うめ屋


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by netzeth
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3. リザは彼女のわがままをきいた

「さて、どこに行く? 何か希望はあるか?」
「あの・・・欲しいものがあるので、よろしかったら少し買い物に付き合ってくださると嬉しいです」
「判った。もちろんOKだ」
えーとまずは仲良くショッピング、と・・・。
頭の中で騒ぐシェリーの要望をリザは遂行すべく、ロイと歩きだした。
二人と一幽霊は、女性向けの店が立ち並ぶ界隈へと足を運ぶ。
(あのね、リザ。私が買い物している間に、彼はこっそりと私のためにアクセサリーとか私が喜ぶ小物とか買っておいてくれるの! そしてね、後で私にサプライズでプレゼントしてくれるのよっ、君に似合うと思って・・・とか言いながら!)
相変わらず乙女の夢全開の願望である。
「あのね・・・シェリー。あなたには悪いけど、夢見すぎよ・・・。現実はそんな理想通りになんかいかないんだから」
周囲に気がつかれないように、こそこそとリザはシェリーに指摘する。
そういえば、この幽霊って幾つなのかしら? 改めてリザは疑問に思う。どうも、いちいち言う事が夢見る10代の乙女という感じなのだが・・・仮にも錬金術師として一人前になったというなら20は過ぎている気がする。それでこの夢見具合だとしたら、よっぽど男という物に免疫がなく生きてきたのだろう。・・・かくいうリザも経験から言えばシェリーと似たり寄ったりだったが。
「中尉」
店の中で商品を見るふりをしながらシェリーと話してしたリザの元へロイがやってきた。
「どうだね、気に入ったものはあったかい?」
「え、ええ・・・なかなか・・・」
「そうか」
じゃあ次の店に行くか、とロイに言われてリザもその後に続く。女の買い物など退屈だろうに、ロイは少しも嫌な顔を見せずに実にマメに付き合ってくれていた。
それどころか積極的にリザの手に取るものに意見まで言ったりする。それもまた的確で、なるほど、こういうところが女性にモテる所以なのだろうか・・・などとリザは感心しつつも、彼がやたら女性の扱いに手慣れている様には、ちょっぴりモヤモヤもするものがあった。上司の女性関係など詮索するつもりはないが、その一端を垣間見て、なんとなく面白くない気分になるのだ。
なんでも知っている、把握していると思っていた彼に、自分の知らない一面がある・・・それがきっと副官として気になるのだ・・・そうリザは無理矢理結論づけた。
「ノドが乾かないか? 少し休もう」
いくつかの店を一緒に見て回った後、これまた絶妙のタイミングでロイが声をかけてきた。
「あ、はい」
リザが頷くと、すかさず頭の中でシェリーが騒ぐ。
(リザ! お茶をするなら、サンフラワー・カフェが良いわ。そこのパフェが食べたいの!)
別に食べるのはリザであって、幽霊であるシェリーが味あう事はできないはずなのだが、彼女はそう強く主張する。
仕方ない・・・これもとっとと天国へ行って貰うため。
そう割り切って、リザはロイにサンフラワー・カフェに行きたいという旨を告げたのだった。


