うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth
プロフィールを見る
画像一覧

ギュッとしてチュー

「よお、ロイ! 元気かあ?」
「たった今、元気じゃなくなった・・・」
午後の東方司令部に響きわたった、ひたすら脳天気な声に私は盛大に顔をしかめてみせた。だが、奴はそんな私の事など露ほども気にせず、バンバンと無遠慮に肩を叩く。
「そーか、そーか。そりゃ困ったなあ。よし、俺が元気の出るものを見せてやろう。・・・ジャーン! 見ろ! 俺のマイ・天使、エリシアちゃん、あんよがじょーず☆だ!」
無理矢理鼻先につきつけられた写真には、1~2歳くらいの幼女が掴まり立ちをしている。
「どーだ! 可愛いだろ~プリティーだろ~キュートだろ~」
「・・・全部だいたい同じ意味だろうが」
しかし、私のツッコミなど無意味であった。奴はひたすらハイテンションに突っ走っている。
「ん~? 俺の可愛いエリシアちゃんだけじゃ不満か? そんなお前には・・・ジャーン! マイ・女神のグレイシアも一緒☆バージョンも・・・あ、勘違いすんなよなー、グレイシアは俺のであっていくらグレイシアが美しすぎるからってお前にはやらんからな?」
「いらん!!」
バンっと机を叩いて私は奴――ヒューズの寄越した写真を突き返した。
まったく・・・私は大きくため息をついた。
親友のマース・ヒューズは中央の軍法会議所に所属する軍人である。階級は中佐。国家錬金術師でもなく、私と同い年で中佐の地位にあるのだから、相当な切れ者なのである。事実奴には助けられる事も多い。イシュヴァールを共に戦い抜き、私の野望を理解し、助力を約束してくれている頼もしい同士・・・のはずなのだが、この異常な家族自慢さえなければ・・・と常々思っている。
今日は東方への出張がてら中央の情報などをリークしに来た(そしてついでに家族自慢をしに来た)・・・らしいが、絶対にその本題とついでが逆のような気がするのは気のせいではあるまい。
今日も奴は仕事なんか二の次といった体で、元気に家族自慢している訳である。・・・これで一体いつ仕事しているのかいつも謎なのだが。
「やだねーーロイくんたら、イライラしちゃってさー」
「誰のせいだっ」
「やっぱり独りもんはダメだね、余裕っていうもんがないよ」
「関係ないだろう!」
「いんや、関係おおありだね。・・・お前さーリザちゃんとはどーなってるわけ?」
突然出てきた中尉の名前に、私は不覚にも動揺する。
「なっ、何バカな事を言ってるんだっ。どーもなっているわけないだろう。彼女はただの部下だ! あと、ちゃん付けするな。ホークアイ中尉と呼べ!」
「ただの部下ねえ・・・」
ふーんと私に胡乱げな眼差しを向けるヒューズ。
その含みのある視線に私は弱かった。
何しろヒューズはイシュヴァールの頃から私と中尉を知っている。奴に彼女との関係を詳しく話した事は無いが、勘の鋭い男だ、彼女と私がただならぬ関係であることはすでに見抜かれているだろう。その上で奴はこの話題を振ってくるものだから質が悪い。
・・・私が中尉をどう思っているのかも見透かされているのかもしれない。愛する女性と迷いもなく結婚した奴からしてみたら、私たちの関係はさぞ歯がゆく見えるのかもしれないな。
「ただの部下にしてはロイくん、嫉妬し過ぎじゃね? リザちゃんって呼んだだけでさー」
「なっ、嫉妬じゃない! 軍部内で階級で呼ぶのは当然のことだろう」
「ふーん。じゃ、プライベートなら、リザちゃんって呼んで良いわけ?」
「ぐっっ・・・ダメに・・・決まってるだろう!」
叫ぶようにして立ち上がった私をきょとんと見上げた奴は。
「ぶっ、あははははーー! ロイっ、最高! お前・・ふっ、ははははははーー!!」
腹を抱えて笑いだした。
・・・判っている。ただの部下にたいしてそんなこと口出しできるような立場にないことは。だけど、他の男に(例えヒューズでも)リザちゃんなんて彼女の名前を呼ばれるのはムカつくんだ。くそっ・・そんなに笑うな!
「いい加減に笑うのを止めないと、燃やすぞ・・・」
「ははは・・・ひぃ・・やーおもしろいわ。お前やっぱ。東方司令部のロイ・マスタング大佐といえば、イーストシティどころかセントラルまで名を轟かすプレイボーイだっていうのによぉ・・・彼女の事・・・大事なんだな」
「・・・ああ」
