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ジューンブライド・ラプソディ (5)

結局あの見合いの日からというもの、ロイとリザは非番の度にエリーゼとサムのデートに付き合う事となった。
いや、非番の日だけではない。仕事の都合が付いて早く上がれる日などでも、見計らった様に約束を取り付ける電話が入るのである。サムとエリーゼも心得たもので、まずエリーゼがロイに電話し、予定を確認。ロイが了承しそれをリザに伝えると、今度はリザがサムに連絡――といった形でエリーゼとサムが直接連絡を取らずともデートが成立する様になっているのだ。
よって、ほとんど毎日ロイ達は恋人達のデートの場へと駆り出されていた。今まで会えずにいて互いが恋しく、気持ちが盛り上がっているのは分かるし、ラブラブなのは結構な事だが、さすがにこう頻繁だとロイとしてはたまったものではないのだ。……なにせ、サムとエリーゼが恋人同士の交流を深めている間は必然的にロイはリザと二人きりになるのだから。
そう、結局ロイとリザがしている事はいわゆるダブルデートなのである。
会えない時間が愛を育てる――というのだろうか。サムとエリーゼはロイ達が恥ずかしくなるくらいに本当にラブラブで、始終ぴったりとくっついて離れない。デート場所は公園や、カフェ、レストランと、時と場合によって様々だったが、そのいずれの場所でもロイはリザと共に時間を過ごしていた。まるで本当にリザ二人きりでデートしているようで、そうやって彼女と一緒の時間を過ごせば過ごすほどに、ロイの中にたまらないやるせない気持ちが募っていくのである。
失恋して、それでもまだ諦めきれずに未練を残している女とほとんど毎日デート……なんて、本当になんの生殺しだ――とロイは思う。
それでも、少しでも――しゃべるのはほとんど仕事の話だったりするが――リザとこのような他愛もないけれども貴重な愛しい時間を持てる事はロイに安らぎをもたらしていた。
例えリザは純粋に不幸な星の下に生まれた恋人達の力になろうとしているだけで、自分をこれっぽっちも異性として見てくれていないだろうと分かってはいても、ロイの心はいつの間にか満たされていたのだが。
しかし、ロイをこのような状況下においた主犯であるグラマンが事あるごとにロイの下へとやってきては、
「やっほー、マスタング君。今日もデート? いや、結構結構。頑張って若い二人の恋路を応援してあげてよね。あ、そうそう、ねえ…そろそろ、リザの事押し倒したくなったんじゃない? あ、もしかしてもう押し倒しちゃった?」
などと、見合いと騙した事も勝手にロイ達にやっかいごとを押しつけた事も棚に上げて脳天気に聞いてくる姿を目にする度に、ロイはハッと我に返るのである。これは仮初めの時間であるのだ――勘違いしてはいけない、と。


そんな風にロイとリザが偽装の見合い相手として、エリーゼとサムに付き合う様になって早数週間が過ぎた。
とうとう五月も中旬に入り、アメストリスはそろそろ初夏を迎えていた。
相変わらず、ロイとリザはこのダブルデートに付き合っており、今日も非番を利用してはイーストシティの郊外にある公園へとやってきた。
そして晴れ渡った空の下、気持ちの良い温度の風が吹き抜ける公園内の芝生の上にロイはリザは腰を下ろすと、いつもの様に二人の時間を過ごしていた。
既にエリーゼとサムは二人の愛の時間を育むべく、早々にロイ達の前から姿を消している。今頃はどこかできっとイチャついているのだろう。
若い二人を微笑ましくも、そしてすこしだけ羨ましくも思いつつロイは隣に座るリザへと顔を向ければ。彼女は持っていた大きめのトートバックから何やらごそごそと大荷物を取り出しているところだった。
「少尉……? それは?」
「あの、実はお弁当を……」
作ってきてみたのですが、と前置きをおいて。リザが目の前に広げたのは手作りおぼしきサンドイッチに、タコさんウィンナー、ウサギさんリンゴといった、これまたお弁当の定番といったものばかりだった。
「これは…私が食べていいのか?」
「はい。……お口にあうかどうか分かりませんが」
そう言った彼女の顔は少しだけ紅潮していて、そして心なしか軽く唇を噛んでいる。これはリザが緊張している時にみせる仕草だと言うことをロイはよく知っていた。
「いただくよ」
そして。
ロイがサンドイッチを口に運ぶのを彼女はじっと見ている。リザが何を緊張しているのか、理解したロイはフッと口元を緩めると。
「旨いよ、ありがとう」
ロイの言葉にあからさまに安心した表情を浮かべたリザは嬉しげにはにかむ。だがすぐにフイッと顔を逸らしてしまった。
その仕草にロイは強い既視感を覚える。
マスタングさん。と呼ぶ幼い彼女の声が聞こえる。
本当は嬉しいくせに、喜ぶ己の顔を見せたくなくてすぐに顔を逸らしてしまうその仕草が幼い頃の彼女の姿とだぶる。
いつも自分のために一生懸命料理をしてくれた、美味しいよと誉めると本当に嬉しそうにはにかんだ君。
そんな彼女を見ていて、ずっとずっと一緒にいたいと思った――。だから、プロポーズした。当時のロイは本当に若くて、無謀で、断られるなんてこれっぽちも思ってやしなかった。それは若さ故の傲慢だったのだろうか。いまだに彼女がどうして己の求婚を受け入れてくれなかったのか、ロイは怖くて問うた事はない――そしてもう何年も経た今、今更その傷を掘り返そうとは思ってもいなかったが。
逸らされたリザの顔。しかし、隠していても耳が赤いのは丸分かりで――そんなところまで、昔のまんまで。
――本当に、彼女にはまいる。
未だにロイの前で、過去に拒んだ男の前で、こんな風に親しげな仕草を見せるリザの真意をロイは計りかねていた。


