うめ屋


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by netzeth
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Body Touch

東方司令部の名物と言えば毎年冬にある北方軍との合同演習と、夏に行われる東方司令部内の軍事演習である。
特に夏の軍事演習は、春に入ってきた新兵達を鍛え直す意味も含まれており、厳しい内容もさることながら、過酷な暑さとも合間って毎年脱落者が続出する。この演習により自分には軍人は無理だと辞表提出する者もいたりするのだ。逆を言えば、この演習を乗り越え残った者こそ本物の軍人としての自信をつけ、司令部全体の結束も強まると言えるだろう。
新兵達の通過儀礼とも言えるこの演習にもちろんハボックは同僚のブレダ共に参加していた。
彼らの役目はまだ実戦形式の演習に慣れていないヒヨッコ達のお守り役である。
演習は紅白の二軍に分けて行われ、(何故紅白かというとグラマン中将曰く縁起が良い色らしい)一方を東方司令部最高司令官であるグラマン中将が、もう一方を同じく司令官のロイ・マスタング大佐が統率している。
通称マスタング組と呼ばれるロイの側近であるハボック達が所属するのは、ロイが大将を勤める紅軍である。
「おらっ、へばってんじゃねーぞ! それぐらいの装備担いで走れない様でどうすんだっ」
死屍累々と転がっている新人達を叱咤激励しながら、ハボックは同量の装備を付けて軽々と走る。
同じく見掛けは重そうなくせにフットワークは軽いブレダが後に続く。
グラマンは手強い。ロイも善戦しているが、紅軍は押され気味である。ロイの指揮は的確だがそれを実行する兵達の疲れもピークに来ているのだ。
この演習の結果がロイの出世に響く訳ではないが、勝負と名がつく以上負けてやるいわれはない――そう、宣言したロイの言葉を思い出し、ハボックはニヤリと笑う。
「お前らっ! しっかりしねーとうちの大将に燃やされっぞ!」
焔の錬金術師の悪名は新兵の間にも鳴り響いていたらしい。へたりこんでいた何人かは慌てて立ち上がった。
「もう、あんまり変な事を教えこまないで頂戴」
野郎ばかりのむさくるしい空間に、涼やかな女性の声が響いたのはその時だった。現われた女性に周囲の新兵達皆が一瞬見とれる。
彼女はこのクソ暑い中でも軍服をきっちりと着こなし、首まであるタートルネックを身にまとっているというのに、その表情はあくまでも涼しげであった。言わずと知れたロイ・マスタングの副官、リザ・ホークアイ中尉である。
ロイの副官であり、彼の傍らに常に控えているはずのリザがここに現われたのは、ひとえに彼女の優れた狙撃能力故だ。彼女を自分の側に居させるよりも戦力として投入した方が有意義である、と判断しての措置である。
事実彼女は相手軍を何人もデッドに追い込んでいる。
「事実でしょう。きっと今頃発火布はめてるんじゃないですかね」
やれやれと言った様子で肩を竦めたのはブレダだ。ハボックも同意する。
「大佐は短気だからな。もう、何人か焦がされたりして」
ハボックの物騒な物言いに周りの新兵達がヒッと悲鳴混じりに走り出した。
「もう・・・皆本気にするでしょう」
ため息混じりのリザに、
「まあまあ、やつらに気合入れるには焔の錬金術師のネームバリューは十分だって事ですよ」
ほら、ね。とあっという間に綺麗に片付いた周囲を指し示してブレダが片目を瞑ってみせた。
「居なくても役に立ちますねー、さすが大佐」
「ほら、ぐずぐずしていたら貴方達が焦がされるわよ、さっさと動く!」
「アイ、マム!」
そうして、三人は走り出そうとし・・・、
「危ない!」
途端に飛んで来た銃弾(模擬戦様のペイント弾だ)からリザを庇う様にハボックは覆いかぶさった。
「にゃろ!」
ブレダが即応戦し、見事白軍の兵士達をデッドにする。だが。
「あちゃあ。俺、アウトッス」
ハボックの背中にはデッドを意味するペイント弾がくっきりと着弾していた。
「こんなとこまで別動隊を寄越しているってか、さすがグラマン中将。タヌキだな」
大佐に報告だ、とブレダが言うのに同意して。改めて己の腕の中を見下ろせば。
「中尉は無事ッスよね?」
「・・・ハボック少尉。手をどけて貰えるかしら」
「え?」
そういえば、さっきから手の中に、何とも言えない柔らかな感触がある。それはこうムニムニとしていて。まるで・・・。
