うめ屋


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by netzeth
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同室妄想。


昼間の騒々しさが嘘の様に夜の病院は静まり返っている。
五感の一つを失うと、その他の感覚器官が発達して、失われた機能を補うというが、その通りかもしれないとロイは思った。
事実この静寂の中、ロイの聴覚はいつもより研ぎ澄まされていて、目が見えた時には聞き逃していただろう音を拾い上げている。コチコチというベッドサイドの置き時計の音、カツカツという巡回の看護士の足音。そして、今一番ロイを悩ませている――隣りのベッドから聞こえる音。それは微かな衣擦れの音だったり、時に寝返りにベッドが軋む音であったり、そして、スースーという静かな寝息の音だったりする。
これが只の野郎の部下だったりしたならば、ロイはここまで頭を悩ませる事はなかったろうに。問題は、隣りで寝息をたてているのが部下・・・以上に想う女性、リザ・ホークアイであるという点である。

そもそも、健康(でもないが)な男女が病室が同じとは有り得ない事だった。当然ロイは別々の病室になるだろうと思っていたし、それが世間一般の常識というものだ。だが、ホムンクルスに端を発したセントラルの動乱が終息を迎えて日が浅い現在、セントラルの軍病院においては極めて空床は少く、また、当のリザ本人がロイと同室にする様にと強硬に主張したのだ。
視力を失ったロイを1人にしてはおけなかったのだろう。自分だって重傷患者のくせにロイの世話をするつもりだったに違いない。
そのあまりに献身的な態度は部下の一線を越えているという事に彼女は気付いているのだろうか・・・。
とにかく、様々な理由で2人はめでたく同室になってしまったのである。
ロイ自身は目が見えないだけで、手の負傷も入院する程の怪我ではなかったのだが、何かあってからでは困ると強引に検査のための入院をさせられた――よって、心身共に健康な男子である。
一方リザは意識はしっかりしているものの出血死寸前までいった重傷患者。
・・・絶対に手を付けられない据膳状態である。
同室という状況はロイにとって正に拷問だった。毎晩、薬が効いて深く眠っているリザの横で1人悶々として過ごすのである。おかげで入院してからというもの、ロイは寝不足だった。

今日も隣りのリザの気配に神経を尖らせながら、ロイは眠れぬ夜を過ごしていた。
夜の静寂に響くリザの寝息。規則正しかったそれが変化したのは夜半を過ぎた頃だったろうか。
「うっ、はあ・・んん」
最初に耳にした時は何事かと思った。まかり間違えば色っぽいともとれるリザの声にロイは当初、邪な考えが頭に浮かんだのを否定出来ない。しかしすぐにその馬鹿な考えを打ち消した。彼女に限ってまして隣に自分がいる状況下で、そんな声出すはずがない。
そして、今や全身を耳にして隣りのベッドから聞こえる音を窺う。
これはそういう色っぽいものではない。もっと別の・・・そう、何かに苦しんでいる声だ。
もしや、傷が痛むのだろうか?
あまりに苦しそうな吐息にロイは心配になって声をかけようとして。
「うっ・・・た・・いさっ」
自分を呼ぶ声に息を詰めた。
「たいさ・・たいさ・・」
必死さを滲ませるリザの声。ここでロイはようやく彼女がおそらくは悪夢にうなされているのだという事に気がついた。
「中尉・・・」
「たいさ・・たいさ・・」
リザは相変わらず苦しそうにロイを呼び続けている。
夢の中の自分は一体何をやっているのだろうか。ロイは不甲斐ない夢の中の自分に腹がたった。大切な彼女をこんなにも苦しめるとは。理不尽な怒りを覚えてロイは身を起こした。不甲斐ない夢の中の自分になんか任せておけない。
彼女に悪夢を見せた原因が自分にあるのなら、彼女を悪夢から救うのも自分の役目だ。ロイは起き上がって、ベッドを降りた。隣りのベッドのまでの距離を予想して一歩踏み出す。手探りで隣りのベッドの淵に手を置いた。そろそろと手を動かして、ゆっくりと枕元へと手を移動させていく。そして、自らの手がリザの手を探し出した。そっと触れるとその指はきゅっと握り締められた。
「中尉。大丈夫だ。私はここにいる。大丈夫だ」
もう片方の手を枕元に伸ばす。ふんわり柔らかなリザの髪の毛に触れてそのままおでこに手を持っていくと、ゆっくりと前髪を梳いてやった。
「大丈夫だ。中尉」
もう1度囁く様に言うと、
「・・・大佐?」
静かな闇の中にリザの声が響いた。目を覚ましてしまったらしい。ロイは無言でリザの頭を撫で続けた。
「大佐・・・」
「ああ」
「すいません、私・・夢を見て・・・」
「ああ」
「大佐が・・・私・・まもれなくて・・」
「何も言わなくていい」
「すいません・・ご迷惑をおかけしました」
リザの起き上がる気配がした。彼女の顔は見えなかったが、見えなくても分かった。きっと泣きそうな顔をしているに違いない。
ロイはシーツをまくるとリザのベッドに滑りこんだ。
「大佐!?」
「君がまた悪夢に捕まるといけないだろう?」
そう言うとロイはリザを抱え込むように抱き締めてしまった。
「こうしていれば大丈夫だ」
「で、でも人に見られたら・・・」
「同室にしておいて何を今更だ」
リザはまだモゴモゴと口の中で何事か言っていたが、ロイは構わずリザの頭をぎゅと自分の胸に押し付けた。
据膳の拷問状態から状況は更に悪化した様な気がするが構うものか。彼女のためなら、寝不足だって我慢してやる。
だが、柔らかな彼女の身体を抱き締めていると不思議と眠気が訪れてくる。気がつくと腕の中でリザが寝息をたてていた。その吐息を聞きながらロイも目を閉じる。
やがて2人の静かな寝息が重なって聞こえる頃、夜は静かに更けていった。




END
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by netzeth | 2010-08-27 23:43 | Comments(0)