うめ屋


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by netzeth
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マスタングの恋

「あー…恋がしたい」
「……今、幻聴が聞こえたぜ」
「偶然だな、俺もだ」
「もーーハボック少尉もブレダ少尉もお疲れなんですよー」
「疲れには一に睡眠。そして、適切な栄養分をとる事ですな」
「あーードリンク買ってあったかなーー」
「俺、買いだめしてあるぜ。一本売ってやるよ」
「せこっ、一本くらいおごれよっ」
「さらりと流すな!! おまえ達!」
せっかくこのままスルー出来そうだったのに、問題発言してくれた当の元凶がダンっと机を叩いたおかげで、仕方なく俺達はこの部屋の主である上司の方を向いた。
「いいか! 尊敬すべき上司のパスは全力で拾え! これがこの階級社会である軍の鉄の掟だ!」
『えーーー』
当然ながら俺たちからはブーイングしか出ない。そりゃあそうだろう。尊敬……はしてるようなしてないこともない上司ではあるが、この上司がろくでも無い事を言い出すのは日常茶飯事であるので、いちいち相手になんぞしてられないのだ。それでもしょうがないので皆を代表して俺はそのパスとやらを拾ってやった。
「……恋なんて年がら年中してんじゃないスか」
そう、数え上げればキリがない。デイジー、アンジェラ、ミシェル、アンゼリカ……上司の口から上がる今日のデートのお相手とやらは百花繚乱。毎日違う女ときた。くっそ、やってられるかっ。一人くらいよこせ。
ところが俺の言葉をこの憎らしい男の敵は鼻で笑ってみせた。それどころがチッチッチと指まで振る始末。
「ふん、これだからモテない男は……あんなのはただの火遊びだ。本当の恋ではないのだよ」
「あーなるほど……焔の錬金術師だけに…という事ですな」
「ファルマン准尉お上手ですねえ」
「おお、うまいうまい」
「そうか? すげえ、寒いと思うけどな」
「ええ? そんな事ありませんよー」
「茶化すな!!」
ちっ、再び話題逸らし失敗。
ヒトの彼女を奪っておいて(実際は彼女が勝手に大佐に心を移したのだが)、この火遊び発言。相手が上司で無ければ一発お見舞いしてやるとこだが。つーか、上司でも構わないからやってやりたいが、さすがに人間兵器相手に喧嘩を売る度胸はない。命は大事に、だ。
「え~と、では、大佐のおっしゃる本当の恋というのはいかがなものですか?」
「あ、好きな人に会うだけで胸がドキドキしちゃうような感じですか?」
比較的善良な性格のファルマンとフュリーが代わる代わる大佐の話題に乗ってやる。
「ふん、子供だな。フュリー。そんな甘酸っぱいのはティーンエイジャーで卒業してきた。私の求める恋とはこう……身も心も焦がす様な情熱的な大人の恋なんだ」
情熱的な恋ねえ……。
大佐の求めるその情熱的な恋とやらの全貌がいまいちよく理解できない俺だが、そんなもん、あ~したいな~、と思ってもその辺りに落ちてるもんじゃないだろう。俺は恋を語れるほど恋をしてきた訳じゃないし、大人でもないが、本当の恋とやらは少なくともよししよう! と思ってするもんじゃないと思うけどな。多分、おそらく、それは気がついたら落ちてるもんなんだよ。
「ああ……私の本当の恋の相手はどこにいるのだろう……」
だから、そんな事言っているうちは大佐は本当の恋なんて出来そうもないよな。俺としちゃあ、早くその運命の相手を見つけて女とっかえひっかえの火遊びとやらをやめてもらいたいものなんだが。そしたら俺にだって一人くらい回ってくる可能性が高くなるってものだ。そう考えると大佐の恋を応援しても良い気になってきた俺は、適当な激励の言葉をかけようとして、
「失礼します」
しかし、その言葉は落ちついたアルトの声に制されて出てはこなかった。軽いノック音と共に部屋に入ってきたのはホークアイ中尉だった。いつもと変わらぬクールビューティな彼女。厳つい青い軍服も中尉が着ると涼しげに感じられるのが不思議だ。ところが今日はいつもと違う部分が一点だけあった――髪だ。いつもは束ねられているその金色の髪が今日は下ろされている。
彼女が歩く度にそれは窓から差し込む日の光を受けてキラキラと輝いている様に見えた。
その髪をさして気にする様子もなく中尉は俺たちの前を横切ると自分の席へと歩いていく。大佐が動揺したような声を上げたのはその時だった。
「ち、ちうい…ど、どうしたんだね?」
「え? 何が……でしょうか?」
「いや……その…か、髪だっ」
「あ…はい。先ほど髪留めが壊れてしまったんです。束ねようとしたんですが、髪ゴムも見つからなくて。ここにくれば輪ゴムが机の中にありますから……すぐに……」
「なっ、だ、だめだ! 輪ゴムなんて髪が引っかかるぞ! 痛いぞ!? 君の髪が抜けてしまうだろう!」
「そうですか? まあ、何本か抜けるくらい別に……」
「だめだ! だめだ!!」
「でも、このままでは見苦しいですし……」
「なっ! 見苦しくなんか無い! むしろ、き、綺麗だ…… 」
「え?」
「いや、何でも無い! そうだ、私が錬金術で髪留めを直そう」
「本当ですか? ありがとうございます。助かります」
「いや……はははは……これくらいなんでも無いさ…あーチョークが無いな。司令官室に置いてある。行こう」
「はい」
以上が俺らの前で繰り広げられた大佐と中尉のやりとりである。付け加えればこの会話の最中、ずっと大佐の顔は赤かった。いまだかつて俺は大佐のあんな顔は見たこと無い。
これは……あれか。いつもと違う姿の気になるあの子にドキドキ☆とかいうシチュエーションか?
「してんじゃん……おもいっきり甘酸っぱいの……」
二人が去り静寂に包まれた部屋の中、俺はぽつりと呟いた。他三名がうんうんと深く頷いていたのは言うまでもない。



END
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by netzeth | 2012-01-20 00:08 | Comments(0)