うめ屋


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by netzeth
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躾は最初が肝心という教えに基づいて、リザは最近ホークアイ家にやってきた子犬を厳しく躾ていた。
まだまだ甘えたがりの年齢で、実際リザも甘やかしてやりたかったのだが、心を鬼にしてきちんとした躾を行う。
幸いにも子犬はとても賢い子でリザの手を煩わせることなく、すぐにリザの教えを飲み込んだ。
「よし、いいわよ、いらっしゃい!」
ソファーに腰掛けて、今日の訓練はおしまいとばかりに愛犬を呼ぶと、すかさず己の膝の上に滑り込んでくる黒い毛のかたまり。
「……貴方の事じゃありません!!」
「いいじゃないか。……ケチ」
愛犬よりも早くその頭をリザの膝の上に乗せてきたのは、勝手にやってきてはソファーでこれまた勝手にくつろいでいた上司兼恋人だった。
君があいつにばっかりかまうからずっと待ってたんだぞ……などとぶつぶつ言いながらもロイはリザの膝枕を堪能するように、頭を動かそうとはしなかった。
それに、はあっとリザはため息を吐く。
躾は最初が肝心というのはなるほど、至言である。
自分はどうも、恋人の躾には失敗してしまったようだ。
「ほら、おまえはここだ」
せっかく主人が呼んでくれたのに先を越されてしまってソファーの下で戸惑っていた子犬を、邪魔した当の本人――ロイは手を伸ばして抱き上げると、その胸の上に乗せてしまった。
「いいか? 躾は最初が肝心だからな。言っておくぞ。リザの膝の上は私のものだ。私がいる時はお前が遠慮するように。……そうだな…私いない時なら譲ってやってもいいぞ。判ったか?」
子犬にたいして、そんな事を言い聞かせている男にリザは頭が痛くなる思いだった。
さて、躾直すのはどうしたら良いのか。リザは頭を悩ますのだが。
結局なんだかんだいいながらもロイの頭をどかすことなく、膝枕を許してしまって、あまつさえその髪を撫でている甘い自分には到底無理なのかもしれない……などとリザは思うのであった。


有能すぎる彼女

午後の軍議が思ったより長引いて、結局私が己の席に戻って来たのは予定より三時間も後の事だった。
当然処理せねばならない書類が溜まっていて、げんなりしつつも、席に着くなり私はペンを持ち早速書類に目を通し始めた。
……やれやれ、さぼらずに真面目にやっても今日はおそらく定時には上がれないだろうな。
「ん?」
そこで私はある事に気がついて顔を上げ、そぐそこの副官席に座っているホークアイ中尉を見た。
私の視線に気がついた彼女は何事かと立ち上がって、すぐに私の傍らへとやってくる。
「中尉。一番上にあった書類がないのだが。あれは今日の17:00までに処理して最終のセントラル便乗せなければいけない書類だっただろう?」
だからこそ、最初に目を通してしまおうとしたのだが。肝心のその書類が見あたらず私は首を捻った。
すると、中尉は何故か申し訳なさそうに眉尻を下げ、いきなり私に対して頭を下げてきた。
「申し訳ありません、大佐!」
「な、どうしたんだ、中尉。……頭を上げて事情を説明したまえ」
突然の彼女の行動に驚きつつも、とにかく訳を聞こうと私は中尉に命じた。
「実は……あの書類ですが、締め切りが三時間早まってしまったのです。大佐が軍議に出ておられる間にセントラルから電話がありました。どうしても、14:00時の便に乗せろ、と」
「そうだったのか。だが、あの書類はまだ未処理で、私のサインがなければ意味がないはずだか?」
彼女にしては歯切れの悪い口調に内心不思議に思いながら、私は更に彼女に尋ねた。
「その……僭越ながら……サインは私がしまして、提出いたしました」
「君が?」
おそらく中尉の事だから、軍議の最中の私の手を煩わせたくなかったのだろうが……。だが、いくらなんでも他人のサインではバレるのではないだろうか。私のサインではないと知れたら、それこそ私の評価に関わる。そしてそれが判らない彼女ではないはずなのだが。しかし、そんな私の心中を読みとったかのように、中尉は自らのペンを胸ポケットから取り出すと、サラサラと紙の上に文字を書いてみせた。
「ご安心下さい。大佐。万が一にもバレる事はございません」
そう言って差し出された紙には、まるで自分が書いたと思われる様な見慣れすぎた文字が踊っていた。
クセのあるRの文字まで、なにもかもが一緒の筆跡。
「き、君は私の筆跡が書けるのか!?」
「はい、いついかなる事が起こるか判りませんので。大佐の手の指がボキボキに砕けた時の事を想定しまして、鍛錬を積んでおりました」
……そんな不吉な想定しないでくれ。
淡々と怖い事を言う彼女に怯みながらも、私は内心舌を巻いていた。
iまったく、彼女が努力家なのは知ってはいたが、これほどとは……。
「た、たのもしいな……」
「おそれいります。次の目標は大佐のノドがつぶれた時の事を考えまして、大佐の声色をマスターする事です。既にヒューズ中佐に対しまして試させて頂いたところ、5分ほど中佐はお気づきになられませんでした」
「……君、計り知れないな……」
「いえ、まだまだです」
いついかなる時も上官のフォローを完璧に行う…まさに副官の鑑だ。だが、彼女がすごいのは判るが…同時に少し怖い。
もしこのまま彼女が私の筆跡に続き声までマスターしていったら……自分が必要なくなる日がくるんじゃ…なんて思わず怖い想像をしてしまい、私はいかんいかんと首を振った。
「し、仕事するよ……」
「……今日は真面目ですね、どうしたんですか? 急に」
「いや……」
急ぎの仕事が無くなったというのに、真面目に仕事に取り組み始めた私を見て中尉は小首を傾げている。
言えない。自分が必要なくなるかもしれない…なんて危機感を持ったなどとは、口が裂けても言えない。
……優秀すぎる副官を持って幸せ――と言えるかどうかは、正直微妙なところである。


