うめ屋


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by netzeth
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夕暮れドラマチック

え、あたし? 見ての通りのしがないアクセサリー屋よ。でもね、今はこうやって市場の隅っこ借りて露店やってるけど、いつか自分の店をウォーレン通りに持つのが夢なの。このアクセサリーだって全部あたしデザインの手作りなんだから! つまり、アクセサリーデザイナー兼職人ってところね。どう? 興味があるなら覗いていってよ。まあ、見ての通り暇だから話し相手になってくれるなら、冷やかしでも許して上げるわよ? え? ずっとこんなとこに一人で座っているのは退屈じゃないかって? ずいぶんとバカな事聞くのねえ……退屈に決まってんじゃない。怒るわよ。……って冗談よ、そんなに恐縮しなくて良いわ。
そうね、確かに退屈ではあるけれど、まあ、これも夢への第一歩と思ってやってるわ。何事にも忍耐と我慢っていうのは付き物だし。……それにね。こうやってぼーっと座っているだけだって、なかなかどうして、キラキラ輝く宝石みたいなドラマチックな出来事に出会えたりするものなのよ。


あれはそう、今日みたいな綺麗な夕焼け空の日だったと思うわ。
日も暮れて来たし、その日はお客さんもさっぱりだったからそろそろ店仕舞いしようかなって思ってた時の事よ。
可愛いワンちゃんを連れたお客さんが来たの。スラリと背筋の伸びだ、綺麗な金髪の女性だったわ。
その人は「少し見せて貰ってかまわないかしら」って丁寧にあたしに言ってからアクセサリーを見ていたのよ。それでね、あまり商品を選んでいるお客さんをジロジロ見るのも悪いとは思ったんだけど、こちらも商売だし、何かあったらいつでも営業トークが出来る様にって注意していたの。
観察するとその女性は耳にピアスをしている様だった。でも、何故か片方しかしていなかったのよね。だから、もしかして無くしたピアスの代わりのものを探しているのかと思ったの。で、早速自信作のピアスをオススメしようかなって思ったんだけど。でも、視線を追うと、彼女はピアスには興味が無い様だった。その人は熱心に別のアクセサリーを見ていたのよ。
それは炎の様に赤いファイアーオパールのペンダントだった。彼女はお目が高いわ。それはつい最近仕入れた石の中でも極上のものよ。石には意味があるのを知っている? ファイアーオパールには炎の様に強い意志を持って挑戦するという意味があるのよ。……話を戻しましょうか。
女性はとても熱心にそのファイアーオパールに魅入っている様だった。だからあたしは声をかけたわ。気に入ったのならどうですか?って。すると女性は目に見えて慌てたわ。確かにファイアーオパール自体が少し値が張るものだしね。そのペンダントはあたしの店に置いてあるもの中で一番高いアクセサリーだった。だから、値段に後込みしているとあたしは思ったのよ。そして、あたしは言ったわ。良ければ安くするし、もし何だったら恋人にでも強請ってみたらどうかしら? って軽い調子でね。だってとても綺麗な人だったから、男が放っておく訳ないと思ったし、恋人くらい絶対にいると思ったのよ。
でも彼女は困ったように微笑んで言ったの。
「そんな人いないわ」
ってね。あたしは焦ってすぐに謝ったわ。すごく失礼な事言っちゃったって。でも彼女は全然気を悪くした様子もなく気にしないでって言ってくれたの。そしてこう続けた。
「この石をペンダント以外の物に加工して貰えないかしら?」
って。彼女が欲しかったのはペンダントじゃなかったみたい。もちろん石の加工もあたしはするから、とにかく彼女に詳しく話を聞いたわ。
彼女はこの石を使ってカフスボタンを作りたいらしかったのよ。そこで、あたしの罪悪感と疑問は綺麗に消えたわ。彼女は恋人はいないけれど、好きな人はいて、きっとその人にカフスボタンを贈りたいんだったね。
だって、そうでしょう? こんな情熱的な石、家族に贈るしては意味深過ぎるもの。きっと彼女の意中の人はこのファイアーオパールが似合う様な情熱的な男なのね。あたしは二つ返事で了承したわ。カフスボタンのデザインも任せて貰った。
彼女はペンダント分とカフスボタンの加工代の両方を前払いで支払おうとしてくれたけど、あたしはカフスに使った石の代金と加工代しか貰わない予定だった。だって、カフスにするなら石は全部は使わないし、残った部分で何か小さなアクセサリーくらいはまた作れるもの。
とにかく代金は後払いでいいからって断って、彼女もそれで納得した様だったわ。そしてあたしはカフスが数日くらいで仕上がるからって彼女に伝えようとしたのだけど。
「ある人の誕生日に贈るものだから、それまでに出来ればいいの。ずいぶん先だから……」
それまでの間に彼女はまたちょくちょく寄るからって言って帰っていったの。


