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by netzeth
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セントラルにて~前編~

窓の外を流れていく景色はどこまでも長閑だった。
列車はちょうどセントラルとイーストシティの中間地点、緑の田園風景が広がる地域を走っている。順調に行けば昼前には予定通り中央司令部に着けるだろう。後ほんの数時間の事だ。しかし、リザは向かいに座る男の顔をちらりと伺い見るとそっと悟られぬようにため息を漏らした。
男――リザの上司であるロイ・マスタング大佐は、この列車に乗った時から変わらぬ態度と表情でそこに座っている。腕組みをしているのはいつもの格好であるけれども、そっぽを向いて、口を真一文字に引き結んでいる姿は彼が不機嫌であることの証。向かい合わせの席に座っているというのに、リザと目を合わせようともしない。いや、不機嫌を通り越して怒りさえ感じられる。そして、もちろんその怒りの理由をリザは知っていたので、こうしてため息を吐いているのである。リザはそっと己の手に巻かれた包帯に触れながら、そのきっかけになった事件について思いを馳せた。
それは東部ではそれほど珍しくもない(といっては語弊があるかもしれないが)とあるテロ事件に関する記憶である。


以前から追いかけていた東部を拠点にしているテロリストグループ。そのテロリスト達が計画している犯行を密告する文書が、東方司令部に届けられたのだ。文書には彼らが次に襲う公共施設と、その日時、そして犯行の詳細が書かれていた。差出人はそのテロリストグループの一人で、彼は情報の提供をする代わりに己の保身を願い出ていた。
ロイはまずその文書の差出人とコンタクトを取り、情報がテロリストの罠や偽情報ではなく信憑性の高いものだと判断した上で作戦を練った。事前にその公共施設から民間人を避難させ、敵方にそうと悟られない様に部隊を配置。そうしてテロリスト達を待ちかまえたのだ。
結論から言えば作戦は大成功だった。テロリスト達は内通者の存在に気づいておらず、軍の罠にまんまとハマったのだ。まさに一網打尽。ロイはその日そのグループを根こそぎ逮捕することに成功した。しかし、その作戦上でちょっとしたハプニングが起こった。罠に気づいたテロリストの一人が軍の包囲網を抜けて、逃亡を謀ろうとしたのだ。
そして、それは運の悪いことにそのテログループの首謀者の男であった。せっかくの作戦も彼を取り逃がしてしまっては意味がない。それどころか、これほどの好条件で作戦を実行しておきながらそんな致命的なミスを犯したとあっては、ロイの指揮官としての能力を問われることになる。
しかし、幸運なことにその逃亡に気づいた者がいたのだ。それこそその日、射撃手として配置されていたリザである。
高所にいたので首謀者の男の動きをいち早く察知できた彼女は、すぐに男を追跡した。この時のリザの行動はなんら間違ってはいないものだったが、間が悪いことにこの時のリザは一人であり、そして通信用の無線を切ってしまっていたこともやはりタイミングが悪かったと言うしかないだろう。
男の動きが思っていたよりも早く、そして作戦直後の混乱により他に仲間がいない状況でリザは首謀者の追跡を余儀なくされた。部隊に応援の要請をしていては間に合わない……と彼女は判断していたのだ。リザはその判断を今でも間違っていたとは思っていない。そしてリザは首謀者の男を一人で追跡し、見事に拘束することに成功した。 
しかし不覚にもその際に思わぬ抵抗に合い、手を負傷してしまった。だが、彼女の私見ではそれはたいした怪我ではなく、むしろ彼を取り逃がしてしまう結果に比べれば、ほんのささいな傷であったのだ。
結果的にリザの活躍により、作戦は無事に成功を収めることになる。同僚達からは怪我の心配をされつつもその事を賞賛され、そしててっきり上司――ロイからもその言葉を貰えるものとばかりリザは思っていた。リザにとって仕事上でロイに、「よくやった」と誉められるのはプライベートで綺麗だと言われるよりも嬉しい。
けれども。
手に包帯を巻いたリザの姿を忌々しげに見た彼は、彼女に言った。
「何故私に判断を仰がなかった。君のしたことは作戦無視の勝手な単独行動だ。あの日の君の作戦行動は射撃のみ。犯人の追跡など含まれてはいない。……二度とこんなことはするな」
普段のリザであったならば、反論することなく申し訳ありません、と詫びて引き下がっただろう。基本的に厳しい縦社会である軍では上司の言うことは絶対である。いくら不満があったとしても部下は口答えなど許されない。しかしよりにもよってロイに、苦々しい顔と口調でこんなことを言われては、リザは黙ってはいられなかった。
彼女は自分の行動は断固として間違ってはいなかったことを主張し、結果的にロイと口喧嘩になってしまったのだ。そのまま彼とは喧嘩状態になり、仕事には差し支えないように振る舞ってはいるが、ギクシャクした関係が続き、作戦が終了したら行こうと約束していた食事デートも流れてしまった。


