うめ屋


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by netzeth
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彼と彼女のDistance

「男の人との好感度ってどうしたら上がるのかしら?」
深刻そうな顔で黙り込んでいた士官学校時代からの親友が漏らした呟きに、
「はあ?」
レベッカは耳を疑った。
久しぶりに時間がとれて二人で飲みに来たバー。日頃の愚痴でも言い合ってストレス解消よ! と意気込むレベッカをよそに友人は、グラスを片手に難しい顔で考え込んでいる。
「好感度って……リザ。もしかして……誰か好きな人でもできた訳?」
モテるくせにそういう事に全く興味無しだったお堅い親友がとうとう目覚めたのかとレベッカはいささか興奮気味に詰め寄った。
「ううん……そうじゃ無くて……なんて言ったらいいかしら……円滑なコミュニケーションを取るためっていうか……こう、フランクな関係を築きたいというか……」
「何よそれ。とにかく男と親密になりたいって事でしょ?」
「そうなのかしら……?」
自分でも納得仕切れていない様子のリザだが、おかまいなしにレベッカはドンと胸を叩いた。
「いいわ。この合コンの女王レベッカさんがとっておきの方法を教えてあげるわ!」
ズバリねとレベッカはそこで一息入れて。
「ボディタッチよ!」
言い切った。


司令部の廊下を歩きながら、ロイ・マスタング中佐はさり気なく項に手をやった。
朝から突き刺さる様な視線を背後に感じている。しかも、殺気と紙一重とも言えるこの気配を発しているのは暗殺者などではなく、背中を任せると信頼を置いている己の副官なのである。名は体を表す――鷹の目と呼ばれていた射撃の名手である彼女の目力は相当なもので、実体を持たないはずの視線に圧力を感じるほどだ。
……何かしただろうか?
仕事は真面目にしている……そもそも、東方司令部に着任してまだ一月あまり。サボっている暇などなく毎日必死に仕事をこなす日々だった。
睨まれる様な事は何もしてない……いや。睨まれても仕方ないのかもしれないな……自分のした事を思えば。
ロイ密かにため息をついた。
副官リザ・ホークアイ少尉とは上司部下の関係以上に浅からぬ縁がある。その全てを無かった様に振る舞うには一月という時間は短かすぎるのだろう。それだけ二人の関係は複雑に絡み合って、ただの上司部下という一括りではもはや表す事が出来ない。
――好かれてはいないだろがせめて嫌われない様にしたいものだ。自嘲しつつロイは肩を竦めて、
「少尉」
振り返ると、自分を凝視していた主は目を見開いた。ずっと感じていた視線の圧力が弛む。驚いたのだろう、そういう顔をすると歳相応の女の子の表情になる。
……可愛いな。
心の片隅で思いながら、しかつめらしく確認をする。
「今日の会議の資料はどうなっている?」
「言われた通り、全て揃えてあります」
直ぐに有能な副官の顔で返事が帰ってくる。実際、一ヶ月一緒に仕事しただけで彼女の有能さは良く分かっていた。
「ああ、ありがとう。助かるよ」
笑みを交えて返すと、リザは慌てたように顔を背けた。
……嫌われてはいないと思いたい。
「あの……その……中佐」
ところが顔を背けながらも、逡巡したようにリザはちらちらとロイを見ている。
何だ?
訝しんでいると、やがて思い切った様に。
「失礼します」
リザの腕がスッと伸びて、軍服の袖の上部、いわゆる二の腕と呼ばれる部分に触れた。
「…………」
「…………」
何だろうこれは。
たっぷり三秒ほどは触れていただろうか。
ロイが疑問を口にするより早く、リザの手のひらはロイの腕から離れていって。
「中佐。明日の視察の件なのですが」
「あ、ああ?」
リザは惚けているロイもそっちのけで、さっさと仕事の話題にこの場を切り替えてしまった。――そのままロイはこの時のリザの行動の真意を問う機会を逸してしまった。


その後もリザの謎の行動は続いた。ロイがここ数日間で分かった事と言えば手を変え品を変えリザが自分の二の腕に触れてくる――という事だけだった。
時にはゴミが付いていた。時にはなんでやねんというこれまた謎の言葉と一緒に手の甲で触れられたり……リザの事だから、まさかその辺の女性達の様にきゃっ、ロイさんの腕って逞しいのね☆的な接触ではないはずだ――。
この行為に何の意味があるのかさっぱり分からず、ロイの疑問は日々募っていくばかりであった――。
――真相がそのまさかだったりしたとは、この時のロイは想像だにしなかったのである。


