うめ屋


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by netzeth
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 ライバル

ムクムクしたハヤテ号の温かくて小さな身体をギュッと抱き締めると、傍らで大きい方の黒い犬が唸り声を上げた。どうやらこの体勢がお気に召さないらしい。
「なんですか?」
知らないフりをして聞けば不機嫌さを隠しもせずブスくれ顔をする。
「分かっているだろう・・・君はちょっとコイツに甘過ぎる」
「甘いも何も・・・この子はとても暖かいんです。今日みたいな寒い日は抱き締めたくなってもおかしくないでしょう?」
まったくしょうがない。こんな小さな子犬にまで嫉妬するなんて。だいたい彼は常日頃から少々嫉妬深い所がある。
私が少し男性と話していたくらいで不満顔をしたり。道を聞かれただけなのに。それを言うと彼は繊細な男心がどーだこーだと反論する。はっきり言ってめんどくさい。
けれども、彼の過剰な嫉妬心を喜んでいる自分もいたりするから困ったものだ。
好きな男性に嫉妬されて嬉しくない女はいないだろう。・・・まあ、彼ほど大人気ないのもどうかと思うけれど。
「私だって暖かいぞ!」
・・・こんな風に。
無駄に胸を張ってきっぱりと言い切った彼はだから何だという私の視線にもめげずに、にんまりと笑った。
「ほらっ、ギュッとしたまえ!」
はあ・・・頭が痛い。・・・彼の腕の中が暖かいなんてとっくに知っているけれども。結局今夜も私は彼に勝てずに、彼のぬくもりを確かめるのだった。


 My favorite

貴方に似合うと思って・・・。と頬を赤く染めた愛しい恋人から差し出されたプレゼントを受け取らない男はいないだろう。だが、いそいそとそのプレゼントを身に着けた私は着て3秒で後悔した。
「似合わない・・・」
リザから貰ったその服は絶望的なまでに似合っていなかった。
だが、言い訳させて貰うと似合わないのは私のせいではない。
そもそも、この服のチョイスからして少々おかしい。明らかな選択ミスなのだ。
形自体はフードがついた前をジッパーで止める、まあいわゆるパーカーというやつだ。これだけなら百歩譲って良いだろう。だがその服はクリーム色の入った茶色とでもいったらよいだろうか。そう、ちょうどミルクティーの様なかわいらしい色合いに、もふもふ、ムクムクと表現するしかない手触りの生地を使用しているのだ。
幼児か若い女性が着るなら可愛いらしいと言えるかもしれないこの服を、何故三十路前の成人男性に贈ったのか私は理解に苦しんだ。
しかし、良くこのサイズが売ってたな・・・。
改めて姿鏡に写る己の姿を確認するが、やっぱりいかんともしがたい。
「大佐・・・どうですか?」
待ちきれなくなったのかリザが寝室のドアを半分開けて覗き込んできた。
「わあ!」
私の姿を見るやいなや歓声を上げる。
「やっぱり! スゴく良いです、大佐!」
君の目は節穴か?
と思ったが、まさかそんな事言える訳もなく私はあいまいに笑った。頬が少しひきつってしまったのはいたしかたないだろう。
そんな私に気付かずリザは私に近寄ると、私を上から下までじっくり眺めて、
「思った通り・・・」
うっとりと私の背中――もふもふ服を撫でる。
「この手触り・・・やっぱりゴン太さんにそっくり・・・」
「ゴン太さん?」
「はい。熊のゴン太さんです。子供の頃持っていたぬいぐるみなんですけど、いつの間にかいなくなってしまって。大好きだったんです・・・」
なるほど。私はゴン太さんの代わりという訳か。いささか遺憾ではあるが。
「ゴン太さん・・・」
背中にギュッと抱き付くリザの感触を感じたところで全てがどうでも良くなってしまった。
この破壊的に似合わない服も、リザに抱き締めて貰えるなら毎晩でも着てやろうじゃあないか・・・と私は密かに決心したのだった。


 酔っ払いアイロニー

「中尉おいでーー!」
がばっと腕を広げて彼は満面の笑みを浮かべた。
・・・私にどうしろと?
「ほらっちゅーい、早く!」
まるで幼子を叱る様に彼は私を促した。
ベロンベロンに酔っ払った彼には妙な癖がある。そう、抱き付き癖ならぬ抱き締め癖だ。しかもそれは私限定で発揮されるらしく、他の人にやっているのは見た事はない。
いつもなら、飲み過ぎない様にちゃんと注意しているのに、今日は油断したのだ。気付けば酒は彼の許容量をはるかに越えてしまっていた。
「ちゅーいー?何してるんだー?ほら~恥ずかしくないからっ」
さっきから同じポーズで私を待っている大佐。いい加減疲れてきたらしい。腕がプルプルと震えている。でも顔は満面の笑み。
・・・その顔止めて下さい。気持ち悪い。
「ちゅーいー」
・・・仕方ない。こうなっては、もう、彼は私が腕の中に収まるまで引き下がらない。酔っ払いには逆らえないのだ。
ぽふんと彼の胸に身体をあずけると、酒の匂いと共に彼自身の香りが鼻孔をくすぐった。
・・・とても安心する。
彼は広げていた腕を閉じてぎゅと私を抱き締めると、満足げに笑った。
「よーしよし」
もしかして。時々彼に深酒を赦してしまうのはこうやって抱き締められるのが嫌いじゃないからもしれない――私は彼の腕の中で、こんな風にしか近付けない臆病な自分を笑った。




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by netzeth | 2010-10-22 21:01 | Comments(0)