うめ屋


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by netzeth
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雷ときまぐれ紳士

耳をつんざく轟音とドアをノックする音が聞こえたのはほとんど同時だった。その音を辛うじて聞き取ったリザは玄関先に出る。
リザより先に訪問者を察知したハヤテ号が、既にキチンと座って待っていた。彼の尻尾が嬉しそうにゆらゆら揺れているのを見て、リザは眉間にシワを寄せた。ハヤテ号が吠えもせず、またこんな時間に訪ねて来る様な人物に心当たりは一人しかいない。
ドアを開けると、案の定リザの予想通りの人物が立っていた。
「誰か確認もしないでドアを開けるのは止めたまえ。不用心だぞ」
会っていきなり小言を言い始めた上司兼恋人のようなものの彼に、リザは思いっきり渋面をしてみせた。
「ハヤテ号の反応で危険かどうかは分かりますし、第一、こんな時間に来る人なんて貴方くらいしかいません、大佐。大佐こそ不用心ですよ。こんな日に外を出歩くなんて」
外は土砂降りの雨。雷の音が時折鳴り響く。
雨の日は得意の焔の錬金術が使えないロイにとって、まさに鬼門ともいえる日である。
いろんな方面に憎まれっ子のロイはいつ足元を掬われるか分からないのだ。用心するにこしたことはない。
「分かっている。だからきたんだ。……君がいれば安全だろう? 何しろ私の有能な護衛だからね」
ロイは家主のリザの許可も得ずにさっさと部屋の中へと進んでいく。こうなっては何を言っても無駄だ。お手上げと肩を竦めるとリザもロイの後に続いた。

「お食事は済みましたか?……ああ髪が濡れてますよ。これで拭いて下さい。……ジャケットはこちらに」
何だかんだ言っても、ロイがいれば世話を焼いてしまうのがリザである。タオルを渡して、ロイのジャケットを受け取るとハンガーにかける。ざっと見て、それほど濡れてないし、シワにもならないだろう。と判断するとハンガーラックにかけてしまう。
そこまでして、リザはロイが頭にタオルを被せられたままこちらを凝視しているのに気がついた。
「何です? 大佐。お食事はどうしますか?」
「あ、ああ、いい。夕食は食べたから」
「そうですか」
疑問を視線にのせてロイを見ると、ロイは笑って、
「いや……君は昔から変わらないなと思って」
「なんです、それ」
なおも笑うロイにリザは少し居心地が悪くなる。
「で、何の御用です? こんな天気の、こんな時刻に」
そしてつい、尋ねる口調もキツくなってしまう。そんなリザを知ってか知らずかロイはマイペースだ。
「……用がなければ来てはいけないのか?」
涼しい顔でそう言ってのけた。
「べ、別に……そういう訳ではありませんが」
暗に自分に会いに来たのだと告げる様なロイの返答に、鼓動が早くなるのをリザは感じる。
「理由が必要なら……そうだ」
そこで一旦言葉を切ってロイはニヤリと笑うと、
「君が雷が怖いんじゃないかと思って」
心配になって来たんだよ。とニヤニヤ笑ったままロイは答えた。
「何です、それ」
ロイがやけにニヤニヤしているので警戒しながらも、リザは憮然とした様子で尋ねると、
「忘れたのか? あの時は一緒に寝ても良いですか? って、シーツを被って私の所に泣きながらやって来たじゃないか」
あー可愛いかったなーと昔を思い浮かべる様に言うロイに、リザはようやくロイが言っているのがいつの事を指しているのか分かった。かあっと頬が熱くなる。
「私は紳士だからね。恐怖に怯える女性を放ってはおけなくてな」
こうして駆けつけたという訳さ。とロイはリザに片目を瞑って見せた。
「あ、あの時はっ、まだ小さかったんです! 今はもう平気ですからっ」
子供の頃の話を持ち出してくるなんて反則だ。しかも、今思い出しても恥ずかしくなる、あの時の事をっ。
赤くなった顔をロイに見られまいとリザは俯いて、
「心配して頂かなくても結構ですっ」
ピシャリと言い切る。しかし、それでもロイは引き下がらない。
「そうかね?……じゃあ、こうしよう。私が雷が怖いんだ。独りで眠れないから、一緒に寝てもいいかい?」
「なっ何を……」
ロイはリザに向って一歩踏み出して。
「まさか、断わらないよな? 私はあの時、君と寝てあげたじゃないか」
更に、もう一歩。ロイはリザに近付く。
リザは後退りして、
「あ、あれはっ、子供の頃の話じゃないですかっ」
「ん? 今はまずいのか?」
「当たり前です!」
更にリザが下がると、とうとう壁際に追い詰められてしまった。
瞬間、光が瞬いて、音が轟き、室内が真っ暗になる。
停電―――。と思う間も無くリザはグイッと腕を引っ張られ、抱き締められていた。
「……おまけに。暗いのも怖いんだ。今日は一緒に寝てくれるよな?」
なんとか腕の中から抜けだそうともがいてみたが、耳元で囁かれて、体から力が抜けた。
(まったく、とんだ紳士だ事っ)
内心で毒づくが、もう、どうにもならない。
沈黙を勝手に良い様に解釈して、ロイはヒョイとリザを抱き上げてしまう。
「ちょっ、大佐!」
「大人しくしたまえ。ただでさえ暗いんだ。落としてしまうぞ」
「落として下さって結構ですから! 降ろして下さいっ」
「こら。いい加減観念したまえ」
「ちょ、や……そ、そうです! 雷の日はおヘソを出してはいけないんです!」
「大丈夫。お腹を出さなくても出来る―――」
「バカ!!」
口では素直じゃ無い事を言いながらも、鼻歌交りでリザを抱き上げたままベッドに向うロイに、それでも結局のところ抵抗しきれないのは、一緒にいたいと願う心がリザにもあるからかもしれない。
大人になって、雷を恐れなくなっても、ロイのそばにいるのは変わらない。願わくばこれからもそうあって欲しいと、降ってくる優しい口づけを受け止めながら、リザは思ったのだった。




END
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by netzeth | 2010-08-18 20:59 | Comments(0)