うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth
プロフィールを見る
画像一覧

小さなリザちゃんのお話。 前編

「で? 誰から消し炭になるかね?……特別に順番を決めさせてやろう」
「まっ…待って下さい! 俺たちは無実っす!!」
「そうですよ! 話を聞いて下さい!」
「我々に弁明の機会を!!」
「……ま、まあ、一つ落ち着きましょうや、大佐」
「これが……落ち着いていられるかーー!!」
「ふ…ふえ~~ん!!」
私の怒鳴り声にびっくりしたのか傍らから盛大な泣き声が上がった。私は慌ててその私の上着の裾をぎゅっと掴んでいる彼女を宥めにかかった。
「す、すまんっ、決して君に怒った訳ではないんだ……あ、ほらっ……そんなに泣いたら可愛い顔が台無しだよ?」
「ふえ……ふ…ひっく、ほんとう? おにいちゃん」
「ああ……本当だよ。ち……いや、リザちゃん」
目線を合わせてにこりと笑ってやると、彼女はその大きな瞳で私を見上げた。普段と変わらぬはずのその鳶色はしかし、今は涙を湛えていて、まるで捨てられた子犬の様に心細げな色を宿している。そこにはいつものクールで厳しい、そしてちょっと優しい彼女の面影は微塵もない。
「よかったあ~~」
今泣いていたカラスがなんとやら。ぴたりと涙を止めて、彼女――ホークアイ中尉はぱあ~と顔を明るくした。……こんな表情、今現在普段の彼女では決して、決してすることは無いだろう。私でも見るのは何年ぶりだろうか。それほど無邪気で純真な笑い。そう、今の彼女はいつもの彼女とは明らかに違うのである。
その柔らかそうな胸元も、魅力的な曲線を描く腰回りも、健康的なピンク色の唇も。姿形はなんら常と変わることの無い魅力的な大人の女性ホークアイ中尉そのままであるのに、だ。
「リザ、わるいこだからしかられたのかと思ったの……」
「ち……いや、リザちゃんはいいこだからしかられることなんてないんだよ」
できるだけ優しい口調で話しかけ、その頭をなでてやると、ち……いや、リザちゃんは気持ちよさそうに目を細めた。そんな仕草もいちいち可愛らしいのだが、そんな事に和んでいる場合ではないのである。
さて、と。
私は私たちのやりとりを直立不動で見守っている奴らを振り返った。今度は彼女を驚かせないように、声をできるだけ抑えて。しかし、発火布を掲げて見せるのは忘れずに。
「もう一度説明して貰おうか……催眠術がなんだって……?」
その恫喝のこもった声に奴らは文字通り震え上がった顔をした。


非番を良いことに昼過ぎまで惰眠を貪っていた私にかかってきたのは、金髪ひよこ頭でヘビースモーカーな部下からの電話だった。
「なんだ」
寝起きで少々機嫌の悪い私にも怯むことなく、電話口からは悲鳴ともとれるような声が聞こえてる。
「大佐! 緊急です!! 今すぐ……今すぐに司令部に来て下さい!!」
「……なんだと?」
奴の焦ってがなりたてる声がかなり耳障りだった。おまけに電話の向こうからは何か騒々しい声がBGMの様に聞こえていて私のイライラに拍車をかける。
「中尉が……中尉が大変なんス! 俺たちじゃあ、もう……対処しきれません!」
正直、まだ目覚めきっていなかった私の脳はそれまでの内容を半分聞き流していたが、ホークアイ中尉の名が出た瞬間に覚醒した。我ながら現金なものだが、まあ、そこは仕方なかろう。
「どういう事だ。ちゃんと説明しろ。中尉がなんだって?」
「だからっ、中尉がっ、ちっさくっ! 幼女で! 泣いてて! ああっ! 銃をふりまわっ……あぶな……」
「お、おい!」
「びえええええええ~~~ん!!!」
耳がキーンとなるほどの大音量で聞こえてきたその泣き声はまるで小さな子供のもので。しかし、だがしかしだ。私にはその声にものすごーく聞き覚えがあった。当たり前だ。毎日すぐそばで聞いているのだから。
「あああ! ほら~怖くないよ~だいじょーぶだよ~」
「ほら、お菓子だよ~」
「銃を離してください~中尉~」
「ふええええええん!!!」
私は受話器を放り投げると、とりあえずその辺に放っておいたシャツを掴んだ。
……あの泣き声がホークアイ中尉のものならば、それはもう、一刻の猶予もならん事態である。


