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by netzeth
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約束 2

scene.3 パーティー

華やかに着飾った人々が集いパーティーは幕を開けた。
ロイも軍服の正装で出席していた。
傍らには同じく軍服の正装に身を包み副官であるリザが慎ましく付き従っている。
リザはこんな時でも軍服で、ドレス姿など見せてくれない。昔、シンのドレスを着た事があったが、それも上からの命令があったからこその格好だったのだろう。
あれは良かった・・と密かに思い出してニヤけるロイにリザが不審そうな目を向けたが、ロイは素知らぬ顔をした。深いスリットにチラリと見える太ももを想像していたなどと知られてはそれこそパーティー中だろうと発砲されかねない。
ロイは以前の東方勤務時代も目を引く容姿と巧みな話術でパーティーでは常に注目の的だった(特に女性に対して)。将軍となり、イシュヴァール政策の責任者でもある彼は今や時の人であり、今日も当然のようにロイの周辺には人々が集っている。
美しい女性達は勿論、東方の主な企業の社長や重役、資産家や有力な投資家達といった面々達がロイを無視出来ない存在とみなしているのだ。
ロイは目論み通り、イシュヴァールの売り込みを開始した。
もう何人目かも分からなくなった投資家と話しを終え、一息ついたところで、流石にロイは喉の渇きを覚えた。そういえば話に夢中で何も口にしていない。
「少将、何か飲み物を取ってきます」
タイミング良くリザが席を外す。
するとロイが独りになるのを見計らったように近付いてきた人影があった。その人物を見て少なからずロイは驚く。
ウィリアム・ジェファーソン。“東部の鉄鋼王”と呼ばれるその初老の男をロイは勿論知っていた。
東部の鉄道は全て彼の会社が引いたものである。鉄道以外にもあらゆる分野の会社を経営しており、東部はおろかアメストリスでも5本の指に入る富豪だろう。
ロイは大佐時代に今や大総統となった当時のグラマン将軍を介して彼に会った事がある。
やはりこのようなパーティーの場であり、初めて会った時からジェファーソンは数々の会社を経営する手腕にふさわしい風格のある男だった。
このパーティーに出席していたとはな・・
ロイにとっても願ってもないチャンスだ。彼の協力が得られれば資金面は安泰といっても過言ではない。
「やあ、マスタング君久しぶりだね」
「お久しぶりです。ジェファーソンさん。今日はお会い出来て光栄です」
営業スマイル全開で先ずは握手。
しばらく歓談して、さあいよいよ本題を・・とロイが切り込もうとしたところで相手の方から先手を打ってきた。
「イシュバール政策だが・・順調に進んでいるようじゃないか」
「ええ、おかげさまで。確実に成果は上がっていると自負しております。が・・なかなかうまくいかない問題もありまして、私としても頭が痛いですよ」
「優秀なマスタング君でもお手上げかい?」
「いえいえ、私の様な若輩者にはとてもとても・・ジェファーソンさんの様な人生経験抱負な方に助けて頂ければ何とかなるとは思うのですが・・」
「言うね。・・・そうだな。まどろっこしいのは無しだ。単刀直入に言おう。私にはイシュヴァールに資金を提供する準備がある・・どうだね?これが聞きたかったのだろう?」
ジェファーソンはニヤリと笑う。内心ロイも会心の笑みを浮かべていた。
餌を出す前に向こうから食いついてくるとはな・・。
だが、こちらにとっては好都合である。
「本当ですか?願ってもない事です。ジェファーソンさんの協力があればイシュヴァールの復興は約束された様なものでしょう」
「そして、君はますます出世する・・と」
「いえそんな事は・・私のしている事など微々たるものです」
「謙遜しなくて良い。私は君を高く評価しているんだよ・・・ところで私には娘が3人いてね」
「は?」
「末の娘・・レイチェルと言うんだがいい年頃なんだ」
「はあ・・」
話が見えず間抜けな反応をしてしまったロイである。
イシュバールの話をしていたはずなのに、突然ジェファーソンの家族の話になってしまった。困惑気味のロイをよそにジェファーソンは更に続ける。
「ぜひ君に会わせたいと考えているんだ。どうかね?時間を作ってくれると嬉しいんだが。・・その時にはもちろん、イシュヴァールの事も具体的に話し合おうじゃないか」
・・・読めた。
自分はイシュバールへの資金提供を餌に縁談をすすめられているのだ!
「・・それは私の様な者にはもったいないお話で・・その、今は忙しい身ですのでいつになるかはすぐにはお約束できないのですが・・」
「返事はすぐでなくてもかまわないよ。・・イシュヴァールのためにも良い返事を期待しているよ」
含みを込めた笑みを見せるジェファーソンに、ロイは口元がひきつるのを何とか隠して笑ってみせた。