サンフラワー・カフェはイーストシティでは老舗のオープンカフェである。名物は季節のフルーツをふんだんに盛りつけたフルーツパフェ。落ち着いた味のコーヒーも有名だったが、やはり一番人気はそのパフェだった。
時間はちょうど午後三時を回った頃。カフェはたくさんの人で賑わっている。
あまり詳しい事をシェリーに聞いたことはなかったが、彼女がこの店の事を知っていたということは、シェリーはイーストシティに住んでいたのだろうか・・・とリザはなんとなく思った。
席につくとリザはシェリーお望みのフルーツパフェを注文してやった。中尉はそういうのが好きなんだな~とロイにからかわれたのはやはり死ぬほど恥ずかしかったが。まさか憑りついている幽霊の好みですとは言う訳にはいかない。
注文を済ませると、ロイがおもむろに懐から小さな小箱を取り出した。それには先ほど寄ったアクセサリーの店のロゴ入りの包装紙に赤いリボンがかかっていた。
「これは・・・?」
「開けてみてくれ」
言われるままに包装をとき、箱を開けると中からは真紅の輝きを放つ石のピアスの一対が現れた。
「大佐・・・これ・・・」
「君に似合うと思って」
「・・・・・・・」
きゃーーと、夢がかなったシェリーが歓声を上げている。やっぱりロイ様は理想の王子様だとかうんぬん。
・・・夢見る乙女の発想を地で行ってるわこの人・・・。
あまりにベタ過ぎる展開に、リザはなんだか恥ずかしくなった。こういう事を平然とやってしまうところがロイ・マスタングのロイ・マスタングたる所以なのかもしれない。
「ん・・・? 気に入らなかったか? 赤い宝石のペンダントをしているから、この色が好きなのかと思ったんだが・・・」
沈黙したまま俯いてしまったリザに、ロイが心配そうな顔をする。赤いペンダントの事を指摘されてドキリとしたリザだったが、それを顔には出さずに、
「い、いいえ! すごく素敵です! ありがとうございます、大佐・・・」
それは、実はリザの本心からの言葉であったかもしれない。シェリーの事を抜きにしても、ロイからのプレゼントはリザにとっては嬉しかったから。
笑顔のリザにロイもホッとした表情を見せる。
そうこうするうちにフルーツパフェとロイが注文したコーヒーが運ばれてきた・・・その時であった。
(リザ、私ね、ここのフルーツパフェをあ~んってデートの彼に食べさせてあげるのが夢だったの!)
またしても、このわがまま幽霊が爆弾を投下したのは。
「なっ!」
「どうした? 中尉」
「い、いえ・・・なんでもありません」
思わず声をあげてしまい必死に誤魔化す。
(ね! アクセサリーのお礼にって言えば良いじゃない!)
リザが抗議できないのを良いことに、シェリーは好き勝手な事を言っている。
ここで拒否するのは簡単だ。なにしろ憑りついているといっても、シェリーはリザの体を好きに出来るわけではない。それは最初に会った時、そして今までに至るまでに確認済みである。あくまで彼女はリザの頭の中でしゃべるだけ・・・唯一強制していることと言えばペンダントが外れない事ぐらい。けれども、ここでリザ拒否して、もし、彼女がこの事に未練を残したら・・・? あ~んができなかった事を悔やんだら?・・・きっと大人しく天国に召されてはくれない気がする。
やるしかない。リザは覚悟を決めた。
「大佐」
リザはパフェ用の細長いスプーンを握りしめた。
「パフェ・・・食べたくありませんか?」
「ん? そうだな・・・実はちょっと食べたいかな」
こう見えてロイは甘いものが以外に好きだったりするのだ。リザの言葉に照れたように同意したロイにリザは恥ずかしさをこらえて絞り出すように言った。
「・・・わ、わたしが・・・たべ、食べさせて・・あげます・・・」
「へ?」
「ピ、ピアスのお礼です・・・」
語尾は消え入るような小さな声になってしまったが、リザはその言葉をなんとか最後まで言い切った。
「へ?・・・中尉、それって・・・」
「はい、あ、あ~ん・・・」
やけくそになったリザは狼狽えているロイの口元にスプーンを向けた。
「う、うん・・あ、あ~ん・・・」
ぱくりとロイがそのスプーンを咥える。
「お、おいしいですか?」
「あ、ああ・・・」
なんとも言えない微妙な空気が二人の間に漂う。
(ほら! リザ。もっと、もっとやって!)
もう、どうにでもなれ。
リザは再びスプーンでクリームをすくうと、心なしか顔の赤いロイのそれを差し出したのだった。


