うめ屋


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by netzeth
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ファースト・インプレッション

※少しだけ下ネタ注意



私、リザ・ホークアイ少尉は緊張していた。そう、きっと今までの人生で一番といってもいいんじゃないかと思うほどの緊張感に私は見舞われていた。士官学校入学のための面接試験だってこんなに緊張しなかったと思う。あ、ほら、あんまり拳をぎゅっとしていたからずいぶんと手汗をかいてしまった。
そんな私を見かねたのだろう。隣を歩いていたマスタング中佐が肩をポンポンと叩いてくれた。
「少尉、そんなに緊張しなくてもいい。彼女は別に君に無理難題を出す訳じゃない。ただ会うだけだぞ?」
「ですが……」
きっと私を励まそうとしてだろうけども、気軽に言う彼を私は恨めしげな視線で見つめた。
「私、何か粗相をしてしまわないかと不安で……」
「……別に粗相をしたっていいじゃないか。彼女はそんなこと気にしないよ。そのまんまの君で良いんだ」
「そんなっ!」
――そんな事出来る訳ない。
だって。
私が今から会いに行く女性はマスタングさん…いえ(もう私は彼の部下なんだからちゃんと階級で呼ばないとダメよね)マスタング中佐の義母…育ての母親なのだから。


私がマスタングさん…もとい、マスタング中佐の副官となって初めての中央出張。滞り無く予定を終えてホッとしていたところで彼はある人に会わせたいと、この中央の繁華街へと私を連れ出した。
訝る私に道すがら、彼はこれから私が会う人物について話してくれた。それが彼の養母…マダム・クリスマスだ。
中央の繁華街でバーを経営している彼女は彼の叔母に当たり、幼くして両親を亡くした彼を引き取り、立派に育ててくれたのだという。
実をいうと、私はその話を彼の修行時代に中佐自身から聞いた事があった。だから、今更別に驚く事は無かったのだけれども。
――これから君をマダムの店に連れていく。
その彼の一言に私はこんなにも動揺と緊張を強いられる事になったのである。
「細かい事は気にしない人だからね、安心するといい」
相変わらず中佐はそんな事を言っているのだけれども、私はちっとも安心できやしなかった。だって、相手は中佐の母親とも言える人なのだ。やっぱり嫌われるよりは好意を持ってもらいたいと思うのはおかしな事ではない…と思う。うん、分かっている。別に私は中佐の彼女じゃないからそんな心配する必要はないって事は。私と中佐はもうただの上司と部下で、そして上司の母親と部下が仲良くなったって仕方がないと思うけれども、それでもこれは理屈じゃなくて。私はマスタング中佐のお母様に自分を少しでも良く見られたいのだ。
「マダムは君に会うのを楽しみにしているんだよ」
何しろ、君のことは昔からよくいい子だよって話していたから。
さりげなく今、中佐がハードルを上げた気がしたけど私は極力スルーする事にする。というか頭の中はこれからの事で一杯でそこまで気が回らなかった。とにかく、失礼が無いようにまずはご挨拶……そして急いで選んだ手みやげを渡して……それから……ぐるぐると手順を頭の中で反復、復習する。
「ほら、見えてきた。あの店だよ」
繁華街中にあって、それほど目立つ店構えではないその場所を中佐が示すと私の緊張は頂点に達した。いよいよ、だ。
時刻は夕刻。私たちはオープンしたばかりのその店へと足を踏み入れた。


