うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth
プロフィールを見る
画像一覧

怖い話?

「なあ…この東方司令部にも七不思議ってあるのかな」
茹だるような暑い夏の午後。あまりの暑さにとうとう脳味噌まで干上がったのか同期の親友が唐突にそんなことをぼそりと言った。その一言に乗ってきたのは意外にもそういう非科学的な事を一番信じていなそうな、俺の上官だった。
「なんだ、ハボック。怪談話か?……確かにこの暑い時期にはぴったりかもしれんな」
暑さに顔をしかめつつ書類にサインを書いていた、ロイ・マスタング大佐はいかにもおもしろそうだ、と言った顔をする。
「やめて下さいよ~~そんなの聞いたら僕、怖くて夜勤が出来なくなっちゃうじゃないですかあ~~」
そして、お約束通り一番嫌そうな顔をしたのは最年少のメガネだ。まだ始まってもいない怪談話を怖がって既に半泣きの顔をしている。……俺に言わせりゃお前が大好きな犬の方がよっぽど怖いがな。
「落ち着け。別にこの東方司令部に七不思議があるって確定した訳じゃない。ハボはあるのか?って聞いただけだ」
俺の言葉を聞いたフュリーはですよね~と途端にホッとした顔を見せた。良くも悪くも素直な奴である。
「確かに私もそんな話は聞いた事がありませんね……ところでハボック少尉はこの東方司令部に「も」とおっしゃいましたが。では他に七不思議があった場所をご存じなんで?」
口を挟んできたのはこのクソ暑い中でも涼しい顔をしているファルマンである。北の方の出身の割には暑さに強いらしい。
「ああ。俺らの居た士官学校には七不思議があったんだよ。な?」
同意を求めてきたハボに俺は頷いてやった。
「ああ。確かにあったな」
俺は数年前の記憶を引っ張り出す。俺らのいた東部の士官学校はその歴史も古く、そして設備も古かった。とかく、そういった古びた学校には怪談話というものが付き物である。
「なんだと? 私はそんな話聞いた事無かったがな」
大佐は俺とハボと同じ士官学校の出身である。まあ、俺らの尊敬すべき大先輩な訳だ。
「そうっスか? じゃあ、大佐の頃には無かったんじゃないっスか?」
「バカを言え。私とお前達とでは数年も変わらんだろうが。ふん。そんなに歴史の浅い七不思議などつまらんな」
歳の話をされると微妙なお年頃の大佐が憤るのはいつもの事だ。男のふくれっつらなんて鬱陶しいだけですぜ、大佐。
「では、大佐がご存じ無かったんじゃないんですか? ちなみにどんな七不思議だったんです? 私の居た学校ではそういった怪談話はありませんでしたから興味ありますね」
「あ、僕も!」
北部の学校出身のファルマンと士官学校出では無いフュリーには俺らの学校の七不思議がえらく興味深いらしい。
特にさっきまで泣きそうな顔をしていたフュリーの変わり身の早さに俺は苦笑した。自分と関係無さそうな話なら良いんだな。
「え~と……何があったっけかな……」
自分から話を振っておいていざとなると思い出せないらしい。ハボが俺に助けを求める様に視線を送ってきたので、俺は仕方なく答えてやる。
「俺が知っているのは男子寮の石像が夜一人で勝手に歩くって奴だな」
「ああ、そうそう! それだよ、それ!」
「何? あの男子寮初代寮監だったとかいうベーカー少佐像か?」
「ええ、それです」
俺が頷くと大佐はう~んと腕組みする。
「やっぱり聞いた事ないぞ…そんな話」
「だ~か~ら~、やっぱ歳の差ですって!」
しきりと首を捻る大佐にハボが揶揄するように言う。
「うるさい!……ベーカー少佐像といえば、夜中にこっそり錬金術の練習台にしたことはあったがな……」
「……大佐。具体的に何をしたんで?」
「ん? ああ。だからな、ベーカー少佐にそっくりな石像を錬成してたんだ。あの像、結構精密に出来ていたからな、同じものを錬成出来たなら良い練習になると思ってな」
「……それで?」
「とにかく夢中でな。何体も何体も造ってはみたがあの頃はまだまだ未熟でなかなか納得できるものが出来なくてな……おかげで毎日寝不足だったな」
「へえ~~! 大佐はその頃から錬金術をたしなんでいたんですね!」
すごいです! とかフュリーが無邪気に感心の声を上げていたが、俺とハボはそれどころでは無かった。顔を見合わせて意志を確かめあう。おそらく俺とハボの心の声は一致していたと思う。
――原因あんただろ、それ。
なるほど、大佐がこの七不思議を知らない訳だ。なにせ、自分がその七不思議の元凶なのだから。おそらくその大佐の練習を夜中に目撃してしまった者があるはずのない場所にベーカー少佐像があるのを見て、歩いた! と誤解したのだ。
