うめ屋


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月と酔っ払い

「22:30」
今、何時ですか? という質問に、ロイは大人しく胸のポケットから銀時計を取り出すと、恭しくその時刻を告げた。
「なんだ・・・まだそんな時間? まだ宵の口じゃないですかあ~~夜はまだまだこれからですよぉ~~」
もう一軒行きましょ? もう一軒!
途端に騒ぎ始めた腕の中の彼女に、
「なあ・・・頼むから、帰ろう? 中尉・・・」
半分泣きたい気分でロイは訴えたのだった。


この酔っぱらい――もとい、リザ・ホークアイ中尉がこんなになるまで飲んでしまったのには、理由がある。
元々それほど酒を飲むタイプではない彼女だが、別に酒が嫌いという訳でもないらしく、ほどほどに同僚達に付き合っては飲み会などにも行ったりする。が、やはりがっついて酒を飲む訳でもなく、いつもはハメを外しがちな男連中の面倒をみるのが彼女の飲み会での姿の常であった。そうやって、いつも酔いつぶれた男共(主にロイ)の介抱をする彼女であったから、彼女自身が酔いつぶれたらどうなるのか・・・? なんて事はロイにとっては想定外の事だったのである。
そして、今日のマスタング組恒例の飲み会は、いつもとは違う形で行われた。夜になって、急にロイがグラマン将軍に呼ばれたのである。が、特に緊急の用件ではなく、内容はいつものチェス兼雑談――だったため、ロイは後から合流できたらする・・・という形で、ロイを除くメンバーで飲み会が始まったのだ。
みんな知らなかった。・・・リザが実はロイが酔いつぶれた時のためにいつも酒量を意図的に控えていたことを。そして、実は酒が嫌いではなく・・・むしろ大好きだったという事を。かくして、ロイのお守りから解放された今夜のリザは、久しぶりだったためか、周りの制止も聞かず、最初からハイペースに飲みまくり・・・見事な酔っぱらいとして降臨した訳である。

「だ~か~ら~、もっともって来てって言っているじゃない! 聞いてるの、少尉?」
「聞いてます! 聞いてますから・・・もうやめといた方がいいですって。何本空ければ気が済むんスか・・・あっ大佐! いいところにっ。中尉を止めてくださいよー!」
将軍とのチェスを何とか早めに切り上げて、指定の店にと急いで来てみれば、ロイの目の前でいつもクールで有能な己の副官が酒瓶を振り回して、部下に絡んでいた。
一滴も酒を飲んでいないというのに、頭痛がしてきそうな光景にロイは思わずこめかみ押さえた。
「何が起こった・・・ブレダ?」
とりあえず、一番まともな思考回路を保っていそうな酒の強い部下に聞いてみる。
「サー。えー見ての通り、ホークアイ中尉が酔っぱらっているでのであります。サー」
「・・・それは、見れば判る。じゃなくて、なにが原因でこんな事になっているんだ・・・?」
「・・・たぶん、今夜は大佐の面倒みなくていいって、中尉も気が抜けちまったんじゃないすか。・・・すげーペース早かったし・・・日頃からいろいろ溜まってたんじゃないすかね」
そのいろいろは怖いので、追求するのは止めておく。
「とにかく、なんとかしてくださいや。中尉があんなんじゃ俺たち落ち着いて飲めませんよ」
「・・・それは私の役目なのか・・・」
「元は言えば大佐が日頃から・・・」
「あーー判った、判った。私がなんとかする!」
仕方なくロイはリザの傍らに立つとその腕を掴んだ。
――なんとなく、今のリザには近寄らない方がいい気がしたが。
絡まれていたハボックが天の助けとばかりにロイに縋るような視線を送ってくる。ちなみにその向こうで、我関せずと飲んでいるファルマンといち早く潰れているフュリーが目に入った。
「ほら、中尉。いい加減にしたまえ。そんなになるまで飲むなんて、君らしくないぞ?」
「ん~~? 大佐?」
とろんした眼差しでリザが見上げてくる。
真っ赤になった目元、薔薇色に染まった頬、いつもより紅い唇がイヤに色っぽい。 
なんとなく直視できずに、ロイは視線を逸らした。
「大佐~~! 遅いですよ~~! 何やってたんですかあ~~? どうせ将軍と遊んでたんでしょう~~? もう、ほんとにいつもいつも・・・二人して遊んでばかりいるんですからあ」
舌っ足らずな口調でしゃべるリザはどこか幼く感じる。思わず可愛いなあ・・・なんて思って油断していると、
「将軍に悪い事ばっかり教わって……ほんとに、もうっ、知りませんからあ・・・あなたはいつもいつも・・・」
と、どんどんまずい方向に話が流れていく。
このままお説教モードに入ってはたまらないと、ロイはリザの腕を引いて無理矢理立たせた。
「ほらっ、中尉。帰ろう? もう十分飲んだろう? これ以上は明日の仕事に差し支えるぞ? 君、実はそんなに酒強くないだろう? 絶対明日二日酔いするぞ?」
「え~~」
「え~~じゃない、ほら、行くぞ。しっかりしたまえ!」
とりあえず、勘定は払って置くからと野郎の部下達に言いおいて、ロイはリザと共に店を出ることにする。
まだ酒に未練があるらしいリザは、ぷうっと頬を膨らませていたが、かまわずロイはリザを引っ張っていった。