「きゃ~!! ロイさ~ん、おひさ~!」
「あーー! 本当、ロイさんじゃないの」
「あら~ロイ君じゃない? 元気してたあ?」
扉をくぐって一番最初に私たちを出迎えたのは女性達の黄色い歓声だった。お店に勤めているホステスさんなのだろう、彼女達は私達(正確には中佐だけなんだろうけど)の姿を認めるとあっという間に周りを取り巻いた。
「もうっ、ずっとロイ君ご無沙汰だから、寂しかったのよ?」
「ほんとほんと。ずっとロイさんが来るの待ってたんだから!」
「ははは、ごめん。ヘンリエッタ。ローズもすまなかったね?」
ヘンリエッタと呼ばれた多分中佐より年上の女性が彼の腕を取る。隣の私は眼中に無いっていうその態度に少ししょんぼりしてしまった。
「あら? 今日は可愛い~子連れているのね。こちらのお嬢さんはどなた?」
すると、同じく中佐に近づいてきた別の女性が気を利かせてくれたのか、私に話題を振ってくれた。
「あ…あのっ、わ、私……」
まずはご挨拶…っと手順を踏もうとした私だったけれど、その私よりも早く、
「その子が例の子だろ? ロイ坊」
お店のカウンターの向こうからよく通る落ち着いた声がした。慌ててそちらに視線を向けると、そこにはどっしりという形容詞がとっても似合いそうな貫禄のある女性が煙草を片手に立っていた。
「ああ、マダム。紹介するよ。私の副官のリザ・ホークアイ少尉だ」
「リ、リザっホっーくあいっです!」
……少し声が裏返ってしまった。泣きたい。
「そうかい。あんたの事はロイ坊からよ~く聞いているよ。あたしはマダム・クリスマスだ。よろしくね」
私の子供のような挨拶にもマダムは笑わないでくれて、少しだけ表情を和ませた。そういう顔をすると中佐に似ている。
「あの…はい、こちらこそっ、よろしくお願いします!」
私は持っていた包み紙をマダムに差し出した。マダムのために、と選んだ手みやげだ。ところが、入ってきた入り口付近でそんな事しても当然マダムの手に届くはずもない。少し間抜けな事をしてしまった。赤面しながらマダムに近づこうとすると、
「へ~~手みやげ持参だなんて、よくできた副官さんね~良かったじゃない? ロイ君」
中佐にさっきからべったりくっついているヘンリエッタという女性が私の手みやげをもの珍しく見てくる。……どうでもいいけど、さすがにくっつき過ぎだと思う。それに中佐の事君付けだし。
「まるで、恋人みたいね? 彼氏のお母様に手みやげ…な~んて」
さっきからこの人の言葉に刺を感じるのは私の気のせい?……なんだか、部下のくせに恋人気取り? なんて言われている気がして少し面白くない。私はそんなつもりはなくて、純粋にマダムに喜んで欲しかっただけなのに。
「ははは、ヘンリエッタ。彼女はただの部下だよ」
「そうよねえ~。まさか副官さんが恋人…なんて事ある訳ないものね?」
遠慮がちに窘める中佐の言葉は逆効果で。勢いづいたのかヘンリエッタさんとやらは私に少し意地悪な視線を向けてきた。
「ふふふ…副官さん? 良いこと教えてアゲル。ロイ君の筆下ろしはわたしがしたの」
「ヘンリエッタ!!」
珍しく中佐が顔を赤くして声を荒げた。
でもヘンリエッタさんとやらは涼しい顔。だけど、私に向けるのは挑発的な笑み。
「どう? 羨ましい?」
「ヘンリエッタさん」
私はすうっと息を吸い込んだ。
「それはさぞかしお上手なんでしょうね。はい、羨ましいです。できればご教授願いたいくらいです。私もぜひやってみたいので」
「少尉!?」
中佐が慌てた様な驚愕した様な声を上げたけども私はかまわなかった。
「ぜ・ひ。教えて頂けませんか?」
「……そ、それは……」
私が詰め寄るとヘンリエッタさんは鼻白んだ様子だった。
「ははははは! いいねえ、その度胸。気に入ったよ!」
豪快な笑い声が耳に飛び込んでくる。
「マダムう~~」
助けを請う様に甘えた声を出すヘンリエッタさんに、マダム・クリスマスが笑う。
「あんたの負けだよ、ヘンリエッタ。……リザちゃん、からかって悪かったねえ。ロイ坊のこと昔から可愛がっていたからあんたに嫉妬してんだよ、ヘンリエッタは」
「え?」
どうしてヘンリエッタさんが私に嫉妬するんだろう。
「ちょっ、マダム!!」
不思議そうな顔をした私に、何故か焦り顔の中佐。マダムはそんな彼をニヤニヤ見ている。
「ふ~ん、その様子じゃまだ手は出せていない様だねえ……」
「マ、マダム! その話はもういいからっ。ほら、少尉もマダムにおみやげ、渡すんだろう?」
中佐に言われて私は手に持ったままの手みやげに目を落とした。――喜んでもらえるだろうか。
「あの……つまらないものですが……」
おずおずと私はそれを差し出した。
「ああ、ありがとうね。嬉しいよ」
嬉しげに目を細めるとマダムはそれを受け取ってくれた。相変わらず貫禄十分のその姿だけど、私に向けてくれた表情は穏やかといってもいいと思う。
その顔を見ながら、私は遠い昔に失ってしまった母親という存在を少しだけ思い出していた。


無事に手みやげも渡せて、その後、何故かマダムは私のことをいたく気に入ってくれたようで、またいつでもおいでと言って貰えた。それがとても嬉しくてマダムの店を後にし、イーストシティに戻る汽車の中までも私はとても気分が良かった。
「どうした、少尉? 上機嫌だな」
「はい。ちょっと……あっ、中佐。私、中佐にお聞きしたい事が」
上機嫌ついでにずっと気になっていたことを中佐に聞いてみる事にする。
「なんだね?」
「筆下ろしってなんですか?」
「…………うん。一度それは忘れようか、少尉」




END
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by netzeth | 2012-08-22 21:32 | Comments(0)