脱力しかけた俺だが、なんとなく嫌な予感がして一応聞いてみた。
「ところで、大佐。他に錬金術で何かした覚えは?」
「ん? いや、あまりおおっぴらには使ってはいなかったからな。……ああ、ヒューズの奴に頼まれて無断外出の片棒は担がされたが……」
「……それは?」
「本校舎裏手の外壁に奴専用の外出用の入り口を作らされたんだ。一見して壁にしか見えないんだが、押すと回転して外に出られる」
俺は七不思議の一つ、怪奇! 校舎裏の行き止まりで消える人! を思い出して脱力した。隣では俺そっくりな顔をハボがしている。俺たちの思考は再び一致していただろう。
――それもあんたの仕業かい。
「錬金術って便利なんですね~」
「ブレダ少尉、他の七不思議は知らないんですか?」
何も知らないフュリーとファルマンが羨ましいぜ。この俺たちの疲労感を分けてやりたい。
「あ、ああ?」
気を取り直して俺は他の七不思議を挙げる事にする。いくらなんでも全部大佐の仕業って訳はないだろう。……だとしたら嫌過ぎる。
「あと俺が知っているのは、深夜の射撃練習場に響く銃声ってやつかな」
「そうそう、あったなーそれ。夜中に銃声が聞こえて駆けつけて見ると誰もいない。で、ボロボロになった的だけが残されていたってやつ」
「ふうむ。……やはりそんな話聞いた事はないな……」
「あら? 何のお話ですか?」
その時部屋に入って来たのは俺達のクールビューティ、ホークアイ中尉だ。その涼しげな容貌。こう暑い中で見ると大佐じゃねえけど癒されるわ、ほんと。
「ちゅ…中尉……いや、その……暑いな…?」
サボっていたことを咎められのかと慌てた大佐がものすごくどうでも良いことを口にする。すると中尉は呆れた顔を見せた。
「別に少しくらいの雑談で目くじら立てる様な事はしませんよ。……ただ、みんなで楽しそうに話していた様ですから、気になっただけです」
「ああそれはな、中尉。士官学校時代の七不思議について話をしていたんだよ」
最後に少しだけ話に混ぜて欲しい…という意志見せた中尉に、ここぞとばかりに大佐が話をふる。……確かに話題に中尉を混ぜてしまえばサボりも一蓮托生である。
「……七不思議…怪談…ですか?」
「俺ら……ああ、中尉も同じ学校でしたよね、確か」
ハボの言葉に頷いたホークアイ中尉は少し思案して。
「……ええ。七不思議なら私も在学中に聞いた事があるわ。確か……そう、男子寮の歩く石像とか…校舎裏手で人が消えるとか……」
「「あ、それはもういいんです」」
俺とハボが声を揃えて言うと、キョトンとした顔をする中尉。中尉には悪いがその話はもう流したい。
「今、深夜の射撃場に響く銃声って話をしていたんだが……中尉は知っているか? ちなみに私は知らなかったんだが」
「……射撃場? それは私も知りませんね」
大佐の言葉にホークアイ中尉は首を捻る。俺らと中尉の間にもジェネレーションギャップってやつがあるらしい。
「だよな。……第一、射撃場は夜は使用禁止で生徒は絶対に入れないだろうし」
「……実はそうでもないんですよ」
「どういう事だ?」
「実は私、夜の射撃練習場で射撃の練習をしていた事があったんです」
「何?」
「射撃の授業の教官が特別に内緒でって…許可して下さって……」
「ほう……」
「他の生徒達に知られたら公平じゃないからってあくまでも、秘密の練習だったんですけど。だから人が来たらいちいち隠れたりして……」
今ならもう時効ですよね、と小さく笑った中尉に大佐はでれっとしていたが、俺達はやはりそれどころじゃなかった。ハボを見ると奴もげんなりした顔をしている。
――まさかこの目の前の二人で七不思議の三つまでも占めてしまうとは想定外だった。……何この上官達は後々の生徒にまで語り継がれる様な事やっているんだ。
「あの~他には無いんですか? 七不思議」
ワクワクしているところ、悪いな、フュリー。
俺はもうこれ以上七不思議を語るのは嫌だ。……誰だって青春時代の思い出って奴は大事にしたいんだよ。謎っていうのは謎のままの方が良かったっていう事もあるんだ。俺はたった今それを体験したところだ。
「ああ……俺達が知っているのはこれくらいだ。なあ? ハボ」
「お、おう。悪いなフュリー。七不思議ってやつは全部知っていると呪われるらしいからな。これくらいでやめといた方がいい」
俺とハボはこれ以上余計な事を知ってしまう前にさっさとこの話題を畳む事にする。
――願わくば。どうか、後の四つもこの人らの仕業ではありませんよーに。精神衛生上これ以上詮索するつもりも無かったが、俺は祈らずにはいられない気分だった。