そして今、セントラルへの出張の日に至るまでロイと微妙な空気の関係は継続中なのである。


顔も見たくない、と言ったロイの態度に辟易しながらもしかし、リザは彼にあの時のことを謝る気はさらさら無かった。自分に非は無いと信じているし、全てはロイ自身のために行ったことなのだ。それを彼に咎められるなんて絶対におかしい。
そう思いつつも、喧嘩前に二人っきりのセントラル出張が決まったと喜んでいたロイの事を思い出すと少し胸が痛む。あくまでも仕事だと諌めるリザに、それでも二人っきりなのは事実だと浮かれていた彼。仕事が終わったら久しぶりにセントラルの街でデートしようとウキウキしながら計画して、夜は覚悟しろよとか言っていた彼。
そんなロイの態度にリザだって、多少はこのセントラル出張を楽しみにしていたというのに。
リザは口をヘの字に曲げたロイの顔をまた盗み見る。
肝心の男がこれ、では期待するのもバカらしい。
重苦しい車内の沈黙とは裏腹な窓の外の景色に目をやって、リザはまた小さくため息を落とした。胸にもやもやした気持ちを抱えたままのリザを乗せて。列車はセントラルへと向かっていた。


二人の仲の善し悪しは関係なく、セントラルでの仕事はなんの問題もなしに終了した。今は挨拶周りをしているロイを待って、リザはロビーの椅子にて待機している状態である。ロイくらいの地位になるといろいろ人間関係上の付き合いがあるのは分かるので、それについては別に不満はない。むしろ出世のために、おおいに愛想を振りまいてきて欲しいものである。
それは置いておいて。
リザが憂鬱になるのは、この後の予定である。今からなら特急を使えばイーストシティに帰れない時間ではない。事実、最初はリザもそうするつもりで予定を組んでいた。
しかし、せっかく二人きりになれるのだから泊まっていこうと強行に主張したロイのせいで、出張は一泊二日の予定になっている。
本来ならばロイの知っているというセントラルの美味しいお店で夕食の約束だったのだ。だが、この調子ではその約束も反故ではないだろうか。だったらこれ以上セントラルにいる意味は無い。今からでもいいからホテルをキャンセルして、イーストシティ行きの列車の切符を取ってくるべきだろうと思う。……ロイと仲直りしたい、関係を修復したいと思う気持ちももちろんあるが、今のリザにはまだロイに対する反発が先に立ってしまって。自分が折れる気は無い。ならば行動は早い方が良い。そう思い立ってリザが立ち上がった時の事だった。
「ホークアイ?」
後ろから声をかけられてリザは振り向いた。聞き覚えのある声だが、その人物がセントラルにいる事が驚きだった。
「あ……」
そして、そこにはリザの予想を違えることない人物が立っていたのである。






 後編へと続く
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by netzeth | 2013-01-27 20:43 | Comments(0)