「首尾はいかがでしたか?」
車に乗り込んだ途端に帽子を後ろの座席に放り投げて、オールバックに撫で付けた髪を片手でグシャグシャと崩したロイを横目で見てリザが車を発進させた。
「あー反応は上々と言ったところか。シンとの交易は魅力的だが、1度は戦乱のあった土地だ。また同じ徹を踏むのではないかと危ぶむ意見もあった。皆、いらんリスクを冒す必要はないと尻込みしているんだ。今後、イシュヴァールの治安をいかに安定させるかにかかっているだろうな。もちろんそれをアピールする事も必要だろう」
「なるほど・・ところで、私が席を外している間にジェファーソン氏と話しておられた様でしたが・・」
見られていたのか・・とリザの目敏さにロイは感心する。何処に居ても常にロイの周辺に気を配っているのだ。今でも、鷹の目は健在らしい。
「何かお約束をしていた様子ですが・・」
しかも聞かれていたらしい。
良いお話しですか?と尋ねてくるリザに隠し事は出来ないなと降参する。
「ああ・・イシュヴァールに資金提供してくれるかもしれん」
破格と言っても良い話であるのにロイは浮かない口調だ。
そんなロイに何かを察したのかただリザは無言だった。
「だが・・投資話は二の次で本命は娘と私との縁談話だよ」
「この機会に軍部との繋がりを強化しておこうという腹だろう。イシュヴァール政策の責任者である私を取り込めばシン交易を有利に進められるという思惑があるんだろうな」
「まったく食えない御仁だよ・・大尉?」
先程から無言のままのリザを訝しんで、ロイはリザの顔を覗きこもうとした瞬間、
「うわっ」
キキーッという音共に車が止まった。リザが急ブレーキをかけたのだ。
「な、何だ。大尉。どうし・・」
「・・・良いお話しじゃないですか」
「何?」
「・・・貴方のためにもイシュヴァールにとっても」
リザの言葉を理解するのにしばらくの時間がかかった。ちゃんと聞こえてはいたのだが脳が意味を理解するのを拒否したのかもしれない。
リザを見れば彼女もロイを見つめていた。しばし無言で2人見つめあう。
沈黙を破ったのはロイだった。
「大尉・・それは本気で言っているか?」
声が震えない様にするのに苦労した。
「・・はい」
見つめあっていた視線を一瞬だけ外してリザは頷いた。
「私に・・イシュヴァールのためにも結婚しろと・・?」
「・・・はい」
「・・・そうか」
後は2人とも一言も発さず、車内は重苦しい沈黙で満ちた。
ロイは訊きたかった。それは副官としての意見なのかそれともリザ・ホークアイとしての言葉なのか・・。だが答えを聞く勇気はなかった。

「くそっ」
自宅に戻るなり、ロイは帽子を投げ付け、上着を乱暴な手つきで脱ぎ床に放り投げた。せっかく整理された部屋がまた散らかったがかまわないという気分だった。
・・・彼女がこの部屋に来て自分の世話を焼いてくれたのはほんの数日前の事なのに、今は遠い昔の様に思えた。
・・・誰に言われようとも彼女にだけは言われたくなかった。
・・・イシュヴァールのためにもという言葉は堪えた。自分の人生をかけるというのはそういう事なのだろうか。
たとえ望まない結婚であってもしてみせろとそういう事なのか。
彼女はそれで・・自分が結婚してしまってもかまわないというのだろうか。
ぐるぐると回る思考は答えのない堂々巡りだ。
「あーーくそっ」
グシャグシャと頭を掻き乱すとロイは寝室に向った。
ベッド脇に置いてある棚の1番上。そこに目的の物は置いてある。エドワードの結婚式の招待状受け取った日に引き出しの奥の奥から引っ張り出して以来そのままになっていた・・はずだった。
小箱の中からケースを取り出して開ける。
無い。
何処にも無かった。
彼女に贈るはずだった―――あの思い出の指輪が。



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by netzeth | 2010-06-30 21:29 | Comments(0)