うめ屋


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by netzeth
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 乙女の恥じらい

キスをしようと顔を近付けた私は、
「ちょっ・・・嫌っ!」
しかし思わぬ抵抗にあい、思いっきり顔を背けられてしまった。
可愛い恋人と過ごす久しぶりの夜だというのに、これは酷い。
恨みがましい視線を彼女に送ると、
「もうっ、そんな目をしないで下さい!」
それでもやっぱり顔を背けたままの彼女。
なんか変だ。
私は両手で彼女の顔を包むと、グイと無理矢理自分の方を向かせてその顔を覗きこんだ。
「やっ・・・!」
別にいつも通りの彼女だ。キュートな茶色い大きな瞳もチャーミングな形の良い鼻もラブリーなピンクの唇も、滑らかな白い肌も・・・ん?
「や・・・見ないで下さい!」
彼女の口許にポツンと小さな赤い点があった。
「これは・・・」
「ニキビ、です」
彼女は観念した様に肩を落とすと、だから見られたくなかったのに・・・とモゴモゴと呟いた。
「さっき気付いたんですけど・・・いつの間にか出来てしまって」
私に見られたくなかったのはどうやら乙女のはじらいというやつらしい。
ニキビなんて私は気にしないが、そのはじらいを私に対して持ってくれたのは嬉しかった。異性として意識してくれているという事だから。
だがしかし、ニキビが出来てしまった責任は私にも少しはあるだろう。何しろ最近ずっと忙しくて、彼女をろくに家にも帰してやれなかった。徹夜続きで、仮眠は軍の仮眠室。事件が頻発し、落ち着いて食事もとっていられない状況だったのだ。寝不足に不規則な生活とくれば肌も荒れるし、ニキビの一つや二つ出来ても仕方ないだろう。
よし、ここは私が一つ責任をとろうじゃないか。
「リザ、大丈夫だ。私に任せたまえ」
私はにんまりと笑うと、そう言って胸を叩いた。
「た、大佐に任せるって・・・一体どうするつもりなんですか・・・?」
私の笑みに少なからず不安を感じたようで、彼女は後ずさった。
いい勘をしているな、リザ。
私は笑ったまま彼女にズイッと迫ると、
「・・・すると肌の調子は良くなるらしいぞ?」
「・・・するって何を?」
「ナニを」
「・・・!!」
逃げようとした彼女を私は抱き寄せるとその耳元に囁いたのだった。
「今夜は頑張るよ・・・君のために」

