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by netzeth
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ジャム泥棒

「ジャム泥棒よ」
士官学校時代から真面目で有名だった同期の親友が真剣な、思い詰めた顔して言うので何事かと思えば、彼女の口から出て来たのは何とも脱力するような言葉だった。
「はあ?」
レベッカがおもいっきり怪訝な表情を作って聞き返してやったにも関わらず、親友は少しも怯まずに、
「ジャム泥棒なのよ!」
その単語を繰り返した。
「いや、あんたジャム泥棒って……」
東方司令部の給湯室にはそれぞれ私物を持ち込んで置いておける場所がある。ある者は司令部名物不味いお茶に辟易して自前の茶葉を、ある者は小腹が空いた時のための菓子類を、それぞれ各自で好きな物を持ち込んで置いてあったりするのだ。今回親友――リザが問題にしているジャムとは彼女がそのスペースに置いておいた物らしい。曰く、昼食用のパンや紅茶に添えたりしていたという。それがちょっとずつ減っている――というのだ。
「あそこに置いといたら誰かにちょっとくらい拝借されるのなんて、そんなに珍しい事じゃないでしょ。そんなに目くじら立てる事?」
「もちろん、私だってそれくらい構わないと思っているけど。……でも、ちゃんとビンの蓋にホークアイって書いておいたのよ?」
「ちょっ、食べ物に名前って。やめなさいよ」
ケチくさい。という最後の言葉は喉の奥にグッと飲み込んだ。
昔から紅茶のティーパックは最低でも三回以上使ってたり、シャンプー買わずに石鹸で洗髪を済ませたり、と人一倍節約家であったリザだが、一人前の軍人となりそれなりのお給料を貰える様になっても、いまだにその貧乏性は直ってないらしい。
「どうして? ブレダ少尉だって書いているわよ。食べられたくない時はちゃんと所有権を主張すべきですよって言ってたから」
「いや、だから、うら若き乙女が食い意地はったメタボ気味の男と同列ってどうなのよ……」
リザの行動に呆れつつも、彼女の言う通り確かに少し変な気もして、レベッカは内心首を捻った。
この東方司令部で鷹の目の名を知らぬ者など居ない。親友のレベッカから見れば実態は少し貧乏性の天然入った普通の女の子であるけれども、これでもリザは東方司令部では絶対に逆らってはいけない人物リストに名を連ね、それなりの畏怖と多分な尊敬を持たれているのだ。
そのリザの名前が入った物を無断で食べる……というのは確かに蛮勇であり、かなり度胸のいる行為といえるだろう。
「別に少しくらい分けるのは構わないけども、だったら一言あって然るべきでしょう? 名前を書いてあるんだもの」
まったく誰なのかしらっ! とリザは憤慨した様子である。
実をいうと、リザの名前に臆する事無く、彼女の所有物を勝手に拝借出来る者、そしてよくこの給湯室を使うであろう者という条件に当てはまる人物にレベッカは約1名心当たりがあったが、あえてここでは名前を出さないでおいた。彼は人様のジャムに手を出すほど困窮しているようには見えないし、それに小耳に挟んだ所ではそれほど甘党でも無かった筈であったから。想像だけで濡れぎぬを着せてはかの御仁に申し訳なかろう。
珍しく感情を露にし、犯人を探すわ!っと息巻いている友人を適当に宥めつつ、レベッカはそんな事を考えていた。