もういや・・・。ぐったりとしながらリザは夕暮れの街をロイと歩いていた。
その後もリザはシェリーから出される恥ずかしい彼女の理想とするデートプランを、次々に実行させられていった。その度にリザは顔から火が出るほどの羞恥を味わったのだ。
もう限界である。
けれど、このデートもいよいよクライマックスらしい。
後は夕暮れの公園のお散歩とやらでこのデートは無事に終了するの予定なのだ。
先ほどからロイとのやりとりはぎこちない。
何しろ恥ずかしくてまともに顔を見られないのだ。
ロイの方も同じのようで。いつもとずいぶん様子の違うリザに困惑しているようだった。
ようやく目的地の公園が見えて来てリザはホッとする。
ここさえ乗り切れば晴れて自分は解放されるのである。
あと少しよ・・・。
リザは自分にそう言い聞かせて萎えそうになる気力を奮い立たせた。
イーストシティの中心部からやや西にずれた位置にその公園は存在した。
リザがいつもハヤテ号の散歩にくる公園とはまた別の公園である。イーストシティには幾つか公園が存在するが、この公園にリザは訪れた事はなかった。
ここはシェリー曰く、
(カップルがデートするならこの公園!)
らしい。
理由は良く判らなかったが、とにかくここを散歩すれば良いのだと、リザはロイをこの公園に誘った。公園の名を聞いた時、当初、ロイは驚いたようだったが、リザがどうしてもと願うと、了承してくれた。だが、その時のロイの戸惑った表情がリザには気にかかっていた。
大佐・・・どうしたのかしら?
先ほどからロイは無言である。心なしかリザには緊張しているように見えた。
一方、リザの頭の中では相変わらずシェリーは絶好調だった。ここまでのデートがほぼ自分の理想通りに進んでいることに浮かれているらしい。
リザも安堵していた。
この分なら、デートが終わったら満足して自分から離れてくれるだろうと。
公園の敷地内に入ると、二人は銀杏の木が植えられている一角を歩いていった。
この季節、落葉はまだ始まっておらず、当然葉は緑色だった。その緑も今は夕暮れの赤い色に染まっている。
思わず綺麗だなと見惚れていると、木の影に人が立っているのが見えた。それも二人。
木の影に隠れるようにその二人は寄り添っていて・・・いやもっと密着している。・・・平たく言えばキスをしていた。
な、何!?
リザは驚いて辺りを見渡す。よく見ると回りは男女の組み合わせ・・・いわゆるカップルばかりだった。
今まで薄暗くてよく見えなかったし、気にしていなかったのだが、そのカップル達は皆一様にべったりとくっついていて・・・そして先ほどのカップル達の様にキスを交わしている。
そう、この公園はそういう恋人達だらけだったのだ。
「なっ、ちょっと、ここはなんなの?」
ロイにばれないように小声でシェリーを問いつめると、
(ここはカップル達御用達の公園なのよ。この時間になるとたくさん集まってくるの・・・ふふ、もちろん二人きりの濃密な時間を過ごすためにね・・・)
な、なんであなた男に免疫なさそうなのにそんなことだけ知ってるのよ!? この耳年増!!
と、絶叫しそうになる衝動をリザはなんとか抑えた。
そんなリザをよそに、シェリーは上機嫌に続ける。
(ふふ・・・ここでデートはクライマックスを迎えるの・・・。夕暮れの公園・・・彼は私を見つめて・・・私は目を閉じるの。そして彼は・・・私にキスをするのよ・・・)
「無理よ! 絶対無理!」
とうとうリザはロイの事も気にせずに叫んでしまった。
「そんなこと出来るわけないでしょう!?」
「中尉?」
突然大声を上げたリザにロイが驚く。
それに、なんでもないんですと笑って誤魔化して。
「あの、ちょっと失礼します!」
「あっ、おい!?中尉!!」
リザはロイから離れて走り出した。そして、適当な木を見つけるとそこへと身を隠す。
周囲に人がいないのを確認してから、
「シェリー! キスなんてダメに決まっているじゃない! 無理よ! 不可能だわ!」
自分に憑りつく幽霊に怒鳴りつける。
(どうして? 今までも全部上手くいったじゃない。キスくらい何とかなるでしょう?)
シェリーはリザがロイとキスする事にたいして、これっぽちも重大な事だとは思っていないようだった。
「キスくらいって・・・私と大佐はただの上司と部下なのよ!」
(だって・・・夢だったのよ・・・この公園でキスをするの・・・彼からのキスがなければこのデートは終わらないのよ!)
そして、彼女は自分にとってのキスがいかに重要であるかを力説する。そこで、リザはふとある事に気づいた。
「・・・待って、シェリー。あなたの希望はあくまでも、彼から――大佐からキスして貰う・・・そうよね?」
(ええ)
「だったら、私からはどうしようもないわ。大佐が私にキスする気がなければそれまでよ」
何と言っても自分達はただの上司と部下。恋人同士でもなんでもないのだから。ロイがそんな事・・・自分にキスするなんて考えられない。――あるはずがないのだ。
(大丈夫よ! 女性と二人きりでロマンチックな夕暮れの公園・・・なんてシチュエーション、男なら絶対グッとくるはずだもの)
どこから来るのだ、その自信は。ろくに男性と口をきいた事もないはずだろうに。
「でも・・・それでも大佐がその気にならなかったら?」
(それは・・・そうね、リザの魅力が足りなかったと思って諦めるわ。仕方ないわよね)
・・・シェリーの言いぐさはちょっと引っかかったが・・・これでキスしなくてもちゃんと満足してくれるという約束は出来た。ロイが自分にキスするなんてありえないから、これで今回のデートは終わったも同然。晴れて自分は解放されるのだ――。
リザはホッと胸をなで下ろした。一時はどうなることかと思ったけれど・・・この受難もあと少し。
「中尉!」
その時、ロイの自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
突然デート相手がいなくなってはさぞ、心配しているだろう。
「は、はい、ここです! すいません!」
リザは意を決するとロイの元へと戻る。

この後のデートが無事に終わると信じて――。




続く
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4.リザはパーフェクト・デートを目指した

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by netzeth | 2011-06-07 00:00 | Comments(0)