うめ屋
ジューンブライド・ラプソディ (3)
はたして。
問題の日――見合い当日は快晴であった。いっそ土砂降りの雨の方が己の今の心情を映していてマシだった気がする……などと埒もない事を考えながらロイは気が進まないながらも、見合いに指定されたイーストシティの高級ホテルへと向かった。
直属の上官からの言いつけに加えて、相手はイーストシティでも有名なブラウン商会のお嬢さんだという。おいそれと簡単には断る事など出来なかったのだ。
とりあえず角が立たない様に会うだけあって、それから後の事は考えよう……と少々投げやりな気分でロイはホテルのロビーへと足を踏み入れた。
シティでも指折りの高級ホテルだけあって、そのラウンジは広い。ざっと見渡したところそれらしき人物もいなかったので、ロイは時刻を確認しながらも適当なソファーに腰を下ろした。
グラマンからはそこで待て、と指定されのみで相手の顔写真すら見ていないロイには見合い相手を探しようがない。おそらくは相手側が全て把握しているのだろうが、それでもただ待つだけ――というのはなんとなく元々気乗りしない見合いであるだけに居心地が悪かった。
しばらく頭を空っぽにして大きな窓から見えるホテルの庭をボーっと眺めていると、自然と思い浮かんでくるのはリザの事だ。
実は彼女も今日ロイと同じく非番であったはずだ。今頃何をしているのだろうか。もしかしたら、グラマンに言われた見合いを自分と同じくしているのかもしれない――そんな事をつらつら考える。彼女は自分と違って見合いを快く受け入れているのだろうか……。
とりとめもなく頭に浮かぶ漠然とした不安に心を奪われていたならば。
「あの……マスタング中佐ですか?」
少し高めの明るい女性の声が耳に入り、ロイは弾かれた様に立ち上がった。振り返ると、明るい金髪に空色の瞳のソバカスの女性が立っていた。
「失礼……ミス・ブラウン?」
ロイの誰何に頷いた女性はその口元を綻ばせて。
「はい。エリーゼ・ブラウンです。初めましてマスタング中佐」
相手が深窓の令嬢と言うよりは、田舎の村娘…と言った明るく親しみやすい雰囲気の女性だった事に少なからず驚きながらも、ロイも持ち前の営業スマイルを浮かべてみせた。
ミス・エリーゼ・ブラウンはその外見の印象通りに、話しやすく気持ちのいい女性だった。裕福な家の女性にありがちな高慢な部分も世間知らずな面もなく、ロイは気の乗らない見合い相手という先入観をプラスしても好感を持った。
もちろん、それは相手を女性と見ての恋愛感情ではなく、一人の人間としてという意味合いではあったが。ロイにとって女性として好感を持っている人物は後にも先にも一人なのである。
ひとしきりラウンジで談笑してから、ミス・ブラウン――エリーゼがホテルの柱時計をちらりと確認する。
「そろそろ場所を移動しませんか? マスタング中佐。ホテルのレストランに予約を入れてあるんです」
「そうですか。全ておまかせしてしまって申し訳ありません」
そもそもロイはグラマンに言われて来ただけであるので、見合いの段取りも何も知らされていないのであるから、別に責任を感じる必要はないのだが、なんとなく女性にエスコートされるのは男として気を使う。
そんな事を考えなら、エリーゼと二人ホテルのラウンジを出ようと歩きだしかけたところで。ロイの目に見間違えるはずのない無い色が飛び込んできた。
その特徴的な蜂蜜色の髪。
思わず二度見したが、間違いない。
「中……佐?」
「少尉……」
何故か己の副官リザ・ホークアイ少尉がロイの目の前に立っていた。
それも、軍服でないのはもちろん、いつもの私服姿でもなく何時になく小綺麗な…いわゆるお洒落した格好でである。付けているピアスや化粧の仕方、ルージュの色まで違う。持ち前の(リザだけに発揮する)観察眼でそんなところまで見て取って、ロイは混乱する。
何故、今、よりにもよって己の見合いの席に彼女がいるんだ?
