うめ屋


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by netzeth
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雷とシーツお化け

その夜、ロイは泊まりがけで出かけてしまった師匠に出された課題のレポートに取組んでいた。夕食を師匠の一人娘のリザと一緒にとってから部屋に籠り、一心不乱に本を読み、思いついた事などを紙に書き散らしていると、気がつけばかなりの時間が経っていた。ロイは古びた壁掛け時計を見る。もう、日を跨ごうかという時刻だった。
うーんと伸びをして、ロイは肩の凝りをほぐすと窓の外を眺めた。いつの間にか激しい雨が降っている。
勉強に夢中でまったく気がついていなかった。そういえば、数時間前にリザが来て何事か声をかけられた様な気がしたが、その時にも生返事を返してしまった気がする。
傍らに置いてあるおそらくリザが持ってきてくれたのであろうコーヒーカップを見やって、ロイは頭を掻いた。 
錬金術の事となると、どうも周りが見えなくなってしまうようだ。悪い癖だとは思うがこればかりは性分で、どうしようもない。リザにもきっと呆れられているだろう。
せっかくコーヒーを持ってきてくれたのにきちんとお礼も言っていない事を申し訳なく思い、ロイは軽くため息をついた。明日ちゃんと礼を言わなくちゃな……。
もう、とっくに眠っているだろうリザに思いを馳せた瞬間、一瞬の光が目の前を走った。何と思う間も無く凄まじい轟音がロイの鼓膜を叩く。
「……雷か」
光と音の間隔が短い。これは近いな、とロイが思ったのも束の間、またピカリと光が明滅する。そして、
「きゃあああ!!」
耳をつんざく轟音と悲鳴が聞こえたのは同時だった。
「何だ?」
声は廊下から聞こえた。
ロイは立ち上がって様子を見に廊下に出ようとドアノブに手を伸ばす。しかし、ロイがノブを回すより早くドアはバタンっと盛大な音をたてて開いた。
暗がりの中に、ぼうっと浮かび上がる様に白い物が立っていた。ヒラヒラと薄い布がロイの前で揺れている。
オバケの仮装みたいだな……。
ロイが呑気な感想を抱いているとまた光が一瞬部屋を照らして、間を置かず轟音が響いた。
「きゃああああ!!」
その白いオバケの様な物が、悲鳴をあげてロイに抱き付いてくる。
なるほど……。
ロイはオバケを抱き抱える様にするとその背をポンポンと叩いてやった。
「リザ?大丈夫だから」
すると白い布――シーツの中からひょっこりと柔らかなハニーブロンドの頭が現れた。
「マスタングさぁん……」
涙声で、その身体は心なしか震えている。
腰を屈めて視線を合わせると。ロイはニッコリと笑ってやった。


「その……いつもはこんな事……ないんです。でも……今日みたいな凄いのは初めてで……ごめんなさい。おかしいでしょう?……子供みたいですよね」
頭からすっぽり被ったシーツはそのままに、二人並んでベッドに座ると多少落ち着きを取り戻したのか、リザはポツリ、ポツリと話を始めた。
まだまだ子供と言ってもおかしくない年齢だが、育った環境のせいかリザは甘える事を知らない子供だった。研究一筋で家の事を省みない父親の代わりに、いつもこの家を1人で切り盛りしていた。そんなリザだから、雷ごときを怖がる自分が許せないのだろう。
こんな時でも遠慮を見せるリザを微笑ましく、少し悲しく見つめて、ロイはその小さな頭を撫でてやった。
「おかしくなんかないさ。俺もリザくらいの時は怖かった」
「本当?」
アーモンド型の大きな目を更に大きく見開いて、リザはロイを見上げてきた。
「どうしてこわくなくなったの?」
「それは……知ったからかな」
「知る?」
「うん。雷というものを理解したからだよ」
いいかい、リザ。とロイは前置きをして。
「雷というのはね、雲と雲の間、または雲と地上の間に起きる大規模な放電現象の事なんだ。雲の上の方にプラスの電荷、下にマイナスの電荷がたまって雲が発達するとその電荷が増えていく。すると各々の電荷はそのままの状態では存在出来なくなる。上層と下層の電位差が拡大して空気の絶縁の限界値を越えると電子が放出されて……」
リザがクイクイと腕を引っ張り、ロイの説明を遮った。
「マスタングさん……ごめんなさい……よく分からない……」
困った様に眉を寄せるリザを見て、ロイは苦笑した。
しまった……またやってしまった……。
錬金術師の悪い癖だ。夢中になるとつい周りが見えなくなる。雷の発生原理はリザには難し過ぎるようだ。それならばとロイは思考を巡らせた。
「リザ、こんな話を知ってるかい? 雷が鳴ると雷様がやってきておヘソをとってしまうそうだよ。だから雷が鳴るとおヘソを隠すんだ」
「おヘソを? おヘソなんかとってどうするんですか?」
 リザが不思議そうに首を傾げる。
「さあね、これは東の島国に伝わる話なんだが……多分お腹を出して寝てしまう子供を諫めるためのお話なんだと思うよ。リザは大丈夫かな?」
笑い含みに言うと、案の定リザは頬を膨らませる。
「私、そんなに子供じゃありません!」
「あははは。ゴメン、ゴメン。そうだよな」
ポンポンと頭を軽く叩くと、もうっと怒った様な返事がかえってきた。
すっかり元気が出たらしい。
「もう、大丈夫かい?」
いつの間にか雷も遠くなり、もう先程の様な轟音は去っていた。可愛いシーツオバケを覗きこんで見つめると、モジモジと言いにくそうにリザは視線を逸らした。顔が少し紅い。
「あの……やっぱり怖いものは怖いです……今日はここで寝ちゃダメですか?」
甘える事を知らない彼女のほんの少しの可愛いわがまま。それをどうして断われようか。ロイが頷くと、シーツのオバケは嬉しそうに微笑んだのだった。





END
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by netzeth | 2010-08-11 21:19 | Comments(0)