「だあああ!」
ハボックの手はリザの胸の上に置かれており、いわゆる鷲掴み状態になっていた。悲鳴混じりの声を上げてハボックはリザから離れる。
「うわっ、すんません! すんません! すんません! 許して下さい!!」
弾丸の嵐を覚悟したハボックは思わず身構えた。だが、銃弾は一向に飛んではこない。
「ハボック少尉、止めて頂戴。それじゃあまるで私が鬼みたいじゃないの」
「へ?」
ハボックを安心させるようにリザは滅多に見せないにっこりとした微笑みを浮かべる。その様はさながら女神の様で。
「いいのよ。いちいちこんな事で騒いでいたら演習なんてやってられないわ。・・・だからといって勘違いしてはダメよ。ワザと女性に触れたりしたらセクハラですからね。私、貴方をセクハラで告発したくはないわ。・・・その前に鉛玉が貴方の顔面にめり込むのが先かしら?」
にこやかに恐ろしい事をおっしゃる女神様。それに内心おののきながらも、リザが怒っていない事を確認するとハボックはひとまず胸をなで下ろした。
確かに男女入り乱れての軍事演習ともなれば、いちいち身体に触れた触れないなんて気にしていられないだろう。たまたまタッチ(しかも胸に)してしまったのが己の上官のクールビューティーだったのは運が悪かったのか良かったのか。
ただ確実に言える事は。
(大佐が居なくて良かったあぁぁ・・・)
別に恋人同士でもないくせにリザに近付く異性に対して、時には焔の洗礼を浴びせる事もある嫉妬深いロイである。胸に触れたなんて知られた日には命が危うい。
「肝に命じておきます。・・・あ、あと今の事は大佐には内緒で・・・」
「別にわざわざ言ったりはしないけれど・・・何故大佐が出てくるの?」
鈍い。
本気で判ってないようなリザはきょとんとした顔をしている。
「あーーそれはですねえ・・・」
「私が何だって?」
「大佐!?」
突然現われた紅軍総大将、ロイ・マスタング大佐に皆唖然とする。
周囲の驚きをよそに、ロイはのんきにやあと手を上げて挨拶なんかしていて。
「何のこのこと前線に出てきてるんですかっ」
真っ先に反応したのはリザだった。珍しく感情を露にし、ロイを怒鳴りつける。
「貴方は馬鹿ですかっ。指揮官なら指揮官らしく後方でおとなしくしていて下さい!」
上官をここまで遠慮なく叱れる軍人はアメストリス広しといえどもリザくらいだろう。
「あー判った、判った。私が悪かった。」
「真面目に聞いて下さい!」
まったく反省していない様子のロイにリザが一歩、また一歩と詰め寄る。
「大将がやられてしまったら終わりなんですよ!? だいたい貴方は・・・」
「ちょっ、中尉。もう、良いだろう。状況もだいたい判ったからもう、帰るから」
「いいえ! この際だから言わせて貰いますが大佐はいつもいつも・・・」
「ちょっ、中尉っ、近いっ、近いって!」
怒り心頭のリザに詰め寄られたロイが慌ててリザの肩を押し戻そうとして。
『あ』
「やっ!」
ロイの肘がリザの胸に一瞬触れたのをハボックは確かに見た。
顔を真っ赤に染めたリザがロイを睨付ける。
「何をするんですかっ!セクハラです!」
「なっ、ちょっと肘があたっただけじゃないか!・・・まあしっかり感触は味ったけど・・・じゃなくてっ、これは事故だ!」
「それがセクハラだって言うんです!」
「だいたい君が近付くから・・・」
「私のせいだって言うんですか! もう、サイテーです!」
状況も考えず、セクハラだなんだと喧嘩を始めた上官二人を見やりながら、しかし、ハボックの肩はだんだんと落ちていく。
・・・自分もリザの胸に思いっきり触れてしまったのだが・・・この反応の違いはなんなんだ?
「俺・・・」
「落ち込むなハボ。中尉の中で男って生き物はな、きっと大佐とその他大勢で分けられているんだろうよ」
「・・・それ、全然慰めになってねーぞ」
投げやりに言うブレダにハボックはますます落ち込んでいったのだった。

ちなみに紅軍はこの後盛り返し、何とか戦局を引き分けにまで持って行った。
紅軍の仮司令部には一時行方不明になり、戻ってきたと思ったら何故か頬に真っ赤な手形痕を付けた紅軍総大将が憮然とした顔で座っていたという――。



END
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by netzeth | 2011-05-14 21:01 | Comments(0)