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by netzeth
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勝負

「マスタングさん」
「なんだい? リザ」
「勝負下着って何ですか?」
「…………は?」
10歳の純真無垢な少女から飛び出たおよそ彼女に似つかわしくない言葉に、しばしロイの頭脳は機能停止に陥った。
勝負下着…今、確かにリザは勝負下着って言ったよな?
聞き違いかと己の耳を疑ってみたりするが、
「だから、勝負下着ですってば」
残念ながらリザの可愛いお口は再びその言葉を紡ぎだした。
「……リ、リザ。どこでそんな言葉覚えてきたんだい?」
「学校です。教室で女の子達が話していて……」
近頃の子供はなんてマセテるんだ!
と絶叫したくなった衝動をロイはなんとか押さえ込んで、内心頭を抱えた。
……きっとリザは純粋に知りたいだけなのだろう。女の子達の輪に入って一緒にきゃあきゃあおしゃべりをするような子ではないし。
「知らないんですか? なら良いです」
一向に答えを返してくれないロイに焦れたのか、リザはぷうっと頬を膨らませる。
いや、知っている。ロイ・マスタング、14歳。ただ今思春期真っ直中のお年頃だ。未だに勝負下着を身に着けて貰えるような女性はいなかったが、それぐらいの知識は持ち合わせている――おそらく同年代の若者達より詳しいはずだ。なにせ、普段から養母のお店の女の子達によって鍛えられている。
まだ若い初な少年が可愛いのだろう。ロイは事あるごとにその手の話題でからかわれていた。よって、勝負下着が如何なるモノかちゃんと知っていたし、実物を見た事さえあった。もちろん、装着済みの物ではなく、店の女の子達が新しく買った下着の見せ合いっこをしていた所を目撃しただけではあるが。
これ、スゴいでしょ! 勝負下着にするんだ~という言葉と共に見せびらかされていたそれは、正直下着として用を成しているのか疑問に思われるほどスケスケで、まだまだ純情なロイには刺激の強すぎる代物だった……。
以上の様な理由でロイは勝負下着がどのような用法に用いられるものか、そしてどのような下着が勝負下着足り得るのか、それはもうしっかりと知っていた。
だが。
知っていたとして、それを妹の様に大事に思っている10歳のいたいけな女の子にありのままの事実を教えられるだろうか?――答えは否である。
知らないと惚けるのがベストだ。だがしかし。
「マスタングさんが知らないならお父さんに聞いてみます」
なんてリザが言い出したものだから、そういう訳にもいかなくなった。
想像もしたくない。勝負下着がいかなるものか、あの師匠にリザが尋ねる場面など。
……恐ろしすぎる。
下手をすればそんな言葉を教えたのは自分だと誤解されるかもしれない――そうなったら命が危ない。
普段は娘に対して素っ気無い態度をとってはいるが、師匠がリザを目の中にいれても痛くないくらい可愛がっている事をロイは知っていた。
……それだけは絶対に駄目だ。
だとすれば。
自分がリザの知識欲を満たしてやるしか他はないのだ――。
相変わらずリザは無垢な瞳でロイを見上げている。……リザに本当の事を言う訳にはいかない。
そして。悩んだ末にロイが苦し紛れにはきだした言葉は。
「リザ。勝負下着というのはね……」


「大佐。今日の勝負下着はどうですか」
「……ああ、うん。良いんじゃないか? 丈夫そうで。動き易そうだし」
勝負下着というのは人が負けられない勝負に挑む時に身に着ける下着であり、身に着ける事によってその本人の精神を昂揚させる役割を持つ。そしてその形状は著しくその勝負に即した機能を持つものを選ぶべきである。それによって勝負下着を身に着けた者は常に無敗となるのである。
……あながち嘘は言ってないと思う。
当時のロイはリザに嘘を吐くのが心苦しく、かと言って本当の事も話せなかったために、こんな説明をしてしまったのだろう。
誤算だったのはどうやら今でもリザはロイが教えた勝負下着の意味を信じ込んでいる――という事だった。
あれから長い年月が過ぎたが、今もリザはロイの側にいる。彼女はロイの副官となり、文字通りロイの手足となってロイの野望のために尽くしてくれている。そして、そんな彼女が身に着ける下着はロイの野望成就を願っていつも勝負下着なのだそうだ。そう言って恋人となった彼女が恥じらいながら見せてくれた勝負下着は――。


あの時――自分が正しい知識を教えていれば……今現在の彼女は、正しい勝負下着を身に着けてくれていたのだろうか。
色気皆無・機能性重視の黒のスポーツタイプブラとショーツを恋人の部屋にお泊まりする夜でさえ身に着けているリザを見る度に、ロイは一抹の後悔を覚えるのであった。




END
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by netzeth | 2011-10-03 23:59 | Comments(0)