さて、ものの数分のうちに司令部へとたどり着いた私が見たのは想像以上のカオスであった。
どこから持ってきたのかよくわからんがぬいぐるみやボールといったおもちゃやロリポップやチョコレートの菓子のたぐいを手にしたハボック以下ブレダ、ファルマン、フュリーといった野郎共が一人の女性の周りを取り巻いている。床の上には書類、ペン、クリップ……とにかくその辺にあったものがあちこちに散乱しており、まるで小さな台風でも通り過ぎたかのようだ。
そして、床に座り込んでいる涙で顔をグシャグシャにしたホークアイ中尉。腕には拾って間もない小さな子犬をぎゅっと抱きしめて、ぐすんぐすんと鼻をならしている。
ちょっと頭が痛くなる光景である。状況の説明が欲しくて私は比較的まともそうな部下に声をかけた。
「ブレダ。状況を簡潔に説明しろ」
「……アイ、サー。……中尉が催眠術により幼児化して暴れました。ただ今必死に宥めているところです」
「ほ~う……」
とりあえず催眠術……のくだりで私は懐から発火布を取り出すと右手にしっかりとはめた。
「なっ! なんで臨戦態勢をとるんスか!!」
「……どうせおまえらがくだらん事をしたんだろう?」
抗議してくるハボックを睨みつけてやると、案の定ぐっと言葉に詰まった。正直もここまでくるといっそ清々しい。
「とにかくだ。おまえらを軽くローストしてから……」
右手を付きだしてまさに焔を繰りだそうとした瞬間。
「あ! リザのおとうさんといっしょ!!」
床に座り込んでいた中尉が突然立ち上がり私の元へと駆け寄ってきた。そのまま指を擦る訳にもいかず硬直した私に彼女は遠慮なく近づいてくると、発火布に描かれている焔の陣をしげしげと見入った。
「とかげさんのもよう! おんなじ! おにいちゃん、おとうさんのしりあいなの?」
お、おにいちゃん……。
彼女とは長いつき合いだが初めて呼ばれたぞ、そんな呼び名。ちょっといいな……なんて一瞬思ったりもする。……いかん、いかん。今はそんな場合ではないぞ。
「あー…ああ、実はそうなんだ……」
「やっぱり!!」
私の肯定の言葉に中尉は私を見上げると嬉しそうににっこりと笑った。
「やった! 中尉が笑ったぞ!」
「さっきは中尉って呼ぶだけで泣いて暴れてたのにな!」
「感動的な瞬間ですな!」
「大佐って、子供に好かれるんですね!」
やんややんやと拍手喝采のギャラリー達。
何、万事解決みたいなノリでいるんだ、おまえ等は?
中尉が私をおにいちゃんだなんて呼んだんだぞ? 事態はかなり深刻である。
ぎゅっと発火布をしっかりとはめなおして、私はすっかり油断している奴らへと向き直ると。
「で? 誰から消し炭になるかね?……特別に順番を決めさせてやろう」


「雑誌の特集に載ってたんス……」
「誰でも簡単に催眠術がかけられるってふれこみで…」
「そしたら、中尉が面白そうねって……」
私の威嚇に怯えながらも、奴らは私にぽつぽつと事情を話始めた。話を総合すると、昼休みにハボックが暇つぶしに読んでいた拾ってきた雑誌に、件の催眠術のかけかたが載っていたらしい。その内容に興味を持った中尉が自分にかけてみろと言いだしたのが事の発端なようだ。こいつらもまさか本当に催眠術がかかるとは思ってはおらず、おもしろ半分に試してみた……というところか。
「で、子供にかえる暗示か……。そもそも、素人が催眠術をかけようなんて危険だとは思わなかったのか」
「すんません……まさか本当にかかるとは思わなかったんス…だって相手はあの中尉ですよ?」
「馬鹿者。催眠術というのはな、催眠術なんてかかるわけはない、と思っている者ほどかかりやすいんだ。私は心理学は専門ではないが、頭脳明晰で、真面目なタイプの方がとりわけかかりやすいと聞く。……まさにどんぴしゃりだな」
師匠と同じ錬成陣――つまりはリザの父親と同じという事で私は中尉――いや、リザちゃんの警戒心を解く事に成功したようだ。さっきからリザちゃんは私にべったりとくっついている。いちおうコンタクトをとる事にも成功していた。ためしに名前を尋ねてみたところ、
「リザ・ホークアイ。五歳!」
という元気なお返事がかえってきた。……はあ、ますます頭が痛い。
というか、そんなにべったりとくっつかないで貰いたいんだが。君は本当につるぺたなお子さまじゃないんだ。魅惑的なナイスバディの妙齢の女性なんだぞ。さっきから腕に当たる柔らかな感触やら、香ってくるいい薫りやらで私の男の我慢はちょっといっぱいいっぱいになっている。そんな困った状態の私と中尉を極力見ないように話している野郎の部下達。きっと見てはいけないものを見ている気分なんだろうな。まあ、端からみたら仕事場で部下とイチャつく上司にしかこの光景は見えないだろうが。
「とにかく……その雑誌を持ってこい。かけ方が載っていたなら解き方だって載っているだろう。さっさと中尉を元に戻せ」
「それが……」
弱りきった顔でフュリーが抱えていた一冊の雑誌を差し出してきた。あなたにもできる簡単! 催眠術のかけ方……といかにもうさんくさい特集ページ。そのページをめくっていくと、解除の仕方が載った最後のページだけが破れていた。
「この通りの有様でして」
「……同じ雑誌は無いのか」
「これはだいぶ前の雑誌のようで……もう店頭には同じものは売ってないかと」
私は思わずこめかみを押さえた。……いかん、頭痛がひどくなった。
「この雑誌はいつどこで拾った?」
「今日、司令部内のくず籠です」
「では司令部内の誰かがこの雑誌を今日捨てたということだな。……破られたページの行方もそいつに聞けばわかるかもしれん……いいか、おまえ達。燃やされたくなかったら、この雑誌を捨てた者を探せ。それからこの雑誌を出している出版社を調べろ。何かわかるかもしれん。とにかく全力で催眠術の解除法を探すんだ。……それまで中尉の面倒は私がみる。……分かっているな? これは最重要機密事項である!!」
「イエッサー!!」
「おにいちゃん、さいじゅーようきみつじこーってなあに?」
……それはね、君の事だよ、リザちゃん。
余計な事は言わず、私は再びその頭を撫でてやったのだった。



続く
*************************

正確には中身が小さくなったリザさんの話。ですね。タイトルは気にせんで下さい。

後編へ
[PR]
by netzeth | 2012-01-31 22:00 | Comments(0)