うめ屋


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by netzeth
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風薫る日に。

甘い花の香りを含んだ爽やかな風がカーテンを揺らしていた。
その香りと、子犬たちのはしゃいだ鳴き声と、そして笑いさざめく明るい子供の声に誘われる様に目を開けると、足下に幾つも小さな毛玉がじゃれついてきていた。
キャウキャウと鼻を鳴らす小さな子犬達と、お日様の匂いがする小さな金髪と黒毛の頭。その柔らかな髪をロイは優しく撫でてやる。
「お兄ちゃんもレディもどうした? ママは?」
「ママはおでんわちゅうだよ!」
「なの!」
「電話?」
「おじーさまからだって、ママ言ってたよ!」
「なの!」
自分そっくりの黒い瞳と妻そっくりの鳶色の瞳で見上げてくる双子の兄妹の可愛らしい姿に、ロイは思わず破顔した。
同い年とはいえ兄としての自覚があるのか、息子は歳に似合わないしっかりとした口調で話す。対して妻に生き写しの娘は少し甘えたで、兄の後ろをヒヨコの様にくっついて離れない。ハヤテ号の子供達が大のお気に入りで、そのまだ幼い子犬を今もぬいぐるみの様に胸にギュッと抱き締めている。
「こらこら、そんな風にしたらライトニング号が苦しいだろう?」
ブラックライトニング号――黒い稲妻という勇ましい名前を授かった(もちろんリザが命名した)親犬そっくりの子犬を娘の腕の中から助け出してやる。
子犬はロイの腕の中でくふーっと息を吐き出した。――やはり子供の力といはいえ、苦しかったらしい。
「わたしも! だっこ! なの!」
途端に腕を伸ばしてせがむ娘にロイは優しく微笑むと、その小さな体を抱き上げて、ソファーに座る己の膝の上に乗せてやった。
子犬と一緒にパパに抱っこされて、娘はにっこにこである。
そうなると複雑なのは双子の兄だ。
お兄ちゃんであり、男の子であるからと、常にいろんな事を妹に譲っている優しい子だけれども、それでもまだ三つ。パパに甘えたい年頃なのだ。息子はジッとロイの膝の上の妹を羨ましげに見上げている。
「ほら、お兄ちゃんもおいで」
ロイは息子も軽々と抱き上げて腕の中に収める。すると、当然もう一匹残った子犬、ブラックタイガー号(やはりリザの命名である)も当然のごとくくっついてきて、あっと言う間にロイの膝の上は子犬二匹に、子供二人の大所帯になってしまった。
「へへ……パパにだっこ、だっこ~」
「あのね、あのね、おともだちにらいとにんぐごう、とたいがーごうをみせたんだよ!」
「そうか」
「おりこうさんだってみんなほめてくれたんだよ! でもね……へんなおなまえっていわれちゃったんだ、やっぱり、へんだよね」
「へん! へんだよ!」
「キャウっ!」
「キューン!」
「……そう言うな。私だって出来れば子犬のためにも、自分で名付けてやりたかったさ。でもな、そうなると今度はおまえ達の命名権を譲らねばならん。……そればっかりは阻止しなければならなかったんだ。おまえ達にあのセンスが遺伝しなくて本当に良かった……」
「何が良かったんですか?」
膝の上の子供達(プラス子犬達)としみじみと語らっていたらば、突然部屋の戸口から声がかかり、慌てて頭を巡らすとそこには不思議そうな顔をした妻が立っていた。
その足下にはハヤテ号と、その奥さんである白い犬、そして小さな白い子犬を伴っている。
「い、いや、なんでもないよ。……ところで、グラマン閣下からはなんと?」
笑って誤魔化して電話の内容へと話を向ければ、妻は困った様に眉を八の字に寄せて、ふうっと息を吐いた。
「それが……この子達へのプレゼントの事で……」
「プレゼント……? もしかして三つの誕生日の贈り物の事か? 私の記憶が確かならこの前にもう頂いたはずだろう?」
「はい、私もそう申し上げたんですが。……今度のは誕生日のプレゼントではなく、三歳と三ヶ月のお祝いだそうです……」
「……あの方も相変わらずだなあ……」
ロイはグラマンのその曾祖父となってますます、血色の良くなった顔を脳裏に思い浮かべて苦笑した。
彼はこの双子の兄妹を目に入れても痛くないくらい可愛がってくれている。だがそれも時々度が過ぎて、何かにつけてプレゼントを送ってきたりとその爺バカぶりにロイ達も少々困っているのだが。
「もう……お爺様はこの子達を甘やかし過ぎです。教育上よくないのに……」
「まあ、いいじゃないか。きっとグラマン閣下も曾孫が可愛くて仕方がないんだよ。引退なさった老人の楽しみを奪うものではないよ」
「他人事みたいにおっしゃってますけどね、閣下も同罪ですよ?」
妻となっても自分を相変わらず閣下と呼ぶくせが抜けないリザを内心愛おしく思いながらも、ロイは反論を試みる。
「まて、私も、か?」
「当たり前です。……この子達が生まれる前から、おもちゃやら、服やら、大量に購入なさっていたのはどこのどなたでしたっけ?」
リザに睨らまれて、ロイは思わず視線を逸らした。それを言われると耳が痛い。けれども、これほど可愛い我が子をどうして可愛がらずにはいられようか。そう、主張しようとロイは口を開きかけたが、次の瞬間恨みがましい顔を見せたリザに言葉を止めた。
「だから……だから私が厳しくしなければならないんですよ? 私だって本当はこの子達を甘やかしたいのに……」
母親としてしっかりと子供達を育てなければならないという責任感の強いリザらしい考え方だが、しかし、根本のところは彼女もロイと同じく親ばかをしたいらしい。
彼女の本音にロイは思わずぷっと吹き出してしまった。
「なんだ。だったら、ほら、君も来たまえ。教育も大事だが、まだ三つなんだ。思う存分甘やかせばいいじゃないか」
「でも……」
「大丈夫。私と君とグラマン閣下、皆で甘やかしたってこの子達なら心配ないよ。きっと健やかに育つさ。……なにせ君と私の子なんだから」
自信満々に言い放つロイに、リザは少々呆れた顔を見せたが、その誘惑に勝てなかったのだろう。ロイ達のいるソファーに腰掛けると、夫と子供達に寄り添った。
「もうっ……仕方ありませんね……」
大好きなママも一緒だと子供達はきゃあきゃあと歓声を上げる。そして、その足下には親犬と子犬達がそれぞれ伏せって主人達と同じく寄り添う。
ロイはリザの肩を抱き寄せると、膝の上の子供達の頭を撫でた。
薫る風が吹いて、ロイの頬を優しく撫でていく。
そして、妻と子供達と、犬達の温もりを感じながら、ロイは再び目を閉じた――。


