うめ屋


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by netzeth
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約束 1

それを長い年月の中とうに埋もれた思い出の中から引っ張り出す気になったのは一枚の手紙がきっかけだった。差出人はエドワード・エルリックとウィンリィ・ロックベル。
彼らの結婚式への招待状である。
まだほんの子供だった彼らを知る身としては感慨深いものがあった。
それがセンチメンタリズムを刺激したのかは自分でも定かではなかったが、その小さな小箱からをケースを取り出して開けると、ロイは中に入っていた物を手に取り、過ぎ去りし過去にしばし思いを馳せた。


約束


scene.1 執務室

イシュバール政策が本格化して早数年、イシュバールも徐々に復興の兆しを見せていた。とはいえ、まだまだ問題は山積している上に東方の問題はイシュバールだけではない。ロイはイシュバールに仮設置された軍の支部と東方司令部を往復する毎日を過ごしていた。

「やれやれ・・」
イシュヴァールから戻りいつもの東方司令部の座り慣れた椅子に腰を降ろすと、自然とため息が漏れた。
イシュヴァール復興はロイの生涯をかけてでも成し遂げなければならない事だ。とはいえ決して近くはない距離を往復する毎日は少なからずロイの身体に負担を課していた。特にここ最近ではまともな生活が出来ておらず、体重もだいぶ落ちてしまった。
くわえて、頭の痛い問題が今のロイを悩ませていた。
金が足りないのである。
イシュヴァールの復興をしようにも建物一つ造るにも金がいるのだ。にもかかわらず、現場は相変わらず予算不足で、調整役のロイとしても頭が痛い。国からの予算は無限にある訳ではない。だが、イシュヴァールにはまだまだせねばならない事が多すぎるのだ。
「まったく、金がなければどうにもならんな。さて、どうやって予算を分捕るか・・」
そうは言っても、政府の予算だけではとても足りない。
ここは民間企業や投資家といったもの達からも資金を募らなければならないだろう。
「金の事ばっかり考えて、今の私は銀行員か会計士にでもなった気分だよ」
早速お茶を淹れて差し出してくれたリザに肩を竦めれば、リザも憂いた様子で頷く。
「本当に。ですが、イシュヴァールにとってそれが今1番必要な事なのでしょう」
足りないなら掻き集めてこなければならない。それがロイに課せられた仕事なのである。
「大尉。シティの名士達が集まるパーティーがあったな。招待状が来ていたはずだ。出席すると返事を出しておいてくれ」
資金提供をして貰うためには投資家達に将来のシンとの交易の可能性を説くのが良いだろう。イシュヴァールの重要性を売り込んで投資して貰うのだ。そのためには。
「私はセールスマンでも何でもなってやるぞ」
意気込むロイにしかし、リザは困惑したような顔を見せた。
「少将・・パーティーの日ですが・・」
「どうした?」
珍しく言い淀むリザにロイは先を続ける様に促した。するとためらいがちにリザは口を開く。
「その・・よろしいのですか?この日は・・」
「ああ、そうか」
パーティーの日はエドワードの結婚式の日だった。忙しい毎日にすっかり失念していた。
「・・仕方あるまい。エドワードには悪いがあいつもこちらの事情は察してくれるだろう」
今はイシュヴァールの事が最優先である。そう割り切って返事をするとリザはまだ何か言いたにそうにしていたが、結局何も言わず分かりました。と了解の意を示した。
リザとしても2人の結婚式の事を気にかけているのだろう。
「大尉。君だけでも行って来たらどうだ?君にも招待状が届いているのだろう?」
ロイの招待状にはリザと一緒にぜひ来て欲しいと書き添えてあった。おそらく、ウィンリィの筆によるものだ。
「君はウィンリィ嬢と仲が良かっただろう?こっちの事はいいから」
「そういう訳にはいきません」
予想通りの返事が返ってきて、ロイは内心苦笑する。真面目なリザの事だ上官が行かないのに、部下が行く訳にはいかないとでも思っているのだろう。
こうなっては何を言っても無駄だ。長い付き合いからロイをその事をよく理解していた。
「分かったよ。・・2人揃って欠席だな。大尉、欠席の連絡と・・それと祝電と祝いの品の手配をしてくれないか。君に任せる」
了解しました。とリザは頷いた。



scene.2 ロイの部屋

「何をどうすればこうなるんですか・・・」
扉を開けて直ぐに呆れたように部屋を見回したリザにロイはそれでも何とか言い訳しようと試みた。
「・・いつもはもう少し片付いているんだ・・その最近は特に忙しかったしな・・君が1番よく知っているだろう?」
同意を求めて顔を窺うとリザは諦めたようにはあ~とため息をついた。
「もちろんです。ですから私が今日少将のご自宅に伺っているのですから」

