うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth
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kiss

「「あ」」
人々で賑わう夕暮れのシティ、露天市場。
特に目的もなく歩いていたロイは、ばったりと見慣れた顔に出会った。
「大佐・・・」
こんな場所でロイに会うとは思っていなかったのだろう。彼女――リザは、大きな鳶色の瞳を更に大きく見開いて、こちらを凝視していた。
買い出しの最中だったようで、両手には大きな紙袋を抱えている。紙袋からは大量の食材やら生活用品などがのぞいてた。
「どうなさったんです? こんな時間にこんな場所で・・・珍しいですね」
「ああ・・・いや」
通りの真ん中に二人で突っ立っていては通行人の邪魔だと、二人して路肩に植えられた木の下まで、移動して。純粋に疑問に思ったらしいリザにそう、尋ねられたロイは一瞬答えに窮した。
今日、リザは非番で、ロイは仕事だった。
そんなロイがこんな早い時間に退勤したのにはもちろん理由がある。例によって女性とのデートの約束があったのだ。ところが、土壇場になって相手の都合が悪くなり、キャンセルとなってしまった訳なのだが。もちろんデートなどと称してはいるが、それは情報収集の一環であり、本当に女性とデートする訳ではない。それはリザも理解していてくれているのだろうが、それでも、今でもロイはデートだとリザに告げるのを何とはなく躊躇ってしまう。
それは己が持つ彼女への複雑な想いに端を発している事を、ロイは薄々は自覚していた。
「今日は幸い早く上がれたからな、たまにはこういうところを覗いてみようと思ってな・・・、市井の情報を得る事は悪い事ではないだろう?」
デートをキャンセルされたので暇つぶしにぶらぶらしていた――という真実を伏せ、もっともな理由をさも当然の事の様にロイは述べてみせた。
「そうですか」
長い付き合いのこの副官にはお見通しなのかもしれなかったが・・・それでも、リザは表面上は納得したような顔を見せた。
「それより、それ、重そうだな。よっ」
「あっ」
深く突っ込まれないうちに、とロイは早々に話題を変える。リザが手にしていた紙袋をあっと言う間に二つとも彼女から奪い取って、己の腕の中に収めてしまった。
「大丈夫ですよ、これくらい。鍛えていますから・・・」
「そういう問題ではないんだよ。・・・女性の荷物を持つのは男の役目だ。任せたまえ」
慌てて困り顔でロイから荷物を取り返そうとするリザに、ロイは笑顔を向けた。
でも・・・となおも渋る様子のリザに構わず、ロイは歩き出す。
「ほら、まだ買うものがあるんじゃないのか? せっかく荷物持ちがいるんだから、こき使いたまえよ」
冗談めかして片目を瞑ってみせれば、諦めたのかリザは嘆息して、ロイの後に続いた。