今夜の月は満月だ。
22:30を回った時刻でも、月の光は明るく街を照らしていて、ストリートは道行く人々で賑わっている。その月明かりの下を酔っぱらいと男が歩いていく。
ふらふらしているリザを支えながら、ロイはまだもう一軒行くと騒ぐ彼女を宥めすかして、何とか自宅に帰らせようとしていた。
通行人の視線が痛い。
こんな美人とくっつけて役得だな・・・みたいな視線を感じるがとんでもない。
彼女の熱い吐息や、いつもより近いこの距離は心臓に悪い。なるべく無我の境地を保っているが、時折腕に感じる柔らかな感触もだ。
自分は送り狼になる気はないのだ――。
そう、自分に言い聞かせながらロイは必死に理性を保っていた。
だが、そんなロイの苦労も知らず、当の酔っぱらい本人は気楽なもので、
「大佐! あれ! あれ可愛い~~欲しいです!!」
なんて、ショーウィンドウに飾ってある小さなクマのぬいぐるみを指さしてねだったりしている。
こんな時間でも、その店はまだ営業しているようで店内は明るかった。
ここはどうやら夜の商売をしている女の子達のための店のようだった。または、女の子本人ではなく、その女の子のためにプレゼントを買っていく男達が利用したりするのだろう。女性が好みそうな商品が店内に並んでいるのが、ウィンドウ越しにも判った。
リザがロイに物をねだるなんて初めてのことだ。
それこそ、彼女が酔っぱらってでもいなければ起こり得ない事かもしれない。酔っぱらっているからこその可愛いわがままを、ロイはきいてやりたかった。
「待っていろ。買ってくるから」
そう、言いおいてリザを店の前に立たせる。
彼女はショーウィンドウのクマがよほど気に入ったようで、ふらふらした身体をウィンドウで支えるようにして、クマに見入っている。
「そのまま、動かないで」
もう一度リザに念を押してから、ロイは店に入って行った。
しばらくして、クマの首にプレゼント用の赤いリボンを巻いて貰ってから、ロイはその小さなクマのぬいぐるみを持って店を出てきた。
「ほら、中尉。買ってきたぞ」
店の前で待っているはずのリザに声をかけるが、彼女の姿はどこにも見あたらなかった。
「なっ、動くなと言ったのに!」
舌打ちして、ロイは周囲を見渡した。
なにせ、あの酔っぱらい様だ。今の彼女はなにをしでかすか判らない。
目を離すんじゃなかった・・・と今更ながら後悔しつつ、ストリートを探し回っていると。
少し離れた場所から、歓声のような、はやし立てるような、そんな人々の声が聞こえてくる。
嫌な予感を覚えてロイはその方向へと走った。
近づくにつれて、人々の声が明確に聞こえてくる。
「いいぞーー! 姉ちゃんっ」
「ヒューーやるねえ!」
ようやく現場にたどり着いたロイは、人垣を無理矢理かき分けて、その騒ぎの中心へと入って行った。
そしてロイが目撃したのは四人ほどのガラの悪い男達と・・・それに相対している金髪の美女。
ロイはその場に卒倒しそうになった。
男の一人はすでに地に伏しており、意識はないようであった。
「てめえ! このアマ! ちょっと可愛いからって優しくしてやりゃあ調子に乗りやがって!」
男達が金髪美女に殴りかかる。
それを金髪美女はひらり、ひらりとかわし・・・そして長く美しいラインを描く脚が宙を舞い、男の一人の側頭部を捉えた。スカートがめくれ上がり、惜しげもなく白い太ももが露わになる。
そのたびに周囲の野次馬たちからは歓声が上がる。
見るな! あれは私のだ!!
心の中で絶叫しながら、ロイは発火布をはめた。
金髪美女――リザを早く止めなければ。いろいろととんでもない事になる。・・・もう十分なっている気がしたが。
「止めろ! 女性一人に男が寄ってたかって恥ずかしくなのかね?」
実際、やられているのは男達の方だったが。
「あ、大佐~~」
ロイをみとめたリザが嬉しそうに手を振る。
その隙にガラの悪い男の一人がリザに掴みかかろうとしたのを、ロイは指の一擦りで退けた。
突然起こった爆発に、男達は呆然とする。
「おい・・・今、大佐って・・・」
「ああ・・・それに今の爆発・・・」
「大人しく引き下がるなら見逃してやろう。・・・焔の錬金術師の名を知って向かってくるのなら、相手をするが?」
「ひぃ!・・・やばいぜ、本物だ!」
「なんで、こんなとこに・・・」
青ざめた男達はロイに一睨みされると、リザに倒された仲間を抱えあっと言う間に逃げていく。
そして、ロイもリザ手を掴むと野次馬達の視線から逃れるようにさっさとその場を後にしたのだった。