「犯人が分かったのよ!」
さてリザとジャム泥棒うんぬんの会話を交わして三日と経たずに、彼女は晴れ晴れとした表情でレベッカに報告してきた。
特にジャム泥棒の犯人などに興味は無かったのだが、リザがあんまりにも話したそうにしていたので、(表情には出していないが長い付き合いのレベッカには筒抜けだった)仕方なくレベッカはで? と水を向けてやる。
するとリザは待っていたとばかりに話出した。
「なんと……ハボック少尉だったのよ!」
意外な犯人にびっくりでしょ? とリザの瞳は言外に語っていたが、レベッカとしてはまあ、犯人としては無難なとこよね、という感想しかなくて少し反応に困る。
「あ、犯人っていう言い方は少尉に悪いわね」
しかし、リザはレベッカの気のない様子にもちっとも構わずに先を続ける。
「実は私ね、ずいぶん前の事だけど少尉が金欠で毎日昼食がコッペパンだけだった時にあんまり可哀相だったから、ジャム使っても良いわよって言った事があったのよ。その時にはハボック少尉、遠慮して使わなかったみたいなんだけど、最近また金欠で毎日パンばっかり食べてたから、私のジャムを使ったんですって。私も、うっかりしていたわ、自分で少尉にどうぞって言ったのに忘れていたなんてね」
「ふ~ん……」
「ほら、見て! ハボック少尉がお詫びにって、ジャムを買ってきてくれたのよ。こんなに大きなビンの。それにこのお店のジャムとても高いものなのよ。とっても美味しいらしいわ」
ジャム泥棒がハボックだった事にはこれっぽっちも興味は無かったが、その高級ジャムのビンはレベッカは見過ごせなかった。
その店で自分もジャムを買った事があるので、レベッカはもちろんそのジャムのビンに見覚えがあった。イーストシティでその店だけが扱っている高級品。店オリジナルデザインのラベルがビンに貼ってある。確かにあの店のジャムだ。……レベッカの記憶が確かならこの店の店員の女の子にハボックは手酷くフラれた筈なのだ。もう、顔を見せないでと言われ、モミジ跡のついた腫れた頬で彼が泣いていたのはつい、先週の事である。そしてついでに言うなら、金欠でコッペパンしか食べられずにいる男が、こんなお高いジャム、ポンと買ってこれるだろうか?
「ふふ、嬉しいわ。ずっと自分で作ってたのばかり食べてたから。大事に食べないと……」
「待って。あんたが司令部に持ち込んでたジャムってあんたのお手製なの?」
「そうよ。痛んで売り物にならなくなった果物をね、市場で安く譲って貰って……自分で作ったのよ」
謎は全て解けた。
なんとなくハボックの背後に誰かいる気がして、そしてだいたいその人物に察しがついていたレベッカだったが、リザのこの一言により確信した。おそらくは、真の犯人である彼は、リザの手作りジャムがお目当てだったとみえる。
「ねえ、そのあんたのジャムが手作りなのを知ってるのって、誰?」
もう犯人は決まった様なものだが、更に踏み込んで確証を得るべくレベッカはリザに尋ねた。
リザはなんでそんな事聞くのかしら? という不思議そうな顔をしたが特に疑問に思わなかったのだろう。あっさりとレベッカの問いに答えてくれる。
「え?……確か、大佐には話した様な気がするわ。あの人、いつも私が食べてる時向かいの席に座って話し掛けてくるから……でも、ジャムが手作りだって知っていたらなんなの?」
多分、おそらく、絶対に。リザは己の手作りジャムにこそ価値があるのだ――という事を分かってはいない。
「ううん、別に何でもないわよ。ところで……その貰ったジャムどうするの? 手作りジャムの代わりに司令部で使うの?」
「いいえ。そんな勿体ない事しないわ。これは家で少しずつ大事に食べようと思うの。手作りのジャムはまだまだた~くさんあるから、司令部で消費するつもりよ」
「そうね。そうしてあげなさいよ」
彼のためにも。
素直に君の手作りジャムが食べたいと言えないらしい、意外と純情な御仁の心情をそこはかとなく推し量って、レベッカはそう、リザに助言しておいた。
これからも彼はきっと時々、好きな女の手作りの味を求めて、ジャム泥棒を続けるのだろうから。
ちょっとだけ彼のためにも、リザのためにも、彼女に真犯人を教えてやろうかな、と思ったレベッカだったが、しかしすぐにその考えを改める。
――ティーンエイジャーじゃあるまいし、そんな事、まあ、自分で言えという話である。
果たして、御仁が勇気を振り絞るのが先か、リザが真実に気付くのが先か。こればっかりはレベッカにも分からないのであった。




END
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by netzeth | 2012-05-25 21:50 | Comments(2)
Commented by mai at 2012-05-29 11:28 x
無茶苦茶可愛いです。ジャムに自己主張する、しかも節約手作りリザちゃんも、こっそり拝借して部下に擦り付けるマスタングも、とっても可愛いです。そして私はレベッカ的視点で二人を応援するんでしょうね。
Commented by うめこ(管理人) at 2012-05-29 21:27 x
>mai様 
可愛いお話を目指して書きましたので、可愛いと言って頂けて大変嬉しいです~(^^)レベッカさんポジションはおいしいですよね!私も彼女のポジション希望で、ロイアイを応援したいです☆
それでは、コメントありがとうございました!