うめ屋


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by netzeth
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 名前の無い関係 1

「今夜は行けそうにない」
彼から入ったそんな電話。軍の回線を使うとまずいからって外に出てかけてきたらしい電話。
別に約束なんてしてないのだから、そんな事しなくたってかまわないのに、わざわざ律義にかけてきた電話。
私が非番の日の夜は必ず彼は私の部屋に来る――それはいつの間にか二人の間での暗黙の了解になっていたようで。
「今日は来ないんですって」
私はいつもよりソワソワした様子だった愛犬の頭を撫でる。
この子はいつも一緒に遊んでくれるあの人が好きで。賢い子だから、私の様子で彼が来るかもしれないと判っていたのだろう。
ドアの前に座って待っていたらしいこの子は私の言う事を理解したのかそれとも偶然か、
「きゅ~ん?」
少し寂しそうな甘えた声を上げた。
それに笑って私はハヤテ号を抱き上げる。
そのままソファーに座って膝の上に乗せ撫でてやると、彼は気持ち良さそうに目を細めた。
柔らかな黒毛の感触が誰かさんとダブる。
・・・別に寂しい訳じゃない。
けれども、彼の好きなビーフシチューを沢山作ってしまったから処理に困るなとか、仕方ないから部屋を掃除した事とか、ベッドのシーツまで新しくしてしまった事とか、いろんな事が頭をよぎって困る。
こんな風にぽっかり空いてしまった時間は余計な事を考えてしまってとても困る。
別に寂しいわけじゃない。私はもう一度自分に言い聞かせた。
私達の関係には特別な名前なんかついてなくて、だから、私には寂しいとか思う必要は無いわけで。
いつの間にか眠ってしまったハヤテ号を抱き上げて、私は立ち上がった。
こんな日は私ももう、寝てしまおう。眠って全てを忘れてしまおう。そして、明日にはまた部下の顔であの人に会える様に。

私はハヤテ号を彼専用のバスケットにそっと降ろすと、ベッドルームへと向かった。

――食卓の伏せられた二人分の食器だけがそれを見ていた。


 名前の無い関係 2

もうすぐ退勤・・・という時刻を見計らったかの様に中央の将軍の来訪を告げる報告が入った。ロイの事を煙たがっているこの将軍は、何処からかの視察帰りの様で、大方通りがかったついでに嫌味の一つや二つ言いに来ただけに違いない――そうロイは決めつけた。
とにかく慌てて司令部の外の公衆電話に走り、己を待っていてくれているだろう彼女に電話をかけた。
「今夜は行けそうにない」
彼女の反応は怒るでもなく、ましてや残念がる風でもなく、ただ一言。
「事件ですか、私も参りましょうか」
冷静ないつもの副官がそこにいた。
事件ではない旨を告げると安心したようだったが、結局今夜の予定のキャンセルを惜しむ様な言葉は聞けなかった。
それが正しいのだろう・・・私達の関係には。
この関係には名前がない。只の上司部下ではなく、ましてや恋人同士といった甘い関係などでは決してない――こんな関係には世間一般のステレオタイプなど当てはまらない。そんな曖昧な関係に甘い言葉など期待してはいけないのだ。
それでも、とロイは思う。それでもやっぱり、自分は彼女の事を・・・。
結局の所二人の関係を只の上司と部下にも恋人同士にも変える事が出来ないでいるのは、大事にすべきものが自分には多すぎるからだ。ロイにはどちらも捨てさる事は出来ない――ならば、どちらも手に入れれば良い――元来錬金術師という生き物は欲張りなのだから。
そう結論付けるとロイは電話ボックスを出た。
差し当たっては、いかにあの嫌味な将軍との会談をスマートかつ迅速に切り上げるかだ。
――そして、何時までなら彼女は起きているだろうかと考えながら、ロイは司令部へと戻って行った。


 名前の無い関係 3

深夜のアパルトマンに控え目なノックの音が響いていた。
それはとある部屋の前で軽く三度繰り返えされ・・・やがて音は止み、変わりにコツコツと遠ざかっていく足音に変わる。
「大佐?」
諦めて踵を返した所で、ロイは後ろから声をかけられた。
振り返るとリザが半分ほどドアを開けて顔を覗かせていた。
もう休んでいたのだろう、パジャマにカーディガンを羽織った姿だった。
「すまないね、起こすつもりは無かったんだが・・・」
「何を今更。いらっしゃっておいてそれはないでしょう・・・さあこんな時間です、近所迷惑ですから早く入って下さい」
どこか怒った様な表情でリザがロイを招く。
「あ、ああ」
それに戸惑いながらもロイは扉をくぐった。
促されるままにソファーに腰を降ろすと直ぐに湯気の立っているティーカップがおかれる。
「それでも飲んでいて下さい。夜食をお出しますから。・・・どうせ夕食、きちんと食べてらっしゃらないんでしょう?」
「あ、ああ。すまない・・・もしかして用意しておいてくれたのか?」
「まさか・・・残り物ですよ」
そう言いつつもリザが用意してくれたのは自分の大好物のビーフシチューで。
「・・・」
サラダにパンとやけに豪華な夜食をロイは早速頂く事にする。
そんなロイの様子をリザは何も言わずにジッと見ていた。
「その、すまなかったな。こんな時間に」
「・・・ええ、本当に。そう思うなら控えて下さい。こんな時間に出歩くなんて不用心ですし、自宅にお戻りなった方がゆっくりお休みになれるでしょう?」
やっぱり何処か怒った様な彼女に、やはり迷惑だったのだろうかとロイは思う。
件の将軍の相手を苦労して務め、舌先三寸でどうにかこうにか最終のセントラル行きの汽車に乗せて、ようやくやってこれたというのに。
気持ち良く寝ていた所を起してしまったのは悪かったが、もう少し・・・こう、疲れてやってきた自分に対していろいろあっても良い気がする。
・・・それも仕方のない事なのだろうか。自分達はそんな甘い関係ではないのだから。
暖かい食事にありつけだけで良しとすべきなのかもしれない。
そんな事を考えながら食事を終えると、ロイは立ち上がった。
「さて、腹も一杯になった事だし、帰るよ。・・・遅くに悪かったな。ご馳走さま」
「え・・・」
名残惜しい気分を振り払う様にロイは玄関へと向かった。
後ろからリザがついてくる気配がする。
顔を見てしまうと帰るという決心が鈍りそうで、ロイは振り返えらずにドアノブに手をかけ――そこでグイッと後ろに引っ張られた。
「中尉?」
後ろからロイの片腕をまるで抱き付く様にリザが抱えていた。
「帰ってはダメです・・・」
「・・・」
「その・・・こんな時間に外を歩くのは危険ですから・・・泊まっていって下さい」
「・・・良いのか?」
「・・・仕方ありませんので」
伏せられたリザの顔は良く見えなかったが、耳は赤く染まっていて、抱えられた腕を引く力は強かった。
・・・まるで絶対に離さないという様に。
不器用な彼女の想いが初めて判った様な気がした。
・・・もしかして、今夜彼女は自分が来るのを待っていてくれたのかもしれない。
肝心な事は何も言わず、口を開けば迷惑だみたいな事を言いながらも、それでも自分を待っていてくれたのかも。
「そうか」
ロイは振り返ると、素直じゃない彼女の頭にそっとキスを落とす。自分の想いも少しでも彼女に伝わる様に。

自分達の関係にはこれと言う名前はない。
けれど、今はこれで良いと思う――互いを想う気持ちはどんな関係にも負けないのだから。




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by netzeth | 2011-06-15 20:51 | Comments(0)