うめ屋


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by netzeth
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Memories

それを彼女が最も大切にしている母親の写真と共にソナタを奏でるオルゴールの小物入れから見つけた時、私は息苦しいほどの愛しさに胸を締め付けられた。


「どうぞ・・・ちらかってますが」
彼女の部屋は彼女自身の申告通り雑然としていた。最も、それでも私の部屋とは比べようもなく片づいてはいたと思う。それに、今現在雑然としているのは無理も無い事だった。何しろ現在進行形で引っ越しの最中であるのだから。
「今日中に荷造りを終えなければならないんです」
眉を寄せた困り顔でそう、遠慮がちに切り出した彼女。詳しく話を聞けば、今日中に全ての荷造りを終えて、イーストシティに送る手配をしなければ、向こうの部屋の入居に間に合わない・・・との事だった。
再び東方司令部での勤務の辞令が降りて、まだわずか。私と共に赴く部下達がその用意にてんてこまいだったのは知ってはいたが、ほんの数日前まで入院していた彼女も例外では無かったらしい。
元来有能な彼女の事だ、すぐに東方での新しい住居を確保したまでは良かったが、軍務上の手続きなどに時間を取られ、私物など、プライベートでの荷造りはさっぱり手をつけられていなかった・・・らしい。
中央には手伝いを頼める様な友人・知人もおらず、まして、「約束の日」の傷跡が未だ残る中央はいまだ混乱の中で。なかなか専門の業者も捕まらず、かといって期限は刻一刻と迫り――そうして彼女は私を頼ってきたのだ。
「・・・お手伝いをお願いしてはいけないでしょうか?」
今まで彼女がこういった事で私を頼って来たことなど無かった。どういう心境の変化か、それともそれだけせっぱ詰まっていたのか。彼女の真意は見えなかったが、珍しく彼女に頼られて悪い気がしなかった私は、一も二もなく彼女の頼みを引き受けたのだった。

