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by netzeth
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イーストシティ午前二時 1

ケイン・フュリーはシャワーを出ると、濡れている髪をタオルで拭いながら、空いた片手でラジオのスイッチを入れた。趣味が高じて自作してしまったお気に入りの一品である。
チャンネルはいつも合わせているイーストシティのラジオ局。
「やあ、リスナーのみんな、まだ起きているかーい? イーストミッドナイトチャンネル、まだまだハイテンションでいくぜ? さあ、次のコーナーはお馴染みパーソナリティサムがお送りする深夜二時テレフォンお悩み相談室だ!」
流れてきた明るい男の声に、フュリーは良かった間に合ったと安堵した。
最近フュリーがはまっているラジオコーナー。それはリスナーの悩み相談の生電話にパーソナリティのサムが答えるといったものだ。サムはとにかく陽気な男なので、アドバイスもとことん前向き。そんな彼に話を聞いて貰っているうちに相談者もいつしか元気を取り戻す――といった風で、その内容は聞いているだけで愉快である。
しかし、とても面白いのにこのコーナーの知名度はいまいちで、フュリーは思わず職場で宣伝活動をしてみたりした。といってもちょうど話をしていた上司に世間話程度に話しただけであるが。幸いにも話しをした直属の上司は興味を持ってくれたようだった。
「今夜の迷える子羊ちゃんは誰かな? このラジオを聞いているみんな、じゃんじゃん電話をかけてくれよ? 電話番号は×××ー×××ー××××……お? OK。今日の相談者からの電話がかかったようだ」
「……もしもし?」
「へーい、こんばんは。サムのお悩み相談室にようこそ。さて、まずは君の名前を聞いておこうか。ああ、もちろん仮名でかまわないぜ? それに安心してくれ。音声は変えてあるから君のプライヴェートは完璧に守られる」
「ああ。私は……そうだな、ミスターMとでも呼んでくれ」
「OK。ミスターM。電話をしてくれて嬉しいよ。では、早速だが君の悩みを伺おうか?」
「……恋愛相談なのだが」
「オウーケイ、ミスターM。俺の得意分野だぜ? で? 君の心を掴んで離さない罪作りな女性は一体どんな子だい?」
「実は……職場の部下なんだ」
「オ~ウ、社内恋愛か! いいね、いいね。……という事はミスターM。君の悩みというのは彼女が部下である事に起因しているのかい?」
「察しが早くて助かるよ、サム。……部下であるせいでどうにも手を出しあぐねているんだよ」
「ふんふん。気持ちはよ~く分かるぜミスターM。ヘタに手を出してもしうまくいかなかったら、ギクシャクしてその後の仕事に影響してしまう……なんて考えているんじゃないかい?」
「……驚いたな、そこまで分かってしまうものなのか」
「はは、俺も伊達に毎晩悩み相談を受けている訳じゃないぜ?……そんな俺からミスターMにアドバイスだ。いいかい? もしうまく行かなかったらなんて考えるのはよせ。失敗した時の事なんて考えるな。とにかくガンガン行くんだ」
「だが……正直その女性に会えるのは職場だけだ。しかも、職場以外の場所に誘ってもなかなかOKして貰えない。ガンガン行こうにも行けない状態なんだ……」
「なら職場でガンガン迫るんだ、ミスターM。時と場所なんて気にしてたらうまくいくものもうまくいかないってもんだぜ?」
「職場でか!?……しかし、職場でそんな事したらセクハラだろう」
「ちっちっちっ、ミスターM。発想を逆転させるんだ。いいかい? 確かに彼女に気がないのに職場で迫ったらセクハラかもしれない。だが、もし彼女も君を憎からず思っているのならばそれはセクハラではない! 迫ってみてセクハラで訴えられたら彼女には気が無し、脈なし、諦めるしかない訳だ。そして、そうでないならうまくいく。これで、万事解決!!」
「……それは確かに一理あるが……だが、もし彼女が私を好きでなかったら私はただのセクハラ男にならないか?」
「ミスターM。男の人生には勝負しなければならない時があるんだ。一世一代のギャンブル! それをしてこそ真の愛を勝ち取れるってものさ!」
「……そうか…そういうものなのか……」
「ああ、そうさ! さあ、ミスターM! 明日から彼女に猛烈アタックだ! ガンガン行け!! 彼女が泣いても、逃げても、押して押して押しまくれ!!」
「ああ。分かったよ、サム! ありがとう大変参考になった」
「役に立てて良かったよ、ミスターM!」


