うめ屋


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by netzeth
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記念日

夕刻、リビングのソファーで寛いでいると、キッチンから良い匂いが漂ってきて、ロイは思わず鼻をひくつかせた。
引き寄せられる様にキッチンを覗くと、弾む様な明るいリズムの鼻歌が聞こえる。
テーブルの上には、綺麗に盛り付けられた、野菜やポテトサラダ、切り分けられたローストビーフ、値が張りそうだと一目で分かる南部産の赤ワインに揃いのワイングラスなどが並べられている。
常にない豪勢なディナーにロイは首を傾げた。
「・・・今日は何かあったか?」
鼻歌まじりに大きなスープ鍋をかき混ぜていたリザが振り返り、笑顔を見せた。
「いいえ?」
「そうか? 何にもないにしては豪勢だな。・・・何かの記念日とか?」
コンロの火を止めると、リザはスープ皿を二枚用意する。そそがれたのは黄金色のコンソメスープだ。良い匂いの元はこれらしい。
「初めて手を握った日でもないし、キスした日も違うだろ・・・あっ、初めてした日? ・・・は違うか、てっ」
無駄に正確な記憶力でろくでもない事を並べ立て始めたロイの頭をリザはペしと軽く叩く。
「違います。くだらない事言ってないで、夕食にしましょう。スープが冷めてしまいますよ」
リザが促すとロイはまだ納得のいかない顔をしていたが、素直に席に着くとワインの栓を抜き始めた。それでもしきりに首をひねるロイを見て、リザは心の中でそっと呟く。
(覚えてないのも無理もないわね・・・)

十数年前の今日。
リザは朝からパタパタと家中を走り回っていた。
「ベッドの支度は大丈夫。タオルも用意したし・・・歯ブラシもOK。後は・・・あっ、髭剃りっているのかな?」
目につく部分の掃除は終えたし、部屋の準備も何とか整った。後は彼がやって来たら昼食の用意をし始めればいい。
確か食材は揃っていたはず。もう一度確認しようとキッチンへ向う途中、ドアベルが鳴った。
来た!
心臓の鼓動が跳ね上がる。
父が初めて取ったお弟子さん。自分より年上の男の子だと聞いたけど、一体どんな人なのだろう。これから一緒に生活をするのだもの、良い人だといい。とリザは思う。
何しろ、リザはどちらかというと人見知りで引っ込み事案の子供だ。同年代の子達にも友達は少ない。ましてや年上の男性となんてまともに口を聞けるだろうか。という不安もある。
ドキドキしながらもリザは玄関に向かった。
「はい・・・」
緊張しながらもドアを開けると、扉の向こうには同じく緊張した面持ちの男の子が立っていた。
「あ、あの! お、いや、僕・・いえ、私はロイ・マスタングといいます! ホ、ホークアイ先生でしょうか?」
「え・・・?」
何と自分がホークアイ先生だと勘違いされているらしいと悟って、リザは戸惑った。
明らかに年下の少女に向っての勘違いであるから、どうやら彼はよほど緊張しているらしい。
(どうしよう・・・)
何と答えればいいのか、リザは迷った。
違いますとはっきり言うのが正しい気がするけれど、恥をかかせてしまうのは可哀相だ。
「あの・・・」
「よく来た」
リザが口を開いたのと同時に後ろから割って入った声があった。
振り返ると父が立っていた。
いつも無表情の父だが、今日は心なしか笑みを浮かべている様に見えた。父は父なりにこの初めての弟子を心待ちにしているのかもしれない。
「ホ、ホークアイ先生ですか?」
「そうだ」
「はじめまして! ロイ・マスタングです。今日からよろしくお願いします!」
ようやく緊張の糸が切れたのか、少年は勢いよく頭を下げた。
それに父は無言で頷くと、
「こっちだ」
さっさと彼を連れて行こうとする。
「あ、あの・・・」
リザは自分も何か言わなくてはと思ったが、咄嗟に何を言って良いか分からず、口ごもっている間に2人は2階の父の自室へと姿を消してしまった。

こうして、父の弟子ロイ・マスタングとの初対面は実にあっけなく終わってしまった。
結局あの後、父とロイは部屋に籠りっきりになってしまい、リザは食事を部屋に運んだのみでロイと顔を合わせる事も口をきくもなかった。
リザがようやく父からロイに紹介されたのは、次の日になってからである。
今から思えば、あの時の父は柄にも無く少々浮かれていたのかもしれない。弟子が来て早々、食事も忘れて錬金術の講義をしてしまう程に。
ロイにとってあの日は、ホークアイに弟子入りした日――錬金術師としての第一歩を踏み出した日として心に刻まれているのだろう。
だが、リザにとっては紛れもなくロイと出会った日なのだ。
運命と言ってしまうのは大袈裟かもしれないが、リザにとって特別な日である事に変わりはない。
毎年、ささやかながら何らかの形で祝っていたこの記念日。今年はその出会った当の本人であるロイと過ごせるのだと思うと感慨深いものがあった。―――例えロイ自身が覚えていなくても。それでも、こうやって次の年も、またその次の年も、彼と一緒に祝えたらいい。

「リザ?準備出来たぞ」
ロイの呼ぶ声に、過去へと思いをはせていたリザは我にかえった。
いつの間にかグラスには赤い艶やかな色合いのワインがそそがれている。
「え、ええ・・・。すいません。では・・・乾杯しましょうか」
「それなんだが・・・何に乾杯するんだね? ・・・やっぱり今日は何かの記念日何だろう?」
「さあ、どうでしょう?」
いまだ疑問に思っている風のロイにリザは微笑んで、グラスを持つ。仕方なくロイもグラスを掲げて。
『乾杯』
(貴方と出会った日に)
そしてリザは一人心の中で呟くのだった。




END
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サイト一周年記念SSでした。一応記念日つながりということで・・・。


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        八神アキ様から頂きました!ありがとうございます☆
        うふふ~素敵なリザたんと可愛いブラハです!
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by netzeth | 2010-11-29 00:10 | Comments(0)