うめ屋


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by netzeth
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手紙

「へえ~」
彼と会うのは初対面では無いはずだが、彼は私を見て物珍しげな視線を向けた。
……少し居心地が悪い。
そんな私に気付いたのか彼は慌てたように。
「ゴメンゴメン、女の子をジロジロ見るなんて不躾だったよな。でも、君があのリザちゃんかと思ったらつい、ね」
勘弁なと手を合わせる彼に、さて、あの人は私の事を一体どんな風に話していたのかと怪しむ。
彼の名はマース・ヒューズ。確か階級は大尉。マスタング少佐の友人である。人好きのする笑みと砕けた口調で人に警戒心を抱かせず、どこか憎めない。彼は私の知るどんな男性とも違う人だった。……もっとも、これくらいの歳の男性ではマスタング少佐くらいしか比べる相手がいなかったけれども。
「イシュヴァールでも、会ったけどさ、ゆっくり話す暇もなかったしな」
君とは一度じっくり話してみたいと思っていたんだよ。と意味ありげに笑うヒューズ大尉に、いよいよもって私は不安になる。
……少佐。本当に一体何を話したんです?
私の困惑が伝わったのか、ヒューズ大尉は二カッと笑うと、
「安心しなって、別にリザちゃんに関しての話じゃないからさ」
じゃあ、何だろうか? 他に何か大尉と私の間に共通の話題があるとは思えないけれど……いや、一つあるかもしれない。他ならぬマスタング少佐だ。もしかして少佐に関する事でしょうかと尋ねてみると、案の定だったようで、大尉は嬉々として話し出した。
「士官学校にまだ入ったばかりの頃かな。オレ、ロイと同室だったんだけどさ。ロイの野郎がな、毎日頭を抱えてうんうん机に向ってる訳よ。ペーパーではトップだったあいつがだよ? 士官学校のテストなんてサラサラと楽勝だったのにさ。一体何をしてんだって覗いてみたらさ、手紙を書いてたんだよ。何でも師匠の娘さんに出す手紙とかでさ。何を書いて良いのか分からないって言うからさー。あいつ女の子から手紙を貰う事はあっても書いた事なんてなかったんだろうな。……あっこれはオフレコね。俺、一緒に考えてやったんだぜ? ほら、覚えてない? ロイがサバイバル実習で料理作ってそれを食った班の奴等全員腹壊したって内容なんだけど」
知らない。そんな手紙貰った事ない。
首を振ると、大尉は不思議そうな顔をして、
「おっかしいなー? 確かにそんな内容だったんだけどな。それでさ、あのロイがそんなに悩んで手紙書く相手ってさ、一体どんな子だろうってずうっと気になってた訳よ。何しろさ、あいつかなりモテる癖に堅物でさー、浮いた話一つ無かったのにだよ? 女の子に手紙書くっていうんだからさ。さぞかしその子に惚れ―――」
「ヒュ~~ズ――!!」
地の底から響いてくるような声がした。
「何をペラペラと余計な事をしゃべってる!」
苦虫を潰したような顔をした少佐がいつの間にか立っていた。
掴みかからん勢いでヒューズ大尉に詰め寄った彼は怒り心頭の様子だ。
「くだらん事しゃべってないで、用が済んだらさっさと帰れ!」
「くだらなくないって。リザちゃんと親睦を深めてただけだろ?」
「ちゃん付けするな!」
「何だよ、焼きもちか? やだね~男の嫉妬は見苦しいぜ。まーリザちゃん可愛いからなー気持ちは分からんでもないぜ。あっ、もちろんオレのグレイシアには及ばないけどなー! そうそう……グレイシアと言えばさ――」
「お前はもう、帰れ―――!!」
二人のやり取りを見ていると、少し羨ましい。私も少佐とこんな風に打ち解けて話したいのに。いろいろな事が邪魔をして私にはそれが出来ないから。だから――。
「な、リザちゃん。この野郎の事よろしく頼むわ。リザちゃんがついててくれるなら安心だから」
だから、ヒューズ大尉にポンポンと肩を叩かれた時、私はとても嬉しかった。
「ちゃん付けするな!」
そして、大尉は少佐の怒声もスルリと躱して、風の様に去っていった。


「……」
「……あー准尉?」
「はい」
「あいつが言っていた事だかな。その……」
「手紙……」
「へ?」
「私に手紙を書いてくれていたと聞きました」
「そ、そうか」
「でも、私、受け取ってません」
「そ、そんな事は……ちゃんと届いていただろう?」
「少佐がお料理してみんながお腹を壊したなんて、内容の手紙は貰ってません」
「あ、あれはっ。……その……あんまり格好悪いからボツにしたんだ」
「……その手紙を読んでみたかったです」
まだ学生だった頃の貴方の手紙。彼が頭を悩ませて書いたというその手紙を読んでみたかった。
変なところで格好つけたがる彼の手紙は、いつもこちらは上手くやっている――の一点張りで、後は私の安否を気遣う内容ばかりだった。彼らしいと言えばらしいけれども。
――と、ある事を私は思いつく。まさかとは思うけど。
「その手紙、今でも持っていたりしませんか?」
彼の性格からして有り得ない事ではない。彼は何でもため込む癖があるから。要らない物はちゃんと処分して下さいっていつも言っているのに。
「あ、る、訳ないだろう。そんな昔の」
嘘だ。
私は少佐の顔を上目使いで見つめた。これは私が彼を問詰める時に使う方法。
これで大体は白状する。
「本当ですか?」
「う……大体あったとしても、君に見せる義務はないぞ!」
やっぱり。
「私宛ての手紙なんですから、私が読んだって良いはずです」
「……そもそも、何処にやったか分からん」
「ご心配なく。私が探しに参りますから。どうせまた要らない物を溜め込んでらっしゃるんでしょう? ついでに整理して差し上げます」
私が澄まして言うと、彼は観念したらしい。もう、好きにしてくれと投げやりに言った。
少佐の部屋のお片付け。昔に戻ったようで少し嬉しい。
私は非番の日が待遠しくてたまらなくなったのだった。


後日、少佐の部屋の引き出しの奥から手紙は発見された。件の手紙の他にも出されなかった手紙が何通も。まさか本当に見つかるとは思わなかった。それは少佐も同じだったらしい。
早速読もうとした私に少佐は真っ赤な顔で手紙を奪ってあまつさえ、燃やそうとした。
……何が書いてあったかって? それは私と少佐だけの秘密だ。






END
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by netzeth | 2010-09-01 21:50 | Comments(0)