……え? これのどこがドラマチックな話なのかって? ほんと貴方ってさっきからおバカで、おまけにせっかちねえ……。そんなんじゃ女の子にモテないわよ。この話にはまだ続きがあるのよ。


今度こそあたしは店仕舞いをする気だったわ。その日は最後の最後に良いお客さんに巡り会えた事だしね。けどそこにまたお客さんが来たのよ。こんな夕暮れに立て続けに人が来るなんてうちの店には珍しい事だったわ。
今度来たのは若い男の人だった。黒髪黒目のちょっといい男だったわね。見るからに仕立ての良いスーツと高そうな靴を履いてたわ。
これは上客だって一目であたしは判断した。こういう人種はきっと普段はもっと高級な宝石店にでも行くんでしょうけど、今日は何を間違ったかあたしの店に来た。これはチャンスって普通は思うわよね。だからあたしも浮かれてたのよね、うっかりポカをやらかしちゃったのよ。
「君、これを……貰えないか?……いや、これを出来れば別のアクセサリーに加工して貰う事はできるだろうか?」
彼が手に取ったのはよりにもよって、あのファイアーオパールのペンダントだった。もう店仕舞いする気でいたから、あたしペンダントを引っ込めるのすっかり忘れていたのよ。もちろん大いにあたしは焦ったわ。そして彼に謝った。それはもう買い手がついてしまった物で、あたしのミスで店に出したままにしていたのだってね。
そしたら彼はとても残念そうな顔をしたわ。そして呟くように言ったの。
「そうか……これほど見事なファイアーオパールは滅多に見られないんだがな……って」
どうも、彼はそのファイアーオパールがとてもお気に召したらしかった。それほど惜しそうな顔されると、何とかしてあげたいと思うのが人情ってものじゃない?……何よその目は。別に彼がいい男だったからって訳じゃないからね。ゴホンっ、と、とにかくあたしは彼に一つ提案してみたの。
このファイアーオパールのペンダントは確かに買い手がついてしまった物だけれども、今、お客さんが言った様に別の物に加工するというお約束なんです。だから、お客さんが加工して欲しいアクセサリーによっては残った石で作ってあげる事が出来るかもしれませんよってね。彼は少しだけ考え込んでこう言った。
「私の欲しいものはピアスなんだ」
それなら残りの石で十分作る事が出来る。って、あたしも安心したの。けれども、彼は更に続けたわ。
「だが、先約の方の了承を得ずに勝手に同じ石で作ってしまっていいものだろうか」
……彼の言う通りよね。残った石で何を作ろうがあたしの勝手だと思っていたけど、確かにあの女の人は最初ペンダント自体、石全部の金額を払おうとしていたもの。もしかしたら、このファイアーオパール自体にすごく思い入れがあって、それで買おうとしたのかもしれないし。彼女に何も言わずに同じ石でアクセサリーを作るのは、いけなくはないけどちょっと気遣いに欠けていたわ。
それに気づかせてくれた彼に感謝しつつも、あたしはじゃあどうしたら良いかしらって思案して。そして、彼に言った。このファイアーオパールを先に買っていった人はまた店にちょくちょく来ると言っていたから、その時に私から話をしてみましょうかと。
「それはありがたい。どうしてもこのファイアーオパールでピアスを作って貰いたいんだ。とても大切な女性がピアスを片方失くしてしまってね、この石に色がそっくりなものだから。出来れば私が直接会ってお願いしたいところだが……」
何時その方が来るか分からないのでは手の打ちようがないね、と彼は笑ったわ。そしてあたしに感謝の言葉を述べて彼は帰って行ったの。
きっとその大切な女性って恋人よね。だって彼、話をしている間すごく優しい顔をしていたもの。あたしもあの綺麗な女の人がこのファイアーオパールを使う事を了承してくれればいいなって思ったわ。


え? それでもちろん女性が了承してくれて、めでたしめでたしかって? そうね、それならこの話はちょっと良いお話で終わったでしょうね。……言ったでしょう? これはドラマチックなお話なのよ。


