うめ屋


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by netzeth
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それは何気ない会話だった。
忙しい仕事の合間のほんの一時の休憩。
最近ゆっくりと会話も出来てないなと思い、本当に何気なく振った話題。
「どうだい? 君は最近何か変わった事は?」
行きつけの花屋の店員が変わったとか、気に入っているパン屋のパンが最近味が落ちたとか、一通り己のどうでもいいと思える様な日常を話して。ロイは己の優秀な副官に水を向ける。彼女も彼女の当たり前の日常を話してくれれば良いと――そんな風に思って振った話題だった。
そして。彼女はしばし考え・・・、
「恋人が出来ました」
・・・どでかい爆弾を落としてくれた。
「そっ、そうか・・・」
取り乱さなかったのはひとえにロイの男としての矜持であっただろう。
すぐにでも問い質したい衝動を何とか抑えて、ロイは努めて冷静に声を出す。
「・・・ど、どんな相手なんだ?」
「そうですね・・・色の白い可愛いらしい子ですよ」
嬉しげに微笑むリザに対して、ロイの心は沸騰寸前である。
・・・子ってくらいだから、年下か。まさか何処の馬の骨とも判らない若造に彼女を持っていかれるとは・・・。
今は大事に見守って、いつか想いが通じ合えば良い・・・などと思っていたらばこの様だ。悠長な事をしている間に横からとんでもない伏兵が現われてしまった。
後悔先に立たず・・・という言葉が今のロイの頭の中をぐるぐる回っていた。
しかし、リザの様子を見る限りでは、彼女は恋人が出来た事を本当に喜んでいる様で。
今さら自分が何を言ってもその幸せの邪魔にしかならないだろう。キリキリとした胸の痛みに耐えながら、
「そうか・・・良かったな・・・」
ロイは祝福の言葉を述べた。

そうは言ってもそう簡単に割り切れるものではなく、ロイはその日一日中激しく落ち込んでいた。仕事もろくに手に付かず、リザは心配していたが、まさか君に恋人が出来たのがショックでしたなんて言う訳にもいかず、適当に気分がすぐれないと誤魔化したが。
そんな暗い気分のロイの元に、ひたすら脳天気な声で現われたのはハボックだった。
「大佐ぁー!」
「・・・なんだ」
ノックもそこそこに執務室に入ってきたハボックは、ロイの様子など気にも止めずに喋り出す。
「聞いて下さいよー! 俺、今日すご~く可愛い女の子から告白されちゃって・・・」
「そうか」
「しかも一人じゃなくて同時に三人も。やー参っちゃうなー!」
「そうか」
「東方司令部のモテキングの座は俺のもの!? みたいな~」
「良かったな」
何を言っても反応の薄いロイにハボックはつまらなそうな顔をする。
「大佐ぁ~。ちゃんと突っ込んで下さいよ。これじゃあ嘘の吐き損じゃないっすか。張り合いがないなあ・・・」
「なんだ。お前、わざわざ私に嘘を吐きにきたのか。暇なやつだな」
ハボックがぼやくと、ようやくロイは呆れた様な顔を見せた。
「ちょっとした遊び心じゃないっすか。付き合ってくれたって良いでしょうに」
「何がちょっとした遊び心、だ」
「何せ今日は四月一日なんスから」
「だから何だ」
「何って・・・エイプリルフールっスよ!」
ハボックは拳を握り締め力強く主張した。
エイプリルフール?
ロイは頭の中でその言葉を反芻する。
エイプリルフール・・・そう、確か一年に一度嘘を吐いても良いとされる日・・・。
ハボックに指摘されるまでロイはそんな事まったく意識していなかったのだが。
ちょっと待て・・・嘘?
「そうかっ、嘘か!」
突然気のない返事をしていた上官がダンっと机を叩き立ち上がったので、ハボックは驚いた。
「わっ、何すか。いきなり」
「でかしたハボック! そうだ、嘘だったんだ!!」
「はあ?」
「そうか、そうか・・・嘘だよ、嘘。ははははは!!」
そして、そのまま馬鹿笑いを始めたロイを、ハボックは不気味なものを見る様な目で眺めたのだった。

