うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth
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昔から女三人寄ればかしましいという言葉がある。ましてやそれが三人どころではなく、五人十人と集まればそれはかしましいどころの話ではない。日勤の者の退勤時刻、東方司令部の女子ロッカールームも例にもれずたいそう賑やかであった。仲の良いグループの女の子達が集まりあちこちでおしゃべりに花が咲いている。
その内容は司令部の誰と誰が付き合っているという定番の恋の噂話から、美味しいケーキの店の話題、はたまた今流行っているファッションなど多岐に渡っており、話の種は尽きる事がないようであった。
そんな女性達の輪から外れたところでリザ・ホークアイ中尉は黙々と着替えをしていた。独り浮いている様にも見えたが、別に彼女が避けられている訳ではない。むしろ、現場には出ない事務方の女性達にとって、現場の前線に立ち、男顔負けに軍務をこなすリザは憧れの対象であった。
中にはリザお姉様などと言って慕う者もいるくらいである。
そんな憧れの的であるからして、近付き難い印象を持たれてしまうのは致し方ないのかもしれなかった。一方、当の本人はそんな事少しも気にしていない様子で身仕度を整えながらも、華やいだ女性達のお喋りに耳を傾けていた。
別にお喋りの輪の中に入りたいとか、ファッションや恋の話に興味がある訳ではない。
リザにとってそれらの事は、今晩の夕食の献立よりも重要度が低い。それでも彼女達のお喋りを聞いているのは、その中にリザにとって――ひいては彼女の上官ロイ・マスタングにとって何か重要な情報が隠されているかもしれないからだ。
女性達の情報網というのは侮れないのである。時にそれはどんなマスコミをも凌駕する。人の口に戸は立てられない以上、そう言った噂話にこそまさにダイヤの原石の様な貴重な情報が存在するかもしれないのだ。
特に軍司令部内部の人間関係などは、彼女達の話を聞いていればだいたい把握できるほどである。
それだけでも、東方司令部を統括し部下達を掌握するためにロイにとっては十分に役に立つ情報といえるだろう。
だが、今日のところはとりあえず特に有益な情報はなさそうだった。
そう判断したリザは着替えを手早く終えてロッカーを閉めた。愛用のショルダーバックを肩にかけると、ロッカールームを後にするべく入り口へと歩き出そうとする。
その会話が聞こえてきたのはその時の事だった。
「聞いた~!? ジェレミー、イーストシティ公演決定だって!」
「聞いた聞いた! ああ・・・やっと生ジェレミーに会えるのね・・・」
「でも、チケット取れる? 絶対競争率激しそうよね」
「そうよね~、セントラル劇場のチケットだって滅多に取れないって聞いた事あるわよ」
「私、チケットの発売日は有休取るわ! 絶対ジェレミーに会うんだから!」
ジェレミーと言えば、今人気の舞台俳優だ。リザも名前くらいは聞いた事はあったが、興味が無かったためそれ以上の事はそれほど詳しくは知らなかった。
リザ自身お芝居はそれなりに好きだが、噂のジェレミーという俳優の舞台はストーリーよりジェレミー自身を前面に出した構成になっているという。
ジェレミーファンの女性にはたまらないだろうが、純粋にお芝居を楽しみたいリザの好みではなかった。
「ああん、楽しみだわ~イーストシティ公演の演目は何かしら? 私、薔薇の騎士が見たいわ!」
「私はバンパイアの方が見てみたいわ~」
「ああ、それ! 今セントラル劇場で演っているのよね」
「そうよ、私の従姉妹がこの前見にいったのよね、スゴく良かったって。でね、その時に頼んで買ってきて貰ったんだけど・・・ジャーン!」
「きゃあ~! スゴい! これ、セントラル劇場限定のブロマイドでしょ!?」
「うふふ・・・そうよっ。公演を見た人しか買えない物なんだから」
「良いな~~」
「ふふふ、沢山買って貰って、被ったのとかあるから今なら特別に定価でよければ譲るわよ?」
「本当!? 買う買う!」
きゃあきゃあと彼女達のお喋りは尽きる事なく続く。
それほど人気のある俳優なら、イーストシティに来た際の警備は軍部の方で受け持った方が良いかもしれない。そんな感想を持ちながら、リザはこれ以上聞いても役に立つ情報はないだろうとその場を立ち去ろうとし―――しかし、次に聞こえてきた言葉に思わずその足を止めた。
「ねえ・・・前から思ってたんだけどさ、ジェレミーって―――」


