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バレンタイン大作戦

「皆を呼び出したのは他でもない。来る2月14日に向けて、我々は決意を新たにし、団結を謀り、傾向と対策を練る必要があるのだ・・・何か質問は?」
そう宣った我らが上官殿はグルリと一同を見回した。
はいと遠慮がちに手を挙げたのはフュリー曹長である。
「あの~・・・傾向と対策って具体的に言うとどんな事でしょう? 2月14日って何かありましたっけ?」
本当に何の事か分かってない風のフュリーは、心底不思議そうに首を傾げている。
「良い質問だフュリー曹長。何の事か薄々気付いている者もいるだろうが・・・ここで1度皆に周知徹底の意味でも言っておかねばならんだろう」
大佐は1人でうんうんと頷くと、両手をダンっと机についた。
「諸君!2月14日はバレンタインデーである。皆も知っての通り近年アメストリスではこの日、とあるイベントが定着している――ファルマン!」
指名されたファルマン准尉が立ち上がる。
「はい。元々は東の島国から伝わったと言われていますが・・・所謂バレンタインデーには女性が意中の男性に愛を示すためにチョコレートを渡すとされています。そもそもバレンタインとは・・・」
「よし! そこまで」
まだまだ喋り足りないという顔をするファルマンの言葉を無理矢理遮って、大佐が続ける。
「聞いての通り、バレンタインデーは近年女性が男性にチョコレートを贈るイベントとして定着した。事実、毎年この日には私も司令部内外を問わず女性達からチョコレートを貰っている」
知っている。俺らはそのチョコレートが安全かどうかの検分をやらされてるからな。毎年毎年その度に俺はこの仕事辞めようかどうか悩むくらいだ。
「だがしかし! 私がいかにモテるかは問題ではない。重要なのはチョコレートを幾つ貰えるかではなく、誰から貰えるか、だ!」
大佐はここが重要だとばかりに声を張り上げる。
「私の欲しいチョコレートは一つ! ホークアイ中尉からのチョコレートだっ! だが・・・去年も一昨年も私は中尉からチョコレートを貰えなかった・・・が、恥ずかしがり屋の中尉の事だ、きっと衆目がある場所では渡せなかったに違いない!」
「中尉が最初から大佐に渡す気はない・・っていう選択肢は考えてないんですね・・・」
「なんか言ったか? ブレダ」
「いえ、別に」
賢明な同僚が口を噤むのを横目で見ながら、俺も内心はブレダと同様だった。
大佐の無駄に前向き過ぎる自信は一体何処からくるのか。
「まあ、いい。・・・問題はまだまだある。例えばだ。普段仕事に忙殺されている我々だ・・・忙しさについうっかりとバレンタインデーを忘れてしまう可能性だってある・・・そこで忙しい中尉がうっかりバレンタインデーを忘れてしまわないように根回しをする必要があるのだ、フュリー曹長!」
「は、はい」
突然名指しされて驚いた様子のフュリーは僕ですか? と己を指差す。それに大きく頷いた大佐は、
「お前はこれからバレンタインデー迄の間、常に中尉にバレンタインについての話題を振り続けるんだ。バレンタインの特集を組んだ女性向けの雑誌なんか使うとなお良いな。いいか、これはいろんな意味で中尉から警戒されていないお前にしか出来ない仕事だ」
「は、はい!」
フュリーは大佐の期待に神妙な顔で頷いてはいるが、何気にヒドい事を言われてるぞ。
「そして、もちろん恥ずかしがり屋の中尉のために当日2人きりになるチャンスがなければならない。そのためにはそういう余裕が必要なのだ。・・・よって大きな事件が起こらないように主だったテロリストグループや過激派の摘発・逮捕を行なう。陣頭指揮は私が取る。各部隊に通達しておけ。むろん、同時にデスクワークも進めておかねばならん。溜まっている書類はもちろん、あらゆる部署からの書類を持って来い! バレンタインデーから向こう二週間先の締切りまでの書類を全て決裁する!」
「二週間も先まで!?」
大佐の並々ならぬ決意に俺達は驚嘆する。普段は当日締切りの書類ですらなかなか取り掛からない大佐が、何かと理由を付け仕事をサボりたがるあの大佐がここまでするとは・・・よっぽど中尉のチョコレートが欲しいんだな。
ちなみにこの作戦への参加について俺らの拒否権は最初からない。既に装着済みの大佐の発火布が静かに俺達を脅しているからである・・・誰が好き好んで黒焦げになりたいものか。
しかし、大佐の立てた作戦は俺達にもメリットはなくはない。バレンタインデー当日が平穏な一日ならば、俺達だってチョコレートが貰える可能性が上がるかもしれない。
「なお、作戦名はVとする! これはバレンタインのVであり、勝利のVでもある・・・勝利を掴むために皆には心してかかってもらいたい・・・以上だ!」
『イエッサー!!』
かくして、それぞれの思惑を胸に秘め、V作戦はこの日より静かに決行されたのだった。