だが、それは相手も同じだったようで。リザは何時になく動揺した顔をしている。基本的にポーカーフェイスを崩さない彼女のこんな顔を見るのは珍しい事だ。
「マスタング中佐……?」
ロイの背後に控えていたエリーゼが不思議そうな声を上げて、ロイの隣へと並ぶ。その瞬間リザの顔が目に見えて強ばった。
絶対に今、会いたくない人物に会ってしまった絶望と混乱と、何故彼女がここに? という疑問でロイの胸中は一杯になる。すぐにでも問いただしたかったが、なんとなく見合い相手のエリーゼの前でする会話ではないような気がした。
それならば、なんとかリザと二人になって話をしたいと思ったが、今ここで見合い相手を放り出していく訳にもいくまい。エリーゼに悟られる事なく、それとなくリザにこちらの意志をなんとか伝えられないだろうか。悩む事しばし、ロイはとある事を思いついた。
それは、遠い遠い昔にとある少女と行っていた秘密の遊び。
「あ~ゴホン、少尉。この前グラハムが休みを代わってくれと言っていたからな、今日、私が非番になったのだよ。そうしたらオーランドも今度休みを代わって欲しいと言い出してな。オーランドはさすがにもう何度も休みを都合してやっていたからこれ以上はダメだと言ってやったんだ。そしたら、ユーリーがそんな事言わずに代わってやれ……としつこくてな。だったら、お前が代わってやれ…と言ったらそれはイヤだと言うんだ。まったく調子が言い奴だな。で、結局、トッドがワリをくって休みを代わってやる事になったんだ…まったく人の前で15分も粘るんだからな……たまらんよ、ゴホンッ」
「……そ…う、でしたか。それはお気の毒に」
最初は戸惑っていたリザだが、その瞳に理解の光が灯るのをロイは確認して満足する。
そして、会話の内容と階級呼びからロイとリザの関係を察して遠慮した様に二人の様子を伺っていたエリーゼを促して、ロイは再び歩きだした。
「では、な。少尉」
「はい。中佐」
それをリザは軽く会釈して見送ると、こんな場所で予想外な出会いをしてしまった上司と部下は何事もなかったかのように別れたのだった。
「伝わったようだな」
「突然あんな事をなさるから驚きました…」
「でも、ちゃんと君も覚えていただろう?」
ロイとリザがホテルのラウンジで別れたその15分後、美しく整えられたホテルの庭で男女が密会していた。
言うまでもなく、ロイとリザである。
とっさに思い出した方法……暗号で、ロイはリザに”GO OUT 15分”(15分後 外へ)というメッセージをエリーゼに悟られる事なく伝える事に成功していた。もちろん今は、エリーゼには仕事の事で電話がある――と、レストランから抜け出してきたのである。
ロイの軍人としての立場を理解しているらしい彼女は特に疑う事もなく、ロイを送り出してくれた。まったく、正直最初から断る事前提でする見合い相手にしてはもったいないくらいの相手だ。
「……それは、もちろん。忘れる訳ないじゃないですか。むしろ中佐の方こそ、あんなお遊びとっくにお忘れだと思っていました……」
そう、会話の中に登場する人名の頭文字を繋ぎ合わせ、言葉にして相手に伝える――という暗号ごっこ。これはロイとリザが少年少女時代に行っていた二人だけの秘密の遊びであった。元々は修行中のロイがリザと話す時、師匠ーーリザの父に聞かれるとまずいような事を隠すために思いついたリザとのコミュニケーション手段であったのだが、いつの間にか二人の間で例え秘密にするような事でなくともこの暗号で伝える――というような遊びに変わり、二人の言葉遊びとして定着したものだった。
ロイはこの暗号ごっこでよくリザと晩ご飯のメニューや明日の天気はなんだ……といったたわいのないやりとりをしたものである。
ロイにとっては忘れ得ぬ、懐かしく、美しい思い出である。それはリザにとっても同じだったと確認出来て心密かにロイは嬉しく思ったのだが、何故かこの暗号に関しての話題にはリザの顔は曇りがちであった。
しかし、そんなリザの様子に気づくことなく、ロイは気楽に後を続ける。