「何だと?」
いい加減な事言うと承知しないぞという視線でロイに睨まれたハボックは、慌てたように言い募った。
「だからっ、本当なんですって。俺確かに見たんスから」
ロイ個人の執務室に珍しくコーヒーを淹れて持ってきてくれたこのヒヨコ頭の部下は、自身も自ら淹れたコーヒーを飲みながらロイにとある話題を持ち掛けてきた。おそらくコーヒーはついでで、こちらがハボックの目的だったに違いない。
曰く――。
「本当にホークアイ中尉が持ってたんスよ! 男の写真を」
今朝、軍部に出勤して来たハボックは廊下でリザに会った。
彼がやって来るよりはるかに早く出勤していた彼女は既に仕事を始めていたらしく、幾つものファイルを手にしていた。重そうなそれを、男として当然ハボックは持ってやろうとしたという。
ところがファイルを受け取ろうとしたその刹那、その間から一枚の紙切れがヒラリと舞い落ちた。
ハボックは反射的にそれを拾い上げた。それは写真だった。写っているのは知らない男だ。もっと良く見ようとしたところで、ものすごい早さでリザがその写真をハボックから奪った。
それに呆気にとられたハボックだが、リザが顔を真っ赤に染めているのに気付き、何も言えなくなった。
「ち、違うの! これは・・・何でもないの!」
と、おまけに聞いてもいないのに、言い訳まで始める始末。
常にないリザの慌て様にハボックは確信したという。
「きっとあれは中尉の好きな男の写真だったんスよ!」
「で?」
拳を握って力説するハボックに、ロイは内心の動揺をかくしながら努めて冷静に声を出した。
「わざわざそれを私に報告しに来た訳か? お前は」
「そりゃあ、そうですよ。だって中尉に男の影ですよ? 大佐に言わずして誰に言えっていうんです」
「・・・本音は?」
「やーーぶっちゃけ大佐の反応が面白そうだったんで」
「出てけ! くだらん事してないで、とっと仕事しろ!!」
一喝してハボックを追い出すと、ロイはため息を吐いた。
――仮にハボックの言う事が本当だったとして自分に何を言う権利があるだろう。
彼女との関係は上司と部下、ただそれだけだ。部下がプライベートで誰を好きになろうが口出しする事は出来ない。例え、ロイが彼女をどう思っていようとも・・・。
だが、大事にした挙句にどこの馬の骨とも分からない奴にかっさらわれるのかと思うと、まだ幼い少女の時分から彼女を知る身としては我慢ならないものがあった。
(くそっ、何処のどいつだ!?)
理不尽な怒りを燃やして、思わず発火布に手が伸びそうになった時、
「大佐?」
リザがドアから顔を覗かせていた。
「ノックをしても返事がありませんでしたので、勝手に入らせて頂きましたが・・・どうかなさったんですか?」
近付いて来たリザはロイの机の上の書類が一枚も処理されていないのを見ると、顔をしかめた。
「大佐。こちらは今日の正午締切りだと申し上げたでしょう。もう、何をやっているんですか」
「・・・書類どころじゃなかった」
ボソリと告げるロイにリザは首を傾げる。
「本当にどうなさったんです? 今日の大佐おかしいですよ」
むすりとした顔で沈黙していたロイだったが、しばらくするとまたボソリと呟く様に言った。
「・・・君のせいだ」
「え?」
「・・・君、男の写真を持っていたそうだな」
「なっ!」
途端に顔を真っ赤に染めたリザに、ロイはやはりハボックの言っていた事は本当だったのだと確信した。
「ずいぶん大事そうにしていたそうじゃないか・・・誰なんだ?」
ズキズキと胸は痛むが、せめて相手くらいは知っておきたい(そして出来れば燃やしたい)と思い、ロイはリザを追求する。
「誰って・・・」
「やっぱり、恋人なのか?」
「ど、どうしてそうなるんですか!」
「君が男の写真を持っていたなんて、そうとしか考えられないだろう!?」
「ち、違います!」
「じゃあ、何だっていうんだ!」
少しの間リザは逡巡し・・・観念した様にため息を吐いた。
「もう・・・だから、違うんです」
そう言って、ポケットから写真を取り出す。
「大佐がおっしゃっている写真ってこれの事でしょう?」
ロイはその写真を受け取ると、マジマジと見た。
写真には確かに男が写っていたが・・・その男はやたらキラキラした服を着ており、ポーズを決め、ばっちりカメラ目線で爽やかな笑みを浮かべていた。
写真の隅にはハートやら星やらをあしらった文字でこう書いてあった――ジェレミーと。
「ジェレミー・・・ジェレミー・ウィバーか?」
「・・・ご存じでしたか」
「ああ、名前くらいはな」
ジェレミー・ウィバー。確かセントラルで人気の舞台俳優だ。
派手な舞台演出とその甘いマスクで、アイドル的存在として女性達から人気を集めている。ロイ自身まったく興味はなかったが、女性達との話題の種くらいのつもりで名前くらいは覚えていた。
確か近々イーストシティへの公演の予定があったはずだ。イーストシティの劇場主に顔がきくロイは、馴染みの店の女の子からそのチケットを取れないかとねだられ覚えがあった――もちろんそんな事リザには言えないが。
「これでお判りになったでしょう?・・・恋人とかそんなんじゃありません」
確かにこれはただのアイドルのブロマイドであり、親密な男性――恋人のカテゴリーに類する男性の写真でははないだろう。
だが、ロイの胸を覆ったモヤモヤが綺麗さっぱり晴れた訳ではなかった。
・・・幾らアイドル的存在の男性だと言っても、男の写真を持っていた事に変わりはないのだ――面白い訳はないわけで。
「・・・君って結構ミーハーだったんだな」
腹立ち紛れにそんな事を言ってみる。
ミーハーという言葉にリザは過剰に反応した。
「なっ、ち、違います!」
「何が違うんだ。あのホークアイ中尉も普通の女性と変わらない・・・アイドルにお熱って訳だろう?」
そして、ロイはついそんなからかい文句を言ってしまう。
「違うんです! わ、私はただ!」
「ただ?」
「いえ・・・その」
「何だ? 言いかけて途中で止めるなんて君らしくないな。・・・言いたまえ」
一瞬口ごもったリザはしかし観念したように話始めた。
「・・・私はただ―――」


