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by netzeth
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夫婦喧嘩は犬も食わない

「貴方の考え方にはもうついていけませんっ」
「君がそんな人だとは思わなかったよっ」

朝っぱらから響き渡った直属の上司2人の怒鳴り声に、ハボックは思わず咥えていた煙草を床に落としてしまった。傍らではフュリー曹長がオロオロと上官達を見守っている。
周りを見渡せば既に周囲に人気は無く、マスタング組と呼ばれる彼ら2人以外の軍人達は触らぬ神に祟りなし、とばかりにさっさと避難してしまっていた。
マスタング大佐がホークアイ中尉に怒られるのはいつもの事だが、その場合大抵原因はロイにあり、リザにお説教される――というのがいつものパターンである。
それでも常にロイを立てる事を忘れないリザは、こんな人目のある場所でロイを叱る様な事は決してしなかった。
そして、当のロイもリザに対して言い返すなんて事はするはずもなく・・・これはいつものサボり癖のある困った上司を叱るしっかり者の副官――といった状況ではないとハボックは判断していた。
だとすれば・・・これは仕事上の問題ではなく、2人のプライベートでの関係に関する事だとしか考えられない。
そう、東方司令部ではハボックを始め、直属の部下達といったごく僅かな者達にしか知られていない事だが・・・ロイ・マスタング大佐とリザ・ホークアイ中尉は恋人同士なのだ。それもまだ付き合い始めたばっかりの。
相変わらず2人は言い合いを続けている。
仕事中はプライベートを絶対に持ち込まない2人であったから(周囲には時々だだ漏れだったが)、こんな風に司令部で人目もはばからず言い争いをするなど、よっぽどの事があったに違いない。
とにかくハボックは2人を止めに入った。
「大佐も中尉も、ちょっと落ち着いて下さいよ」
「これが落ち着いていられるか!」
「そうよ! 貴方は黙っていて!」
「俺もそうしたいのは山々なんスけどね・・・喧嘩するのは構いませんが、時と場所を考えて下さいよ」
そのままハボックはロイの腕を掴むとグイグイと引っ張った。喧嘩を仲裁するには相手と引き離すのに限る。抵抗するロイを無理矢理部屋の隅っこまで引っ張っていくと、ハボックは小声でロイに話しかけた。
「で? 原因は何なんですか」
「何がだ」
「何って・・・喧嘩の原因スよっ」
「・・・なんでそんな事お前に話さなければならないんだ。関係ないだろう」
「何言ってんスか。アレだけ派手に喧嘩しておいて、関係ないもないでしょーが。大佐と中尉の仲がおかしくなると困るのは俺らなんスからね。・・・さあ話して下さい」
ハボックが詰め寄るとロイはしぶしぶといった様子で話始めた。
ロイの話によると昨日、ロイの家にリザが初めてお泊まりに来たらしい。
「・・・昨夜の中尉は可愛くてな。大佐、もっと・・って・・・」
「・・・大佐。そこはスルーでお願いします」
只でさえ女日照りだというのに、何が悲しくて上司のイチャイチャ話を聞かねばならんのだ。
「ゴホンっ。まあ、良い。と、とにかく、今朝の朝食の時の事だ」
「はあ・・・朝食っすか」
「そうだ。カリカリベーコンに目玉焼き、サラダに焼きたてのパン。全部中尉の手作りだ。どうだ、羨ましいだろう」
ロイは喧嘩中ながらもしっかり惚気るのは忘れない。
「あーはいはい、そうですね。で、そんなにラブラブだったっていうのに喧嘩の原因は一体なんなんすか」
ロイは一瞬沈黙すると、深刻な顔をする。ハボックもつられてゴクリと息をのんでしまった。
――一体何が二人の固い絆にヒビを入れたのか・・・。
「実はな・・・」
ロイはおもむろに口を開く。
「・・・目玉焼きの黄身が固焼きだったんだ・・・」
「は?」
何だって? この人は今何を言った?
「・・・すんません、なんかよく聞こえなかったんすけど」
「だからっ、黄身がトロトロの半熟じゃなく、固焼きだったんだ!」
「大佐・・・まさか喧嘩の原因は目玉焼きの黄身が半熟か固焼きか――なんてくだらない事じゃあないっすよね・・・?」
「くだらないとはなんだ! 重要な事だろうが!」
・・・ああ、やっぱり空耳じゃなかった。
ハボックは心の底から残念に思ったと同時に果てしない疲労感に襲われた。
人がこんなにも心配したというのに、目玉焼きの焼き加減・・・。
「どっちだって良いじゃないスか・・・」
脱力したハボックは心底どうでも良さげに呟いた。
「何を言っている! 目玉焼きは半熟に限る!それ以外は認めん!」
「何ですって!? あんなものただの生焼けじゃないですかっ。それしか認めない? 貴方がそんな心の狭い人間だとは思いませんでした!」
だんっと机を拳で叩いて力説するロイの声を聞き咎めたのか、ズンズンと近寄って来たリザがまたもロイに食ってかかる。
「何を言ってる! 君はあのトロリ半熟の魅力が分からないのか?」
「男なら男らしく、固焼きでしょう! 半熟なんて軟弱な焼き方、絶対に認められません」
「何だと!? 君だって心の狭い人間じゃないか!」
果てしなく続く言い合い。
「ハボック少尉どうしましょう」
「・・・もう、ほっとけ」
疲れた様に肩を落としたハボックは、とりあえず新しい煙草を取り出して口に咥えた。
「昔から言うじゃねえか、夫婦喧嘩は犬も食わないってな」
「あの2人夫婦じゃありませんけど・・・」




END
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by netzeth | 2011-01-28 21:06 | Comments(0)