 
 彼女はミステリーがお好き

秋の夜長に男女2人がベッドの上でする事なんて一つだ。
だのに、2人並んでベッドに入ってさあこれからという時に、私の愛しい恋人は私そっちのけで読書に夢中になっている。
最近巷で人気のミステリー小説。
彼女にどうかと買って来たのは私だ。彼女が喜んでくれれば・・・と思ったのは事実だが、計算違いは彼女がその小説にハマり過ぎた事だった。
「なあ、リザ。お~い、リザ? リザちゃーん!」
「何ですか」
本から目を離さずに彼女は答えてよこす。
「・・・そろそろ私の相手もして欲しいんだが」
「待って下さい。今、良い所なんです。エドガーがこれから名推理で犯人を探すんですから」
彼女が読んでいるのは『エドガー・コイル少年の冒険』という少年錬金術師探偵が活躍する推理小説である。
エドガー・コイル少年は身体はミニマムだが、頭脳はビッグで、助手のアルトソンと一緒に事件を解決する旅をしている。決め台詞は「ばっちゃんの名にかけて!」で(祖母が有名な探偵という設定らしい)チビと言われるとキレるという、牛乳嫌い。・・・どこの豆だ、それは。
「密室殺人の謎がいよいよ解けるんですよっ」
――錬金術が存在するこの世界に密室も何もないと思うが。
相変わらず彼女は一心不乱に本を読んでいる。
「リザー?なあ・・・リザ。しよう? 本なんて明日で良いだろ? なあ・・リザ・・」
私は彼女肩に手を回すと耳元で囁く様に息を吹き掛けた。
「・・・っ! 大佐っ!」
バッとスゴい勢いで耳に手をやる彼女。顔は真っ赤だ。
あ、その顔可愛い。
「邪魔しないで下さい! 私は早く犯人が知りたいんです!!」
肩に置いた私の手を邪険に払いのけて、彼女はプイと背中を向ける。そして再び読書。
私より、エドガーか。・・・頭にきた。
私は彼女から本を取り上げると、ポイッと手の届かない場所まで放り投げた。
「何する・・・んぅ!」
抗議の声をあげる彼女の唇を己のそれで塞ぐ。
「んーっんーー!」
ジタバタと暴れる彼女を易々と押さえて、私は思う存分堪能する。やがて諦めたのか大人しくなった彼女の様子を見て、私はようやく彼女を解放した。
「・・・なあ、リザ。しよう?」
「・・・私は、続きが読みたい・・んです、犯人・・知りたい・・んです・・」
薔薇色に頬を染めながらも、息も切れ切れに私を睨みつける。
――まだ言うか。
私はスウッと息を吸い込むと、
「・・・犯人は屋敷の執事だ。殺されたと思いきや死んだのは実は双子の弟で2人は復讐のために屋敷に潜りこんだんだ」
一息に言ってやった。
「!!・・・なっ!」
「どうだ? 満足したか?」
「信じられない・・・! ミステリー小説の犯人を言うなんてっ」
「君が知りたいって言ったんだろう?」
「私は読んで知りたかったんであって、教えて欲しいとは一言も言ってませ・・・!」
なおも言い募ろうとする彼女を制して、私は彼女を組み敷いた。
「さて? 犯人も分かって事件も解決した事だし? そろそろ私を構ってもらおうかな、リザ」
秋の夜は長い。
私達の夜は始まったばかりだった。 


 

朝の目覚めは様々だ。
すっきりと起きられる時もあれば、ベッドから出たくないなと名残惜しく思う時もある。嫌な夢を見て早く目が覚める日もあれば、時間ギリギリまで熟睡する日もある。
幸い寝坊は1度もない。
これらの朝にただ一つ共通しているのは、これがひとり寝の朝だという事――。
そう、彼と一緒の朝はいつも彼に起こされるから。そういう朝の自分は決まって、寝ぼすけで、いつも彼をてこずらせているらしい。
記憶にないけれど。
そう言うと彼は笑う。
「そのままでいいよ。朝の君はとても可愛いから」
普段の私は可愛くないと言われているようで何だか不本意だった。
朝の私も私のはずなのに、彼に可愛いと言って貰える彼女が羨ましい。自分に嫉妬するなんて滑稽だけど、それもこれも全部彼が悪いのだから仕方ない。
朝起きられないのは、彼が遅くまで離してくれないから、ひとりの日はちゃんと起きられるのだから。
結局彼がいると甘えてしまう。安心しきってしまうのだ――うん、やっぱり彼が全部悪い。
そう結論付けると私はえいっと勢いをつけてベッドから起き上がった。
朝の空気はヒンヤリと冷たく、冷気がパジャマの隙間からも忍び込んできて、私は身体を震わせる。
シンと静まり返った室内はカーテンを引いてあるせいか薄暗く、どこか寒々しい色合いをしていた。
――こんな風にひとりの朝を寂しく感じるのも彼のせいなのだ・・・目覚めるといつも微笑んでキスをくれる彼の。
私は沈んだ気持ちをふり払うようにうんと伸びをすると、今日の予定を頭に思い浮かべる。
そしてどうすれば明日の朝、彼の笑顔を独り占め出来るのか思案するのだった。




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by netzeth | 2010-11-18 21:09 | Comments(0)