その後も何軒か店を二人でまわり、やはりまだ躊躇うリザを解き伏せて、ロイはリザと共に彼女の自宅へと向かっていた。
上官に荷物を持たせた上に自宅まで送らせる・・・という行為に抵抗があるのか、リザは申し訳ありません、としきりに恐縮している。それに、ロイは自分がしたいからやっているんだと笑顔を向けたが、内心ではいつまでも固いリザに苦笑していた。
――昔のリザはもう少し素直に自分を頼ってくれていた様な気がする。まあ、上司部下という関係である今の自分達とあの頃を比べてはいけないのかもしれなかったが。
師匠の弟子と娘という関係であった自分達。
ホークアイ邸で共に暮らしていた頃は、何かしてやる度にリザは、はにかむような笑みをみせて、ありがとうございますマスタングさんと言ってくれた。
ロイはその笑顔が大好きだった。思えばあの頃からロイはリザに好意を持っていたのかもしれない。
結局、ついにそのほのかな恋心を打ち明けること無く、二人の道は分かたれてしまったが。
そして、辛いこと、苦しいこと、様々な出来事を経て。今、再びその道は交わり、こうして二人で同じ理想を追いかけている。
その関係に不満はなかったが、時折蘇る若かりし頃からの想いを、ロイは持て余していた。
一度は深く傷つけ、裏切ってしまった彼女。こうして新たな関係を築いた今となっても、その後悔は今も胸に残る。そして、そんな自分が彼女に愛を告げるなどということは出来ない事をロイは知っていた。
知っているからこそこの想いに蓋をして、見ないふりをしてきた。ところが時折、それはロイ自身も気づかぬうちに顔を出すのである。
そう、今日の様に。
一歩後ろではなく、隣を歩いている彼女をそっと盗み見る。その綺麗な横顔が近くにあるだけで、ロイの心は躍るのだった。
やがて、リザのアパルトマンに到着した。
二階の部屋の前まで来ると、リザが鍵を取り出してその扉を開ける。
「・・・どうぞお入り下さい。お茶くらいしか出せませんけれど・・・」
ロイを振り返って、リザは遠慮がちに申し出る。その押しつけがましさの無い奥ゆかしさに新たな好感を覚えながらもロイは首を振った。
好きな女の部屋に招かれる・・・なんて男にとっては絶好のシチュエーションだった。けれど、
「いや・・・気を使わないでくれ。今日は帰るよ」
これ以上を望んではいけない。自分はただほんの少し彼女の役に立つだけで満足なのだから。
そう、ロイは自分を戒める。
「ですが・・・」
残念そうな口調のリザに期待を持たずにはいられない。そんな未練振りきって。
「・・・また、明日」
ロイは踵を返そうとして。
「あっ、大佐」
「ん?」
「今日はありがとうございました。とても助かりました・・・やっぱり男の人がいると違いますね」
リザがちょこんと頭を下げる。
肩に下ろした金髪の髪がさらりと揺れ、そこからふんわりと匂いたつ彼女の香り。
ほんのりと頬を染め、滅多に見せない笑みをその口元に浮かべて。
気がつけばロイの体は動いていた。
ふにゃりとした柔らかい感触。
リザの頬に手を添えて、ロイはリザにキスをしていた。
ほんの一時、重なり合う唇。
一瞬後、我に返ったロイは慌ててその身を彼女から離した。
「・・・・・!!」
ロイは何か言わなくてはと口をパクパクさせたが、何も言葉は出てこなかった。
何て事をしてしまったんだという後悔と、心のどこか飢えて乾いた部分が、慈雨が大地に染み渡る様に満たされていく感覚。
その二つがせめぎあって、ロイの心をさらに混乱させた。自分のした事が信じられない。決して表には出さずに固く封印してきた想いだったのに。
「・・・す、すまん、忘れてくれ・・・」
何とか絞り出した声は我ながら情けない色を帯びていて。ロイはリザの顔をまともに見ることが出来なかった。
ただの上司に――男として好意も何もない男にいきなりこんな事をされて、彼女は不快に思っているはずだ。それは当然の反応であるが、その表情を見てしまう事はロイとっては辛い事だった。
ところが。
「・・・忘れませんよ」
返ってきた返事にロイは驚く。
思わずリザを見返せば、耳まで赤くなったリザが、けれど、しっかりとロイを見つめていた。
「忘れません」
「・・・中尉」
彼女の真意は見えなかったが。
それでも、リザの意志は伝わってきた。
彼女は受け止めてくれたのだろうか? この自分の想いを。
「・・・帰るよ」
「はい・・・」
はっきりとした答えを聞く勇気もないままに、ロイはリザの部屋を後にした。これ以上ここにいたら、自分はもっとバカなことをしでかしてしまいそうだった。
リザも今度は止めては来なかった。
見送るリザの視線を背中に受けながら、ロイは明日から一体どんな顔をして彼女と会えば良いのかそればかり考えていたのだった。




END
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リザたんの色香に思わずキスしてしまったマスタングでしたー。
原作でもしロイアイがキスするとしたらどんなシチュ?という疑問を自分なりに全力で考えたもの。(全力を出すところが間違っているw)
思わずしちゃった・・・みたいなのも萌えるなーと。
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by netzeth | 2011-08-07 21:16 | Comments(0)