もう、何回も行なってきた行為とはいえ、やはり実行前は緊張する。今日は何と言い訳をしようか。
手の甲で触る「なんでやねん」というかけ声付きの東の島国方式も試してみたりして、一番最初よりは自然に出来る様になった気がするが――何しろ最初のはヒドかった――まだまだだ。リザは知らず知らず拳を握り締めた。
本当に効果があるのだろか? 未だに実感はないがどんな小さな事でも、積み重さなればきっと実を結ぶはずだ……そう己を鼓舞して、リザは斜め後ろの定位置からロイの様子を伺った。
いつものようにタイミングを計って、自然に自然に……と心の中で呟きながら、伸ばした手はしかし、ロイに触れる寸前に当のロイによって掴まれた。
「中佐? あの……何を……」
「聞きたいのはこちらの方なんだかね。少尉」
ロイはリザの手を握ったまま、リザの顔を覗き込む様にして語りかけてくる。
「君は一体何をしたいんだ?」
「え……」
「私が気付いてないと思っていたのか?」
口調は穏やかだが、ロイの目は笑っていない様に見えた。
「出来れば、君の行動の意味を知りたいんだが。……ここ数日何故私の腕に触れていたんだね?」
リザは瞬時に自分の顔が熱くなるのが分かった。
ロイに気付かれていた! その事実にリザは穴があったら入りたい気分になる。レベッカにも「さり気なくやるのよ」と忠告されていたのに……。恥ずかしさでリザはロイの顔を見る事ができず俯いた。
「少尉?……その……別に責めている訳ではないんだが……」
「申し訳ありません! 中佐! ずっとご不快な思いをさせて……」
「……別に不快だった訳では……むしろ、いや……」
怒っている訳ではない、とロイは恐縮するリザに心底困った顔をして、参ったなと頭を掻いた。
「ただ君がどうしてあんな事をしていたのか知りたいだけで……君の事だ何か理由があるんだろ?」
気付かれてしまった以上はもう、黙ってはおけない。リザは一息入れるゆっくりと口を開いた。
「……ボディタッチです」
「へ?」
「私は中佐にボディタッチをしておりました」
「ぼでいたっち?」
「はい……男の方は二の腕を触られるとその……触られた相手との好感度が上がるとか……」
「え? 本当に? あのボディタッチ? 少尉が私に?」
「はい」
「何でだ?」
「……私達の間に溝を感じていたからです。はっきり言います。……中佐は私に対して引け目を感じていらっしゃいます」
それが、リザには歯がゆかったのだ。
――自分達の関係が一個人として向き合うと決めたからといって一朝一夕で変わる訳がない。それは分かっていた。昔と同じに戻れるとは思わない。そうするには二人ともこの厳しい世界を知り過ぎてしまったから。それでも。リザは二人の間に横たわる深淵なる溝を取り払ってしまいたかったのだ。
「中佐、私は。貴方と対等で在りたいのです」
だから、その一心でレベッカに教わった好感度がグンと上がるという方法を試してみたのだ。……たとえそれがどういうものか正しく知らなかったとしても。
「だからボディタッチ?」
「はい」
「ふ、ふふ、ふぁははは!」
堪え切れないというようにロイは笑い出した。
決死の告白をロイに爆笑されてリザは憤慨する。人が散々悩んだ結果だというのに!
「何で笑うんですか!」
「だってなあ、そこでボディタッチって、くくく、ふあはははは!」
君昔から天然入ってたけど……まさかそこまで……。なんて腹を抱えて更に笑い続けるロイに、思わずリザは眉尻をつり上げた。
「いい加減にして下さい! 人が真剣に……」
「……す、すまん。」
ようやく笑うのを止めたロイは、真顔になる。
「君の気持ちは嬉しいよ、少尉……。私は知らず知らずのうちに君との間に壁を作っていたのかもしれないな……」
スッと目を細めてロイはどこか遠くを見つめる表情をした。ボディタッチは手段としては多少おかしかったかもしれないが、少なくともその壁をぶち壊すだけのインパクトはあった。
「分かったよ、少尉。もう、君に遠慮はしない」
そして、吹っ切れた様な顔をして、掴んだままだったリザの手を離すと。
「ありがとう。少尉」
ロイはそう言ってリザの頭を撫でたのだった。


「ねえ?レベッカ。この前教えて貰ったあれだけど」
「あれってどれ?」
「だから、あれよ。二の腕タッチ」
「ああ! あれ」
「効果あったみたい」
「本当!? やったじゃないリザ! で相手はどんな男?」
「それは秘密」
「何よそれ! いいじゃない、教えなさいよ~」
「ダーメ」
「もうっ。……あ、そうそう、知ってる? この二の腕タッチの逆の方法」
「逆?」
「そ、男が女にボディタッチする時って事。その時はね……頭を撫でると女の子は男に対して好感度が上がるんだって。……って、どうしたのリザ!? 顔真っ赤だけどっ」




END
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少尉・中佐時代の2人。今でこそ夫婦☆な2人でツーカーですが、今日のようになるにはいろいろあったんじゃないかなあと思います。最初はやっぱりぎこちなかったんじゃないかと。そんな2人を書きたかったのですが、なんだか変な話に・・・。
ボディタッチネタは友達から。多謝!
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by netzeth | 2010-05-16 16:06 | Comments(0)