「そうだ。この暗号を軍務でも使おうか。今後君とおおやけで話すのがまずい状況に陥った時に使えるぞ? スパイ対策とかな」
ロイの提案にリザは一瞬だけ彼を仰ぎ見た。すぐに逸らされたその瞳が揺れていたのは気のせいだっただろうか。しかしそれを確かめる前に、
「まさか。こんなお遊びな方法を使わずとも軍ならもっと賢い暗号作戦案がありますよ」
リザがいつものきっぱりとした口調で言い切って来たので、結局うやむやになってしまったのだが。
「それより……お話があったのでは? 中佐」
さりげなく話を逸らしたリザの指摘で、ロイは当初の目的を思い出した。
そうだ。どうして、今日、よりにもよってこの時間、この場所にリザがいるのか。(しかもそんなにお洒落をして、だ)それを問いただすために、彼女を呼んだのだ。いくら仕事だと理由をつけても、見合い相手を長時間放置する訳にもいくまい。と、ロイは早々に用件をリザに切り出した。その時。
「そうだ。君……どうして、ここにいるんだ?」
「それは……」
「それは僕たちからお話しさせてください」
会話に知らない男の声が割り込んできた。
リザと二人きりだと油断していたロイはその時まで、その人物の接近に気づいていなかった。それはリザも同様だったようで。
彼女と二人、同時に声がした方を振り返ると、見知らぬ男が立っていた。明るい茶の髪と、グレーの瞳のまだ若い男だ。誰だ……? と、ロイが声をかけるより早く。
「ホワイトさん!?」
驚きの声を上げたのはリザだった。
「少尉? 知り合いか?」
「いえ……その…はい…」
珍しく歯切れの悪い返事をよこすリザにロイは不審に思う。目の前の男に視線を向けて、その風体を観察するが特に怪しい様子も見られない。
だが。
「彼は、リザさんのお見合い相手なんです」
男の後ろから現れた女性に、今度はロイが驚きの声を上げる番だった。
何故なら。
「ミス・ブラウン!?」
レストランで己を待っているはずの見合い相手――ミス・エリーゼ・ブラウンがそこに立っていたからである。
続く
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問題の日――見合い当日は快晴であった。いっそ土砂降りの雨の方が己の今の心情を映していてマシだった気がする……などと埒もない事を考えながらロイは気が進まないながらも、見合いに指定されたイーストシティの高級ホテルへと向かった。
直属の上官からの言いつけに加えて、相手はイーストシティでも有名なブラウン商会のお嬢さんだという。おいそれと簡単には断る事など出来なかったのだ。
とりあえず角が立たない様に会うだけあって、それから後の事は考えよう……と少々投げやりな気分でロイはホテルのロビーへと足を踏み入れた。
シティでも指折りの高級ホテルだけあって、そのラウンジは広い。ざっと見渡したところそれらしき人物もいなかったので、ロイは時刻を確認しながらも適当なソファーに腰を下ろした。
グラマンからはそこで待て、と指定されのみで相手の顔写真すら見ていないロイには見合い相手を探しようがない。おそらくは相手側が全て把握しているのだろうが、それでもただ待つだけ――というのはなんとなく元々気乗りしない見合いであるだけに居心地が悪かった。
しばらく頭を空っぽにして大きな窓から見えるホテルの庭をボーっと眺めていると、自然と思い浮かんでくるのはリザの事だ。
実は彼女も今日ロイと同じく非番であったはずだ。今頃何をしているのだろうか。もしかしたら、グラマンに言われた見合いを自分と同じくしているのかもしれない――そんな事をつらつら考える。彼女は自分と違って見合いを快く受け入れているのだろうか……。
とりとめもなく頭に浮かぶ漠然とした不安に心を奪われていたならば。
「あの……マスタング中佐ですか?」
少し高めの明るい女性の声が耳に入り、ロイは弾かれた様に立ち上がった。振り返ると、明るい金髪に空色の瞳のソバカスの女性が立っていた。
「失礼……ミス・ブラウン?」
ロイの誰何に頷いた女性はその口元を綻ばせて。
「はい。エリーゼ・ブラウンです。初めましてマスタング中佐」