次の日の朝。
フュリーは朝っぱらから銃を構えて発砲する上司(金髪・女性)とそんな彼女にもぜんぜんメゲず怯まず果敢に何度でも立ち上がりまるでゾンビの様にすがりつき交際を迫る上司(黒髪・男)を目撃したが、しばらく一考したあげく、彼は気のせいだと思う事にした。


イーストシティ午前二時 2

イーストシティ午前二時。
フュリーは時計を確認すると慌ててラジオのスイッチを入れた。つい機械いじりに夢中になっていて時間を忘れていたが、今夜もこのコーナーが始まる時間となったのだ。
「さあ、今夜も楽しく行こうぜ? サムの深夜二時テレフォンお悩み相談室だ! みんなのおかげで大人気のこのコーナー。電話が繋がりにくくなっているみたいで、悪いな。だが諦めずにガンガンかけてくれよ? さあ、今日の迷える子羊ちゃんは誰かな?」
少し前まで地味で認知されていなかったこのコーナーもだんだんと口コミで広まって、今となってはイーストミッドナイトチャンネルの人気コーナーとなった。なんとこういうラジオ番組にあまり興味もなさそうな上司(金髪・女)も毎晩聞いてくれているのだという。初期からのリスナーのフュリーとしては嬉しい限りだ。
「……もしもし」
「お? 電話が繋がったようだ。さて、まずは名前を名乗ってくれ」
「ミスターMだ。久しぶりだな、サム」
「ミスターM?……お~う、ミスターM!! 覚えているぜ! 職場恋愛の相談をしてきたミスターMだろ?」
「そうだ。そのミスターMだ」
「久しぶりだね、元気にしてたかい?」
「ああ、おかげさまで」
「それで? また何か新たな悩み事が出来たのかい?」
「ああ。それもそうなんだが。まずは礼を言わせてくれ。あの後、君のアドバイスのおかげで例の彼女とうまくいく事が出来た」
「コングラッチュレイション! おめでとう、ミスターM。俺のアドバイスで幸せになったのなら、こんなに嬉しい事はないよ」
「ああ。全ては君のおかげだと思う。感謝しているよ。……そこでなんだが、またいろいろと問題が持ち上がってね。ぜひとも君の意見が聞きたいと電話したんだが」
「お~う、幸せな今の君にも悩みがあるのかい?」
「……確かに幸せだよ。何しろ彼女はとっても可愛いんだ。口を酸っぱくして仕事とプライヴェートは分けろと言われているんだがね、ついつい可愛くて職場でちょっかいを出してしまうんだ。そのたびに大佐のバカって怒られるんだが、その怒った顔もまたキュートでね、少し頬のあたりが膨れるんだ。そのあたりをつつくとぷにぷにとしててそれもまた可愛い。それで余計にまた叱られる訳なんだが。それでもなんだかんだ言って最後にキスをすれば彼女はご機嫌を直してくれるって訳さ。その鳶色の瞳も光を集めた様な金の髪も全部が全部美し過ぎて私は仕事が手につかなくて困っているよ……(以下二十分くらい恋人自慢が続く)……まったく、リ…彼女はこの世に舞い降りた天使…いや、女神だな」
「………………それで、ミスターM。君の悩みは彼女が美し過ぎて仕事が手に付かないって事なのかい?」
「いや…それもあるが、実は問題はもっと他にあるんだ。実はリ…彼女は恥ずかしがりやでね、どうにも私との恋人同士のやりとりにあまり積極的になってはくれないんだ。例えば…恋人同士なら一緒にお風呂に入るのも当たり前だし、裸エプロンだって、職場プレイだって全部当たり前だっていうのに、なかなか嫌がってしてくれないんだ。特に私の夢は執務室のデスクの上にリ…彼女を寝かせてその金髪が黒い机に広がるのを見ながら彼女を堪能する事なんだが……だが、彼女にそれを言っても「大佐、寝言は寝てから言ってください」とまったく聞く耳を持ってくれないんだ……なあ、どうしたら彼女はもっと私との甘い逢瀬に応じてくれるだろうか? あ、あと、私は彼女をファーストネームで呼びたいんだが、それも恥ずかしがって了承してくれないんだ。そこで、ちゃん付けをしてみようと思うんだが、リザちゃん、とリザたんではどっちか良いと思うかね?」
フュリーがあ~あ、とうとう言っちゃった……と思った瞬間。ラジオから聞こえてきたのは銃声だった。
「……リ…中尉!? こんな時間にどうし……あ、もしかして私が恋しくて恋しくて仕方がなかったのかね? ははっ、仕方のない子だな……いいとも今夜は私がじっくり君を慰めてあげ……のわああああああ!!」
「もう、本当にもう!! あなたなんてあなたなんてもう!! 知りません!! バカ! むのおおおおおお!!」
続けざまの銃声に悲鳴、そして断末魔。
音声を止めろ! 音楽行け!! という複数人の慌てた声を挟み、ラジオからは軽妙なジャズが流れ始めた。
ジャズが終わるとすぐさまサムが先ほどは不適切な音声が入りまして誠に申し訳なく…などとお詫びの言葉を述べている。それを聞きながら、フュリーはこのコーナーきっと打ち切りだよね……と心底残念に思うのだった。