それは、司令部にてうっかりポロリと漏らしてしまった言葉がきっかけだった。最近まともな物を食べてない、朝ご飯はコーヒーだけだ、部屋が散らかっていてベッドの上にまで物が散乱していて寝るのはもっぱらソファーだ―――等々の事を多少の愚痴と笑い話として野郎の部下達と話していたらば、己の優秀な副官に聞き咎められた。てっきり、自己管理がなっていないとお叱りを受けるかと焦ったロイだったがリザは一言、今日ご自宅に伺いますと宣言したのだった。
曰く、食事の支度に掃除、洗濯に行くというリザに「恋人でもない女性にそんな事までして貰う訳にはいかない」と一応は断ろうと努力したロイだったが、「何を今更。上官の健康管理も副官の努めです」とリザに言われてしまえば黙るしかなかった。

かくして、久しぶりに仕事を早上がりして、帰りにマーケットに寄って仕入れた食材を持ち、ロイはリザと共に自宅へ帰ってきた。想像以上の部屋の惨状にリザは腕まくりをするとロイを尻目にさっさと片付けに取り掛かってしまった。
とりあえず邪魔にならない様にソファーの上に胡座をかいてロイは座った。何か手伝う事は・・?と訊いてみたが案の定何もしないで座っていてくださいと言われてしまった。自分の整理整頓能力に自信がない事に自信があったロイは大人しく言いつけに従い、本でも読んでいる事にした。その間にもリザは、掃除・洗濯・調理の三つを効率的にこなしていく。無駄の無い動きにロイはただただ感心するしかなかった。
そのうちに部屋に良い匂いが漂い始めた。
読み耽っていた本から顔をあげて時計を確認するともう結構な時間が過ぎていた。
腹の虫がグウとなる。
「大尉?夕食はまだか?」
キッチンを覗いて見たが姿はない。
そこに居ないとなると寝室だろうとあたりをつけてロイはリビングから寝室に続く扉を開けた。
物が乗っていて寝られないというベッドを片付けたいから寝室に入っても良いかというリザに許可を与えたのは自分である。流石のリザもロイの最たるプライベートルームに勝手に入るのは戸惑われたらしい。
寝室は明かりがついておらず、暗い室内の中、窓辺だけが微かな夕刻の光で薄く浮かび上がっていた。
「大尉?」
そのちょうど窓辺の辺りに立っているリザに声をかけると驚いたのかビクリと肩を震わせてリザは振り返った。
「・・・少将」
「どうした?片付けは・・終わったようだな。ありがとう」
あれだけ散らかっていた室内がすっきりと整理されているのを見てロイが礼を言うと、
「は、はい・・いえ・・たいした事では・・あっ、すいませんっ。お腹空きましたよね。直ぐに夕食にしますからっ」
リザらしくない慌てた様子にロイは笑って、
「ゆっくりでいい」
声をかけたがリザはそそくさとロイの脇を抜けて寝室を出ていった。

「食事、美味しかったよ。久しぶりにまともなものを食べた」
「・・普段から気をつけて下さいね。軍人は身体が資本なんですから。貴方にはこれからまだまだしなければならない事あるんですよ。・・・もう、無理の利かない歳なんですから」
「事実だが、君に言われると傷つくな・・」
2人一緒に夕食をとった後、家まで送るというロイの申し出を断固とした態度で断わるリザに、折衷案として2人の家の中間地点まで・・という約束でロイはリザを送っていった。2人でとりとめのない話をしながら歩いているとあっという間に約束の場所に着く。
「今日はありがとう」
ロイは別れ際に改めて礼を言って、じゃあと手を挙げると、
「・・少将・・あのっ」
リザが自分を見つめていた。その強い視線に何か言いたい事があるのだろうか?と先を促すが、リザは結局何も言わずおやすみなさいと小さく頭を下げてロイに背を向けた。
「ああ、おやすみ」
リザが角を曲がるまで見送ってロイも踵を返した。今日は久々にゆっくり眠れる様な気がしていた。




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by netzeth | 2010-06-30 21:21 | Comments(0)