相手が深窓の令嬢と言うよりは、田舎の村娘…と言った明るく親しみやすい雰囲気の女性だった事に少なからず驚きながらも、ロイも持ち前の営業スマイルを浮かべてみせた。
ミス・エリーゼ・ブラウンはその外見の印象通りに、話しやすく気持ちのいい女性だった。裕福な家の女性にありがちな高慢な部分も世間知らずな面もなく、ロイは気の乗らない見合い相手という先入観をプラスしても好感を持った。
もちろん、それは相手を女性と見ての恋愛感情ではなく、一人の人間としてという意味合いではあったが。ロイにとって女性として好感を持っている人物は後にも先にも一人なのである。
ひとしきりラウンジで談笑してから、ミス・ブラウン――エリーゼがホテルの柱時計をちらりと確認する。
「そろそろ場所を移動しませんか? マスタング中佐。ホテルのレストランに予約を入れてあるんです」
「そうですか。全ておまかせしてしまって申し訳ありません」
そもそもロイはグラマンに言われて来ただけであるので、見合いの段取りも何も知らされていないのであるから、別に責任を感じる必要はないのだが、なんとなく女性にエスコートされるのは男として気を使う。
そんな事を考えなら、エリーゼと二人ホテルのラウンジを出ようと歩きだしかけたところで。ロイの目に見間違えるはずのない無い色が飛び込んできた。
その特徴的な蜂蜜色の髪。
思わず二度見したが、間違いない。
「中……佐?」
「少尉……」
何故か己の副官リザ・ホークアイ少尉がロイの目の前に立っていた。
それも、軍服でないのはもちろん、いつもの私服姿でもなく何時になく小綺麗な…いわゆるお洒落した格好でである。付けているピアスや化粧の仕方、ルージュの色まで違う。持ち前の(リザだけに発揮する)観察眼でそんなところまで見て取って、ロイは混乱する。
何故、今、よりにもよって己の見合いの席に彼女がいるんだ?
だが、それは相手も同じだったようで。リザは何時になく動揺した顔をしている。基本的にポーカーフェイスを崩さない彼女のこんな顔を見るのは珍しい事だ。
「マスタング中佐……?」
ロイの背後に控えていたエリーゼが不思議そうな声を上げて、ロイの隣へと並ぶ。その瞬間リザの顔が目に見えて強ばった。
絶対に今、会いたくない人物に会ってしまった絶望と混乱と、何故彼女がここに? という疑問でロイの胸中は一杯になる。すぐにでも問いただしたかったが、なんとなく見合い相手のエリーゼの前でする会話ではないような気がした。
それならば、なんとかリザと二人になって話をしたいと思ったが、今ここで見合い相手を放り出していく訳にもいくまい。エリーゼに悟られる事なく、それとなくリザにこちらの意志をなんとか伝えられないだろうか。悩む事しばし、ロイはとある事を思いついた。
それは、遠い遠い昔にとある少女と行っていた秘密の遊び。
「あ~ゴホン、少尉。この前グラハムが休みを代わってくれと言っていたからな、今日、私が非番になったのだよ。そうしたらオーランドも今度休みを代わって欲しいと言い出してな。オーランドはさすがにもう何度も休みを都合してやっていたからこれ以上はダメだと言ってやったんだ。そしたら、ユーリーがそんな事言わずに代わってやれ……としつこくてな。だったら、お前が代わってやれ…と言ったらそれはイヤだと言うんだ。まったく調子が言い奴だな。で、結局、トッドがワリをくって休みを代わってやる事になったんだ…まったく人の前で15分も粘るんだからな……たまらんよ、ゴホンッ」
「……そ…う、でしたか。それはお気の毒に」
最初は戸惑っていたリザだが、その瞳に理解の光が灯るのをロイは確認して満足する。
そして、会話の内容と階級呼びからロイとリザの関係を察して遠慮した様に二人の様子を伺っていたエリーゼを促して、ロイは再び歩きだした。
「では、な。少尉」
「はい。中佐」
それをリザは軽く会釈して見送ると、こんな場所で予想外な出会いをしてしまった上司と部下は何事もなかったかのように別れたのだった。
「伝わったようだな」
「突然あんな事をなさるから驚きました…」