殺し文句

女が三人集まればかしましいという言葉がある。
確かに若かろうが、年をとっていようが、老若問わず、女という生き物はおしゃべりが好きな生き物だ。どうって事のないような内容でいつまででも、それこそ何時間だって話続けている。だがしかし、男だって数人集まれば結構なものだ。しかも、男の場合はその話題は決まって下らない事が体勢を占めていたりする。
今日も俺はマスタング組と東方司令部内で称される同僚達とそして、尊敬する? 我らが上司と共に実に下らない話に花を咲かせていた。
麗しのマスタング組紅一点が本日は非番のために誰もその長すぎる休憩時間を咎める者がおらず、皆気を抜いていたのかもしれない。
そして話題はいつの間にかそのいない当人と、プレイボーイと呼ばれているクセに一向に本命に手を出せないボスとの微妙な仲に及んでいた。
恋ばなに盛り上がるのは男女共通事項であるらしい。
「で、大佐。結局中尉とはどうなっているスか?」
「そうですよー、付き合わないですかあ?」
「ばかもの。そう簡単にいくか」
俺と、フュリーの言葉に大佐は渋い顔をする。その顔は不本意だと言わんばかりである。大佐ほどの男でも中尉は難攻不落なんだな。
「へえ…。大佐をもってしても中尉を落とすのは難しいんですねえ?」
「何かいい方法はないんですかね……?」
女関係に対してはいつも余裕な態度の上官をからかえるチャンスだとばかりに、ブレダがニヤニヤ笑いをする。それに対して、あくまで真剣に心配している様子なフュリーが首を捻った。
「女性の心を掴むテクニックとか……一発で落ちる口説き文句とか……」
「口説き文句ではありませんが、東の国のてっぱんだというプロポーズの言葉なら聞いた事がありますよ。なんでもそれを言われれば女性はたちどころに落ちるとか」
「な、それ、本当か?」
「ほう……」
考え込みつつもそう発言したファルマンに俺は驚く。
そんな魔法のような言葉があるなら、俺が知りたい。大佐も興味がありそうな顔をして、ファルマンの言葉の続きを待っていたりする。
「はい。え~と、たしか、『同じ墓に一緒に入って欲しい』とか……」
「それ、本当にプロポーズの言葉か? 隣ならともかく一緒にって無理だろ……」
呆れたような顔をして、ブレダがつっこむ。俺も同意見だったが、そこで口を挟んだのは大佐だった。
「いや、待て。東の国では土葬ではなく、火葬をすると聞いた事がある。そして、墓は個人ではなく、家で持つと」
「その通りです、大佐。結婚する事で同じ姓となり、同じ墓に入る――という事でつまり遠回しなプロポーズの言葉となる訳ですな」
「なるほどなー」
「う~ん、でもアメストリスは火葬じゃねえし、その言い回し、伝わらないんじゃないか?」
「そうですよねー。あ、プロポーズと言えば僕も一つ聞いた事がありますよー」
フュリーがぽんと手を打つ。
「君の髪が~肩まで伸びたら~結婚しようよ~っていう歌を弾き語りするといいとか!」
「中尉の髪は肩まですでに伸びていますけどね」
「あ……そうですよね、これ、使えませんね……」
しゅん、とするフュリーだが、それ以前に問題があるだろう。歌うのか、大佐が。
その姿を想像してしまった俺は、吹き出しそうになるのをなんとかこらえる。……以外にハマってるわ。
「他にないのか、他には」
腕組みをした大佐がイライラした様子をみせた。なんだかんだ言って俺達の雑談なんかをアテにしているようだ。……相当手詰まりだったんだなー大佐。
それに、おそるおそると言った様子でファルマンが再び口を開いた。
「あの、これも東の国のプロポーズの言葉だそうですが……」
「言ってみろ」
「『君の作ったみそ汁が毎日飲みたい』、と」
「……みそ汁ってなんだ?」
「みそ汁。大豆を発酵させてつくった調味料…みそを魚介でとったダシに溶かして、野菜や海草などの具材をいれて作ったスープですな。これは東の国の代表的な家庭料理だそうです」
「おー、つまり奥さんになって毎日手料理を作ってくれって意味な訳だな」
「これ、よさそうですね! 大佐!」
「そ、そうか?」
……いや、正直微妙な気がするんだが。
心の中でそう呟くも、結局俺は盛り上がっている奴らに水を差すのも気が引けて黙っていたんだが。



「大佐、どうぞ。今日のはとても上手く作れたと思います。自信作です!」
「そ、そうか…。ありがとう」
いい加減いくらアプローチしても気づかない中尉がとんでもなくニブいって事を大佐は学習すべきだと俺は思う。
中尉みたいな女性にははっきり、きっぱり、ストレートに言わなきゃ絶対に伝わらないんだって。
大佐は結局中尉にあの言葉を伝えてみたらしい。おそらく、味噌汁うんぬんをスープとでも言い換えて。
「お、おいしいよ……」
そして、俺の視線の先には毎日司令部に手作りのスープを持ってくる中尉になんか違う……という腑に落ちない顔をしている、大佐。
はたして、少し…どころかだいぶずれている中尉と大佐の気持ちがかみ合う日は来るのか。
大佐の誉め言葉に、嬉しそうに口元を少しだけ緩める中尉を見ながら、俺は早くその日がくればいいな、と思うのだった。




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by netzeth | 2012-08-02 00:26 | Comments(0)