うめ屋


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by netzeth
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新たな年の始まりを。

鐘が鳴っている。
カランコロンと打ち鳴らされる鐘の音はイーストシティの夜に響き渡り、冷たく澄んだ静謐な空気を新年を控えた一種独特の浮かれた雰囲気へと変貌させていた。
昔から大晦日の夜に鳴り響くこの鐘のいわれをロイは知らない。東の島国では108回鐘を鳴らすと聞いた事はあるが。108とは何でも人間の煩悩の数らしい。
その島国の風習に倣っているのかは定かではないが、毎年恒例のこの鐘の音がいつの間にか止んでいた。
そうか・・・もう、こんな時間か。
時計は新しい年まで既に10分をきっていた。鐘の音が途絶えた途端今度はドッと盛り上がる人々の声がかすかに聞こえてくる。
何を言っているのかは聞き取れないが、歓声である事は分かる。
そういえば、軍部ではささやかながら新年のパーティが企画されていた。非番の者や手が空いている者が集まっているのだろう。
きっちりと勤務中の者の飲酒は禁じておいたが、あの盛り上がり様では守っているのかは分からない。まあ一年に一度くらいこんな日があっても許されるだろう・・・そうロイが結論付けたところでノックの音がした。
「失礼します」
顔を見せた己の副官にロイ少なからず驚く。部下達はてっきりパーティに参加しているのだろうと思っていたのだが。
「君は行かないのか」
「勤務中ですから」
「別に急ぎの書類がある訳でもなし、構わないんだぞ」
「騒がしいのは苦手ですので。大佐こそ行かれなくてよろしいのですか」
「後で顔だけは出すが・・・今はここでいい」
「そうですか」
そのまま2人無言で己の席に座り仕事に集中する。
静まり返った執務室には書類を手繰る音と、かすかに聞こえるパーティの喧騒のみが響いていた。
静かな年の終わり。そして、始まりだ。
書類をめくる手を休めて顔を上げると、ロイはポツリと言った。
「大晦日に仕事もいいもんだな」
「何故です?」
「君と居られる」
その瞬間一際大きな歓声が聞こえたと同時に執務室の壁掛け時計の短針と長針が綺麗に揃って上を向いた。
・・・年が明けたのだ。
「ご冗談を・・・」
「冗談ではないよ」
ロイは立ち上がるとゆっくりリザへと近付いていく。
「・・・こうして年が明ける瞬間に君と居られるなら、仕事も良いものだ」
リザの元へとたどり着くと、そっとリザの手を取って、
「・・・今年も苦労をかけるだろうが、よろしく頼む」
俯くリザの表情は見えなかったが、握った手が震えたのは分かった。
「私も・・・」
「え?」
「私もそう思います・・・」
ゆっくりと顔を上げたリザはロイを見上げると微笑んだ。その頬は少し紅い。
「新年おめでとうございます、大佐。こちらこそよろしくお願いします」
「・・・おめでとう中尉」
来年もまたこうして、彼女と年を越したいものだ――。その次もその次の次も。
2人一緒ならばどんな事も乗り越えて行けるに違いないから。
唯一無二の女性の手を握り締め、その体温を感じながらロイは新たに始まる年に思いを馳せるのだった。



END
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by netzeth | 2010-12-31 20:26 | Comments(0)