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by netzeth
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ミッションインポッシブル?前編

リザ・ホークアイに男の影があり・・・そんな話題なんて今更だ。
ここ東方司令部において、今までにその手の噂なら掃いて捨てるほどあった。そして、大抵の場合はリザが最近綺麗になった気がする――などといったあいまい情報から邪推された根も葉もない噂である。しかもそのような噂が出るのは何もリザに限った事ではない。未婚であるならば、男女問わず異性交遊に関する噂はついて回るものである。それでも、リザにこの手の噂が出る度に殊更取りざたされるのは、彼女が美人かつ有能なこの東方司令部の司令官の副官務める才媛であり、しかも、男のおの字も無いような鉄の女・・・というイメージを周囲に抱かせているからであろう。皆、リザの様なお堅い女性のゴシップ・・・といったセンセーショナルな話題に飢えているのだ。
故に。朝一番に作戦室に入った途端耳に入ってきた男達の雑談の内容を、またかと思った程度でロイは特に気にしてはいなかった。
「本当だって、あれは絶対ホークアイ中尉だったね。中央市場の横にあるマーケットでさ、一人分とは思えないくらいの買い物をしてたんだよっ」
「それ、ただ単に買いだめしてただけじゃねえの?」
「そんな事無いって、良いか、聞いて驚け。なんと・・・男性用ひげ剃りまで買ってたんだぜ! シェービングクリームとセットで!」
まるでそれが決定的証拠だと言わんばかりの勢いで、その下士官は一人鼻息も荒く主張している。それに対して、話を聞く同僚は冷ややかだった。彼にとってはホークアイ中尉に恋人出現!? なんて正直食傷気味の話題であるからして、あまり熱が入っていないのかもしれない。
「それ、いつの事だ?」
「先週の俺の非番日だから・・・水曜日だ」
「ふーん、で、おまえは中央市場に何しに行ったんだよ?」
「それは・・・買い物に・・・」
「へー、一人でか?」
「・・・ほっとけ!!」
どーせ、俺は彼女もいない寂しい一人もんだよっなんて、嘆く男に周囲からどっと笑い声が上がる。東方司令部、始業前のたわいもないやりとりである。
聞くともなしにその話題に耳を傾けていたロイも、一人ひっそりと笑った。
何のことはない。先週の水曜日、その日リザが男性用ひげ剃りを買いこんで向かった先は・・・ロイの自宅であったからだ。
何か入り用なものはないかと聞かれてひげ剃りがきれている・・・そう答えたのはロイ自身である。
そう、二人は休日にプライベートで自宅で会うほどの親密な仲――ロイとリザは恋人同士なのである。
上官とその副官という立場上、ロイ達の関係は公にすることはできない。だから、真っ昼間から街で二人仲良くショッピングという訳にはいかないが、それならばそれなりに自宅デートを楽しんでいるのである。大抵はロイの部屋にリザがやってきて過ごすのが最近の決まりのパターンだ。その度に、彼女は洗濯をしたり、掃除をしたりといった風に何くれとロイの世話を焼く。せっかくの休日にまで働く事はないだろうとロイは思うのだが、リザ自身動いていないと落ち着かないというし、そんなロイも頭の中に世話女房という言葉がちらついていて、まんざらでもなかったりするのであった。
つまり、リザの行動には必ず自分が絡んでいるのだ。それは恋人としての当然の確信であった。
だから、その情報を朝っぱらから雑談しに来たらしい近しい部下から聞いた時、ロイは何かの間違いだと思った。
「良いッスね~大佐」
「何がだ」
「またまた~、とぼけちゃって」
「だから、何がだ?」
話が見えない事にロイは苛つきながら、くわえタバコの部下――ハボックを睨みつけた。
「え? 今日、中尉とデートなんでしょ」
「なんだって?」
ハボックを始めとした、いわゆるこの東方司令部でマスタング組と呼ばれる面々――彼らはロイとリザの仲を知る数少ない同士だ。ロイは彼らを信頼しているし、彼らもロイとリザの事を応援こそすれ、みだりに吹聴するような事はせず、そっと見守ってくれている。時々このようなからかいを含んだ事を言われたりもするが。
「え? だって・・・いや何でも無いッス」
ロイの反応にハボックはあからさまにヤバいという顔をして、慌てて言いかけていた言葉を濁した。しかし、それでごまかされるロイではない。
「・・・ハボック」
殊更低い声で名前を呼んでやれば、ハボックの顔をがひきつった。心なしか青ざめているように見える。
