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by netzeth
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雨宿り

朝から降りしきる雨が止む気配を見せない昼下がり、非番のリザはため息をついて壁掛け時計を見上げた。
時計は13時を少し過ぎた時刻を指している。
「まだこんな時間なのね・・・」
愛犬の散歩にも買い出しにもこんな雨では出かける気は起きない。まだ小さい子犬の愛犬を濡らす訳にはいかないし、傘をさしていては買い物もたいした量は出来ないだろう。
部屋の掃除も終わってしまった今、するべき事が無くなってリザは時間を持て余していた。何か部屋の中で出来る様な趣味でもあればこの休暇を有意義に過ごせるのだろうが、考えてみても銃の手入れくらいしか思い浮かばなくて、リザは再びため息をついた。
休日でも自分は軍に関わる事しか出来ないらしい。
もう少し女性らしい趣味でも見つけようか――刺繍とか編み物とか。思わずそんな事まで考える。
己の上官などは休日前になるとウキウキした様子で、「明日は新しく手に入った錬金術書を読むぞ」などと言っていたりするのだが。彼の様にある意味自分の楽しみの追求と仕事に通ずる事柄が同一線上のベクトルにあれば良いのにと思ってしまう。
すると頭の中に上官――ロイの顔が浮かんできて。
・・・大佐、ちゃんと仕事しているかしら。
なんて、リザの思考はいつの間にかやはり仕事へ――ロイへと向いてしまうのだ。
特に雨の日の彼は絶不調で書類もサボりがちになる。そんな彼に喝を入れるのはいつも自分の役目なのだが。リザが非番の今日、果たして誰が大佐に仕事をさせているのだろうか・・・そんな事をつらつらと考えだすとキリがない。
いっそ自分には休暇など必要ではないのかもしれない――ふと思い浮かんできた結論がおかしく、リザが笑みを浮かべたところで。
「ワンっ」
部屋の角の己の寝床で伏せていたはずの愛犬が声を上げた。
彼が鳴く時、それは来訪者を意味する。
これは彼を飼い初めてから出来た最近のホークアイ宅の不文律で。
間も無く、トントンというノックの音がする。愛犬が尻尾を振りながら飛び出して行くのを追って玄関へと向かった。
「どなたですか?」
「私だ」
ハヤテ号の反応から知り合いだろうかと予想はしていたが、思わぬ人物の声にリザは慌ててドアを開ける。
そこには今し方思いを馳せていた人物が立っていた。
「大佐? 一体どうなさったんです?」
どう考えても今はまだ勤務時間である。もしや何か緊急事態だろうかなんて思考が脳裏をかすめるが、
「何、ちょっと雨宿りをさせて欲しくてね」
当のロイの反応は呑気なもので。ほーっと息を吐き出してリザも緊張を解いた。
そんなリザをよそにロイは家主の許可もなくどんどんと部屋に入っていく。キャンキャンっと嬉しげに鳴きながら子犬が彼の足元にまとわりついていた。
そしてそのままハヤテ号を抱き上げるとロイはこれまたリザに許可も無く、どっかりとソファーに腰を下ろしてしまった。
「・・・今は勤務時間中のはずですが」
仕方なく彼の前にリザも腰を下ろすと、チラリと彼を見やって疑問をぶつけてみる。
「午後から急遽視察が入ったんだ。だがこの雨ではな。だから雨宿りに来たんだよ」
ロイは涼しい顔で膝に乗せたハヤテ号を撫でている。そしてその後、リザが何を聞いてものらりくらりと話を逸らしては肝心な事を言おうとはしなかった。疑問は残ったが、仕方なくリザは雨に濡れて冷えているだろうロイのためにお茶を用意する。
湯気の立つティーカップを彼の前に置くと、早速ロイが手を伸ばして一口飲んだ。
「うん。やはり君が淹れてくれるお茶は美味いな」
なんて満足気に笑っているロイにリザはますます彼の考えている事が判らなくなった。
――昔からときどき何を考えているか判らない時がある人だったけれども。そしてそれは必ずこういったプライベートに関する事なのだ。
リザが気を揉む間にも、ただ時だけは静かに過ぎていく。
いつの間にかロイの膝の上に乗っていたハヤテ号が眠ってしまっていた。彼は優しくただ子犬を撫でている。
会話の接ぎ穂を見失ってしまい、二人の間には沈黙が落ちた。それがいたたまれなくて、リザはロイからついと目を逸らした。
窓の外は未だ土砂降りの雨。
彼は――ロイは本当に何をしに来たのだろうか。雨宿りなどと称してはいるが、今日は朝から一日中雨が降っているのだ。通り雨の様に待てば止むという訳ではない。
それも自分は非番でもロイは勤務中なのだ。わざわざ一体――?
ロイの真意が掴めずにリザは戸惑っていた。だが、不思議とそれを直接訊こうという気はもう起きなかった。
――なんとなく訊いてはいけない様な気がしたから。
それに。
こんな風に静かな時間をロイと共有するのも悪くない――そんな事を考え始めている自分がいる事にリザは気がついていたから。
「邪魔をしたな」
不意にロイが立ち上がった。
「そろそろタイムリミットのようだ」
ポツリと呟く様に言うと、ロイは抱き上げた子犬をバスケットにそっと寝かせ、そのまま玄関へと向かう。
リザも慌てて彼の後に続いた。
扉の前でリザを振り返り、
「また来るよ」
そう言い置いて、この雨の日の訪問者は、来た時と同様に唐突に去っていった。
残されたリザはしばしの間、扉の前に佇んでいた。
なんとなく、なんとなくだが、もし自惚れても良いならば。
ロイは別に用事なんてなくて。何の理由もなくただ自分の家に茶を飲みに来ただけかもしれない。
そんな考えが思い浮かぶ。
それはつまり・・・自分に会いに来たということなのではないか。その仮定を確信する事は今のリザには出来なかったが。
けれど。
・・・そうであったら良いと願う事は赦されるはずだ――。
リザは時計を見上げた。午後13時30分。
30分にも満たない短い時間であったけれども、いつの間にかリザの心はふわふわとした暖かい気持ちに満ちていたのだった。


路肩に停めた車にロイが乗り込むと、運転席にいた男が振り返った。
「大佐~緊急的かつ速やかに処理しなければならない中尉への用事って済んだんっスか?」
「ああ」
「ところで一体その用事って何だっんスか」
「・・・栄養補給だ」
「はあ~?」
「いいから、出せ。視察に間に合わなくなるだろうが」
「へいへーい」
車は滑る様に走り出すと、雨の降りしきるイーストシティの街へと消えていった。




END
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by netzeth | 2011-06-24 21:00 | Comments(2)
Commented at 2011-06-25 17:09 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by うめこ(管理人) at 2011-06-26 12:38 x
>豆兎様
ご感想ありがとうございます!とても嬉しいですvv
二冊とも読んで下さったのですね~お気に召して頂けたようで良かったです。
いつもと違うリザさんも楽しんで頂けたようですね☆ハボが大佐に!?は本当だったらある意味ハラハラ展開でしたね(笑)リザとロイを取り合っても楽しかったかも?ロイアイではなくなってしましますが(笑)
それではこの度は本当にありがとうございました!!