おまけ。その後の大佐と中尉。

「なあ、中尉。この東方司令部にも七不思議があったら、君は怖いと思うかね?」
「……司令部にですか? ……いえ、別に」
「やれやれ……昔は、きゃあ☆マスタングさん怖い!!って私にしがみついてきて可愛かったのになあ……」
「勝手に記憶をねつ造しないで下さい。そんな事言った覚えもした覚えもありません」
「……だよね。君があの頃一番怖がっていたのは月末の水道・光熱費の集金のおじさんだったよな……いいじゃないかちょっとくらい夢を見させてくれたって」
「な・に・か。おっしゃいました?」
「い、いや、別に。……ふう、やれやれ、いつかは君のきゃあ☆っていう可愛い悲鳴を聞いてみたいものだね」
「妄想ならご自由に。そんなこと絶対しませんから」
「……本当に?」
「……本当です」
「ではこれから、君に怖い話をしてあげよう。……君が悲鳴をあげてしまうほどの」
「どうぞ?……のぞむところです。そんなお話ができるとは思えませんけど」
「まあ、いいから。聞きたまえ。……一週間ほど前の事だ。私は深夜の執務室で仕事をしていた。君は二日続けての非番の日だった……覚えているかね?」
「……ええ。もちろん」
「その時私は猛烈な眠気に襲われていてね、でも必死に堪えていた。何故ならば君に必ずやっておけと言われた書類がまだ終わっていなかったからだ」
「……それまでさんざんサボってらしたのが悪いんです。あれはその翌日までの、締め切り絶対厳守の重要書類でしたでしょう?」
「ぼんやりとした、視界。朦朧とする意識。そんな中私はようやく書類を終える事が出来た。そして、そのまま仮眠室へと行こうと思った。だが、しかし。そこで私は思い直した。どうせならば、眠る前に、意識を手放してしまう前にしっかり最後まで書類をチェックしていこう、と。そうすれば後は何の心残りもなく眠れるというものだ」
「……良い心がけです」
「私は書類を数えた。一枚…二枚…三枚…四枚…五枚…六枚…七枚…八枚…九枚……」
「…………」
「書類は全部で十枚だったはずだった。でも何度数えても書類は九枚しかない……一枚足りなかったんだ!」
「……あの、大佐?」
「私は何度も数えた。でも何度数えても九枚しかない。一枚足りない……私は考えた。そう、こんなに何度も数えても九枚しかないのなら、書類が十枚だったというのは私の錯覚、幻、夢想で、書類は最初から九枚であったのだと!!」
「……大佐…まさか……まさか…」
「そう結論を得た私は仮眠室に向かった。そして何の心配もなくぐっすり眠ったね。……書類? そんな事眠って起きたらもうすっかり忘れていたよ。……で、これ。今日私のデスクの引き出しと床の隙間に落ちてたんだけど。たまたま気分転換に模様替えしよっかなーとか思って机を動かしたら発見したんだが。いやあーーたまにはデスクを動かしてみるもんだね、新たな発見があったよ。良かったな見つかって、最後の一枚。はい」
「……きゃあああああ!!」




END
*************************
[PR]
by netzeth | 2012-07-25 01:16 | Comments(4)
Commented at 2012-07-26 14:29 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by うめこ(管理人) at 2012-07-26 23:27 x
>えな 様

コメントありがとうございました♪
お読み頂き大変嬉しいです!お楽しみ頂けて良かったです。
リザさんの悲鳴は私も記憶にないんですが、一度くらいは聞いてみたい気がしますv

えな様のお宅。それは大変不思議な体験談ですね…。何かトトロ的な不思議なものなのでしょうか?でも体験した当事者様達は災難でしたね。現実のが怖いというのは同意でございます!やっぱりそれが真理なのでしょうね~。

それでは、コメントありがとうございました!
Commented at 2014-01-08 20:18 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by うめこ(管理人) at 2014-01-10 02:01 x
>ひかひか 様

コメントありがとうございます♪ 七不思議話お気に召して頂いて大変嬉しいです☆
おそらく残りの七不思議もロイアイが関わっているのではないでしょうかw 彼らは士官学校の生ける伝説になっていそうですよね、良い方でも悪い方でもww
あ、おまけのオチに笑って頂けたのなら本望でございます!ロイさんがだいぶダメな人ですがww リザさんに悲鳴を上げさせられるのはロイさんだけなのですよ、きっとw

怪談というのは怖いながらも不思議と惹かれるものがあります。こうやってロイアイ+マスタング組で騒いでいるのが好きなので、このお話、楽しんで頂けて何よりです☆

どうぞよろしければまた覗いてやって下さいね。
それでは~。