そうだ。私は彼女の事が大事だ・・・大事過ぎてどうしたらいいか判らないくらいに。
「大事にするのは良いけどよ、時には思い切って行動してみるのも良いとお兄さんは思うぜ」
「誰がお兄さんだ。先輩風をふかすな」
「だって、俺、妻帯者だもん。こういう方面じゃお前の先輩よ? 俺」
片目をつぶってみせる仕草が本当に先輩面で、少しムカつく。
「なんでもいいからよ、踏み出してみろよ。以外にも簡単に壁なんかぶち壊せるもんだぜ? 俺の時も最初はさーグレイシア、ちょっと控え目な奥ゆかしい女性っていうの? だからさーこう、いい感じになるまではいろいろあってさー、でも、今はもうラブラブ? そうそう、この前もさー」
せっかく、たまにはまともな話をしたかと思えばあっと言う間にいつもの家族自慢に戻ってしまった。
まあ、奴は奴なりに私達の事を心配してくれていたのだろう。・・・おせっかいめ。
少し、ヒューズに感謝しても良いような気がしていた私は奴の家族自慢をおとなしく聞いてやっていたが、それが延々延々と続くにあたってやはり、だんだんと我慢できなくなってきた。そして、とうとう、話がエリシアとパパとの愛のコミュニケーションその10に至ったところで、
「いい加減にせんか!!」
私の堪忍袋の緒が切れた。
「人が止めないと思えばお前は~~同じ話を何度も何度も・・・」
「同じ話じゃねーよ、いいから聞けって。そこで俺はいつも家に帰ると一番にだな・・・エリシアちゃんをギュッとしてチューっとするわけなんだよ。その時のエリシアちゃんがだな・・・これがまた可愛くって・・・」
私は発火布を装着する。
・・・奴にはこれくらいしなければダメなんだ。
問答無用で指を擦ってやれば奴の前髪のあたりで、ぼんっと火花が散った。
「わっ! 判った! 行くよ! もう帰るからっ。んとにお前って短気だよなあ・・・そんなんだからリザちゃんに・・・」
「うるさい!」
私は続けざまに指を擦った。ぼんっ、ぼんっとヒューズの鼻先で爆発が起こる。
「うわっ・・・!」
ヒューズは慌てた様子で回れ右をして部屋から出ていく。やっと行ったか・・・と、胸をなで下ろしたところで、扉が再び開くとヒューズが顔だけ覗かせた。
「ロイ、お前も早くリザちゃんを嫁に貰えよ!」
ニカっと笑い、言いたい放題言ってじゃなっとヒューズは素早くドアを閉めた。
「なっ!」
私はカッとなって立ち上がった。
どうしても一言言ってやらねば気がすまん!
ツカツカと扉に近づく。
「いいか! ヒューズ! いい加減しないと私がエリシアを・・・・」
扉を開けつつ、すうっと息を吸い込みながら親バカに一番効くだろう脅し文句を口にする。
「ギュッとしてチューするぞ!!」
「「あ」」
そこに居たのは髭面メガネではなかった。
金色の髪、鳶色の瞳。その大きな瞳を見開いて・・・己の副官リザ・ホークアイ中尉が私を凝視していた。
彼女のすぐ後ろにいたメガネがニヤニヤ笑いながら、じゃなロイ頑張れよ! などと言いつつ手を振って去っていく。
・・・謀ったな・・・ヒューズ・・・。
私は事態を把握していくにつれ、顔が火照っていくのを感じた。
ヒューズはちょうどやってきた中尉を私の「ギュッとしてチュー」発言に合わせて、扉の前に押し出したのだ。
つまり・・・先の私の発言を・・・彼女は当然自分に向けられた(何しろ主語を彼女は聞いていない)と思っているはずで・・・。
あまりの事態に私は混乱のあまり、言葉が出なかった。ここで中尉も、「何言ってるんですか、くだらない事を言ってないで仕事してください」とでも、素っ気なく返してくれれば良かったものの、しかし彼女は、
「あ、あの・・・私・・・・」
なんて言いながら、ポッと顔を赤らめたりしてくれた訳で。
私も自分の台詞を改めて反芻してしまったりなんかして。そして、中尉の反応を重ね合わせると・・・彼女は嫌がっていない――なんてとんでもない結論に達してしまう訳で。
「覚えてろよ・・・ヒューズ・・・」
しばらくはまともに副官の顔を見られそうもない。
おさまらぬ顔の火照りを片手で覆って隠しながら、さて彼女になんて言おうと、私は途方にくれるのだった。



END
*************************

お読み頂きありがとうございましたvv
[PR]
by netzeth | 2011-06-11 10:52 | Comments(0)