うめ屋


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by netzeth
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紳士淑女の会話

夜空を映したかの様な漆黒のドレスに身を包んだ彼女の手を取ってエスコートしつつ、私はパーティ会場を後にした。
建物を出るとひんやりとした風が私の頬を撫でる。ようやく秋を迎えたばかりのこの季節、昼間の外気温に比べて夜の空気は冷える。むき出しの腕では寒かろうと、私は自らのスーツのジャケットを脱ぐと彼女にさりげなくかけてやった。
「大佐?」
驚いたのだろう、彼女は大きな鳶色の瞳を見開いて私を見上げた。
「この時期の夜の空気は冷える。・・・女性が身体を冷やすものではないよ」
片目を瞑ってみせれば照れたのか、彼女――ホークアイ中尉は俯きながら小さな声で礼を言った。耳が赤い。その反応に私は満足する。彼女にとっていつもの私は仕事をさぼってばかりいる手のかかる上司だろうが、今夜ばかりは紳士を気取ってもかまうまい。
そう、今夜私達はとあるパーティに出席した。
パーティ自体はさして特別なものではない。私が普段頻繁に招待されている、イーストシティの有力者達の集まり・・・いわば社交場の様なものだ。東方司令部の実質的な司令官としては、その実務の円滑な遂行のための必要な付き合い――と言って良いだろう。正直面倒な事この上ないが、これも仕事のうち・・・と私は割り切っている。
そして、いつもの様に招待状が司令部へと届けられた今夜のパーティだったのだが、いつもと違っていたのはその招待状に要パートナーと記されていたことだ。つまりパーティの出席者は必ずパートナーを伴って来ること、と。
こう見えて私はモテる。そりゃあ、もう、すごくモテる。よってこの手の頼みを引き受けてくれる女性には事欠かない。けれど、それはプライベートでの話だ。正直半分仕事みたいなこのパーティーに普段付き合いのある女性を連れていくのははばかられたし、何より、それによって生じる誤解も面倒だ。マスタング大佐がパーティーに連れて来た女性イコール恋人だのと勝手に噂された挙げ句、仲人が趣味の暇な爺さん連中に捕まって結婚話を進められる・・・なんて事になったら、目もあてられない。
そうして、しばし悩んだ末に私の出した結論は。
――誤解されてもかまわない女性を連れて行けば良い。
という事だった。
「この辺りにハボック少尉が車を回しておいてくれるはずなのですが・・・」
ほんの一刻前、パーティーにおいて完璧に私のパートナーを務め上げた中尉が、ロータリーを見渡した。
パーティーの客達を送り迎えするための車でそこはごった返しており、容易にはハボックの運転する車を見つける事はできそうになかった。
――パートナーが必要なんだ。護衛を兼ねて・・・良いだろう?
そんな私の頼みをしぶしぶながら引き受けてくれた彼女。
普段滅多に見ることのできないドレスに身を包んだ彼女は私の想像以上に美しかった。そんな彼女を見ると、美しく着飾った女性なんて今まで腐るほど見てきているのに、まるで初な少年に戻ってしまったかのように、私の胸は高鳴った。
「あっ、大佐、いましたよ」
中尉が指し示す方向に首を巡らせれば、ツンツンした金髪のガタイの良い男が運転席の窓から手を振っていた。
私達は車にかけよると、車に乗り込んだ。
そして、我々を乗せた車は静かに動き出した――。