そして、あの夕暮れの日から数日後にあの女性がまた店を訪れたわ。やっぱり同じ様な綺麗な夕焼けの日だった。可愛いワンちゃんも一緒よ。
もしかしたら彼女はもうカフスが出来ていると思って来たのかもしれなかったわ。お店を訪れた時の彼女の顔がとてもワクワクしていた様に思えたから。きっと出来上がりを楽しみにしていたのね。けど、申し訳ない事に加工はまだ終わってはいなかった。あたしも作業を進めてはいたのだけど残った石の使い道についての男性とのやりとりを思い出すと、どうにも気がかりで気が散ってしまってね。なかなか捗らなかったのよ。だから彼女がお店に来てくれてホッとしたわ。ようやく件の話が出来ると思ってね。
そしてもちろん、あたしはあの彼との話をそのまま彼女に伝えようとしたわ。もしも彼女が難色を示しても出来るだけの説得をしようとも思っていたの。彼女が好きな人を思う様に、あの人にも大切な女性が居るんですもの。
でもそれは杞憂だった。あたしが彼女に話を切り出す前に、あの彼が店を訪れたのよ。本当にそれは偶然だったからあたしも驚いたわね。でもね、あたしの目の前でさらに驚くべき偶然が起こったの。
「中尉?」
「た…大佐……」
なんとあたしの店で同じファイアーオパールに目を止めた男女は知り合いだったみたいなのよ。二人とも本当にびっくりした顔で目をまん丸くして固まっていたし、何より、彼女のワンちゃんが嬉しそうに尻尾を振って彼の足下にじゃれついてたから、あたしはそう確信したの。
それでね。知り合いだったら話は早いわよねって当然あたしは思ったわ。だって赤の他人に比べれば断然交渉し易いでしょう?
……今、思えばあたしもバカよね、どうして気づかなかったのかしら。彼女が片方しかピアスをしていないのを見ていたはずなのに。その石が赤く見えたのは夕日のせいだと思っていたのよね。
何にも知らないあたしは言ったのよ。
こちらの男性の大切な女性がピアスを片方失くしてしまったそうなんです。このファイアーオパールに色がそっくりでどうしてもこの石を使いたいんです。カフスボタンを作った残りの石をこちらの方に譲って頂けないでしょうか、って。
夕焼けで真っ赤に染まっている中でも分かったわ。目の前の金髪の女性が首から顔まで真っ赤っかになるのが。
でも、あたしもその時は夢中だったから、なんで彼女が赤くなったのかピンと来なかったのよね。我ながら鈍かったと思うわ。で、更にやらかしちゃった訳。
貴方にもお誕生日の贈り物をしたいと思うお好きな男性が居るなら、この方の気持ちがお分かりになると思います。どうか、どうかお願いしますって。
……本当に我ながら失言だったと思うのよ。なんというか、余計な事までしゃべっちゃってさ。これじゃあ顧客情報漏洩で店主失格よね。
――でも、この時はそれが奇跡的なドラマチックを生んだのよね。
「え……誕生日プレゼント……?」
今度は男性が顔を赤くする番だった。大人の男の人が頬を赤らめているのってなんだか可愛らしいわよね。特にこんな色男に見える男が、さ。
「もしかして私にか……?」
彼は誕生日の心当たりがある様で、そして金髪の彼女はますます顔を赤くしたわ。それはどう見ても彼の問いを肯定してた。
そこで耳まで真っ赤になった彼女が思わずといった風に自分の耳に手を当てたの。そこには片方しかないピアス。
そして。その時点であたしはようやく、この二人がお互いに誰に贈り物をしようとしていたのか気づいたという訳。
二人はそれから何も言わなかったわ。
きっと何も言わなくたってお互いの想いが分かったのでしょうね。
ただ赤く染まった光の中で互いを見つめ合っていたの。
それはまるで、一枚の絵画みたいに綺麗な光景だった。
その時、あたしは思ったわ。ああ、ドラマチックってこういう事を言うのねって。


はい。あたしの話はここでおしまい。どう? なかなかドラマチックだったと思わない? 想い合う男女が一つのファイアーオパールを巡って偶然に想いを解り合う……なんて、さ。
で、その後。そのファイアーオパールがどうなったか知りたい? 知りたいでしょう?……え、別にいい? どうして? え……もう、知ってる?……もう実物見てるから……って。ちょっ、待ってよ、それってどういう事…え、俺にも同じ石で彼女と同じ指輪を作って欲しい? なっ、なんであのファイアーオパールが結局指輪になったって知っているのよ! え、縁結びの石だって散々自慢されたから自分も作りに来たって……ちょっ、どういう事……あっ、こら、探したってもう同じ石は無いんだってばっ! ちょ……ちょっと誰か! この金髪のガタイの良い兄さんを止めて!!




END
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第三者視点ロイアイ萌え!
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by netzeth | 2012-09-30 20:08 | Comments(0)