うめ屋


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by netzeth
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プレゼント

12月に入り年も押し迫って来ると、東方司令部は嵐のような忙しさになる。軍部にも年末進行というものが存在するのだ。あちこちの部署からやれ早くしろと書類の催促は来るし、現場は現場で細かい軽犯罪などが増加し、取り締まる方も一苦労なのである。
そんな忙しい最中、軍人にクリスマス休暇という文字は存在しないと言って良いだろう。理解のある恋人や家族を持った者は良いがそうではない――例えばハボック少尉などはクリスマスは仕事・・・と恋人に切り出して、平手打ちを食らったりするのだ。
東方司令部の司令官であり、現場の実質的な責任者であるロイ・マスタング大佐も例外ではなかった。
せっかくのイヴを自身の執務室にて、書類の処理に追われている。
もっとも彼の場合、仕事に理解のある――むしろありすぎる恋人が存在するのであるが。

「大佐、追加の書類です」
積み上がっていく机の上の書類タワーを見上げて、ロイは内心ため息をついた。
今日はクリスマス・イヴだと言うのに、恋人と甘い夜――ではなく、書類とにらめっことは。分かっていた事だったが、今年こそはと意気込んでいた分、残念に思う気持ちが強い。
何しろ彼女と恋人関係になってから迎える初めてのクリスマスなのだ。これを期待するなという方が無理だ。
本来ならイヴは高級ホテルのレストランでディナーでもし、シャンパンで乾杯。良い雰囲気になった所でそのままとっておいたスイートルームへなだれ込むといった王道デートコースで過ごす予定だったのに。
しかしこの忙しい中、休暇など取れるはずもなく、ましてや己の恋人兼副官であるリザ・ホークアイがそんな事承諾するはずもなく、イヴ当日、ロイはひたすら書類と格闘しているのであった。
せめてプレゼントだけでもと用意したのは良いが、こう仕事が立て込んでいては渡すタイミングさえ無く、気がつけば日を跨ごうかという時間になってしまっていた。

