うめ屋


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by netzeth
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4. リザはパーフェクト・デートを目指した

「中尉・・・一体どうしたんだ?」
リザが戻るとロイは困惑の色を隠せない様子であった。
自分の行動を思い返せば、ロイの困惑ももっともだろう。
リザは改めてロイにも申し訳ない気持ちになった。それもこれも全ては幽霊に憑りつかれた自分のせいなのだから。自分は自分の都合でロイを今日一日振り回している・・・それも彼には真実を隠してだ。その事を思うとリザの胸は痛んだ。それでも、まさか本当の事は言うわけにもいかずリザは言葉を濁すしかなかった。
「すいません・・・その・・・」
困った表情を見せるリザを、しかしロイは好意的に解釈してくれたようだ。
「まあ、いいか。女性にはいろいろあるものだしな。さ、行こうか」
「はい」
ロイが腕を差し出してくる。リザがおずおずその腕に掴まると、彼女を引っ張るようにロイは歩き出した。
しばらく二人無言で、もうほとんど日の落ちた公園を歩く。
既に公園の各所に据えられている外灯がつき、公園内は仄かな明かりに照らされて、幻想的な雰囲気となっていた。
ロイの腕に掴まり彼の歩調に合わせて歩いていると、ぽつりとロイが口を開いた。
「そのペンダント・・・どうしたんだ?」
「え・・・」
ドキリっとリザの心臓が跳ね上がった。
昼間にもこのペンダントについて言及されたが、もしやロイは何かを感じとっているのだろうか? そんな疑念まで沸き起こる。
だがそれはリザの考えすぎであった。
「気に入っているのか?・・・君、この前の非番の日・・・ほら、時計台の前で君がナンパされてた時。あの時にもつけていただろう?・・・少し、気になっていたんだ。君は普段はあまりそういったアクセサリー類をつけないから」
ロイが気にしているのはこのアクセサリー自体の事ではないようだった。
しかし、あの時ロイに会ったのはほんの短い時間の事だ。ロイはその短い時間の中でリザが何を身につけていたのかまで記憶しているのだろうか。
「もしかして、誰か――男からのプレゼントかとも思ったりしてな」
「なっ、ち、違います。これは・・・」
「ああ、そうだろうな。最初はそう思ったが、今日も君がそのペンダントを身につけているのを見て思い直した。いくら君でも他の男に貰ったアクセサリーを身につけて、私とデートはしないだろうとね。・・・だけどやはり気になってね」
「・・・・・」
「つまり・・・私は君がそのペンダントを大事そうにしていたから嫉妬していたのかもしれないな。・・・ピアスを贈ったのも子供っぽい対抗心からだよ」
ロイは照れた様に笑う。
その笑みを見た瞬間、リザはまたドキリと心臓が跳ね上がるのを感じた。だがそれは先ほどとは違う動悸だ。心臓は跳ね上がってそのままドキドキと早鐘の様に脈をうち続けている。
何だろう、自分は少しおかしい。
「ああ、私は何を言っているんだろうな。・・・すまない、忘れてくれ」
俯いているリザをどう思ったのか、ロイは頭を掻いて苦笑する。
リザはロイの顔をなんだかまともに見れなかった。
今日はこれまでずいぶん恥ずかしい思いをしてきたが、これは別格だ。
「今日は楽しかったよ、中尉。まさか君からデートに誘ってくれるなんて思ってなかったからな」
「わ、私の方こそっ、楽しかったです・・・」
そこでようやくリザは顔を上げた。
ロイが自分を見下ろしていた。真っ正面から見つめ合う。自分は今みっともない顔をしているだろう。けれども、何故かその漆黒の瞳から目が離せなかった。
その瞳の中に自分が映っているのが見えた。そしてそれはだんだん近くなっていく・・・。いつの間にか頬に大きな手の暖かさを感じていた。
そう、ロイの顔がすっと近づいて・・・。
これはキスだ。
今、自分はロイとキスしようとしている――。
こんなのはダメだと思う自分と、いや好都合だと思う自分が一瞬の間にせめぎ合う。
これで、シェリーは満足するだろう。このデートは彼女にとって完璧な形で締めくくられるのだ――。このロイとの初めてのキスで。
そんな!!
「ダメ!!」
気がつけば手が出ていた。
どんっとロイを突き飛ばしたリザ自身、その自分自身の行動が信じられなかった。
呆然と己の両腕を見て。
「あ・・・ごめんなさい!!」
そのままロイの方を見ることもできずに走り去る。
「中尉!!」
ロイの呼び止める声さえも振り切って、リザは公園内を闇雲に走った。


しばらく夢中で走って息が切れたところで、ようやくリザは立ち止まった。息が整って、冷静になってくると改めて自分がしてしまった事が思い起こされた。
「ごめんなさい、シェリー。約束が違ったわね。せっかくのチャンスだったのに・・・私・・・」
先ほどから一言の声も聞こえてこない幽霊に話しかける。彼女は全てロイとの一部始終を見ていたはずだった。
チャンスをふいにした事を責められるのを覚悟していた。彼女の未練を晴らせなかったのだ。
けれど、聞こえてきた声はリザの想像に反して穏やかだった。
(謝るのは私の方だわ、リザ・・・私あなたにヒドい事をさせたわ・・・)
「シェリー?」
(あなた、あの人の事がとても・・・とても好きなのね)
私が・・・大佐を?
思いもかけない事を言われて、リザは瞬いた。
そんな事、考えた事もなかった。
「そんな、まさか。違うわ、シェリー。彼はただの上司で・・・」
(違わないわ。私、あなたは彼の事なんとも思ってないって思ってたから、キスくらい軽いものよねって気楽に考えてたの。でもそれこそ違ってたのね)
シェリーはふふふと笑う。
(あの時キスできなかったのは、あなたが彼の事を本当に好きだからよ。だから・・・こんな形で、私なんかに強制されてのキスは出来なかったんだわ)
リザはロイを突き飛ばしてしまった時の事を思い出した。あの時に感じていたのは・・・そう、あれは悲しみ?
私はキスしたくなかった・・・彼とあんな形で・・・。
(リザ、ありがとう。私はとても満足よ。もう、十分。思い残す事はないわ)
「え?」
突然、シェリーの声を遠くに感じた。
今まであんなに頭の中にうるさいくらいに響いてきていたのに。
(私の世界は錬金術が全てだった・・・こんな風に人に優しくして貰ったのなんて初めてだったわ・・・あなたと一緒にいた時間はまるで女友達と恋の話をしているみたいで楽しかった・・・)
「シェリー?」
彼女の声はどんどん遠くへ行くようで。
リザは戸惑う。
今まであんなに迷惑に感じていたというのに、いざ居なくなってしまうと思うと寂しいと感じるなんて現金なものだ。
(さようなら、そしてありがとう・・・私、ようやく行くべきところに行けそうよ・・・ねえ?・・・きっと彼も・・・あなたの事・・・)
最後の言葉は聞き取れなかった。
かしゃりと音がした。それはペンダントが外れて落ちた音だった。
地面に落ちたそれをリザは拾い上げる。
その赤い宝石にはもう、あの怪しい輝きは感じられなかった。
「さようなら、シェリー・・・」
ペンダントを握りしめて、ほんの短い間だけの同居人にリザは別れを告げた。
あの騒がしい声の返事は、もう返ってはこなかった。




続く
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by netzeth | 2011-06-09 00:00 | Comments(0)