「でも、ちゃんと君も覚えていただろう?」
ロイとリザがホテルのラウンジで別れたその15分後、美しく整えられたホテルの庭で男女が密会していた。
言うまでもなく、ロイとリザである。
とっさに思い出した方法……暗号で、ロイはリザに”GO OUT 15分”(15分後 外へ)というメッセージをエリーゼに悟られる事なく伝える事に成功していた。もちろん今は、エリーゼには仕事の事で電話がある――と、レストランから抜け出してきたのである。
ロイの軍人としての立場を理解しているらしい彼女は特に疑う事もなく、ロイを送り出してくれた。まったく、正直最初から断る事前提でする見合い相手にしてはもったいないくらいの相手だ。
「……それは、もちろん。忘れる訳ないじゃないですか。むしろ中佐の方こそ、あんなお遊びとっくにお忘れだと思っていました……」
そう、会話の中に登場する人名の頭文字を繋ぎ合わせ、言葉にして相手に伝える――という暗号ごっこ。これはロイとリザが少年少女時代に行っていた二人だけの秘密の遊びであった。元々は修行中のロイがリザと話す時、師匠ーーリザの父に聞かれるとまずいような事を隠すために思いついたリザとのコミュニケーション手段であったのだが、いつの間にか二人の間で例え秘密にするような事でなくともこの暗号で伝える――というような遊びに変わり、二人の言葉遊びとして定着したものだった。
ロイはこの暗号ごっこでよくリザと晩ご飯のメニューや明日の天気はなんだ……といったたわいのないやりとりをしたものである。
ロイにとっては忘れ得ぬ、懐かしく、美しい思い出である。それはリザにとっても同じだったと確認出来て心密かにロイは嬉しく思ったのだが、何故かこの暗号に関しての話題にはリザの顔は曇りがちであった。
しかし、そんなリザの様子に気づくことなく、ロイは気楽に後を続ける。
「そうだ。この暗号を軍務でも使おうか。今後君とおおやけで話すのがまずい状況に陥った時に使えるぞ? スパイ対策とかな」
ロイの提案にリザは一瞬だけ彼を仰ぎ見た。すぐに逸らされたその瞳が揺れていたのは気のせいだっただろうか。しかしそれを確かめる前に、
「まさか。こんなお遊びな方法を使わずとも軍ならもっと賢い暗号作戦案がありますよ」
リザがいつものきっぱりとした口調で言い切って来たので、結局うやむやになってしまったのだが。
「それより……お話があったのでは? 中佐」
さりげなく話を逸らしたリザの指摘で、ロイは当初の目的を思い出した。
そうだ。どうして、今日、よりにもよってこの時間、この場所にリザがいるのか。(しかもそんなにお洒落をして、だ)それを問いただすために、彼女を呼んだのだ。いくら仕事だと理由をつけても、見合い相手を長時間放置する訳にもいくまい。と、ロイは早々に用件をリザに切り出した。その時。
「そうだ。君……どうして、ここにいるんだ?」
「それは……」
「それは僕たちからお話しさせてください」
会話に知らない男の声が割り込んできた。
リザと二人きりだと油断していたロイはその時まで、その人物の接近に気づいていなかった。それはリザも同様だったようで。
彼女と二人、同時に声がした方を振り返ると、見知らぬ男が立っていた。明るい茶の髪と、グレーの瞳のまだ若い男だ。誰だ……? と、ロイが声をかけるより早く。
「ホワイトさん!?」
驚きの声を上げたのはリザだった。
「少尉? 知り合いか?」
「いえ……その…はい…」
珍しく歯切れの悪い返事をよこすリザにロイは不審に思う。目の前の男に視線を向けて、その風体を観察するが特に怪しい様子も見られない。
だが。
「彼は、リザさんのお見合い相手なんです」
男の後ろから現れた女性に、今度はロイが驚きの声を上げる番だった。
何故なら。
「ミス・ブラウン!?」
レストランで己を待っているはずの見合い相手――ミス・エリーゼ・ブラウンがそこに立っていたからである。
続く
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by netzeth
| 2012-06-05 00:06