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ジューンブライド・ラプソディ (4)

ロイ達の前に現れたミス・エリーゼ・ブラウンとリザにホワイトと呼ばれた男――彼らは唖然としているロイ達に向かってにっこりと微笑むと、
「まずは自己紹介いたします。僕はサム・ホワイトといいます。そちらにいるリザさんの見合い相手です」
未だに事態がよく飲み込めないが、ロイはリザに本当か?と事実を確認する。
「本当です。中佐。今日、私はこのホテルでこちらのホワイトさんとお見合いをしていました」
つまり、リザは今日この日この時間、よりによってロイと同じホテルで見合い予定だったという事になる。そう、リザは自分と同じく見合いの席から抜け出してきていたのだ。
しかし、何故この場にリザが居たのか――その答えは出たが、では何故自分の見合い相手とリザの見合い相手が一緒に居て、更に自分達の前に一緒に現れたのか。その答えがロイにはさっぱり見えなかった。
ただ一つ分かるのは、リザと自分の見合いが意図的にかち合う様にセッティングされていた事といい、それが全てはグラマンのもくろみだろうと言う事だ。
「……先ほど説明する――とおっしゃっていましたね? 我々に分かる様に、全てお話頂けますか?」
だとしたならばあの狸な老人の事だ、また何かやっかいごとをロイに押しつけようとしているに違いない――そうロイははんば諦めの境地で悟った。そして、その予感は間違っていなかったのである。


サムとエリーゼが語った話は要約すればこうである。
エリーゼ・ブラウンとサム・ホワイト――ロイとリザの今日の見合い相手。二人はそれぞれイーストシティに名高いブラウン商会とホワイト商会の娘と息子であるのだという。そして、その二つの商会はいわゆるライバル会社であり、当然ブラウン家とホワイト家は仲が悪いらしい。
「エリーゼと僕はいわゆる幼なじみで……そして将来を約束しあった恋人同士でもあります」
「でも、サムの家と私の家は折り合いが悪くて……私たちはずっと親には秘密で二人会ってきました」
「ところが、最近僕たちの仲をそれぞれの両親に知られてしまったんです。当然、大反対されまして。二人で会う事さえ禁止されてしまったんです」
「その時、私たちの境遇に同情して下さったのが、昔から良くして下さっていたグラマンのおじ様でした。ワシに良い考えがあるから任せなさい、と」
「僕とエリーゼが堂々と会う事ができる様にして下さる、とおっしゃられて」
そこでそれぞれの家と親交があり、サムとエリーゼも幼い頃から知っているというグラマンが策を講じたらしい。
まず、交際を良しとしないブラウン家とホワイト家に見合い話を持っていく。エリーゼとサムには違う相手をあてがえばお互いの事を忘れるだろうと、当然親達はその話に乗ってくる。
「そして、見合い相手であるマスタング中佐とリザさんに理由を話して協力して貰いなさい――と、グラマンのおじ様が。その…きっと力になってくれるだろうから、と」
そこまで話を聞いたロイは思わず頭を押さえた。頭が痛い。隣ではリザが自分とそっくりな沈痛な面もちで、こめかみを押さえている。
要は自分達はグラマンに見合いと騙されて、勝手に若い二人の人助け要員として駆り出された訳なのだ。
「つまり今日、私とホークアイ少尉の見合いが同じ場所で行われたのも閣下の差し金……という訳なんですね?」
「その通りです。どこに人の目があるか分かりませんから、僕らも最初は普通に見合いをしていましたけど……あくまでも偶然を装いつつ、折りをみてお二人にお話を……と思っていました」
「マスタング中佐が席を外されたので、もしや……と思ってサムのところに行ったら、リザさんも席を外していたので、きっとお二人でお話をされているのではないかと。……密談をするならこのホテルの庭はうってつけですから」
「なるほど……な」
「私達は今、自由に行動できません。出歩くとなると必ず共の者が付いてきて、監視されているのです。けれど、見合い相手に会う――となれば話は別です。両親もむしろ進んで、送り出してくれるでしょう」
「つまり、私と少尉に会うという事を口実にして、お二人が会える様にして欲しい――という事ですね?」
「はい」
「グラマンのおじさまもそのようにして貰いなさい、と」
ロイはリザと顔を見合わせた。
恋人は敵同士の家柄――なんてまるで、どこかのお話の中の出来事の様だ。確かに、ブラウン商会とホワイト商会はライバル関係にある会社であるが、そこまで家同士が仲が悪いとは知らなかった。子供同士の交際まで認めないなどと、少し時代錯誤の感覚の様な気もするが、下手に名家だったりするとその辺りは古い考えに捕らわれているのかもしれない。
突然の展開に驚いたのは事実だが、ロイはむしろすっきりとしていた。グラマンが自分達に急に見合いをさせた意図がはっきりとしたからだ。
それならば、最初から話しておいてくれれば良かったものを……と思わないでもないが、そこはそれ、あのいたずら心がありすぎる老人の事だ。おおかたリザに見合いをさせる――という事で自分を焦らせようとしたに違いない。いつまで経っても可愛い孫を貰ってくれぬ男に対するささやかな意地悪…といったところだろうか。
「お二人にはご迷惑の事とは思いますが……」
「どうか、協力して貰えないでしょうか?」
元といえば、この見合いはグラマンの言いつけで行ったものだ。まさか、こんな展開になるとは思ってもいなかったが。ならば、この若い恋人達への協力もグラマンからの言いつけという事になる。仕事に関係ない私的な事とはいえ、上司の命令は絶対である。ましてや、グラマンには日頃から世話になっている。無碍に断る訳にもいくまい。だがしかし、グラマンの事は抜きにしてもロイはこの二人の力になってやろうという気分になっていた。
せっかく両思いだというのに、結ばれない…なんて、不幸である。例え毎日顔を見ることが出来たって片恋の自分の様な者もいるのに。過去の己の手痛い失恋を思い出すと、この二人の事をロイには他人事とは思えなかったのだ。
「……どうだろうか、少尉。グラマン閣下の意志でもあるし、一つこの二人の力になるというのは?」
「ええ。私はかまいません」
元々優しい性格のリザである。ロイの予想通り彼女は否とは言わなかった。
「ぜひともお二人のお力になってあげましょう! ね! 中佐!」
それどころか、燃えている。
女性というのはこういう、障害のある恋――というシチュエーションに弱いのだろうか。何も言わなかった祖父グラマンに対しての不満はあるようだったが、それはそれとして、彼女はこの若い恋人達への協力に積極的なようだった。
そして、どこか使命感すら感じさせる、リザのキラキラとした瞳に幾分気圧されながらも、ロイはエリーゼとサムに向き直ると二人にその恋の応援を約束したのだった。





続く
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by netzeth | 2012-06-07 00:05 | Comments(0)