翌日。昨日の憂鬱がまさしく嘘の様に、ロイは意気揚々と司令部にやってきた。
昨日はエイプリルフール。リザの恋人います発言も、自分をからかうための嘘だったのだとロイは確信していた。エイプリルフールに嘘を吐くなんて、リザも可愛い事をする。しかも恋人が出来たなんて嘘をだ。これは何かしら自分に対するアピールなのではないか? そう、早くしないと私にも恋人が出来ちゃいますよ的な・・・。
都合良くそんな事まで考えてロイはニマニマ笑う。
とにかく、今日はもう、エイプリルフールではない。嘘は許されないのだ。ロイは、リザに昨日の事を問詰めてやるつもりだった。
「中尉!」
「大佐?」
朝一番に顔を見せたロイにリザは驚いた顔をする。ロイがこんなに朝早くに出勤してくるのは珍しい。
「どうかしましたか?今日はずいぶんお早いですね」
小首を傾げて今日は雨かしら・・・などと何気に失礼な事を言っていたりするリザに、ロイは満面の笑みを見せた。
「どうかしましたか? じゃないよ、中尉。・・・昨日はよくもやってくれたな?」
「・・・昨日? 何の事です?」
リザは本気で判ってない様な困惑顔を見せる。
「とぼけるのは止めたまえ。・・・君が昨日言った事だよ。あれは・・・エイプリルフールの嘘だったんだろう?」
「私が昨日言った・・・? ああ、恋人が出来たという話ですね」
ようやく得心がいったというように様にリザは頷くが、しかしすぐに首を振る。
「いいえ、あの話は嘘ではありませんよ。・・・昨日がエイプリルフールだったなんて今、大佐にお聞きするまで失念していましたし」
「何だって・・・?」
リザの答えに今までの浮かれた気分が一気に消える・・・再びわき上がって来たのは苦い思い。
「じゃ、じゃあ・・・本当に?」
「ええ。だいたいどうして私がそんな事、大佐に嘘を吐かないといけないんです?」
「・・・・・」
リザの話は嘘では無かった。全て本当の事・・・その事実に、ロイは地獄から天国、そして再び地獄へ叩き落とされた気分だった。
――今となっては勝手にエイプリルフールの嘘だと決め付けていた自分が恨めしい。
しかし、とロイは思う。
・・・ならばやはり、自分はリザを祝福しなければならないのだろう、と。
自分の気持ちがどうであれ、結局のところ、彼女の幸福こそがロイの望みなのだから。例え、その幸せが自分と一緒になくとも・・・。
「大佐・・・? どうしたんです? もう、昨日からおかしいですよ」
急に黙り込んでしまったロイにリザは不審な顔をする。
ロイはそんなリザに向き直ると、ギュッと手を握って正面から見据えた。
「中尉・・・、私は君の幸せを祝福するよ」
「はい?・・・ちょ、何なんですかっ、あらたまって・・・」
「どうか・・・幸せになってくれ」
「だから、何の話ですか?」
「何って・・・恋人の話だよ。出来たんだろ?」
「・・・ええ? ハヤテ号に」
「・・・は?」
「ですからっ、ハヤテ号に、です。・・・確かにあの子の幸せは私の幸せかもしれませが・・・大佐がそれほどまで、あの子の事を気にかけて下さっているなんて知りませんでした」
ありがとうございます、なんて若干嬉しげに言うリザを、ロイはポカンと口を開けた少々間の抜けた顔でただ眺めるしかなかった。
ハヤテ号の恋人・・・?
全ては自分の誤解だった・・・?
あまりといえばあまりな事の顛末にロイは呆然とするしかない。
一体・・・長年の想いを諦め、彼女の幸せを祝福しようと固めた己の悲壮な決意は何だったのか・・・。
けれど、そんなものは結局、とんだお笑い草だった。
・・・今、ロイは彼女に恋人がいないと聞いて、こんなにも安堵しているのだから。
それこそが嘘だったのかもしれない。――自分自身を騙すための。
ロイは我知らず笑い出す。
「は、はは・・ははは・・・」
「もう、何なんですか?」
「いや。何でもないよ。は、ははは・・・」
なおも訝しげなリザを見ながらも、もうあんな決意など二度とゴメンだとロイは思うのだった。





END
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by netzeth | 2011-04-06 21:05 | Comments(0)