「閣下……? 閣下?」
うっとりとした気持ちの良い感触に目を開けると、たおやかな手がロイの髪を撫でていた。見上げると、見慣れた副官――いや、いまや己の妻となったリザがロイの顔を覗き込んでいた。
「ああ……すまん。眠ってしまっていたようだ」
「そんな場所で動かなくなるから、何事かと思いましたよ?」
どうやらロイはリザのお腹の上で眠ってしまっていたらしい。そう、ちょうどソファーに腰掛けるリザのお腹に膝立ちで抱きつくようにして眠っていたのだ。
あまりの己の器用さがおかしくて、ロイは思わず笑みをこぼす。
「すまん。……あんまり幸せで気持ちが良かったから、つい、な」
「もう……なんです、それ?」
そう呆れた口調のリザも実は口元は笑っている。
仕方なのない人……というその彼女の微笑みを、ロイはずっと愛してきた。それは上司部下という関係が夫婦と名を変えた今でも変わらない。
長年のその上司部下という関係を変えたのは、ある出来事がきっかけであった。もともと互いに愛し合う関係であったのだから、あくまでもそれはきっかけに過ぎなかったのだが、今思い返してもあれはロイにとって衝撃的な出来事であったといえよう。
それは二人の間――いや、周囲の人々まで巻き込んで騒動を引き起こしたが、結局それを乗り越えて、ロイとリザは今夫婦として二人ここにある。――そして、もうすぐ二人ではなくなるのだ。
ロイは改めてリザのもうだいぶ膨らんで丸みをおびたお腹――二人を夫婦へと結びつけたそのきっかけにと耳を押しつけた。
「男の子でしょうか、女の子でしょうか」
もうすぐ母となる彼女は穏やかな声でロイにそう問いかけてくる。その問いにロイは確信を持って答えた。
「きっと私に良く似た男の子と、君に良く似た女の子だよ」
「……それは…双子…という事ですか?」
「ああ、そうだ」
余りにも自信ありげな夫の言葉に少し不思議そうリザは小首を傾げたけれども、けれどもそれに否定の言葉は述べずにただ、フッと優しい笑みを浮かべた。
「そうですね。私も閣下も兄弟がいませんでしたから。……そうだといいですね」
結婚が遅かったので、もう二回目の出産は無理だろうという意味を含ませてリザが呟く。それを察して、ロイは彼女の手を握った。
「大丈夫。元気で、可愛い双子の兄妹だよ」
「ええ……」
花の香りを含んだ風が窓から吹き込み、ゆるやかにカーテンが波をたて、柔らかな風が二人を包んだ。ロイは夢見心地で目を閉じる。そして、幸せな夢が実現する事を確信して、ロイは再びそっと新たな命の音に耳を傾けたのだった。




END
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授かり婚話in双子。幸せ家族を目指しました。
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by netzeth | 2012-04-25 02:13 | Comments(0)