うめ屋


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by netzeth
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たまたま。

中尉が怒っている。
とは言っても彼女の事だ、もちろん、あからさまな態度には出していないし、いつもの様に無表情だ。きっと周りの者も気付いてはいないだろうが、私には分かる。
何しろ、いつも猫舌気味の私のために冷まして出してくれるお茶は煮え滾る様に熱かったし、(火傷した)無糖派の私に対して絶対砂糖5杯は入ってる様な甘さだった。(胸焼けがする)
くわえて、〆切の遠い書類はいつも後回しにしてくれるのに、今日は遠慮なく私の机に積み上げ続けている。(そろそろ前が見えない)
・・・彼女は間違いなく怒っている。
しかも、私に対して、だ。
何故分かるかって?
・・・遺憾ながら私には心当たりがあるのだ・・・。

昨日の事だ。私はかねてから調査中の事件の情報を得るべく、デートという名の情報収集に赴いた。相手は情報屋のスージーさん。
私は中尉にスージーさんに会うと言って軍部を出た。
情報収集のために女性と会う時、まるで子供が母親に何処に誰と遊びに行くのかと報告する様に、私は必ず中尉に誰と会うかという事を告げて行く。これは私なりのケジメだった。デートはあくまでも情報収集のため。中尉に誰と会うのか知らせる事で暗に、私は彼女への気持ちを示しているつもりだった。私には君だけだと――。
そんな私の行動を彼女も理解してくれていたはずだ。
しかし、昨日は少し事情が違った。
私はスージーさんと別れた後、偶然ジュリアさんという女性に会った。ジュリアさんもスージーさんと同じく、いつも情報を提供してくれる女性なのだが、さばさばしていてあくまでビジネスと割り切って付き合ってくれるスージーさんとは異なり、ぶっちゃけて言うと私に対して明らかに気がある・・・という態度で接してくる女性だった。私はこのジュリアさんの事が苦手であり、はっきり言って迷惑していた。だが、彼女の情報も有益である以上邪険に扱う訳にもいかず、私はいつも角が立たない程度に相手をしていたのだが。
昨日はやたらとベタベタとくっついてくるジュリアさんに内心辟易し、私はどうやって彼女とさよならしようかと思案しながら歩いていた。そう、油断していたのだろう。
「ねえ?大佐あ~」
ジュリアさんの猫撫で声を適当に聞き流していると、私の視界の端を見慣れた金色が横切った様に見えた。まさかと思ったのも束の間。
「んもう!た・い・さ」
話を聞いていない私に、業を煮やしたジュリアさんの手がグイッと首を掴んで。私はジュリアさんとキスをしていた。
それはほんの一瞬の事だったが。ばっちり、しっかり見られてしまったはずだ。
私達の目の前に立っていたホークアイ中尉には。

・・・とまあ、そういう訳で私は中尉に他の女性とのキスシーンを見られてしまった訳である。
今思えば、よりにもよって、何故あのタイミングで中尉に会ってしまったのか・・・まあ、あそこは軍部から彼女の家への通り道と言えなくはないので、偶然会ってしまってもおかしくない訳だが。
それにしてもあれはまずかった・・・。あれではいつもデート(という名の情報収集)であんな事をしていると思われかねない。しかも、中尉に会うと告げていた別の女性と一緒に会っているところを見られたのである。
・・・私の信用はまる潰れだ。
中尉が朝から怒っているのは、昨日の一件のせいで間違ない。
・・・中尉は相変わらず書類を積み上げている。とうとう椅子の上に乗って積み上げ始めた。そろそろ何とかしないと天井に届きそうだ。
早く・・・一刻も早く謝って誤解を解かなくてはならない。
「中尉」
「何でしょうか?」
椅子の上から中尉の返事が降ってくる。
・・・とりあえず椅子から降りてくれないかな・・・。
私の心の声が通じたのか中尉は椅子から降りて私の前に立った。相変わらずの無表情。
「あー昨日の事何だが・・・」
「・・・昨日の事と申しますと、ああ、大佐がバケツにつまずいて転んだ事ですか。水を盛大にぶちまけてしまったので、あれは後片付けが大変でした。バケツを置きっ放しにした者を探し出して減給するとの事でしたが、申し訳ありません、調査がまだ進んで・・・」
「違う!!その事ではない!」
「では・・・ああ、チャック全開でお手洗いから戻られた事ですか。大丈夫ですよ。目撃者はあまりいませんでしたから。けれども、あの下着は頂けないと思いますよ。もう少しお年を考えた・・・」
「違う!!」
私は全力で否定する。・・・どうしても私の口から言わせたい様だな。
私は観念して自分から切り出した。
「昨日のデートの事だ」
「・・・それが何か?」
あくまでもしらばっくれるつもりか、この意地っ張りめ。
だが、長い付き合いの私の目は誤魔化せないぞ。彼女のポーカーフェースが微妙に崩れている。私に言いたい事があるっていう表情だ。
「私に言いたい事があるのではないかね?」
「・・・いえ、特に」
「そうか。私にはあるんだが」
そう言って表情を伺えば、彼女の無表情がはっきり崩れていた。言いたい事があるなら言ってみろって顔。・・・怖いんだが。仕方ない、私は腹を括った。
「あー、昨日のアレは事故なんだ。断じて私の意志ではなかった。その・・・ジュリアさんに会ったのはたまたまで・・・」
「へえ、たまたまお会いして、たまたま腕を組んで、たまたまベタベタイチャイチャしながら歩いてたんですね」
・・・君、いつ、どの辺から見てたんだ?
「それで、たまたま抱き付いて、たまたまキスしたと」
「いや・・・だから・・・あれはジュリアさんが勝手に・・・」
「ふざけないで下さい!」
中尉がバンと机に手を着く。反動で机の上の書類タワーがバラバラと崩れて舞った。
「スージーさんと会うって言うから安心していたのに!見にいってみればジュリアさんとイチャイチャ、ベタベタ!挙げ句の果てにキスまでっ」
・・・ちょっと待て、見に来てたのか、中尉。
「たまたまです!今までも何度かたまたま見かけた事がありましたけど、いつも私に教えてくれた方と会っていらっしゃったのに・・・」
・・・しかも今まで何度もか。
怒られている最中だというのに私は何だかニヤニヤと笑いたい気分になってきた。だって・・・なあ?中尉が私の事を気になって私のデート現場を密かに見に来ていたなんて・・・こんな可愛い嫉妬に増長するなと言う方が無理だ。
調子に乗った私はまだプリプリ怒っている中尉の肩を掴むと。
「・・・悪かった。もう、しない。絶対だ。私には君だけだ」
チュっと軽く彼女に口付けた。
驚いている彼女の顔に続けざまにキスしていく。しかめられた眉間にもキスを落とす。
・・・なあ、機嫌を直しておくれ?
少しだけ頬を赤くした彼女は、
「どうせ、これもたまたまなんでしょう?」
ツンと唇を尖らせて言う表情が余りに可愛かったので。
「まさか。君に対してたまたま何てないよ」
私はますます調子に乗って彼女の唇を、今度は深く奪ったのだった。

・・・積み上げられた書類が半分に減らされた事をここに記しておく。




END
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by netzeth | 2010-07-27 21:04 | Comments(0)