うめ屋


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by netzeth
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嘘つき

「嘘つき」
その言葉を聞いた当初、リザは何を言われたのか理解出来なかった。
しばし呆然とした頭で、発せられた言葉の意味を吟味する。しかし、一瞬の驚きが去った後、ゆるゆると沸き上がってきたのはあまりにも突然にぶつけられた理不尽な言葉に対する反発心だった。
「何をおっしゃられるかと思えば・・・人をいきなり嘘つき呼ばわりするなんて穏やかではありませんね」
「何、嘘つきに嘘つきと言ったまでの事だよ」
問題の発言をした当の本人はちっとも悪びれない様子で、相変わらず唇の端をつりあげて、今のリザにとっては小憎らしいといえる笑みを浮かべている。
「生憎とその様な事を言われる覚えはありませんが。・・・裏表の無い性格だと自負しておりますもので」
ねめつけながら反論してやると、彼はあからさまにおやっという顔を作ってみせた。そんな白々しい仕草もいちいちリザの癇に触る――リザはロイの言動に自分が苛立っている事を自覚せねばならなかった。
「おやおや・・・我が副官ともあろう者が覚えが無いだって? 君、ボケるのはまだ早すぎないか。・・・それとも判っていてとぼけているのか?・・・やっぱり君は嘘つきだ」
「准将。いい加減にして下さい。それ以上おっしゃるなら私も本気で――」
「――二人きりの時リザって呼ぶのよ」
リザは目を見開いた。
「ああ、違うな。嘘はこの後だ・・・嘘よ、か」
「何故それを・・・」
「知っているのかって? 聞こえていたからに決まっているだろう?」
あの時はそれどころではなくて、深くは追求しなかったがね。そう言葉を付け足すロイの瞳は笑ってはいなかった。
リザの脳裏にあの約束の日の出来事がまざまざと蘇ってくる。マース・ヒューズの仇であったエンヴィーとロイが戦った時の記憶。今思い出してもリザは心臓を鷲掴みにされたような息苦しさを感じる。怒りに我を忘れたロイを止めた時の事、そして、撃ちたければ撃てば良いと言われた時のあの心細い気持ち・・・。決して忘れてはいけない出来事であったが、正直今はまだ思い出すのでさえ辛い記憶だ。
リザでさえそうなのだから、ロイにとってもあれは苦い記憶に違いない。けれど、その時の事を今現在思い起こしているのだとしたら、ロイにとってそれはようやく己の中で過去として消化できるようになったのだという事なのだろうか。それ自体は喜ぶべきことだろう。いつまでも過去の過ちに捕らわれていて前には進めない。しかし、ロイが思い出している記憶というのがあの時リザが吐いた嘘についての事柄であるのなら話は別だ。
何故今頃になって・・・とリザは知らず知らずのうちに己の唇を噛みしめた。
「・・・私が聞きたいのはね、君が何故嘘を吐いたのかと言う事だよ。・・・私が君と二人きりの時君を名前で呼ぶという事が嘘だとね。なあ、リザ?」
ロイと二人きりの執務室がこんなにも居心地が悪いと思ったのは初めてだった。
椅子から立ち上がるとロイはゆっくりとリザの後ろに立った。そして、ロイの腕がするりと伸びてリザの首に巻き付く。その一連の動作からリザは逃れることは出来なかった。
「・・・君は嘘つきだ」
「・・・あの時エンヴィーにわざわざ我々の事を明かしてやる事に意味はありませんでした」
「ああ、そうだな。だが、わざわざ嘘を吐いてまで否定する意味もどこにあった? それも滅びゆく者にだ」
「それは・・・」
吐息が近い。
わざとのように声を低くしたロイはリザの耳に直接囁きかけてくる。リザがその声に弱いと知った上で。
「リザ。私は怒っているんだよ。君はいつだって嘘ばかりつく」
ぺろりとロイの舌がリザの耳朶を舐めた。
「ひゃっ」
リザは思わず悲鳴を上げる。
反射的に体をねじろうとして、しかしがっちりとその見た目に反して鍛えられたロイの腕でリザはホールドされていた。
「は、離して・・・くださ・・」
「そろそろ本当の事を言ったらどうなんだ? 私を愛してるって。・・・本当はこうされるのが嬉しいって」
「そ、そんな事・・・」
「ほら、また嘘だ」
もう、君の嘘は聞き飽きた。
ロイの腕がリザのアンダーシャツの中に入り込む。
意図を持って動き回る掌にリザの思考はかき乱された。
ロイの手を必死に拒もうとリザの手がロイの腕を掴む。しかしその抵抗は弱々しいものに過ぎない。
本気で逃げようと思えば逃げられる。
本気で拒絶すれば解放してくれる。
けれど、こうなるといつだってリザの体は動かなくなる。ロイに抱きしめられると力が抜けてしまう。
自分の身体は嘘をつけない。
ロイに抱きしめられる度に、リザはその事を嫌というほど思い知らされていた。
だから、自分が嘘をつくのは最後の抵抗なのだ。
「嘘ばかりつく口は塞いでしまおう」
そして、その唇を柔らかく奪われれば、もう、リザには抵抗する手段はない。
後はともに堕ちていくだけ。

やがて、執務室に熱い吐息が満ちる頃には、もう互いの事しか見えなかった。




END
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嘘は嘘というお話。
マスタングにあの発言が聞こえていた訳はないので、(物理的に)これはある意味もし聞こえてたら・・・?というパラレルです。地獄耳黒タングという事で。
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by netzeth | 2011-08-31 01:36 | Comments(0)