うめ屋


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by netzeth
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waiting time


特に大きな事件もない、平和で穏やかな昼下がり。
東方司令部ではいつもの面々が今日も街の平和を守るため職務に励んでいる……はずが、約一名が周りの雰囲気にそぐわない暗い表情で落ち込んでいる。
遅番で出勤して来てからというもの、ずっとそんな調子の親友にブレダは声をかけた。
「ハボっ。いい加減にしろよ」
「……ううっ。アイリーン……」
どうやらまたフラれたらしいハボックである。
「仕方ねーだろうが。だいたいどう考えてもお前が悪いぞ」
「なんだまたフラれたのか」
ひょいと顔を覗かせたロイが呆れた様に笑った。
「今回はずいぶんと早かったな」
彼女が出来たんス! と喜んでいたのはそんなに前の事ではなかったはずだ。
「それがですね。こいつデートに二回続けて遅刻したらしいんですよ」
ブレダがハボックの頭を軽く小突く。
その手を避ける気力もないのか、ハボックは項垂れたままだ。
「女性を待たせるとは男の風上にも置けんな……。お前が悪い」
断定したロイに、ハボックはガバリと顔を上げると噛み付く様に反論した。
「遅刻ったってほんの十五分くらいっスよ!? しかも、仕事が長引いて仕方なくです!」
今にも泣き出しそうな涙目で睨み付けられて、思わず後退るロイである。――仕事が長引いて……というならロイにも責任が無い訳ではないかもしれない。
「仕事というなら情状酌量の余地はあるかもしれませんね。でも、十五分というのはどうなんでしょう?」
すると、今まで黙って話を聞いていたファルマンが口を挟んできた。
「どうって?」
「ですから、十五分というのは短いのか長いのかという事です」
彼は考え込む様に腕組みして、
「待つ方にしてみればたかが十五分でも、ずいぶんと長く感じるのかもしれませんよ」
「ふむ。一理あるな……ましてや相手は女性だ。……やっぱりお前が悪い」
「うっううう…」
そして、再び落ち込んだハボックを慰める者は誰もいなかった。


「ハボック少尉、どうしたんでしょうね。ずいぶん落ち込んでいましたが」
執務室に入ってきたリザが少し心配そうに言うのに、ロイは手をひらひらと振った。
「ああ、また彼女にフラれたそうだ。何、いつもの事だ。放っておけ」
「それは……お気の毒に……」
何とも言えない表情でそう言うリザを見て、ロイはふと思い立つ。それはほんの小さな好奇心。
「なあ……君だったら、何分待てる?」
「はい?」
「いや……ハボックは恋人を待たせてフラれたと聞いてな。……君だったら何分待てる?」
「それは……恋人をという事ですか?」
「いや……そうだな、じゃあ私をという事で」
「大佐を……ですか?」
「ああ」
ロイはニヤリと笑って頷いた。
さて、彼女は何分自分を待ってくれるだろうか?
ほんの悪戯心で尋ねて見たが、しかし答えによってはロイ自身心にダメージを負いかねない。ロイは知らず知らずのうちに息を呑んだ。
リザはしばらく手を口に当てて考え込むようにしていたが、やがてぽつりと呟く様に言った。
「私はそんなには待てないと思います……」
「厳しいね。遅刻したら即帰ってしまうという訳か」
いつまでも待っているという返事を期待していたロイは内心がっくりする。
だが、リザは首を振り、
「いえ、貴方が遅いと心配になるからです。貴方に何かあったのではないかと……」
ロイを正面から見据えてリザはきっぱりと言う。
「だから、きっと待てずに迎えに行きます」
ああ……そうだった。彼女はただ男を待つだけの女ではなかったのだ。
ロイは己の副官の言葉に満足する。
「そうか」
「はい……」
「じゃあ、私が何処にいても迎えに来てくれよ?」
「お任せ下さい」
リザは頷いて、滅多に見せない微笑みをその顔に浮かべて見せた。




END
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by netzeth | 2010-07-16 21:42 | Comments(0)