「今日は、ありがとうございました」
公園デートを終えると、エリーゼとサムの二人はいつも通り礼儀正しくロイ達に頭を下げた。
いつもその顔が本当に嬉しそうなのを見ると、ロイは協力してやって良かったと思うのであるが。だが、同時に少しだけ不安も覚えていた。
一体二人は将来をどう考えているのだろうか、と。
永遠に自分達が協力し続ける訳にもいかないし、それでは根本的な解決にはならないだろう。いつかは互いの両親に話して分かって貰わねばならないのだ。
けれども不思議とそう言った話はサムからもエリーゼからも聞かれない。二人がお互いの将来の事をどう思っているのか知らないが、今がよければそれで良いという刹那主義者なのかと疑ってしまうほど、二人は己の未来の事を心配してはいない様だった。
元々明るい性格の二人であるし、自分達にはそう言った部分は見せない様にしているのだろう、とロイはそう納得していたが、しかし、サム達が自分達の将来から目を逸らしているのではないか? という疑念も捨てきれずにいた。
けれど、そんなロイ自身も、この二人の秘密の逢瀬が無くなる事はイコールリザと自分とのデートが無くなる事を意味するのだという事実から目を逸らしていたのであるから同罪なのであるが。
けれども。
ロイは心の何処かでいつもこう思ってもいた。こんな幸せな時間が、ずっと続く訳がないと。
どんな事にも終わりは必ずくる事を、ロイは知っていた。そう、自分とリザが過ごしたあの青春の時間が、二人過ごした時が、終わりを告げた時の様に。
そして、ロイのその思い通りに、終わりはあっさりと訪れたのである――とある女性の言葉をもって。
それは公園デートの帰り道での事だった。人目が多いところではロイはエリーゼとリザはサムと一緒に歩いて、互いに距離を置く。もし、ホワイト家やブラウン家の者に見られても良いように、と。
いつも通りに二つのカップルは互いに少し距離を取って歩いていた時の事、既に街灯に明かりが灯り、辺りが薄暗くなり始めた時刻の頃だった。
黄昏時とはいえ街を行く人々の数はそれなりに多かったのだが、その道行く人々の中でふとロイ達の目の前で立ち止まった女性がいた。
そして、エリーゼと同じくらいの歳その女性は、ロイとエリーゼの顔をマジマジと見るとこう宣ったのだ。
「あら? エリーゼじゃない。ずいぶんと素敵な人を連れているのね。来月は結婚式だっていうのに浮気なんてしてていいの? サムに叱られるわよ?」 
エリーゼの顔がひきつったのを隣にいたロイは確認できてはいなかったけれども。
その場の空気が凍り付いたのだけはその肌で感じていた。
――これが、この度の茶番劇が終わった瞬間であったのだ。




続く
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by netzeth | 2012-06-09 00:13 | Comments(2)
Commented by 長月十伍 at 2012-06-10 01:10 x
一気に五まで一気読みしちゃいました。面白いです!サンドイッチ食べたくなりました
Commented by うめこ(管理人) at 2012-06-10 17:01 x
>長月十伍様
一気読みありがとうございます!これどうかな?といつも思いながら書いておりますので、面白いとのお言葉大変励みになります(^^)リザさんのサンドイッチ美味しそうですよねv私も食べたいですw
それでは、コメントありがとうございました!!