うめ屋


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by netzeth
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メランコリーオブワーカーホリック

どんなに真面目でしっかりしていて規則正しい生活を心がける人間でも、人生において一度や二度はダラケたいな~と思う時くらいあるはずだ。たまにはだらだら何もせず、一日心と体を休ませたいと思うものだ。

ロイ・マスタング大佐は己のサボる理由を上記の様に述べた。確かに一般論としてはもっともな言い分かもしれない。だがそれも、彼の口から発せられたならばこれほど説得力がない事柄は無い――。
非番だと言うのに朝いつも通りの時間に目を覚ましてしまったリザ・ホークアイは、ベッドの中でぼんやりとそんな事を思い返していた。ロイの言葉を聞いた当初はバカな事言ってないでさっさと仕事しろと、彼を銃で躾たものだ。あの時は彼の苦し紛れの屁理屈だと本気で相手をしなかったのだが。なるほど、彼の言っていた事はある意味真理であった。
すっかり眠りから覚めたというのに、リザはベッドから降りる気になれなかったからだ。何故だかものすごく動きたくない。本当は久しぶりの非番なのだから、掃除に洗濯、お買い物としなければならない用事などいくらでもあるのに。ハヤテ号のお散歩にも行って、少し長くなりかけた髪も切って、銃のお手入れもして……いろいろやらなければならない事はたくさんあったはずなのに、一向にやる気が起きない。
どうしよう……全部めんどくさい……。
体の具合が悪い訳でもない、眠りが足りない訳でもない。ただ、やる気というものが行方不明になっている。
これが大佐の言っていた事だったのね。
なんて妙な納得をしながら、リザはベッドの中でゴロゴロ寝をし続ける。確かにリザの様な真面目人間がこんなダラダラ状態になるなど珍しいというか、空から槍でも降りそうな事態ではあったが。その人生一度や二度が公に休んで良い非番の日に来るあたり、彼女の深層心理を良く表しているといえよう。
閑話休題。
ゴロゴロダラダラで今日は行こう午前中はベッドの中でいいわよね……と非常にらしくない思考回路に陥っていたリザだったが。
「くう~~ん……」
彼女の耳に大事な家族の強請る様な鳴き声が聞こえてきた。
いつの間にかベッドの下にまで寄って来ていた彼は、主人が目覚めている事を悟ったのだろう。リザを見上げて物言いたげな視線を向けてくる。
「……そうか。ハヤテ号のご飯……」
作るのも食べるのも億劫で、下手すれば朝昼と抜いてしまおうと考えていたリザだったが、さすがに彼にまでそれを強要する訳にはいかない。
愛犬への愛情が面倒くささに勝って。
とうとうリザはベッドから抜け出す事にした。主人の責任をはたすべく彼のご飯を用意してやろうと、スリッパを履いて立ち上がる。
「あら……?」
妙に体がスースーした。
違和感の正体を確かめようと己の体を見下ろしたリザは、そこでようやく自分が何も着ていない事に気づいた。……いわゆる一糸纏わぬ姿という奴だ。
「え~と?」
昨夜の事を思い返す。疲れて、帰宅してお風呂に入って……。
そうだ。シャワーを浴びて、服を着るのも下着を履くのも面倒で。そのままベッドに潜り込んでしまったのだ。
このだらだら怠け気分はどうも昨日の夜から始まっていたらしい。
もちろん今日のだらだらリザは己が裸である事を露とも気にしなかった。――今日は一日部屋で過ごすと決めた。寒さに震える季節でなし、別にいいだろう。
普段のリザなら卒倒しそうなほどダラケきった思考でそう納得して。リザは足下にまとわりつく、愛犬のふわふわした毛の感触を楽しみつつ彼のご飯を用意してやる。
早速がっつくハヤテ号を微笑ましく見守って。
さて、一仕事終えたしこの後は彼を抱っこしてまたベッドでごろごろしよう……とリザが頭の中で計画を練っていた時の事だ。
今のリザには非常に不愉快な音が部屋に響きわたった。
電話のベル音。
当然、リザは出る気になれずに放って置く。きっと勧誘か何かの電話だ。しかし、ベル音がいつまで経ってもしつこくしつこく鳴り響くので。なんとなくそのしつこさでとある男の顔を脳裏に思い浮かべた彼女は、仕方なく受話器を取る事にした。
「……はい」
「もしもし?」
案の定、リザの予想通りの人物の声がした。彼は非番では無いから、今は司令部からかけているのだろうか。
「お休みのところ悪いな、中尉。どうしても君に確認したい事が出来て……」
ロイはリザの返答も聞かず、用件を切り出す。それはリザが自分が休んでいる間に絶対にサボらずやっておく様にと言い置いた書類に関する事だった。
「……という訳でここの部分がどうしてもよく分からくてだな、その、これに関する資料はどこにあったかな? 確か引き出しに入れて置いたはずなのだが見あたらなくてだな……」