「ねえ・・・前から思ってたんだけどさ、ジェレミーって―――マスタング大佐と似てない?」
ロッカールームを出ようとしていたリザはこの言葉に思わず足を止めていた。
「きゃーー! そうそう! 私もそれ思ってたの!」
「ええー? そお?」
「そうよ! 似てるわよ!」
「どの辺りが?」
「ほらっ、同じ黒髪だし、色は違うけど、切れ長の瞳とか。背格好も似てるわよ。大佐の方ががっしりしてて、ジェレミーの方が細いけどね。あっ、そうそう後声も似てるかもっ」
「う~ん、言われてみれば似てるかも?」
「でしょー?」
「でも、私は断然! ジェレミー派だけどね~」
「あらあ、私は大佐の方が良いけどな~」
「私も~!」
「ええー! ジェレミーの方が良いわよ!! もうっ、写真売ってあげないわよ!」
「それとこれとは別よぉ」
「そうそう」
「もうっ、なあに? 調子良いんだから」
引き寄せられる様にリザの足は自然とお喋りを続ける女の子達の一団へと向いていた。そして、
「・・・その写真、私にも売って貰える?」
気がつけば、そう話しかけていたのだった―――。


「―――という訳で、私がこの写真を持っていたのは決してミーハー心からではなく、単なる興味本位と申しますか・・・とにかく大佐が思ってらっしゃる様な理由ではありませんからっ」
相変わらず顔を赤くしてリザはそう必死に主張するが、何というか・・・全て逆効果だった。
だって・・・なあ?
――つまり、それは私に似ているかもしれないから写真が欲しかったって事だよな?
ロイは己の頬が緩むのが判った。
現金なもので、さっきまでの落ち込んだ気分が一気に浮上してロイは機嫌よく笑う。
「何だ、私の写真が欲しかったなら早く言いたまえ。直ぐに用意するぞ?」
「何でそうなるんです!? 都合良く解釈しないで下さいっ!」
「だってそういう事だろう?」
「ち・が・い・ま・す!」
「ははは、照れるな、照れるな!」
「もう!」
リザが恋人の写真を持っていた訳ではなく、ジェレミーのファンだった訳でもないと判ってロイは心の底から安堵する。
とりあえず、写真は没収して焼却処分する事と、そして自分とジェレミー、どちらがタイプだったのかははっきりさせねばなるまいとロイは思うのだった。




END
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おまけ
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by netzeth | 2011-02-24 21:07 | Comments(2)
Commented by kAITO at 2011-03-02 00:37 x
カイトです 

リザたん・・・かわいすぎてしょうがない

ロイがうらやましい!
Commented by うめこ(管理人) at 2011-03-02 21:32 x
カイト様こんばんは!
リザたん可愛いですよねvv一家に一人欲しいです。本当にリザたんにいろいろできるロイめこんちくしょーって思いますよ(笑)
コメントありがとうございました!!