うめ屋


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by netzeth
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約束 3

scene.4 ブーケ

結局指輪は何処を探しても見つからなかった。ケースとそれが入っていた小箱はそのままだったのに、指輪だけが綺麗さっぱり消え失せていたのだ。
念の為他の貴重品などを改めて見たが、全て無事だった。
物盗りが入ったとしたなら明らかにおかしい。自分ではしまったつもりがその辺りに落としてしまったのか・・まるで幻の様に消えてしまった指輪は、今のロイにとって、ただの指輪の紛失といった事実以上に暗示的に思えた。
そもそも、あの指輪はリザから秘伝を伝授されたすぐ後に買ったものだった。秘伝を解読し、国家資格をとったあかつきにはリザに贈ろうと思っていた――プロポーズの言葉と共に。
あの頃からロイはずっとリザだけを愛していたのだ。
だが、それは叶わなかった。肝心のリザが所在不明になってしまったからだ。当時、ロイは必死に探したがリザの居場所はついに分からなかった。
―――次に再会したのは戦場だった。
そして、その頃にはロイはリザに指輪を渡す事などとても出来ない状況になっていたのである・・・。
何度も処分してしまおうかとも思ったが、イシュヴァールの内戦を経てもリザへの想いは捨て切れず、今に至っている。
もう、取り戻せない淡い青春時代の思い出を指輪に託していたのかもしれない。指輪は、いわばロイにとってリザへの想いの象徴だったから。
その指輪を喪失してしまった事はパーティーでの事と相まってロイを落ち込ませた。
パーティーの翌日のリザはあくまでも仕事においてはいつもと変わらない態度を貫いていたが、ロイと一度も目を合わせようとしなかった。
その事もロイの憂鬱に拍車をかけた。
やはり、リザはイシュバールのためにもこの縁談を受けると良いと思っているのかもしれない。今日、ロイにジェファーソンから早速約束を取り付ける電話があったのだが、その電話を取り次ぐ時も、その後約束のためにスケジュールを空ける様に指示した時でさえ、リザは何の感情の揺らぎも見せなかったのだ。その時の事を思い出してロイは捨て鉢な気分になっていた。
帰宅するとソファーにどっかりと座り込む。そのままウィスキーのボトルを持ってこようとして。
その時、静かな夜の帳を破るようなノックの音が響いた。
もしや・・彼女だろうか?そんな淡い期待を持って扉を開けると。
「ロイ・マスタングさんですね、お届けものです」
郵便屋が立っていて、ロイはいささか、いやかなりがっくりする。
「・・こんな時間に配達かね?」
「ええ。リゼンブールからの超特急便なもので」
新しいサービスなんです。と答える郵便屋。だがそんな事よりロイは差出人が気になった。
「リゼンブール?」
「ええ・・あっサインお願いします」
ありがとうございました!と頭を下げる郵便屋をおざなりに見送るとロイはそのお届けものとやらを開けてみる。丁寧な包装を剥せば、現れたのはバスケットに飾り付けられた色とりどりの花々だった。ご丁寧に水を含んだスポンジの様なものに挿さっている。
添えられた手紙を見る。
ロイ・マスタング様と書かれた素直な文字にはかすかだが見覚えがある。
封を開けて手紙を取り出した。

ロイ・マスタング様
突然こんな物を送りつけてごめんなさい。
驚きましたよね。でも、どうしてもマスタングさんでなければいけないと思ったのです。これは先日、私達の結婚式で使用したブーケです。お花が痛まない様にアルが錬金術で加工してくれたものです。
お祝いの品と祝電ありがとうございました。大事にします。エドも何だかんだ言って喜んでいました。
実は結婚式の前にリザさん私に電話をくれたんです。わざわざ結婚式に出席できない事のお詫びをしてくれて、私、その時に言ったんです。ブーケトスでブーケをリザさんに渡そうと決めていたんですって。リザさんが来れないならイーストシティまで送りますからって。でも、リザさん言ったんです。自分には必要の無いものだから、誰か別の人にあげて欲しいって・・そう言った時のリザさん、顔は見えないし、全然態度に出してませんけど、すごく寂しそうに思えました・・。
私・・・どうしてもリザさんにブーケを受け取って欲しいんです。
そして、マスタングさんもリザさんにブーケを受け取って欲しいと思ってくれるなら、どうかマスタングさんの手から渡してあげて下さい。・・それならきっとリザさん受け取ってくれるんじゃないかと思うんです。
私もエドもアルもマスタングさんがリザさんにブーケを渡してくれる事を祈っています。
突然のお手紙失礼しました。

ウィンリィ・ロックベル

最後にこちらも見覚えのある乱暴な字でこう付け足されていた。
“絶対渡せよ!!”

「は、はは・・」
笑いが込み上げる。我ながら一体何をやっていたんだろう。
グシャリと髪を掻きあげる。
・・縁談が持ち上がろと、指輪がなくなろうと、自分の気持ちは一つじゃないか。
リザを愛している・・簡単な事だ。
こんな簡単な事も分からず迷っていたとは――自分より年下の若者達にさえ見透かされていたというのに。
リザがどう思っていようと関係ない。このブーケを渡して自分の気持ちを正直に伝えよう――本当はあの指輪も改めて渡したかったが・・・なくなったものは仕方ない。あの指輪がなくても別の物を用意すれば良い・・・そこでロイは瞬いた。何かが脳裏に引っ掛かる。指輪・・・そうだ、昔リザに渡そうと思っていた指輪だ・・・。パーティーの前までは確かにあった。いや、手に取ってその存在を確かめたのはもっと前だ。そう・・・リザが家に来た前の日だった。それ以来パーティーの夜までは見ていなかった・・・。リザが来る前にはあって・・・窓辺に佇むリザの姿が蘇る―――そういう事なのか?
ロイはその可能性を何度も吟味してみた。
そして・・・どう考えてもそうとしか思えないと確信したのである・・・。



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by netzeth | 2010-07-02 21:15 | Comments(0)