微睡

今日は遅くなるから先に寝ていてくれ、と言われたにも関わらずリザはいまだ食堂のイスに座って頑張っていた。
今日は父のお弟子さんであるロイ・マスタング少年がホークアイ家を訪れる日だ。ところが夕刻、実家で少し問題があったから最終の汽車に乗る。とロイから連絡があった。先に戸締まりをして寝ていてくれとも。
父はロイの事なら錬金術で勝手に入ってくるだろうから放っておけと言ってさっさと自室に閉じこもってしまったが、リザははいそうですかと眠る訳にはいかなかった。
せっかく腕によりをかけて作った夕食も食べて貰いたいし、どうせ食べるならきちんと暖かい物を食べて貰いたい。今夜はとても冷える事だし。
壁掛け時計を見上げるともうすぐ0時をさそうとしている。0時なんて大人ならばまだまだ夜の内に入らないだろう。なのに、自分はもう目が開かない、瞼が重い。リザは心底お子さまな自分が情けなくなった。それでも、いくら自分を情けなく思おうとも眠気はちっとも去ってはくれなくて。とうとうこっくりこっくりと船をこぎ始める。
半分起きて、半分寝ているようなぼんやりした状態。すると遠くでリザ…と呼ばれたような気がした。
誰……? マスタングさん? お夕飯できてるから……暖めきゃ……今日はマスタングさんの好きなビーフシチュー…なんですよ……
リザはそうしゃべったつもりだったけれど、どうも口がうまく回っていない気がした。それでも、分かった、ありがとう…という苦笑したような返事が返ってきた。
それに安堵していると突然体がふんわりと浮いた。驚きよりも心地よい感覚にリザは夢見心地になる。
マスタングさんの匂いがする……。
頬が何かにあたっていてそこから暖かい温もりと大好きな匂いがして、リザは嬉しくなった。
ん……好き…。マスタング…さん…の匂い…。
うっとりと頬をすりすりとその何かに擦りつけると、それはびくりっと反応していた。それがなんだったのか、今のリザには分からない事だったけれども。
そして、優しい温もりに包まれながらも少女の体はベッドへと運ばれていったのだった。

次の日。
リザはベッドに入った記憶がない事と、いつの間にかやってきていたロイに驚き、そしてなぜか顔を赤くして目を合わせてくれない彼の態度を不審に思うのだった。





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by netzeth | 2013-01-20 03:20 | Comments(0)