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うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth

我が名を呼ぶは。

ホムンクルスとの戦いが終わり、混乱の中どうにか軍部が機能を取り戻した後、グラマン中将が大総統に立った。それに伴い、ロイは准将に昇進し、東方司令部の最高司令官となった。もちろん、イシュバール政策の陣頭指揮を取るためだ。
懐かしい東方司令部に散り散りになっていた部下達と共に戻ってから一週間。嵐の様な忙しい日々をロイもリザも過ごしていた。

「お疲れ様です」
「ああ・・本当にな」
リザが出してくれたお茶をありがたく頂きながらロイはふうと一息ついた。
相変わらずの東方司令部名物不味いお茶も、今のロイにとっては懐かしさもあいまって奇妙に美味に感じられた。・・・忙しさのあまり味覚が変になっているのかもしれない。
もしくはリザが淹れてくれたものだからだろうか。彼女の淹れてくれるお茶は昔から彼の疲れを癒してくれた。またこうして飲む事が出来るようになったと思うと感慨深い。
「やれやれ・・まだまだこれからだというのに、この忙しさか。先が思いやられるな」
「もう弱音ですか?」
「良いだろう?今のうちに言っておかないとな。そのうち弱音も言ってる暇もなくなるぞ」
君も今のうちに言っておけ、と冗談めかして肩を竦めるロイにリザはくすりと笑う。
課題は大きく、問題は山積している現状でのこういうロイの言動は何故かリザに安心感を与えてくれる。
ヒューズ准将が亡くなりセントラルに異動になってからというものロイには常に暗い影のようなものがつきまとっていた。それがあのホムンクルスとの死闘を経て、綺麗に払拭され本来のロイが戻ってきたように思う。
考えておきますと返事をしてリザはそろそろ仕事に戻って貰おうと新たな書類をロイに差し出した。
「大佐・・この案件についてですが・・」
きょとんした顔で見つめてきたロイにリザは自分のしでかした失敗に気付く。
「・・失礼しました。・・・准将」
ほのかに頬を染めて気まずそうに目を逸らした己の副官にロイは笑いが込み上げるのを押さえきれなかった。
「そんなに笑わないで下さい・・その・まだ慣れないんです」
だが、リザは他の部下達がいる前では1度も間違えた事などないのだ。つまりロイと二人きりの時には気が緩んでしまったという事。これを笑わずにはいられようか、ニヤニヤと口元が弛むのをロイは止められない。
「なあ、大尉。私の階級はあと4回は変わる予定なんだ。今からこれでは先が思いやられるな」
「申し訳ありません・・・」
「そこでなんだが」
「はい?」
「階級が変わっても、変わらない呼び名で呼んでみる気はないかね?」
「・・・どういう意味ですか」
「何、私は准将でもましてや大佐でもないロイ・マスタングという名前があるという事さ」
「・・馬鹿ですか」
「ひどいな。良い案だと思ったのだがね」
ロイは立ち上がると、俯いてしまったリザの傍らに立った。
「私も君の階級を忘れてしまいそうなんだ。だから・・リザって呼んでいいか?」
囁きは耳元で。
否と言うべきだったのにリザにはどうしても出来なかった。
沈黙するリザに、
「返事がないのは・・肯定ととってよいかね?」
「・・都合よくとらないで下さい」
「とるだろう?この場合」
後ろからそっとリザの身体に手を回して。
「リザ」
「・・・今だけですよ。ロイさん」
束の間の休息が終わればまた忙殺される日々が始まる。
だから、今だけはこの温もりに寄り添っていよう。
リザが己に許したささやかなわがままだった。



END
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これ、最終回後設定じゃなくてもよい話だったりw
by netzeth | 2010-06-18 21:36