「まったく・・・! 何をやっているんだ君は!」
ようやく人通りのない場所までリザを連れてきたロイは、その勢いのままリザを叱りつけた。
リザを叱るなんて滅多にあることではない。
そして、酔っぱらっているとは言ってもやはり慣れないロイの怒鳴り声にリザはしゅんと頭をたれていた。
「だって・・・女の子が絡まれていたから・・・放って置けなくて・・・民間人に銃を出すわけにもいかないし・・・あんなの素手で十分だったしい・・・」
ぽつりぽつりと事情を話すリザにロイははあ・・・と深いため息をつく。
「もう、いい。・・・とにかくもうあんな無茶はしないでくれ。心臓が止まるかと思ったぞ」
「はーい」
優しく言ってやればもう、ロイが怒っていないと安心したのかリザは笑顔になった。その様子にロイも思わず苦笑する。まったく今夜はとんでもない夜だ。リザが酔っぱらって、自分が面倒をみて、そして彼女を叱りつけている――全ていつもと逆ではないか。
「さあ、帰るぞ」
リザを促して歩きだそうとすると、
「んっ、痛っ」
突然、リザがしゃがみ込んでしまった。
「どうした!?」
リザが押さえている足の辺りを見てみると、そこは赤く腫れていた。
「これは・・・」
「最初のやつを~~蹴った時に~捻ったみたいなんですう・・・」
「なっ、なんで早く言わないんだ!」
「だって・・・言うヒマがなくてえ・・・」
リザはその細く形のよい眉を八の字にして、申し訳なさそうに言う。
「まったく・・・酔いが覚めたら君、自分の所行に驚くぞ。男四人相手に大立ち回りしたあげくに、捻挫した・・・なんて。・・・これを持っていなさい」
クマのぬいぐるみをリザに渡して、ロイはリザの前にしゃがむと振り返った。
「ほら、おぶってやるから」
「でもお・・・上官にい・・・そんなことしてもらうのはあ・・・」
「何を今更。上官も何もあるか。ほら」
リザがおそるおそるロイの背に乗ってくる。
とんと思ったより軽い重みを感じてロイは微笑むと、よっと勢いをつけて立ち上がった。