――結論から言おう。大佐のV作戦は成功した――半分は。
バレンタインデー当日、東方司令部はかつてないほどの穏やかな1日だった。大きな事件もなく、締切りの差し迫った仕事もない。周りを見渡せば、皆おおいにバレンタインデーというイベントを楽しんでいるようで、あちこちでチョコレートの受け渡しをしている男女が目についた。
かくゆう俺も事務方の可愛い女の子からチョコを貰い、心は薔薇色だったのである。
そう、2月14日は間違なく大佐が立てた作戦通り、平和なバレンタインデー日よりだったのだ――大佐が風邪を引き高熱を出して休んだ以外は。

「大佐・・・可哀相ですね・・・あんなに仕事頑張っておられたのに」
「やっぱり真面目に働くなんて珍しい事したから、体が受け付けなかったんだよ。知恵熱だよっ、知恵熱っ」
「同感ですな」
連日連夜書類に励んだ挙げ句、現場にも出てきて徹底的に過激派グループやテロリストの取り締まりもこなした大佐はさすがにオーバーワークだったのか、とうとうこのバレンタイン当日ダウンしてしまったという訳だ。今までの頑張りを思えば這ってでも来そうなものだが、さすがの大佐も病気には勝てなかったらしい。
・・・皆は好き勝手言っているが俺は少し同情していたりする。チョコレートを貰った今日の俺は少し心が大きくなっているのだ。
「まあ、大佐に悪いが今日は珍しく定時で上がれそうだからな。皆で飲みに行こうや」
「ほう、良いですね」
「行きましょうよ!」
ブレダの誘いに頷くフュリーとファルマン。
「ハボ、お前は?」
「ああ、わりぃ。俺はパス」
「何だよ、付き合い悪いな」
「へへっ、実は今日チョコくれた子とデートの約束しててさ」
「そうか。まあせいぜいフラれないように頑張れよ」
「うるせっ」
「んじゃ、誰か他の奴誘うか」
「ヘンリー達なんてどうですか」
「そうだな、ちょっと声かけに行くか」
賑やかに話しながらブレダ達は部屋を出ていく。すると、やつらと入れ替わる様に入ってきたのはホークアイ中尉だった。
まだ定時まで時間があったが、彼女は既に私服に着替えていた。
「あら? ハボック少尉だけ?」
「そうっす」
「そう・・・その、申し訳ないんだけど・・・私、早めに上がらせて貰うわね」
「・・・珍しいっスね。なんか用事っすか」
「え、ええ・・・」
「分かりました。大丈夫っすよ。今日は面倒な事は何にもないし」
本当に申し訳なさそうな顔をする中尉に俺は笑って軽く請負った。
その様子にホッとした表情をした中尉は、自らの机に近寄ると引き出しの中から書類を取り出し鞄にしまおうとする。
中尉の一連の行動に俺はふと思いついた事があり、言うか言うまいか迷ったが結局尋ねてしまった。
「・・・大佐の所に行くんスか」
「え?・・・ええ、あっ、でも、別に心配だとかではないのよ? その・・急ぎの書類があるの! どうしても大佐の決裁が必要なのよ。本当にそれだけ・・・」
中尉は自分の言葉を強調する様に手に持った書類を振って見せた。
・・・大佐がアレだけ前倒しして片付けたのだ、今日、急ぎの書類なんてある訳がない。
何も言わない俺をどう思ったのか中尉は困ったように笑ってみせると、鞄に書類をしまうのでさえもどかしげにそそくさと部屋を出ていった。
・・・きっと、途中で食材を買って飯でも作ってやるんだろうな・・・。
・・・結局、大佐が風邪を引いて休んだだけであんな風に心配そうな顔をしてすぐに大佐の家に向う中尉を見ていると、俺はつくづくチョコなんて貰えなくても十分なんじゃないかと思うのだ。
何故なら、中尉にあんな顔させられる男なんて、世界中探したって他に誰もいないのだから。
――今日一番不幸だった男は、実は一番の幸せ者なのかもな。
そんな事を思いながら俺はふうーと煙草の煙を吐き出すのだった。




END
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おまけ
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by netzeth | 2011-02-02 21:43 | Comments(4)
Commented by ユウ at 2011-02-02 23:12 x
こんばんは。
以前にも(多分)コメントさせていただいた者です。

大佐なんだかんだでいつも得してますよね。リザさんの深い愛のおかげですね(笑)
遅れましたが、オフラインを始められるのですか!是非とも楽しみにしています(*´∀`)
Commented by うめこ(管理人) at 2011-02-03 21:01 x
ユウ様こんばんは!再びのお越しとても嬉しいです☆
はい、うちの大佐はリザさんの深い愛に包まれているのですよ(笑)そして結局おいしいところを持っていくのですねww
オフライン活動にもお言葉をいただき光栄です~。こちらはどうなるのかまだまだ分からないのですが、とにかく無事に発行できるように頑張りたいと思います。
コメントありがとうございました!またどうぞ遊びに来てやってくださいませね。
Commented at 2011-02-05 14:36 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by うめこ(管理人) at 2011-02-05 21:18 x
カイト様こんばんは、はじめまして。
このような辺境サイトにようこそおいでくださいました。
拙作を気に入って下さり嬉しいです。甘いといって頂けると甘々のロイアイを目指している身としては、やったーという気分になります☆
コメントありがとうございました!