「そちらの本棚をお願いできますか」
彼女が指し示したのは小じんまりとした部屋には似つかわしくない、大きく立派な本棚だ。
そこには錬金術の専門書といった分厚い本が並んでいる。これは全て彼女の亡き父――私の師匠の蔵書だったものだ。師匠が亡くなった時、その蔵書のほとんどは彼女から私にと譲られたが、私自身すでに所有していた本や、必要の無いものの一部を処分せずにこうして残して置いたのだ。彼女がこの錬金術書を読むのかは判らないが、彼女にとってこの本はおそらく父親の形見のようなものなのだろう。一部でも良いから手元に残して置きたかった・・・その気持ちは理解できた。
「判った」
私は本達を箱へと詰める作業に没頭した。リザの手元に残してある本はかつて私も読んで勉強した事のある本ばかりで、そのタイトルを懐かしく見返しているとなかなか作業ははかどらなかった。
こんな事ではせっかくの助っ人の意味が無い。私は自分を叱咤しつつなるべく無心に手を動かした。
本の埃を払っては箱に詰める。そんな単純作業を繰り返すうちに、本棚はあっと言う間に空になっていく。
私は立ち上がると、一番上の段へと手を伸ばした。
「おっと」
私は本を取り出そうとして、本の手前に置いてあった小箱を落としてまった。幸いもう片方の手でキャッチし、床に落とす事は無かったが。
「・・・ソナタか?」
手で受け止めた拍子にわずかに開いた箱から漏れだした澄んだ音に、私は引きつけられた。
どうやらこの小箱はオルゴールのようだ。
私は思わずその箱の蓋をそっと持ち上げていた。
途端に流れ出す、音楽。オルゴールの金属的な音はその本棚に仕舞われていた本達と相まって、私をノスタルジックな気分にさせた。
だから、私がそれを見つけてしまったのは、ほんの偶然であり、決して私は彼女のプライベートを覗こうとしたわけでは無かったのだ。
「写真・・・?」
小箱の中には一枚の写真が入っていた。セピア色の古びた写真。写っていたのは一人の女性だった。
一見して高級そうな服に身を包み、優しく微笑んでいる若い女性。私は最初それが彼女だと思った。あまりに彼女にそっくりであったから。ところが。よく見てみると、顔立ちはわずかに違うし、髪型も違う。そして纏う雰囲気も異なるものだった。私はこの女性・・・正確にはこの写真に見覚えがあった。
――リザの母親だ。
幼いリザが大切にしていた母親の写真。一度、飾らないのかと聞いたら、父親に気を使って、寂しそうに首を振ったその写真。あまり母親の写真を持っていないらしく、それが貴重な一枚である事をリザは私に話してくれていた。
・・・つまり、この小箱はリザの大事な物を仕舞っておく箱で。
私は慌てた。
女性の私物を勝手に見るなんて例え不可抗力でも紳士のする事ではない。私は写真を小箱に戻そうとして。写真の他にもう一つそのオルゴール箱に入っていた物に気付いてしまった。
それは小さな小さな紙切れだった。なんの変哲もない紙片。しかし、私はその紙片に強烈なデジャブを感じて、思わずそれを手に取った。
――間違いない。
間近で見て私は確信する。そこに書かれていた文字は紛れもなく自分の筆跡。そして、当時の自分の連絡先・・・。
「大佐?」
突然後ろからかけられた声に私は飛び上がらんばかりに驚いた。振り返ると、リザが不思議そうな顔をして私を眺めている。
「手が止まっているようですが・・・何かありまし・・・た・・!?」
その瞬間、流れるソナタの音楽で全てを悟ったらしいリザはものすごい早さで私の手からその紙片を奪い取った。その顔は熟れたりんごの様に耳まで真っ赤だ。
「な、な、なにを勝手にヒトの物を見ているんですか!!」
「・・・仕方ないじゃないか。見つけてしまったんだから」
「そーいう問題じゃありません!」
更に怒りの声を上げるリザだったが、何しろ顔が赤いのであまり迫力は無く、むしろ可愛い。
彼女はまるで恥ずかしい秘密を見られてしまったかの様な顔をしている。
――事実そうなのだろう。
「・・・まだこんなもの持っていたんだな」
これはかつて私が彼女に渡したものだ。まだ駆け出しのぺーぺーの軍人だった私の精一杯の気持ちを込めたこの小さなメモ書き。
何か彼女にしてやりたくて、でも、その時の自分にはそんな力もなくて。それでも、と思って渡したその紙片。結局その後彼女は一度もそのメモ書きを使うことは無く、そして秘かに連絡を待っていた私を落胆させたのだが。すでに処分されていてしかるべきそれがまだ彼女の手にある訳を私は理解できなくて。言外に何故? という疑問を含ませて彼女に話しかける。
顔を赤くしたまま彼女はちらりと私の顔を伺って、おもむろに口を開いた。
「・・・こんなものじゃありません。私にとって、これはお守りでした」
手の平の中のその紙片を彼女はきゅっと握りしめた。
「私にこれを使う事はとても出来なかったのですけれど、それでも、貴方からいただいたこのメモはいつだって私を安心させてくれました・・・貴方のお気持ちが・・・嬉しかったんです」
「・・・私は使って欲しかったんだけどな」
残念そうに呟けば、昔の事ですよ、と彼女は微笑んで見せた。
まあ、良いだろう。
時を経て、再び彼女と私は共にある。それはこれからも変わらない。
そして、あの時私を頼る事を良しとしなかった彼女が、今はこうして頼ってくれいてる。・・・頼りになるか判らない引っ越しの手伝いだが。
少しづつではあるが、確実に彼女との関係は変わっているのだ。
変わらないものと変わっていくもの。
流れるソナタが心地よくて、私はとりあえず彼女を抱きしめることにする。腕の中で彼女が抗議の声を上げていたが、私は聞かないふりをしたのだった。




END
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ロイが渡したあのメモは絶対リザたん大事にとってあると思う。
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by netzeth | 2011-08-21 15:15 | Comments(0)