うめ屋


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ハロウィン・ナイト

「トリック・オア・トリート?」
それが彼のドアを開けての第一声だった。
最初こそ面食らった私だが、すぐに冷静になると深々とため息をついた。
「大佐……またそれですか」
「またとは何だね。大事な恒例行事だろう」
上司兼恋人の彼が心外だと口を尖らせる。
このイベント事に目がない男は、毎年必ずハロウィンには私の元を訪ねて来るのだ――決まり文句とお土産を持って。
「見たまえ! 今年の衣装だ。よく出来てるだろ?」
彼は無駄に誇らしげに手に持っていた紙袋の中身を取り出すと、そのありがたくもないお土産を広げてみせた。
濃紺のパフスリーブのワンピースに裾にフリルをあしらったエプロン、腰の部分でリボン結びになっている――いわゆるエプロンドレスというやつだ。
どこをどうみても、立派なメイド服である。
一般的なロングスカートのメイド服ではなく、カフェのウェイトレスが着る様なミニスカートタイプなのは絶対に彼の趣味だ。ご丁寧に白いニーハイソックスまで付いているのを発見した私はくらりと眩暈がした。やはりこれはもしかして、もしかしなくても……、
「今年はメイドにしてみた。君に似合うと思うんだ」
やっぱり私が着る事、前提なんですね……。
一昨年はミニスカ魔女で、去年はバニーガールだった……ハロウィンにかこつけて己の趣味嗜好を満足させているようにしか思えないこの彼の衣装チョイスに、私は頭が痛くなる。
「そうかっ、気に入ったか!」
一方大佐は何を勘違いしたのか私がこの衣装に感激していると思い込みご機嫌だ。
どこをどう見ればそんな風に思えるというのか、私の渋面など気にも留めずに、彼は嬉々とした様子である。
「ほら、これ。タダのメイドじゃつまらないと思って。用意してみたんだ」
更に彼が袋から取り出した物を見て、私は今度こそ本当に卒倒してしまいたい気分になった。
黒いモフモフとした三角形の物体が付いたカチューシャ……。
「ネコ耳付きメイドだ! 可愛いだろ?」
――自分の人生をかけている人がこんなにもアホだとは認めたくない。
「いい加減にして下さい! メイドだのネコ耳だのっ。第一、仮装をしてお菓子を貰うのは子供のする事です。いい大人の私達がする事ではありません。私は着ませんからね!」
私の剣幕にいささかたじろいだ彼だったが、すぐに体勢を立て直すと得意の口八丁で反撃に出てくる。
「そうは言うがな、リザ? では君は子供の時仮装してお菓子を貰い歩いた事があったかい? ないだろう? 少なくとも私の記憶では君がそんな事をしているのを見た事はない。……私はね、リザ。子供時分に十分に子供らしい事を出来なかった君に、たまのイベントの時くらいは子供に帰って楽しんで欲しいと思うんだよ。……でも君には余計なお世話だったかな?」
少し寂しげに笑う彼。
――そこでそんな顔をするのは卑怯だ。
私は彼のこの表情に弱い。
しかも子供の頃の話まで持ち出してくるなんて。
彼は私の寂しかった子供時代を慮って、事ある毎に私を甘やかそうとする。そんな彼の思いやりを私は無下にする事なんて出来ないのだ。
そして、それを分かってやっているんだから、彼も質が悪い。
「分かりました……ちゃんと着ますから」
多少ほだされた気もしないでもないが、私が観念すると、彼は満足した様に笑った。
「ところで、さっきの返事だが。何も出ないところを見ると悪戯で良いという事かな?」
「勝手に解釈しないで下さい。ちゃんとお菓子ありますから」
パンプキンパイにパンプキンプディング。食卓に並んだカボチャ料理を見て、彼は嬉しそうだった。
――料理を作って彼を待っているあたり、なんだかんだ言って私も結構ハロウィンを楽しんでいるのかもしれない。
でも、やられっぱなしというのも腹が立つ。毎年毎年私ばかり衣装を着て恥ずかしい思いをするのは悔しいではないか。
何か彼にも意趣返ししてやりたい。少し考えて――私はある事を思いつくと、黒いペンを手に取った。
「ところで大佐? トリック・オア・トリート?」
まさか私がこんな事を言うとは思っていなかったのだろう。私の思わぬ反撃に彼は目を白黒させる。私はくすりと笑うと、
「お菓子はないのですね? では悪戯しますよ?」
黒ペンを手に取りきゅぽんと音を立てて、フタを外す。
そして、彼の頬に手を当てた。
「な、何をするつもりだね?」
「ジッとしていて下さい」
慎重にペン先を走らせる。両頬に黒い線を三本ずつ。
うん、上手く描けた。
「これは、大佐の方がお似合いですよ」
そうして、彼の頭に例のネコ耳カチューシャを装着すると、あっという間に大きな黒猫の出来上がり。
手鏡を持ってきて、彼の方へと向けると、彼はう~んと低い唸り声をあげた。
「可愛いですよ、大佐」
「……三十路前の男が可愛くてどうするんだ……」
「良いじゃありませんか。……可愛がりたいくらいですよ」
「……本当か?」
「ええ」
「じゃあ可愛がってくれ」
そう言って、ガバリとこの大きな猫は抱き付いてきた。
まったく。今夜はどうやら猫とメイドという訳の分からない二人で夜を明かす事になりそうだ。
いい大人が、しかも大佐と中尉というそれなりに地位にある軍人が、一体何をやっているのだろう。
けれども、年に一度くらいそんな夜があっても良いかもしれない。自らが安らげる日を自分に許しても。
私は私の胸に顔を埋めている彼を見下ろす。少しの呆れとそれ以上の愛しさが胸に沸き上がってくる。
小さく微笑んで、そして私は黒猫耳付きの黒頭を優しく撫でてやるのだった。




END
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うちのマスタングはリザたんをコスプレさせたい癖があるらしい。ただマスタングを猫にしてやりたかっただけの話。ハロウィンかんけーなしwwちなみに鋼の世界にはハロウィンは無いだろうという突っ込みはナシの方向で。
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by netzeth | 2010-10-27 23:19 | Comments(0)