「ご苦労様、少尉。助かったわ」
「いーえ、これも仕事っスから」
タバコをくわえたまま、ハボックが笑っているのがバックミラー越しに見えた。車内は基本的には禁煙がルールだったが、今日のところは中尉もうるさいことは言わないらしい。ま、運転手として役に立っているからな。多めに見てやるか。
「ところで、中尉」
「なんですか?」
二人で後部座席で隣同士なんて珍しいシチュエーションに、私は少し良い気分でいたが、さっきからどうにも気になって仕方がない事があった。
「・・・さっきから、君のバッグから香ばしい匂いがするんだが」
中尉が持っているパーティー用の小さなバック。そこからやけに食欲をそそる香りがする。なんていうか、これは・・・その・・・。
「ああ、これですか? ペーパータオルに包んで持って来たんですけど匂いますか? すいません」
彼女はこともなげにその小ぶりのバッグからこんがりと狐色に焼かれた骨付きチキン(特大)を取り出した。
「な、何を持ってきているんだ! 何を!」
「だって、もったいないじゃないですか。皆さん会話に夢中で全然お料理に手をつけないんですよ? どうせ余るならと思いまして。ほら、このチキン、ハヤテ号が喜ぶとお思いません?」
どうやってバッグに入れたのか謎なその特大チキンを見せる彼女はとても得意げで。私はその行為を咎める気をすっかり無くしてしまった。そういえば、彼女は昔から食べ物に対しては貪欲だった。・・・きっと少女の頃の貧しい生活による栄養不足が原因だと私は思っている。その割には育つべきところはめでたくしっかりと育ったが・・・話が逸れた。
「君は・・・まったく貧乏・・ゴホンッ節約家だね・・・」
「恐れ入ります」
いや、誉めてないんだが。
せっかく良い雰囲気だったのに、なんだかぶち壊しだ。
私が内心ため息を吐いた時、
「ところで、大佐」
今度は中尉が私に話かけてきた。
「なんだ?」
「はい、実は先ほどのパーティーで、何人かの男性から連絡先と思われるメモを渡されたのですが・・・」
「なんだって!?」
油断も隙もあったものじゃない。
これだけ美しい彼女なのだから、悪い虫の一人や二人寄ってくるだろうと覚悟はしていた。注意して見ていたつもりだったのだが。私の目を盗んだ不埒な輩がいたようだ。それも何人も!
くそ、いつだ・・・。私が女性達に囲まれていた時か? それとも・・・。
ところが、わたしの葛藤をよそに、
「どうぞ」
「へ、どうぞって・・・」
中尉は彼女に気がある連中が渡したと思われるメモの束を私に渡して来た。一瞬意味が判らず私は目を白黒させてしまう。
「私に近づいていたのは、おそらく大佐と繋ぎを取りたかったのだと思われますので」
「いや、それ、君個人に連絡したいんだと・・・」
「私に? 何故です?」
中尉は本気で判っていないのか、きょとんとした顔をしている。
「尉官程度の私と繋がりを持ったところでなんのメリットも・・・」
「・・・いや、判らないんなら良いんだ」
そう、一生判らないままでいてくれ。
彼女を独占したい私にはその方が好都合である。
天然なのか、時々大ボケをかましてくれる彼女が愛しいから。
「それなら、私からもこれを渡しておくよ」
そう言って、私は懐から同じ様なメモの束を取り出すと中尉に渡した。
「?これ・・・」
そう、それは私が今日のパーティーで女性達から秘かに渡されたメモだ。いつでも連絡してね、と。
「これは大佐が頂いたものですよね? どうして私に?」
「何、等価交換だよ」
「・・・はい?」
ちっとも判ってない彼女は可愛く首をひねるばかり。
いいんだ。君のメモは私が後できっちり灰にしておいてやる。だから、君はそのメモを好きにしてくれ。それが私の君に対する気持ちだから。
いまだ訝る様子の愛しい彼女を眺めながら、とりあえず私はさっきから運転席で必死に笑いを堪えて肩を震わせているハボックの頭を一発はたいて黙らせたのだった。




END
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中尉は何でもハヤテ号優先な気がする。
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by netzeth | 2011-09-07 21:20 | Comments(7)
Commented at 2011-09-10 13:54 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by うめこ(管理人) at 2011-09-11 23:49 x
>ぺんぺん様
コメントありがとうございます!
リザさん可愛いと言って頂けて大変嬉しいですv
リザさんはハヤテ号のためならやりそう・・・という天然イメージがあるんですよw 美人で天然で・・・って本当に最強ですよねー。ロイはいつもリザさんに悪い虫がつかないか見張っているきがしますw
Commented by raru at 2011-10-24 10:13 x
今まで読んできた中で一番の作品です
Commented by らる at 2011-10-24 10:14 x
最高pppp
Commented by うめこ(管理人) at 2011-10-24 23:03 x
>raru様
コメントありがとうございました! すごく嬉しいお言葉とても光栄です(^^) こんな作品ですがお気に召して頂けたのだなあと思うとやる気がみなぎりますv お言葉励みにしてこれからもがんばりますね!

>らる様
上のお方と同じお方でしょうか?(違ったらごめんなさい;)お楽しみ頂いたようで、私もとても嬉しいです。よろしかったら、また覗きにいらして下さいね!
Commented by さくら at 2014-01-23 18:55 x
周囲の目を盗んで、特大チキンをバッグにしのばせる美しい中尉の姿が目に浮かびます。ハヤテ号は罪な男ですね。
Commented by うめこ(管理人)  at 2014-01-23 23:13 x
>さくら 様

コメントありがとうございます♪ 嬉しいです(*^_^*)
ハヤテ号のためならば中尉は何でもやってしまいそうですよね~。確かに罪作りな男ですねv ロイさんの一番の強敵かもしれません(笑) 

お読みいただき、またご感想をありがとうございました☆