うめ屋


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by netzeth
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鈍感男のマーチ

「気づいているか、ヒューズ」
「……ああ」
油断なく背後を警戒しながら歩く同室の友人の鋭い目つきを見ながら、ヒューズは返事を返した。
「二人……いや、三人だな」
今日、ヒューズとロイは久しぶりに休日を利用して街へと足を運んでいた。ヒューズが通う士官学校は全寮制だ。当然規則も厳しくなかなかこのように街への外出も気楽には出来ない。しかし、隣を歩くロイは学年首席の優等生である。故に彼と一緒なら多少の無理とわがままが利く。そう、少しくらいの門限破りには目を瞑って貰えたりするのだ。そういう意味で頼りになる親友である。
緊張した面もちのロイに対して、ヒューズは極力軽い口調で言う。
「まあ、気にする事もないんじゃねえの?」
「ああ、そうだな。例え三人居ようが俺達に何かできるとは思えんしな」
「いや、そういう意味じゃなくてよ……」
「? どういう意味なんだ」
ヒューズは自分達の後をつけてくる人物達が何者なのか、とっくに気づいている。そして、その目的も大方予想は付いている。そして、それは当然ロイも同様だと思っていたのだが。
「しかし……こう、頻繁だと一体何がしたいのか、何が目的なのか気になるな……」
――気づいていなかった。
本気で言っているのかと疑いながらもヒューズはロイの発言にどうしても気になる部分があったので、突っ込んで聞いてみた。
「頻繁?」
「ああ。俺が外出する度に、だ。ああやって二、三人でついて来るんだ。……何がしたいんだろうな、彼女達は?」
ヒューズ達をつけている者達――それは士官学校からほど近い場所に在る女学院の生徒達である。実は士官学校よりも歴史が古く、この辺りでは一番の名門であり、通う生徒は裕福な家庭のお嬢様が多い。名門の証であるその清楚な制服と、そして美人が多いということで飢えた年頃の野郎が集う士官学校生に絶大な人気があるのだ。おそらく彼らの大半は彼女達とお友達になりたいと思っているだろう。
「敵意も害意も殺気も感じられないから放っておいてるんだけどな」
不可解だと真剣な顔で言うロイに、そりゃそうだろうよ。とヒューズは胸の内でつっこむ。というか、本気で言っているとしたら、ロイの鈍さも相当なものだ。そこまで感じ取っておきながらどうしてそれが彼女たちのロイに対する好意だと気づかないのだろうか、この超絶鈍感錬金術馬鹿は。
事実、ときおり後ろの彼女達からは、ロイ様っだの、今日も素敵っ、だの、ご学友の方も素敵ねっだの(これは正直嬉しい)きゃっきゃっ、と盛り上がっている声が漏れ聞こえてくるのである。
「まあ、彼女達の事はどうでもいい。それよりも今日はもっと大事な事があるんだ。だからお前につき合って貰っているんだからな」
彼女達とお友達になりたいと願う野郎共が聞いたら、血の涙を流して首を絞められそうな事を言いながら、ロイは悩む顔をする。
「ああ、前言ってた錬金術の師匠のお嬢さんへのプレゼント…か?」
「そうだ。……何が良いと思う?」
士官学校の難解な戦術理論のテストをよりも、ロイにとってはこちらの方がよっぽどの難問のようだ。
「う~ん、俺だってその年頃の子の好みなんて詳しくねえよ」
ロイよりも女性に対して造形が深いという自信はあったが、ヒューズだって妹みたいな年頃の女の子の喜びそうなもの…と言われると弱る。年上ならばいくらでも思いつくのだが。
「俺が考えると、本とか、ペンとかおもしろくないものばかりになってしまうんだ…。頼む。お前だけが頼りなんだ」
「んなこと言ってもよお……やっぱ女の子の事は女の子に聞くのが一番じゃね?」
「そうか……」
そうやって、大の男二人で頭を悩ましていた時の事だった。
「あのっ……!」
既に注意を払っていなかったのでまったく気づいていなかったのだが。ヒューズ達についてきていた女学院の生徒達の一人がいつの間にか自分達のすぐ後ろに接近していたのだ。彼女は愛らしい顔を赤く染めて、決死の形相でロイを見つめている。
「あの……ロイ様!」
その手に持っているのは可愛らしいピンク色の封筒にお決まりのハートマークの封印。
自分は離れていた方がいいだろうか、とヒューズは迷った。
「ああ、君。すまないが、ちょっと聞いてもいいだろうか?」
ところが状況を理解していないのかロイはそんな事を言いだした。本当に、ちょうど良かったみたいな顔している。まさかな、とヒューズは嫌な予感がした。
「は、はい!」
想い人に話しかけられて、女性徒は嬉しげに口元を綻ばせている。
「君と同じくらい…いや、一つ下くらいかな。そんな女の子が貰ったら喜ぶプレゼントって何かな? 教えて貰えると助かるのだけど」
この馬鹿……とヒューズは思ったが、時は既に遅し。
女性徒の表情は凍り付き、石の様に固まっている。
「俺にとってとても大切な女の子へのプレゼントなんだ」
重い空気になど気づきもせずにロイがとどめにそんな事を言った。
「……そ、れ、は…可愛い小物なんかよろしいんじゃありませんかしら……う、ううっ…ロイ様の馬鹿!!」
わあああん! と泣きながら女性徒は仲間の元へと走り去って行った。それをロイは唖然と見送って。
「……俺、何か悪い事言ったか?」
「お前……ひでー奴だな……」
おもいきって告白に来たら好きな男に別の女へのプレゼントを何がいいか聞かれるなんてどんなトラウマだ。
しかもそれでもちゃんとロイの質問に答えてくれたあの女生徒はとてもいい子である。もったいない……とヒューズは心底思った。
「へ? な、何がだ? というか、なんであの子俺の名前を知っているんだ?……まあ、いい。それよりも、だ。リザへのプレゼントだ。可愛い小物か……リザはどんな物を可愛いと思うかな。リザは子犬を見て可愛いと言っていたから、子犬のものがいいかもしれないな。リザ喜ぶかな……」
リザ、リザ、リザとうるさいロイの言葉を聞きながら、あ~あ誰かこいつを教育してくれないかな。とヒューズは心密かに思うのだった。




END
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by netzeth | 2012-06-17 20:40 | Comments(0)