロさせると自分達に気付いたのかムクリと起き上がり尻尾を振って近付いて来ました。ペコーさんが手を差し出すと嬉しそうに舌を出してペロペロと舐めます。
「可愛い・・・人懐こいんですね」
「あ、ああ」
ペコーさんの素のままの笑顔に大佐は内心密かにドキドキしながら答えます。そのまま優しい顔で子犬を撫でてやるペコーさんを見て少し赤くなった顔をごまかす様に、
「ど、どうだろう?飼う気になったかい?」
「・・・この子、もし飼い主が見つからなかったらどうするんです?」
ペコーさんは子犬を胸に抱き上げました。子犬はとても暖かでした。それは命の重みです。
「やもうえない時はもう1度捨てるしかないだろうな」
厳しい事をマスタング大佐は隠さずに言います。下手な慰めの嘘を言われるより、本当の事をはっきり言うマスタング大佐の事をペコーさんは優しい人だと思いました。
「だが例えそうなってもそれは君の責任ではない」
そして、ペコーさんに優しくそう言います。
「分かりました。この子は私が引き取ります」
ペコーさんは決断しました。ペコーさんが飼い主になってくれたのが分かったのか、子犬はペコーさんの頬をペロペロと舐めます。
「うふふ、くすぐったいわ。・・・これからよろしくね」
子犬を見つめてペコーさんはにっこり笑いました。



END
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by netzeth | 2010-04-10 21:06