普段から整理整頓をしていないからこんな事態になるのだ……といつものリザならロイに説教の一つや二つたれるところだったのだが。今日のリザはもちろん、そんな事はしなかった。
「……ああ、それはてきとーにやっちゃって下さい」
「は?」
ぽかんとしたロイの声が聞こえた。
「ですから、適当に。あれがああして、これがああなって、こんな感じで。フィーリングで」
「ち、中尉……?」
彼の声には戸惑いの色がにじんでいたが、どうでも良かったのでリザは言葉を続ける。
「もう、いいですか。すごくめんどうなんで、電話切りますね。では」
「ちょ……! 待ちたまえ!」
「なんです? すごくめんどうなんで10文字以内で簡潔にお願いします」
「……すごく変だぞ君どうした?」
「残念。1文字オーバーです。では」
「だから、待て!! 今、すごくこの電話を切ってはいけない様な気がしているぞ!?」
「私は切りたいです」
「ま、待て! 落ち着け! 早まるな! 話せば分かる!」
まるで人質をとって立てこもりをしている犯人を説得するような口調で言うロイに、リザはそろそろ付き合うのが面倒になってきたので受話器を置く事にする……、
「こらっ、受話器を置くな! 頼むから!」
「よく分かりましたね」
前に、ロイの懇願する声が耳に入って仕方なく通話を続けてやる。
「もしかして具合が悪いのか?」
「いえ、至って健康です」
「……じゃあ、酔っているのか?」
「朝から酒を飲む趣味はありません。バカですか」
「ではどうしたんと言うんだ……リザ?」
とうとうロイは小声でファーストネームを呼びかけてくる。普段は軍では絶対にそんな事をしてこない恋人に、仕方なくリザは答えてやる事にした。めんどうだったが。
「……別に。ただやる気が起きないだけです。今日は一日リザ・ホークアイは開店休業中です。面倒な事は何もしません。楽しい事しかしません。享楽の限りを尽くす所存です。服だって着てませんし、これから可愛い彼を抱っこして惰眠をむさぼるつもりです。起きたらもっと楽しい事をしたくなるかもしれませんね」
「か、彼!? 裸っ、だと!?」
「はい。裸です。今日は一日このままです」
「ま、待て! 誰か来たらどうするんだ!? カ、カーテンはちゃんと閉めてあるのか!!」
「カーテンは閉まってます。誰か来たら……無視します」
「そ、そうか」
そこで、ひとまず安心したという様にロイはホッと息をもらした。しかし、リザは彼を驚愕させる言葉を続ける。
「でも、楽しい事をしたくなったらこのまま出てしまうかもしれません。享楽の限りを尽くすには、やっぱり相手が必要ですものね。ここは若くて可愛い郵便屋さんとか新聞配達さんとか期待したいところですね」
「……リザ!! 君はいつからそんな間男を部屋に招くようなふしだらな女になったんだ!! 私は君をそんな風に育てた覚えはないぞ!」
「育てられてませんし。というか、もういろいろめんどうなんで、切りますね」
「ま、待て……!」
「ああ、大佐。さすがに夕食は抜くつもりはないので、白身魚とアヴォカドのタルタル、子羊のブレゼグランマニエとレーズンのソース、南部風カウロイカニとミール貝のミルフィーユオレンジの香り、焼きたてトロトロフォンダンショコラを手作りしてくれるなら、来てもいいですよ。私が可愛い彼の抱き心地に飽きる前に来て下さいね、では」
「目玉焼きを焦がす私にはハードル高過ぎるぞ、君!!……っていうか、彼って誰なんだ!? 君の恋人はこのわたっ……」
ガッチャン。
タイムオーバーとばかりに、リザは受話器を置いた。ご飯を食べ終わって満足げな顔をしている愛犬をおいでおいでして抱きしめてやる。
ちょっと話過ぎた様だ。すごく疲れた。
「……寝よう」
眠くないけど、ごろごろだらだらするために再びベッドへと戻る。
今日は一日、好きな事だけするの、面倒な事はみんなお休み。意気揚々とハヤテと本とお菓子を持つ。全部お気に入りだ。
そして、リザは一日だけの享楽と堕落の限りを尽くすためにベッドにもぐる。暖かなそこで何も気にせず、何にも煩わされず、ただ気の向くままに。

起きて、もしお腹が空いていたら少しだけ大佐の事を思い出して上げよう……味は期待してないけど手作りの夕食を一生懸命に作ってくれるというのなら、部屋に入れてやってもいい。ちゃんと仕事を終わらせて来てくれたなら、ベッドに一緒に入る事も許可してやってもいい。
――何故ならロイもお気に入りの一つだから。
そんな事を考えながら、いつしかリザは二度寝という最高の贅沢に身をゆだねていったのだった。




END
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by netzeth | 2012-11-29 00:28 | Comments(0)