「・・・燃やされたくなければおまえの知っている事を洗いざらい話せ」
「・・・サー」
ロイの脅し文句に、渋々と言った調子でハボックが口を開く。
「昨日から今日にかけて、中尉は夜勤でしたよね」
「ああ、そうだな。・・・そういえば私はまだ会っていないな・・・」
「俺、今朝、引き継ぎん時会ったんスけど」
「それで?」
「・・・中尉、夜勤明けだっていうのに、なんだかすっごく楽しそうっていうか・・・そわそわしているっていうか。中尉がそんな様子みせるのなんて珍しいじゃないッスか。だから思わず、俺、デートッスか? って聞いちまったんですよね」
「・・・で?」
「そしたら、中尉顔を真っ赤にしまして。違うのっ、そんなんじゃないのっ、っておもいっきり否定してましたけど、中尉ってそういう方面はすっごく判り易いんすよねー。全然誤魔化し切れてないっていうか。――そういうとこも可愛らしいっつーか・・・って、発火布はやめて下さいって! 俺は彼女一筋です! 中尉のことは何とも思ってませんって!」
前髪を焦がされる寸前のハボックがちょっと涙目なる。懇願するように見つめられて、男の潤んだ目など鬱陶しいだけなので、ロイは発火布を引っ込めてやると、先を続けるようにハボックを促した。
「・・・だから、俺、今日はてっきり大佐と約束でもあるのかなーって思ったんス・・・」
「・・・・・」
ロイは沈黙した。
そんな約束をした覚えは無い。
今日は自分は通常勤務で、リザは夜勤明け。二人の自宅デートは必ず非番が重なった時――と決まっている。たまに仕事帰りに食事に行きそのまま・・・などという事もあったりするが。
その時は決まってロイがリザの部屋をはんば強引に訪れ、リザが拒みきれずに・・・という流れだ。次の日の朝、リザにお説教されるのは言うまでもない。
そんな例外を除いて、ロイとリザのデートは必ず非番の日と決まっているのだ。
「き、きっと、友達とかと会う約束でもあるんじゃないッスか。あ、もちろん女友達ですよ! 男じゃないッスよ?」
沈黙してしまったロイにハボックがフォローを入れたが、言わずもがなな事まで口走り、当然ながらそれは火に油を注いだだけであった。
男――リザに限ってそんな事は無い・・・はずだ。
自分達は誰がどうみたってラブラブだ。自分はリザを愛しているし、リザだって同様なはずで。
リザが他の男と会う・・・なんて事はあるはず無い。
けれど一度湧き上がった疑惑は消える事はなく。それどころかロイの中でどんどん膨らんでいく。
リザを信じている。信じているが・・・。
「大佐、おはようございます」
その時作戦室に入って来たのは、噂の張本人である。ある意味絶妙のタイミングでのリザの登場に、ロイは動揺した。
「今日、処理して頂きたい書類の件なのですが・・・」
ロイの心の内など当然知らず、リザはいつも通り淡々と仕事の話を始める。そこには恋人同士の甘いやりとりは無い。二人の間での暗黙のルールの一つに、仕事にプライベートは持ち込まないというのがあるからである。
「あ、ああ・・・」
しかし、今のロイにはリザの言葉は耳に入らなかった。頭の中は今日のリザの予定についてでいっぱいだった
「――と、以上です。私はこれで上がらせて頂きますが・・・大佐? マスタング大佐?」
「・・・ん、ああ?」
「・・・ちゃんと聞いてらっしゃいました?」
何より愛しい鳶色の大きな瞳で、リザがロイをじっと見つめている。その瞳を見ていると彼女を誰にも渡したくないという思いが改めてこみ上げてくる。
「もう・・・真面目に仕事してくださいね?」
そう告げると、リザは踵を返し作戦室から出ていった。
その後ろ姿をじっと見送って。
ロイはやがてゆっくりと自らの席から立ち上がると、さっきからハラハラした視線を送って来ていたハボックへと向き直った。
「・・・ハボック。私は今日、緊急の視察が入った。これから街へ出る。・・・皆にはそう言っておくように」
「へ? ・・・っちょ、何言ってるんスか。今来たばっかりじゃないッスか。中尉にもちゃんと仕事しろって言われたばかり・・・ってちょっと! どこ行くんすか!」
騒ぐハボックを後目にロイは着替えるべくロッカーへと向かった――そう、制服では目立ちすぎる。

――ロイの愛をかけたミッションが今、始まろうとしていた。



続く
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続いちゃいました。

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by netzeth | 2011-09-17 01:21 | Comments(0)