月明かりの中を二人で歩く。
しばらく歩いていると、リザが思い出したように口を開いた。
「大佐~今日は~うちに~泊まって行ってくださいね~」
「えっ、いいのか?」
「はい~大佐を~一人で~帰すのは~心配ですので~~でも~~何にもしちゃあダメですよぉ~?」
「・・・判った」
実は一瞬期待したとは、言えないロイである。
そして、しばらくの間二人は無言だった。
背中に柔らかな暖かさを感じながら、ロイはぽつりと呟いた。
「まったく・・・しっかりしてくれよ? 君がいないと私は無能になってしまう・・・」
すると、返ってこないと思っていた返事が返ってきた。
「いいんです。大佐は無能で・・・じゃないと、私はおそばにいられませんから・・・」
「え?」
「ずっと無能でいてください」
「それはどういう・・・おい、おいっ、中尉?」
後はスースーという寝息が聞こえてくるだけだった。
――とんだ酔っぱらいだな。
人を振り回すだけ振り回した挙げ句、最後に爆弾発言までして、寝落ちとは。
まったく、今夜は驚かされる事ばかりだ。だが、たまにはこんな夜も悪くはないだろう。少なくとも、可愛い副官の意外な一面を幾つも見ることができたのだから。
ロイの口元には知らず知らずのうちに笑みが浮かんでいた。
そして、眠ってしまったリザの身体をよっと抱え直すと、ロイは満月の光が照らす道を歩いていった。


次の日の朝。ロイの腕の中で目覚めたリザに記憶がないのはお約束で。その時一騒動あったのも、やはりお約束の事である。

「頭・・・痛い・・・」
「だから言ったじゃないか。」




END
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こちらはロイアイの日素敵企画「611Museum of Anniversary」様の企画内企画「セリフしばっター」に投稿させていただいたものです。サイトにて再アップさせて頂きました。
あらかじめ決められたセリフ使うというルールだったのですが、書いていてとても楽しかったです。

当たり前ですが、文章って書かねば情報が読者に伝わりませんよねー。書いてませんが、この話のうめこ的ポイントは、発火布はめてチンピラに「見逃してやるが?」とかカッコつけて凄んでる時でも、ずっとマスタングはクマのぬいぐるみを持っていたりするという絵図らだったりします(笑)
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by netzeth | 2011-07-11 21:09 | Comments(2)
Commented at 2011-07-12 00:42 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by うめこ(管理人) at 2011-07-12 21:55 x
>猫宮かりん様
猫宮様こんにちは!
そうです、猫宮様のサイトにコメントさせて頂いたのは私ですw間違いではありませんよ~。以前から伺わせて頂いていたのですが、愛を我慢できずにwコメントさせて頂きましたv乱文失礼いたしました。

私の方こそ、猫宮様がまさかうちのような辺鄙なサイトをご存じでいて下さって、そして私の名前を知って下さっていたなんて感激です!
しかもしょうもない事しか書いてない日記まで読んで頂いているなんて・・・本当に嬉しいです☆

実は私も大佐>中尉のロイアイスキーなんです~。(ロイアイ界では少数派なんですかね?)かといってロイをかっこ良く書けるかというとそれは別の話なんですが(笑)

そして、拍手見つけづらくてすいません~うちのサイトの拍手どうも探しにくいらしくて・・・(以前にもご指摘を受けた事があるのです・・・)要改良ですね(^_^;)

私の方こそロイアイサイトの管理人様に名前を憶えていただいていたなんて、とても光栄です!
またサイトの方にお邪魔させていただきますね♪
この度はコメント本当にありがとうございました☆