「ふう、もうこんな時間か」
時計を見やって軽く伸びをしたロイに、リザはくすりと笑うと同意した。
「そうですね・・・少し休憩をなさいますか?」
「ああ、今日は朝からずっと働き詰めだったからな。そろそろ休憩をとってもバチは当たらんだろう・・・君に渡したい物もあるし」
「私に・・・ですか?」
不思議そうに首を傾げるリザは、本当に何の事か分かってないようだった。
嫌な予感をロイは覚える。
まさかとは思うが・・・本当に分かってないのだろうか。
「あー中尉? 今日が何の日か知ってるよな?」
「今日ですか? ・・・何かありました? 先日の事件の報告書の提出の締切り日はまだ先ですし・・・、あっ、北との合同演習の参加者リスト作成の締切りでしたね」
「違う!」
やっぱりか・・・。
ロイは内心頭を抱えた。
こういうイベント事に疎いというか無関心なリザの事だ、クリスマスという行事も念頭に無いかもしれないと思っていたが、案の定である。
と、いう事は・・・。
「・・・今日はクリスマス・イヴだ」
「えっ」
「私から君に渡したい物というのは、もちろんクリスマスプレゼントだ」
ロイの一言に、リザのポーカーフェイスがみるみる焦りを帯びた顔に変わる。
やっぱり・・・忘れてたんだな、プレゼント・・・。
プレゼントがないからといって怒るほど子供では無いが、やはり残念に思う気持ちがある事は否めない。
可愛い恋人から貰えるプレゼントを、期待しない方がおかしいというものだ。
すると青ざめた顔していたリザだったが、何を思ったのか急に机の上で何かごそごそとやり始めた。
「中尉・・・?」
「少々お待ち下さい!」
・・・何を待つのか良く分からないまま、様子を見ていると、しばらくして。
「お待たせしました!」
リザは立ち上がると何かを差し出した。
その手には細長い紙切れの様な物が握られている。
「何だね、これは?」
「クリスマスプレゼントです!」
ロイはクリスマスプレゼントだという紙切れを受け取ると、じっくり観察してみた。
いかにも急いで書きましたといわんばかりの文字でこう書かれている。
――アイロン券(注意!1枚につき1回)
「・・・何だね、これは?」
もう一度聞いた。
「ですから、クリスマスプレゼントです。なんとアイロンをかけて貰える券ですよ! 大佐、時々ヨレヨレのシャツを着ているではないですか。ずっと気になっていたんです」
リザは何故か誇らしげな表情で言う。
「・・・これが君の・・・クリスマスプレゼントなのか?」
「ご不満ですか? ・・・10枚セットですよ?」
回数の問題ではない。
「こんな・・・君、肩たたき券みたいな・・・」
「あ、やっぱりオーソドックスに肩たたき券が良かったですか? 大佐ももうお歳ですもんね」
「だれが歳だ! 違う! そうじゃなくて・・・いい! 肩たき券に書き直すな!」
アイロン券をご丁寧に二重線を引き、肩たたき券に訂正しようとするリザをロイは必死に止めた。
リザに悪気はないのは分かっているし、プレゼントを用意してくれようとする心遣いは素直に嬉しいが、リザの多少どころかだいぶずれているプレゼントセンスに頭が痛くなる思いだ。
ドッと精神的に疲れた気がするが、ロイは気を取り直すと机の引き出しから用意していた物を取り出した。
白いブランドロゴをあしらった包装紙に、赤に金色で縁取りされたリボンのかけられた長方形の小箱。
「中尉。私からのプレゼントだ」
開けてみろと促すと、リザは頷いてリボンを解き、丁寧に包装を剥した。すると、ベルベット地の箱が姿を現す。
中から出てきたのは。
「・・・あ」
深いえんじ色をした万年筆だった。
リザはそっと手に取ると右手で握ってみる。
「これ・・・」
「そうだ、私の物とお揃いだよ」
以前、ロイは何かの折りにリザに万年筆を貸した事があった。その時にその万年筆がとても書きやすいとリザが言っていたのを、ロイは覚えていたのだ。
クリスマスプレゼントを選ぶ時最初はアクセサリーにしようかとも思ったが、リザにはこういった実用的な物が良いのではないかと選んだ物だったのだが。
(選んで正解だったようだな・・・)
嬉しそうに万年筆を握って具合を確かめているリザを見て、ロイは満足げに頷いた。
だが、しばらくロイのプレゼントを喜んでいたリザが、突然その笑顔が曇らせたのでロイは慌てた。
「どうした? 気に入らなかったか?」
「いいえっ、そんな事はありません。とても嬉しいです・・・ありがとうございました。・・・そうではなくて・・・こんなに素敵なプレゼントを頂いたのに、私は何も用意していなくて・・・」
「何だ、その事か。気にするな。ほら、アイロン券があるだろう。ありがたく使わせて貰うよ」
紙切れをひらひらと揺らして見せるが、リザの表情は曇ったままだ。
「いえ、やっぱり何か頂いた物に見合う物を・・・」
「・・・気をつかう事ないんだがな。そうだ、君がそんなに言うなら・・・」
ロイは万年筆を包んでいたリボンを手に取ると、リザの手首にくるりと巻き付けて結ぶ。
「リボンをかけて君自身を・・・というのはどうだ?」
リザの手を取ってロイはニヤリと笑うと、途端リザは呆れた顔をする。
「大佐・・・どこのオヤジの発想ですか・・・」
「む、さっきから歳だのオヤジだの失礼だな、君は!」
「事実を述べたまでですよ。第一、それは不可能です」
「・・・なんだ。嫌だという訳か」
少し拗ねた表情を見せるロイにリザは首を振って、
「良いですか、プレゼントというものは相手に喜んで貰うために渡すものです」
「そうだな」
「ですから、大抵は相手の欲しい物、つまり持ってないものをプレゼントします」
「まあ、そうだな」
「ですから、不可能なんです」
「・・・何が言いたいんだ?」
「だって私はもう貴方のモノですから」
だから、貴方にプレゼントなんて出来ないんです。
まるで当然の事を言う様に、サラリと真顔で言うリザに、ロイはもう降参するしかなかった。
・・・まったく、彼女には参る。この言葉があればプレゼントなんていらないな・・・。
それでもまだプレゼントで悩む様子のリザに、結局リザさえそばにいれば良いロイは、ではアイロン券を一生分にでもして貰おうかなと考えるのだった。




END
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鋼の世界にクリスマスはないだろう・・・という突っ込みはナシの方向で。
ネタ提供はアキ様。多謝!
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by netzeth | 2010-12-23 21:02 | Comments(0)